ミックスナッツ
ミックスナッツを食べる。
食べていると異変に気づく。カシューナッツが入っていない。
僕はミックスナッツの中でカシューナッツが1番の好物だった。
これはカシューナッツが入っていないミックスナッツなんだろうか。
手のひらサイズの袋を見てみた。ちゃんと写真で載っている。もしかしたら注意書きがあるかもしれない。
『カシューナッツが入っていない場合がありますのでお気をつけ下さい』と。
袋に書いてある文字を丹念に読んでいく。……書いていない。
どうする。電話するか。
いや、そんなことで電話なんか。
そんなこと? 僕にとっては重大な出来事だ。
しかし、世間一般からすればそんなことかもしれない。
いや、僕は世間に合わして生きていくのか。
それはそうに違いない。協調性は大事に決まっている。
それなら僕のこのやるせない感情はどうすればいい。
アーモンドとビッグコーンが入ってないのは我慢出来る。
しかし、カシューナッツだけは……。
もう電話をすればいい。僕はきちんとお金を払ったし、この会社の将来の為にもなる。
僕が電話をしなければ被害者はどんどん増えていく。しかし、なんて言えばいい。
『さっき買ったミックスナッツにカシューナッツが入ってなかったんですけど』
小さ過ぎる……。人として、男として。
だからモテないのか。
いや、これはもはや大小の問題ではない。モテるモテないの問題でもない。だいたいそれは違うところにある気がする。
きっとこれは、僕の気の弱さが原因なんだ。
しかし、気の弱いのがなぜいけない。みんながギスギスしていたら、殺伐とした緊張感満点の社会になっている。
クソッ! なぜ僕がこんなに苦しい時間を味わなければいけないんだ。
そもそもこの会社のせいだ。全部この会社のせいだ。
そうだ、怒りを集めよう。怒りをたくさん集めて勢いで電話しよう。
『この会社のせいだ。この会社のせいだ。この会社のせいだ。この会社のせいだ。この会社が悪い。この会社が悪い。この会社が悪い。この会社が悪い』
よし、今だ! 手に取った携帯で電話をしろ!
うっ、せいや、ええい、なんだ、これで……ちきしょう駄目だ、出来ない! 出来ない出来ない出来ない!
どうしようもない奴だ僕は……。クレームの電話一本も出来ないのか。
駄目だ。泣きそうだ。
一粒で良かったのに。一粒でも入っていればこんなことにならなかったのに。
完成日不詳
2015年9月1日追記
記憶にないぐらい昔に書いた。しかし今と文体が全然変わってねえな。
平本アキラばりに自分を変えたい英星