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だが、ヒロインの座は奪われない

遅くなりました。

次回、オールメンバーが揃います。

読んでくださる方に本当に感謝です

朝の爽やかな空気に目を覚ます。昨日に続き今日も晴天だ。

足に痛みはないことから、化膿はしていない。経過は順調だ。

フィーは着替えのついでに足首の包帯を替えてキッチンへ向かう。

まだ、誰も起きてきていないのを確認すればオーブンに火を入れて、女の子達を起こしに行く。

孤児院教会のやんちゃっ子、ジャンとルイスが居ないだけで朝の戦場は随分、おとなしい。

それから皆で朝ごはんを作ったら全期を全員を仕事に送り出差なくてはならない。

デヴィッドを起こしに行くのはそれからだ。

何分、男の子処か神父すらいないので人手が足りないのだ。仕事は山積みなのは言うまでもない。

取り合えず子供達とロイに孤児院の掃除を任せ、フィーとエミリーはパンを焼き始めた。

だが、一昨日とはうって代わって場の空気は重い。

エミリー達に突然、孤児院を出ていけと言ったのだから当たり前なのかもしれない。

何時もの和やかな空気を取り戻したくてフィーは向かい側に会話を投げ掛けた。

「…あのね、エミリー」

下を向いてもくもくとパンをこねるエミリーだったが、エミリーはフィーと目が合うと真剣な面持ちでフィーに宣言した。

「決めた!フィー姉!!私、ノーナと暮らす」

突然すぎるし、フィーの想像と違う言葉に面食らう。一呼吸おいてからフィーはエミリーを見据える。

エミリーは本気の様だがこの考えが浅はかな同情なのか吟味しなければならなくなった。

「エミリー、気持ちは嬉しいけどエミリーの給料じゃ二人は無理だわ」

「わかってる。だからノーナには転職してもらうの。一般街に里親を探しに行くより女の子が出来る職を探した方がまだ、可能性はあるじゃない!」

「それはそうだけど、見付からなかったら?」

「そしたらノーナには今の花売りして貰いながら頑張るしかない」

「…そうね。有難う」

そこまで聞いてフィーは困り顔のまま笑うしかなかった。

事が上手く行けば良い。だが一般街に14歳にもならない子供を雇ってくれる場所が有るだろうか?フィーはエミリーの申し出を有り難く胸に仕舞って置くことにした。

「けど、エミリーは怒ってないの?突然、自立しろなんて無茶言われて」

「どのみち、18歳になったら強制で孤児院から出るようじゃない?なら数年早まったと思うことにするから大丈夫だよ」

エミリーの以外な言葉にフィーは先程とは別の困った表情のない笑みがもれる。

「…エミリーはいい子よね」

「いやだなぁ、突然」

そう言って照れて笑うエミリーだが彼女なりに考えてくれたのだろう。

皆がアリッサばかり養子にしても良いというなかで縮こまるしかないノーナに気を使って言ってくれた事もわかる。

チビや男の子でないのは経済的な事や今後の事も考えた末の決断なのかも知れないけれど、それでも憎からず思ってくれて手を差し伸べてくれるのは有り難かった。

「有難う、エミリー。今日はロイに養子先と一緒に仕事も探してもらうわ。だけど、この話を皆にするのは少し待ってほしいの」

「…仕事を見つけるの大変だから?」

「うん。もし、見付からなかったらエミリーばっかり負担が来ちゃうから。もう少し、先が見えてからにして欲しいわ」

「………わかった」

不服気味ではあるが頷いてくれるエミリーに『有難う』と再度返した。

現実は甘くない、エミリーとノーナの二人暮らしになったとしたら達行かなくなればノーナを切り捨てるか最悪、情に流され二人で最後まで踏ん張り潰れる未来だってある。

人はそれを美徳とするけれどフィーは美しい姉妹愛を語って二人に死なれるより、どちらか片方だけでもいいから生きてほしかった。

―――本当に最低だわ、私。

フィーはその後、食器の準備をしながら自己嫌悪に陥る。

教会の娘として、『神様』なんて会ったこともない人物を崇拝する体の立場の人間としてフィーは生産性が無くとも愛だの友情だの耳触りの良いだけの理想論を唱え、それを叶えるべく努力するべきなのだ。

だが現状フィーにはいくら努力したところでそれを叶える力が、ビジョンが、手段がない。

無いものだらけ。

言い方を変えるなら叶えられる要素がひとつもない。

だから建設的で現実的な手段を取ってしまう。二人を助ける手助けすら出来ないなら一人だけでも助けるられるよう全力を尽くす。

―――神父様ならもう少し上手くやれる。

一行に連絡のない神父の問題すら片付いていない。

神父の失踪。

教会の襲撃被害。

再度、教会襲撃の疑い。

孤児達の避難と養親探し。

救済者の保護。

考えば問題なんて山ほどあって何も片付けられなくて、力を抜いたら泣き崩れて立てなくなってしまいそうなのに。

いくら自分に活を入れてもふとしたときに問題の重要性が責任がのし掛かってくる。

どんなに気をまぎらわせても、皆で解決に奔走しても結果がでない現実に責められる。

―――あ、駄目。泣きそう。

昨日から続く答えのでない問答に溺れてしまいそうだ。


『フィーは優しいね。ずっと一緒にいてね』


限界が近かったのかもしれない。

最後の砦が崩れそうになったときに突然、ニコラスの声が聞こえた気がした。

勿論、ニコラスは昨日の夜から仕事で帰ってきていない。

ここに要るはずがないのだ。驚いて振り替えればエミリーが逆に驚いた顔でフィーを見詰めている。

「フィー姉?どうしたの?」

「あ、…ううん。なんでも、ないの…」

「そぅ?」

不振がるエミリーに笑顔で取り繕うとフィーは自分でも何故ニコラスを思い出したのわからなかった。

―――ずっと一緒か。

いつの間にか平常心を取り戻し、ニコラスの言葉を思い出す。

別に寂しかった訳ではない。

ただ、途方もなく逃げ出したくなっただけ。

―――もし、逃げたらニコは一緒に居てくれるかな?

案外、ニコラスは軽いノリで一緒に逃げてくれそうだ。

ニコラスは優しいからフィーが今まで面倒に巻き込まれそうになると率先的に付き合ってくれた。

そして、最後にはガラッドと三人で笑いあった。そこまで考えフィーは何故ニコラスの幻聴を聞いたのか思い至る。

ただ、肯定して欲しいのだ。

逃げ出したいと思ったのは最悪な結果に終わることを怖れたからだ。もしフィーが何かを間違えば子供達は簡単に破滅する。

保護者がしっかりしなけば始まらない。だけど自分が正しいのかわからない。

だから本当でも嘘でもかまわない、最終的に判断するのはフィーなのだから。

だから『大丈夫だ』と言って欲しい。『間違えてない』と安心させて欲しいのだ。

そんなのはただの甘えなのはフィーもわかっている。意味のない、自己満足だとも。

だから弱音は吐かない。周りに弱い姿なんて見せない。

そう思っているのにニコラスはフィーの不安を察して甘やかしてくれる。

それが良いとも悪いとも言えないけれど。

―――ニコに甘えてるなぁ。

同じ幼馴染みのガラッドでもここまで甘えていないとは思う。だが、フィーにとってニコラスは確かに心の支えだった。

「…頑張らなきゃ」

涙が引っ込み、今度こそ気合いを入れ直す。

ニコラスの声が聞こえた理由も分かりスッキリした。フィーは自分に言い聞かせるように呟きはエミリーに聞かれる事はなかった。

そのまま、全員を呼んで朝食が始まった。


「そういえば男子達は何時頃に帰ってくるの?フィー姉、パン取って」

「お昼頃よ。農場の方に迷惑かけてないと良いんだけど…どうぞ。」

「あー、ワルガキ二人は不安だね。有難う。」

「ケリーは大丈夫だろうけどダニエルは喋らないから意思疏通が出来るか不安だよね。ノーナ、塩とってちょうだい。」

「……はい」

「そうよね。家畜放したり、食べ物ちょろまかしたりしてないといいんだけど…」

「…アリッサ、幼馴染み達を信じてあげて?」

頬に手を当てて本気で心配するアリッサに苦笑ぎみにフォローはするが隣でエミリーとロイが顔を横に振っていた。

「信用出来ないのよ、あの二人。所でフィー姉。私とノーナは何時頃に帰って来ればいいの?」

「そうね、早めが良いわね。夕方前には帰って来て欲しいわ。」

「分かったわ。兄さん達、今日は遅いの?」

「俺もロイも遅くなるよ。夕飯は取っといて。スープおかわりある?」

「そうだわ。ロイ、今日養親を探すのと一緒に一般街で子供でも出来る仕事を探して来て欲しいの。おかわりね、今持ってくるわ。」

「なんで?まぁ良いけど。俺もおかわり」

「有難う、理由は後で話すわ。二人分ね、分かった」

「あ、コラ。チビまた、こぼしてる」

会話が飛び交う食卓は何時もの風景なのに何処か落ち着かなかった。

片付けを終えればエミリー達、年長組は仕事と養親探しに出掛けて行く。

一足遅れて子供達も仕事に出かけた。


残ったフィーはデヴィッドに暖め直した食事を持っていく。

「デヴィッドさん。起きてますか?シルフィーナです」

「あぁ、おはよ。シルフィーナ。どうぞ、入って」

「失礼します。」

ノックと一緒に声をかければ返事はすぐに返ってきた。

ドアを開け部屋に入ればデヴィッドは昨日渡した神父が日頃来ている普段着ちょうど着終わった所らしい。

「体はもう、大丈夫なんですか?」

「ああ。もう動いても平気だよ。有難う、シルフィーナ。全部、君のお陰だ。」

「いいえ。教会のは助けを求める人の為に何時でも門を開きます。」

「……君は美しいだけでなく心も清らかな人なんだね」

「朝食を持ってきました。」

デヴィッドのお世辞を聞き流しフィーはベッドのサイドテーブルに食事を置いた。

多少強引だったかもしれないがデヴィッドは気にした風もなく、食事にてを伸ばす。

「体力が戻ったのは良いことですが念のために今日は安静にしていてくださいね」

デヴィッドの洗濯物を拾い上げフィーが注意を促すと、デヴィッドはあっさり肯定する。

「そうだね、そうさせて貰うよ。所で何か手伝える事はないかな?」

肯定されたが接続部分がおかしい。デヴィッドは病人でもあるし、救済者だ。

ホテルより格安とは言え教会にお布施と云う形で宿泊費と治療費を払わなければならないことは、昨晩に説明済みだ。

つまりはお客様。

自ら進んで仕事をしなくても良いのだ。

「…今日は安静に、ですよ?」

「君見たいに可愛い人だと、ついワガママを言ってしまうよ」

その意味も込めて釘を指すのに返ってきたのはまたもやお世辞だった。

熱で頭でも沸いてしまったのだろうか?または、お布施の値切りでもする気なのか?

フィーは笑顔で武装をするとデヴィッドを諭す。

「デヴィッドさんったらお上手なんですから。でも駄目ですよ?熱が振り返したら元も個もありません。暇なようなら父の書斎に本が有りますから面白そうなものを見繕って来ますよ?」

「参ったな。それじゃシルフィーナに怒られる事はよしておくよ。怒った顔も魅力的だけれど、ね。」

ここまで歯が浮くような台詞を並べ立てられると口説かれている、と言うより男娼と話している気分になる。

容姿が良い分、様になっているし、逆に童話に出てくる王子様みたいな容姿のためにしっくり来る。

逆にガラッドも格好いいが彼がこんな台詞を吐けばガラッドの知り合い全員が笑い転げる事だろう。

デヴィッドだから似合うのだ。

だが、デヴィッドからは真剣さが全く感じられない。

そこがフィーにとっては軽くあしらえるので助かるが出来ればこのノリは止めて欲しい。

「もう、なんです?さっきから。何も出ませんし、まけませんよ?」

「ははは、手厳しいな。仕方がない、今日は読書でおとなしくしているよ。」

「そうしてください。本の好みは有りますか?」

「赤毛のアンはあるかな?」

「ええ、有りますよ。アンで良いですか?」

「…そう、だね。他にもあると嬉しいかな。」

「分かりました。」

サイドテーブルから窓辺のイスとテーブルに朝食を持っていきデヴィッドは『うまい』と言って食事を始めた。

美味しそうにご飯を食べる人だ。

余りにも、にこやかにご飯を食べるのでフィーも口許が緩んだ。


それから、デヴィッドのリクエストを探しに神父の書斎に行こうとしたが『赤毛のアン』なら子供部屋にも有るはずだ。

神父の鍵のかかった書斎よりもはるかに時間の短縮が出来る。

フィーは子供部屋から本を持ってデヴィッドのいる救済室を訪れればデヴィッドは食事を終えていた。

本を渡し、退室すればフィーに待っているのは洗濯だった。

洗濯物を運びながら外に目をやれば廊下から教会が見えた。

教会は穴だらけなので掃除事態諦めたが、教会もそのうち片付けをしなければならない。

今朝も子供達には教会ではなく孤児院の掃除をしてもらったのだ。中は構想後のままだ。

―――後でハンスにでも手伝って貰おう。

今は男の子達が帰ってくる前に出来るだけ家事を終わらせたかった。

はい。

バラしました。暗号の答えはコレです。

赤毛のアンです。

気付いて下さった方は凄いです。

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