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円卓ならぬ食卓会議

左からチビ、アリッサ、フィー、ノーナの順で手を繋ぎ歩道を歩く。

右側は道路で車が横行しているが昼下がりは朝よりも車の通行量は少ない。

会話の内容は娼館での体験で皆、やや興奮ぎみに話している。

「それでね。凄いのよ!バーデンダーさんがジュースを作るとねグラスの中で色が三色に別れてるの」

興奮気味に話すアリッサにノーナも相づちを打っている。

「美味しそうって言ったら違うジュースくれたわ」

「私達にはまだ早いんですって」

残念そうに語るアリッサにフィーは笑顔を向ける。どうやらバーデンダーは子供好きだったらしい。話を聞くに色々と気を使ってくれたようだ。

「でね。娼婦さんの一人がお話てくれたんだけれど内容が全然解らないの」

「解らない?国が違うの?」

「ううん。『軽蔑を持ってして娼婦を殺すのと同じで真逆。教会は優しさで絞め殺されそう』って。」

その言葉にフィーは何も返せなかった。

To be hanged on a fair gallows.

昔、神父が言っていた日本のコトワザの"マワタで首を絞められる"と言った方が近いかもしれない。

「フィー姉はどんな意味かわかる?」

娼婦は回りの女性に比べれば精神的苦痛の多い職種だ。もし、幼い頃からその仕事をしていたのであれば他の子供と比べて劣等感も多いだろう。

子供達の何も知らない無邪気な姿は彼女達の幼い頃には既に捨てざるを得なかった姿と嫌でも比較してしまうのかもしれない。

自分の苦痛を全て回避していてそれを知らずに笑う他者に好感が持てる人間は少ない。

フィーが思考のしているとノーナが『どうしたの?』とフィーの顔を下から覗き込んだ。

「なんでもないわ。…その娼婦さんは怒っていたの?」

「ううん。笑って私の頭を撫でてくれたわ。後、飴もくれたのよ」

「そう。」

自分の判断がわからなくなる中でフィーは笑顔を絶やさず子供達の話に聞き入った。

その後、子供達のとりとめのない話を聞きながら協会へ向かった。

その後、不穏な会話は出ずフィーは聞き役に回ることで一時では有るが悩みのタネを忘れることが出来た。


教会に到着すれば正面門からハンスが出てくるのが見えた。

「あら?ハンス。出掛けるの?」

「…うん。神父様の事、確認してくる」

「それなら、レオナルドさんに電話したのだけれど見付かってないって。」

電話の内容を簡単に説明するが、次の言葉が見つからずフィーは黙ってしまう。

それを察したハンスはフィーの言葉を促す。

「……それだけじゃ、ないんだね?」

フィーは無言で頷く。

どうしても言葉が見付からなくてフィーの視線はおのずと手を繋いだままの子供達に向けられていた。

子供達は不安な顔でこちらを見つめている。

ハンスはチビを抱き上げるとあえて明るい声を出す。

「中で聞くよ。今、ニコラスも帰って来てるし」

ハンスの肩の上でキャッキャとはしゃぐチビを見てフィーも笑顔を作る。

「うん。イリアは?」

「……ニコラスの罰ゲ、手伝い」

何故かばつが悪そうに答えるハンスに首をかしげながらフィーは教会へと入って行った。

「おかえり」

食堂に着くとガラッドが洗い物をしていた。

「ただいま。ごめんね、ガラッド。疲れてるでしょうに洗い物させちゃってか交代するわ」

「いや、もう終わる。」

ニカリと笑って答えるガラッドの横には洗い終わった皿が積まれている。

「ガラッド兄さん、私お皿拭くの手伝うわ」

「…じゃぁ、私片付ける」

子供ならがに気を使いアリッサとノーナが子供用の踏み台を出し、ガラッドの手伝いを始めた。

「お、サンキュな。ノーナ、アリッサ」

三人で効率よく作業を始めたのでフィーの出番はない。

「ガラッド一人?イリアはニコの手伝いって聞いたけど、もう孤児院出ちゃったのかしら?」

フィーが話しかけるとガラッドは視線を泳がせてからフィーの後ろに控えているハンスに視線を送る。

「いや、まだいるよ。」

チビを床に下ろすとハンスは苦笑と共に答えた。

「今、洗濯か風呂掃除か…掃き掃除、トイレ掃除だったか?」

「イリアの家事能力しだいじゃない?」

「……なんでイリアが家事やってるの?」

「ほら、昨日のでフィー怪我したから」

「そんな、悪いわ!お客様に家事をやらせるなんて」

「追加の仕事だよ。イリアは何でも屋だから。夕方には終わらせるって意気込んでたし」

ハンスがフォローに入って居るがいくらなんでもそれは悪い。

フィーが止めようとするがガラッドは逆にフィーを呼び止め顔を横に振る。

真剣なまなざしに驚きはしたが次にはアリッサ達に笑顔で話しかけていた。

「悪いが皆で夕飯の買い出し行ってきてくれねぇか?」

「あら、今から?珍しい。でも献立はどうするの?」

「メモ渡すからそれを頼む。全力で値切ってやれ」

「わかった。皆で頑張るわ」

ガラッドの人の悪い笑みにアリッサはウインクで返した。

ガラッドが胸ポケットに入れてあったメモをアリッサに渡す。

用意が良すぎる。ガラッドが子供達にファミリーの話を聞かせないための配慮だろう。

アリッサはメモを確認するとノーナとチビを連れて一般街へと向かった。

食堂に残った三人はテーブルに着く。

作戦会議となりそうだ。

「で、まずは神父か。」

ガラッドが重いため息と一緒に最初の議題を口にするとフィーは知り得た情報を話す。

「昼にレオナルドさんに連絡取ったけど知らないって言われたわ。昨日もお宅に訪問してないそうよ」

「昨日の足取りは?」

「赤ちゃんを預けに一般街。パン屋のおば様に断られたらレオナルド邸に向かうと言ってたわ」

「他に手がかりは?」

「レオナルドさんの話だと一般街で殺人があったって。現場で発見されたのは赤ちゃんだけ」

「その話は俺も聞いた。Missエリザベスは?客で変なの居るとか言ってなかった?」

ハンスが口を挟むがフィーは首を左右に振る事しか出来なかった。

「特になかったわ。」

「そんじゃぁ、俺の番な」

ガラッドがイスに仕切り直しとばかりにイスに座り直すと、テーブルの上で手を組んで話始めた。

「この襲撃、教会を襲った実行犯の他に裏で糸引いてる奴が居る。そいつは近くのギャングに小金ばらまいてるらしいからギャング潰した所で次から次へと涌いてくる」

その言葉はこの場にいる全員が考える最悪の事態を表していた。

神父の誘拐は断定されたと考えていい。

そして、ローレンスファミリーはこの教会で敵を追い返して居る。教会が武器庫だと知られた可能性も考えれば守りの薄い教会は相手に取って絶好の襲撃場所だ。

「…子供達だけでも逃がさなきゃ」

子供達は関係ない。教会が武器庫である事もローレンスファミリーとの繋がりも何も知らない。

情報の為には勿論、人質になる恐れだって考えられる。

常に彼等の知らぬところでスラムとマフィアの綱渡りをさせているのだ。これ以上、彼等に危険な目に合わせるわけにはいかない。

フィーは改めて決意を固める。

「宛はあるの?」

「町医者の先生がケリーかアリッサを養子に欲しいって。後、娼館でも身請けの世話係が欲しいって言われたわ」

「そうか二人か。エミリーとロイは一般街で自立させるとして、エルダはこのまま娼館に居るしかねぇか。一番の問題はチビか」

ガラッドはイスに背中を預け残りの子供達の数を指折り数えた後苦笑を洩らす。

「ハンス、誰かいねぇか?」

「…犬、猫じゃないんだから」

ハンスも複雑な表情で返すが里親と云うのは本当に見付けにくい。

預けた先がマフィアの管轄にない娼館とも呼べない、虐待と性交しかない紛争地帯の地獄だって事もある。

他人の子供を欲しがるなんて、貰う方によっぽどのメリットがない限り無理な話なのだ。

時間もなく、ギャングに狙われているので遠方にも行けない。

正直、二人だけでも奇跡的だった。

他の孤児院に預ける手も有るが、子供となると枠を考えても一人、二人が限度だろう。

重たい空気が場を支配する。それに耐え兼ねガラッドが議題を進める。

「ガキ達の受け入れ先は後日。フィー、他の孤児院に連絡しといてくれ」

「わかったわ。」

「話を戻して自警だ。当分は救済者は受け付けられねぇな。フィーはガキの面倒見てくれ。ハンスも情報の得つつの教会周辺の警護。…やっぱ、ガキ達が一番心配だな」

「かといって、仕事休ませる訳にも行かないじゃない?」

やはり問題はそこだった。

ガラッド達は裏稼業、一通りの自警は出来る。だが、子供はそうもいかない。

各自、策を巡らせているとニコラスが食堂へと入ってきた。

「終わったよー。あ、おかえり。フィー、ハンス。」

重い空気など露知らずニッコリと笑うニコは相変わらずだ。

昨日の夜会ったばかりなのにそれが妙に懐かしかった。

「で、ニコ。罰ゲームは?」

「うん。後、トイレ掃除で終わるって。皆は?」

「八方塞がり」

ガラッドの答えにニコは苦笑を返すと空いている席に座る。

「その分だと全部、話終えたってかんじかな?子供達は?」

「夕飯のおつかいよ。」

"そっか"と、そっけなく返事をした後、椅子の下で足を投げ出し子供のように足を降って遊んでいるニコラスが思いだした様に話を振った。

「救済室で寝てる人、誰?」

「ニコも知らないか。」

「うん。お仕事くれる人では見ない顔だよ」

「今朝、孤児院の近くで倒れてたのよ」

「そっか。じゃぁ、仕方がないね」

ちょっと照れ臭そうに笑うニコラスにガラッドは表情が険しくなる。

「ニコ。寝てる野郎、弄ってねぇよな?」

「うん。神父さんの知り合いかもしれないと思ったから、まだ何もしてないよ。」

「殺るなよ。」

ガラッドは内心、安堵の息をこぼす。

フィーはニコラスの仕事に気付いていない。

その証拠にガラッドの言葉の意味がわからず

不思議そうな顔をしたが、それでいい。

ニコラス自身が隠している性もあるかもしれないがニコラスは今日の朝まで拷問と死体処理の仕事をしていたのだ。

そこから急いで教会に帰って来たとなれば、道具はまだ持っていると考えるのが普通だろう。

救済室で寝ている男がフィーの心労を増やすと云うならニコラスは間違いなく、その男を殺す。

また、情報を吐かせる必要があるなら寝ている内にぎょう虫や百足やらを男に使うのは目に見えていた。

男が何者か分からない今、まだニコラスに仕事をしてもらっては困るのだ。

昔、ニコラスが虫攻めで拷問した男の末路を思い出してガラッドは上がってくる胃液を押し留め、話を戻す。

「身元確認はあのハンサムが起きてからだな。そういや、あいつに昼飯は食わせたのか?」

「うん。イーちゃんが牛乳と緑色と赤色の混ぜたの飲ませてた。」

「…色って何だよ。」

「どろどろして、よく分かんなかったんだ。牛乳が近くにあったからそれは確かだよ。」

「……茶色い物体?」

「うん。舐めたら甘くて青臭くて酸っぱかった。」

「…………ニコって時々、無謀な行動するよね」

「???」

きょとんとしているニコラスをその場にいる全員が理解しがたい目で見ていた。

話を聞いていても美味しそうと思えるどころが味覚の危険性を感じる。

男のその後に変化がないなら大丈夫だろう。

ニコラス以外の全員がこの話を無かった事にしようと無言で頷いた。

それから自衛の策についてや、ガラッドとニコの予定、それにより教会に泊まる日取りなどを決めてく。

エミリー達にも事の次第を伝えなければならないので、その口裏合わせなど話し合うことが次から次へと出てくる。

ある程度、話が煮詰まった所でイリアが食堂に入ってきた来た。

それで現在、教会にいる人物が全員集合となった。

「おわぁーたぞぉ。こらぁ」

心なしかやつれた様に見えるイリアが神父が何時も座る卓全体が見渡せる上座に座った。

相当、疲れたのかイスに体を全て預け天井を仰ぎ見ている。

「これ毎日とかぁここは教会か?神父が祈り捧げてんのか?」

勿論、ここは孤児院教会だし、神父も礼拝は欠かしたことがない。

だが、イリアが言いのは違うことなのだろう。ガラッド達も"罰ゲーム"と言っていたし、イリアは起きてから教会の掃除などを手伝ってくれていたに違いない。

フィーは慣れたし子供達も手伝ってくれるから苦ではないが、初めての人には大変だと思う。

フィーが感謝の言葉を口にしようとする前にハンスの突っ込みがそれを遮った。

「ここは教会だし。神父も礼拝してるよ」

「あぁーはい、はい。そうでしてたねぇ。このぉひとでなし」

「有難う。イリア、お茶でも入れるわ」

ふてくされているイリアの為にお茶でも居れようとフィーは立ち上がるが、イリアに止められた。

「要らない。今から他の仕事があるから、そろそろ出なきゃ。水なら一杯、お願いします。」

「わかったわ」

早足でキッチンへと迎い水を持ってくると、イリアはここに来た時と同じモッズコートを着こんでいた。

コップを渡せば中の水を一気に飲み干す。

「有難う。そんじゃね」

食堂に居る全員に手を振るとそのまま出ていってしまった。

後、数時間もすれば空が赤くなる頃だろう。

そろそろ子供達も帰ってくるはずだ。

夕方になればエミリー達も戻ってくる。

会議は解散となり各自のやるべきことを始めた。

ありがとうございました。

一応、10日前後での連載していきたいと思っています。

やっとシナリオの少し手前にたどり着きました。

こっから狂気と血ミドロを~なんて本人の希望をよそに小ネタが入っております。

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