度胸試しでふらついて
イリアに肩を貸して貰い協会に付けば、そこは血と火薬の臭いで充満していた。
負傷者は部屋の隅で傷の手当てをし合って居るがここでは衛生的とは言えない。
何せ、真水で傷口すら洗って居ないのだ。
フィーは近くに居た構成員に医者の到着を聞いたが、今から警察が来るのでそれどころではないと答えられてしまった。
フィーは辺りを見回して指示を出している偉そうな男を見ける。
イリアにも確認したが間違えない。このなかでは偉い役職に就いた男だとわかった。
痛む足を引きずりながらフィーは男に話しかけるべく男の元へと向かう。
「お時間よろしいかしら?私はこの孤児院教会の娘でシルフィーナと申します。」
フィーに話しかけられた男は忌々しそうにフィーを一瞥するが無視はされなかった。
「手短にしてくれ。今は忙しい」
「警察が来るのでしたね、ここは教会です。シナリオなら用意できます。なぜ、救護を優先しないのですか?」
「シナリオ?怪我なんぞした奴がボンクラなだけだ。上から早くズラカれってお達しなんだよ」
「でしたら尚更、怪我人の手当てを優先するべきでしょう。効率が悪いのではなくて?」
「動けない奴のが少ない。手当てしてる方が無駄だ」
「なら、怪我人は教会でお預かります」
「勝手抜かすなアマァ。お前が相手にされてんのは教会の縁者だからだ。」
「早く逃げたいなら怪我人を協会に置いておけばいい話です。利害が一致していますのになぜ、拒むのですか?」
「うるせぇよ!!」
男が背広の内ポケットに手を入れる。正確には背広の下に有るホルスターに手を伸ばした。
フィーもポケットに入れておいたもう一丁の銃に手をかける。
本当は先程、始めて敵を撃つのにトリガーを引いた。
それに後悔はない。だが、人を撃つのに躊躇いがない訳ではないのだ。だからフィーは震えを必死に抑え、それを気取られないように顔に笑顔を貼り付ける。
今は目の前の男に言い分を通すにはこの度胸試しに勝たなければならないのだから。
「シナリオはこうです。金目当てに孤児院と協会に強盗に入ったギャングに逃げ惑って居たところローレンスファミリーの構成員が助けてくれた。その後、相手が激高し銃を乱射。そのまま銃撃戦となり死者と負傷者が出る。そして、それを救護するのが教会です。」
男の顔に不快な色が増す。
「これなら警察に言い訳が立つのに貴方は賛成しない。それは貴方にとって不備があるからです。例えば…このシナリオで事が進めば手柄がなくなってしまうから、とか」
今にも殴りかかられそうなら、敵意を隠さない表情が怒りで赤くなった。
フィーが考えが遠からず当たったようだ。
なら一気に畳み掛ける。
「現場指揮であるはずの貴方が後処理のシナリオで不備になる状況。それは貴方が全てが終わってからの到着となったから、などでしょうか?今まさに汚名挽回に勤しんでいらっしゃる。」
男にとって最悪なシナリオをスラスラと語ってみせるフィーに男は銃を抜く。
フィーの目と鼻の先のに突きつけられた銃口が嫌でも気になるが、ここでビビったら敗けだ。
フィーもポケットの中で銃口を男に向けた。安全装置は孤児院で男に襲われる前に外してある。
「武器庫の管理者だかなんだか知らねぇが、ふざけた口聞いてるとぶち殺すぞ!!オンナァ!!!」
フィーは震えそうになる唇を噛んで平静を装う。
バレないよう、撃たれないよう祈りながら口を開いた。
「私を殺せばレオナルドさんにこの不祥事か全て筒抜けになりますよ。それを隠すために私を脅しているのでしょう。でしたら、怪我人を置いて早く立ち去るべきです。警察が来ますよ」
男の指に力が入る。
後ろから止めに入る声や囁き声が聞こえるが男から目を離したらフィーの中の色々なものが折れてしまう気がした。
瞬き一つせず男を睨み付ける。フィーにはそれが一瞬にも何時間にも思えた。
「…ちっ、好きにしろ!動ける奴だけ武器持って撤収!!数名は残れ!不本意だが武器庫の片付け手伝ってやれ」
舌打ちと共に男が銃を下ろし、フィーに背を向け歩き出す。
―――何とかなった。
フィーは安堵に崩れ落ちそうになったが、ここでしゃがみこんでしまっては意味がない。
震える足を立たせているのに精一杯で、男を見送る形と為った。
出口の前まで来ると男は突然、振り返りフィーを睨み付ける。
「次はない。肝に命じとけ」
「懸命な判断、感謝します。」
笑顔で答えると、俺はまた舌打ちをして去って行った。
数人の部下を残してくれた事から傲慢な男なだけではないようだ。
「フィー!!!」
男の姿が見えなくなるとフィーは終にその場にへたりこんでしまった。
後ろからイリアが支えてくれなかったらお尻を強くぶつけてたかもしれない。
「何やってんだ!!この馬鹿!!!!偽善者にも程があんぞ!!」
「フィー!!無事!!??」
イリアの怒声と共にハンスも駆け寄って来てくれる。
どうやらハンスも教会の撃ち合いに参加していた様だ。
「有難う。イリア、ハンス。ちゃんと勝算もあったから怒らないでぇ、泣いちゃいそう」
涙目で訴えるフィーに呆れ顔を返すとイリアはフィーを小突いた。
「朝になったら全員で説教なぁ」
先程の慈愛に満ちた母の様な笑顔が一瞬で邪悪なものに変わる。
ハンスに助けを求めたがハンスはイリアの言葉に首を上下に動かしている。
フィーは明日の朝に不安を覚えながら頷くしかなかった。だが、そんなやり取りのおかげで涙は引っ込んだ。
ここからがフィーの本番だ。
フィーは深呼吸をすると残った構成員に指示を出す。
「誰か、一般街の外れにいる医者を呼んできて下さい」
フィーが大きな声を出すと残った構成員は直ぐに手当ての準備を始めた。
「後はお湯を沸かして下さい。場所はハンスが誘導してあげて。針と糸もよろしくね」
「わかった」
返事をするとハンスは孤児院に向かって走り出した。
「祭壇の下の倉庫に度数の強い酒があるので、傷の酷い人にかけてあげて下さい。軽傷の人は傷口を水で洗って」
イリアに手伝って貰いながら簡単な応急措置を始める。
怪我人の半数を片付けた所で医者が来てくれたのでシナリオを説明して受診して貰う。
それと同時に警察も到着したので、イリアに孤児院の現場検証をお願いした。
ソレからが目が回るほど忙しかった。
医者の指示の元、怪我人の傷口を縫ったり、警察に死体に当り身元の確認をしたり。
気がつけば朝日が登っていた始末だ。
イリアやハンスも身元確認後の死体の処理の手伝や孤児院の掃除など、二人も忙しそうに走り回っていた。
構成員の皆様はタクシーで帰って貰い、警察のパトカー教会を出る頃には新聞配達の人と挨拶を交わす時間にまでなっていた。
そこまでは睡魔も一切感じず動いて居たが全てが終わり医者を玄関まで見送る頃にはヘロヘロだった。
「今回は本当に有難うございました。お金はローレンスが後日、支払うとの事です。」
「ああ、わかったよ。所でシルフィーナ君、神父様はどちらに?」
「それが、昨日の昼から戻って降りませんの」
「ソレは運が良いのか悪いのか。今回の事もあってスラムはやはり物騒だね。どうだろう?孤児院の子供、そうだな、アリッサかケリーを僕のところで育てたいんだ」
「突然、どうしましたの?」
「実は前から跡取りか手伝いの看護婦が欲しくてね。子供ならそのどちらにでも慣れると神父様に相談していたんだよ」
道理で最近、父が子供を町医者に行くように仕向けていると思っていたがまさか、この事とは。
フィーは父ながら神父の侮れなさを感じていた。
「でしたら、どちらの子にするおつもりですの?」
「勿論、本人の希望を優先させてくれて構わないよ。二人とも、という訳にもいかないから、そうだな。ケリーに"医者になるべき勉強に耐えられそうならおいで"と伝えてくれ」
「わかりました。」
「よろしく頼むよ。」
そう言って帰っていく医者を見送りながらフィーは自分が風呂に入り損ねていたのを思い出した。
―――熱いシャワー浴びてさっぱりしたい。
本当は昼間で寝ていたいが娼館が動き出す午後には女の子達を迎えに行かなければならない。
帰りが遅い父にも気になる。
ソレにケリーの学力の問題もある。
別に頭は悪くない、むしろ普通なのだ。フィー達が教えているのは簡単な計算と文字の読み書きに過ぎない。
学問を納めるには相当な努力がいる。それをケリーに確認しなければいけない。ソレはアリッサであっても同じことだ。
―――朝ごはん、どうしよう?
何時もはもう少ししたら起き出してパンを焼くのだが、その気力もない。
イリアは確か先にフィーのベッドで寝ているはずだ。ハンスも昨日の夕飯を掻き込んだら寝てしまった。
眠気のせいで全てが面倒に思えてくる。
―――無理。少し寝よう。
フィーはエミリーの部屋で仮眠を取ることを決め、孤児院に向かって歩き出す。
教会の近くを通過すると教会の扉を叩く音が微かに聞こえる。
このまま見過ごす事も出来ないので、ふらつきながら教会に向かうと教会の玄関に男が一人、倒れていた。
抗争の死体は先程、警察が片付けた。ローレンスの構成員なら後日家族の元に送られるか、葬儀屋で焼かれた後に教会の敷地に埋められる。
血痕も広がっていないから死体ではないだろう。
何時もなら駆け寄って安否を確認するのだが、抗争の後だ。残党の可能性も考えられる。
眠気もあって思考が荒んでいるせいも有るのかもしれない。
フィーは男の近くによると肩を叩く。
「大丈夫ですか?」
反応がないので手に力を込めて男を仰向けにすると金髪がサラサラと落ちる。
20代ぐらいだろうか?王子様みたいな整った顔立ちの若い男が苦しそうに呻いていた。
額に手を当てれば凄い熱だ。
「起きてください。取り合えずベッドまで動けそうですか?」
「…うっ。っ…だ、誰?」
「この教会の娘です。寒いですか?熱いですか?」
「…寒」
「わかりました。立てますか?」
男に肩を貸して歩かせる。
一歩、前に踏み出しただけでフィーの足にブチッと嫌な音と共に激痛が襲う。
崩れ落ちそうになるのを悲鳴と共に圧し殺し、持ちこたえる。
そらから一歩また一歩と痛みに耐えながら歩いて行く。
何時もの倍以上の時間をかけて孤児院の玄関にまでたどり着くとその場でフィーは男を背負ったまま崩れ落ちてしまった。
男に視線を向けると荒く呼吸をしている。気を失って力が抜けたらしい。
なんとか、男の下から這い出すとフィーの足に巻いていた包帯から血が滲んでいる。傷口が開いたようだ。
ここからはフィー、一人ではどうにもならない。イリアかハンスを起こさなければならない。
先程、寝たばかりなのに些か申し訳ないが仕方がない。都合良く神父かロイか帰ってきてくれないだろうか、と一般街の方向に目を向けるが誰も帰って来る気配はない。
重いため息を吐き出してフィーは男を玄関の端に腰掛けさせると後ろから声をかけられた。
「何やってんだ?フィー。朝飯、買ってきたんだが食うだろ」
「…ガラッドォ」
大きな紙袋を抱えた大男だって同じ徹夜なのにピンピンしている。フィー達が睡眠を欲しているのに対しガラッドは食欲の心配をしてくる。
その体力に呆れもするが、フィーにとっては正に救いだった。
ガラッドは何も聞かずに男を荷物の様に肩に担ぐ。フィーはガラッドのもう片方に抱えられている紙袋を受けとると救済者様に作られた部屋へと案内した。
フィーは一旦、荷物を起きお湯を沸かして、タオルを持ってくる。
ガラッドに手伝て貰い男の汗を拭き神父の寝巻きに着替えさせる。
男を毛布に押し込め一段落だ。
「ありがとう。ガラッド、助かったわ。」
「いや、昨日の今日なのにお前が一番大変じゃねぇか。聞いたぞ?構成員とやりあったんだってな」
「あれは、成り行きで」
「負傷者の救護してくれたんだ。礼を言うのはこっちの方だ。」
「なら、組織としてはお互い様ね。だから、これは私の変わりに男の人を運んでくれて、個人的なありがとう。」
「相変わらずだな、お前も。」
そう言って呆れた様に笑ってくれるガラッドにフィーも笑顔を返す。
それを見てガラッドはフィーの頭を手の平で軽く叩く。ガラッドだから、撫でてようとしてくれたのだろう。
この幼馴染みの励まし方は昔から変わらない。
「人のこと言えないじゃない」
そう言って吹き出すとガラッドは真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまった。
「いいから!お前も寝ろ」
「あら?朝ごはん食べに来たんじゃないの?」
「フィー。お前、さっきから寝不足でふらついてんの自覚ないのか?とにかく寝ろ。」
「けど、折角、ガラッドがお客さんで来たのに…」
「俺はいい。もう帰る。昼にはニコも戻って来るだろ。」
「わかった。なら玄関までお見送りさせて?」
「……待てよ?フィーの事だ。俺が居なくなったら男の看病始まんだろ!」
「大丈夫よ。私もそこまで万能じゃないわよ」
「お前の大丈夫はあてにならん。男の看病は俺がやるからお前は寝てこい。」
「けど…それじゃ、悪いわ」
「午後からガキ共迎えに行くんだろ?少しでも寝とけ」
それを言われるとつらい。ソレにその申し出は有り難くある。
フィーはガラッドに男を任せて睡眠を取ることにした。
有難うございました
すみません。ギャングアニメ見てたらアニメに出てくるファミリーネームと自分の小説のファミリーネームを取り違えるというミスを犯してました。
教会を支持してるファミリーはローレンスです。
すみません




