早撃ち
それは生徒会の机上から始まったわけで。
「なんで、拳銃があるんだ!!」
机には2丁のスミス&ウェッソンというリボルバー式拳銃とサバイバルゲームで着ける様なゴーグル2つ、極めつけは腰用のホルスターが2つあった。2つとも西部劇に出そうなフォルムをした拳銃で、現代でいうリボルバーと言う奴だろうか?
それが机上にある。生徒会の。
生徒副会長の草木は、机に置いてある凶器について誰かに訊こうとした。
今、この部屋にいるのは、生徒会長の高田と生徒会選挙管理委員会長の森村、監査の野本、そして同じく書記官の新明。会計の林。
高田は先ほど生徒会室に入った草木に説明する。
「ああ、それな。生徒指導部の倉野先生が持って来たんだよ。素行不良の奴が持ってたんだとか……」
それを聞いた彼は、ちょっと驚いた顔をした。
「ほへぇー。本物?」
それを聞いた森村が苦笑いしながら、答える。
「馬鹿っ。本物なわけないだろう。エアガンだよ。ほら、よくあるじゃん。1発撃つ時に、銃身をスライドさせるやつとか……」
「ああ、お祭りのくじ屋とかでよくあるやつですね」
林の例えが一番伝わりやすく感じたのか、森村に同様を得た。
「そうそう」
高校でこういう物が出てくる時はたまにある。不必要なものを持って来て指導されるという奴。
「スミス&ウェッソンってかなりの年代モデルじゃない。にしてもちゃんと手入れされてるわね」
野本が1丁を持ち、形と色を確認している。綺麗な銀色。
彼女の目が光っているのを他のメンバーは見て和む。ガンマニアは何処に魅力を持つのか草木自身、理解はできなかった。
野本は腰用のホルスターを1つ手に取り、巻き、着け終えた後でリボルバーを取り、手の力を駆使して、リボルバーを回転させる。
女性らしからぬ姿に残りのメンバー達はただ、声を上げただけだった。
「おおー」
「こんな感じなのね」
野本の新たな境地の姿に新明は、何か期待を感じた。
「いいね。監査」
その受け答えとして彼女は若干、微妙な顔をしている。
「そう? もっといいホルスターあると思うのに……」
そんな中で、森村がある事をみんなの前で提案しだす。
「そうだ! これを使って勝負しないか!?」
林は森村の言葉に疑問を感じた。
「えっ? なんかするんですか?」
森村は、気だるそうに告げる。
「だーかーらー。その拳銃を使って勝負しようぜ。負けた奴が掃除当番ってのはどうよ?」
草木と新明は同じ反応で森村の言葉に反応した。
「ええー?」
すっかりカウボーイ気分のような装いになっている野本は森村に訊く。
「ロシアンでもするの?」
森村は、決まった表情で皆に向けて答えた。
「いいや。早撃ちで決めよう! ほらっ、西部劇でもあるだろう?」
新明と野本も乗り気だった。
「いいねぇ」
「ああ。あれか。面白そうだな。じゃあ、先生にはバレない様にやりますか?」
「ええ!? いいのかい!?」
草木は心配しながら周りを確認しているが、皆やる気満々だという事を空気と表情で把握した。
「いいんじゃね? なぁ会長」
生徒会長の決断は意外と早かった。
「そうするか」
それから数分。学校の屋上に生徒会の人間が集まり、早撃ちの大会が行われようとしている。
高田が屋上にいるメンバー達に説明していく。
「ルールは簡単。早く相手に向けて撃った方の勝ちだ。勝算合計の計算は会計の林が担当する」
ホルスターを装着し、ゴーグルを着けながら新明が高田に訊く。
「スタートはどうするんだよ?」
「合図はこれにしよう」
高田は、そう言ってズボンの右ポケットをパンパンに膨らませていた理由であるスチール空き缶を取り出した。
「これを上に向けて投げる。このコンクリートの床にスチール缶が当たった瞬間、早撃ちのスタートだ。そのエアガンの装弾数は6発。準備はいいか?」
最初の試合。 野本VS新明
2人の姿は、今、まさに、アメリカの西部開拓時代を連想させる雰囲気を漂わせていた。
「覚悟はいい? 選挙管理委員長」
「そちらこそ。覚悟は出来てんのかな? 監査のお嬢さん」
「じゃ、行くぞ!」
高田の合図と共に、空に向けて円柱形のスチールが高田の手によって放たれる。数秒間の緊迫は、腰のホルスターに手を当てて時を待つ2人にしか味わえない感覚。
スチール缶は縦に回転しながら屋上のコンクリートに当たった。
2人は同時にホルスターからエアガンを抜き取り、それぞれの体の部位にめがけて、プラスチック製である黄色の丸い球体を放つ。
エアガン独特の発射音が屋上の全員に響いた。
「うっ! ヒット!」
新明は拳銃を下ろし、自分の腕に当たった事をジェスチャーで示した。
『おおー!』
「勝負あり! 野本の勝ちだな」
林は鉛筆で紙に結果を記した。
《○:野本VS新明:×》
野本はガンスピンをして、ホルスターに拳銃を戻した。
「こんなもんね」
新明は溜息をつき、悔しそうに落ち込む。
「……くそ!」
森村が新明を慰めた。
「ドンマイ。まぁ、今度があるさ。掃除決定だけどよ」
森村のフォローになっていない一言が余計、新明を追い詰めた。
高田は次の試合相手のリストを見つめる。
「で、次は、林と俺か」
「ほう。会計の力を見せる時がきましたか」
「何を得意げになっているんだ。現在の会長の力を見せてやろう!」
林と高田は、野本と新明から、ホルスターやゴーグルを手渡され装着する。さっきの勝負で空になったマガジンを装填。
草木は、生徒会というイメージとは全く逆の雰囲気にため息をついた。
「やれやれ。何をやっているんだか……」
「草木! 合図お前がやってくれ!」
会長の指示に面倒くさそうに返した。
「へいへい。それじゃ、いくよ!」
スチール缶を空へ。
浮いたスチールの円柱は、回転しながら空を切る。
ホルスターをつけた会長と会計は、相手の心理とそれぞれが立てた作戦を自分の心の中でセットし、待機した。
スチール缶はゆっくりとコンクリートの床に向けて落ちていき、再び叩きつけられる。スチールとコンクリートとの間で生じる高い衝撃音が早撃ち開始の合図。
先手に出たのは林。
林はまず試しに1発放つ。彼が持つリボルバーの重厚から黄色い弾丸が放たれたが、対する彼の体には当たらない。もう1発放つが、高田はそれを横にジャンプして、避ける。
まさにアクションスタントさながらの避け方。高田は、横に体を倒れた状態になりながら林に向けて撃った。黄色い球体弾丸が、林の左足に当たった事を彼自身が痛がって証明する。
「うわぁ! いってぇ!!」
「大丈夫か」
あまりの痛みに林は、左足のズボンをまくり、素肌を力強くさすって痛みを和らげようと努力した。
「いやぁー悪い悪い。まさか当たっちまうとはな。まぁ、これで掃除当番が決まったな」
「くそーっ!! やってくれましたね」
野本が笑いながら、紙に結果を記載する。
「会長が勝って。会計が負け……と」
《○:高田VS林:×》
最後は草木と言いだしっぺの森村。
森村は、余裕の面持ちと勝気な態度で草木を挑発していく。
「さぁてとよ。相手は草木か楽勝だな」
この勝負をとっとと終わらせて結果に自分の身を委ねようと考えていた為、草木にとって森村の挑発など痛くも痒くもなかった。
「さて、両者準備してくれ」
「おうよ!」
森村の高ぶる期待とは裏に、草木は、無言のまま高田から渡されたホルスターとゴーグルを着け、拳銃にBB弾の弾を回転式マガジンに装填する。
彼はガンスピンを披露しながら、勝気な態度で草木に言う。
「まぁ、ビギナーズラックに行けるさ。俺には勝てないだろうけどよ」
「はいはい」
「それじゃ行くぞ」
スチール缶が放たれた。
同じ沈黙が起こる。草木と森村は互いにスローモーションの中で相手のポイントを見つめた。お互いの位置、奴が拳銃を駆使する角度、自分の死角を短い間に考える。
スチール缶は回転しながら空中に浮く。1・2・3・4・5ある程度の高さで止まり、下のコンクリートに向けて、落ち始めた。
勝負の時間が近づく。スチール缶とコンクリートの間で再び音を発生させた。高い金属音が空を駆ける。
両者共に、拳銃をホルスターから抜いた。
「くらえっ!!」
先手は森村による発砲。
黄色い弾丸は草木によけられ、当てられなかった。対する草木も弾丸を放ったが、森村に当たること無く、何処へと消えた。
森村は草木の弾丸が当てられない様に、しゃがんだり、飛んだりと体勢を変えて、反撃を仕掛けていく。気付けば引き金を引いた回数を忘れていた。
草木も同様に引き金を引きながら、体勢を変えて弾丸を避けていく。気づいた時には、お互いが銃口を体の真ん中に近づけた状態だった。
森村は、草木に告げる。
「あいにく、何発撃ったか数えてなくてさ」
草木はそれに対して返す。
「奇遇だね。僕もだよ」
何発撃ったかは両者ともよく分からなかった。
森村は、草木の体に向けて引き金を引いた。しかし、エアガンのレバーだけが反応し、肝心なBB弾丸は出なかった。
気持ちの良い空気だけが放たれている。
「弾切れか」
森村は拳銃を下ろし、ゆっくりとリボルバーのマガジンに球を1発装填しようとする。
それを草木は見つめ、拳銃を構えたまま1言だけ装填している彼に告げた。
「悪い。弾、残ってたわ」
彼は引き金を引いて銃口から独特な炸裂音を耳に通す。それと同時に空気の力で銃口から力強く射出された黄色い弾丸が、音速の速さで森村の腹に直撃した。
森村は着弾した腹から鈍い鈍痛みたいなものが一瞬、感じる。
「ば、馬鹿なっ!?」
草木はぎこちないガンスピンをしながら、森村にお礼を含んだ言葉を放った。
「励ましの言葉ありがとう。お陰で勝てたよ。君に」
森村の心には《敗北》の2文字が表示されていた。腹に当たってコンクリートに落ちた小さく黄色い球体にショックを隠せない。
森村は地べたにゆっくりと膝からつき、敗北を味わう事になったのである。
「ち、ちくしょぉぉぉぉおう!! 勝てると思っていた相手なのに……勝てると思っていた相手なのにぃぃぃぃ!!」
このゲームを端から見ていた高田達は、声を上げて反応した。
「おお!! すげぇー」
野本が反応する。
「こんなのすごいよ」
新明も同様だった。
「やるなぁ」
林は紙に先ほどの勝負の結果を記した。
《×:森村VS草木:○》
森村と草木のゲームはハイレベルだった。
「これで決まったな。掃除当番」
「よし、任せたぞ。負けた人達よ!」
生徒会の楽しいイベントみたいな事は、上手く終了を迎えるはずもなく、それだけでは済まされなかった様。
「楽しかったかい。お前ら」
聞き覚えのある声に、生徒会の全員は氷と化した。
屋上の入口に、1人の教師が立って、厳つい表情でこちらを見つめている。林の反応で相手が誰か理解した。
「く、く、くくく倉野先生!!」
倉野が表した鬼の形相に、森村は笑いながら平静を保つ。
「やばいなー! あははは」
「あははじゃないわ!!」
先生の怒号が屋上を飛び越えて、グラウンドを響き渡らせる。
「お前ら! 何をやっているんだ! 取り上げたエアガンで!」
「こ、これにはワケが……」
生徒の話を倉野は興味深く、優しく聞くわけでもないまま怒声を浴びせた。
「わけもへったくれもないわ! 罰として全員学校内居残り掃除だ! さぁ、早く行かんかい!!」
『えええええ!?』
屋上にいる生徒会役員全員が倉野の怒声とその内容に絶望した。
草木は、深いため息をつく。
「やれやれ……」
おもちゃは学校に持ってきてはいけない。没収されたおもちゃも改めて使ってはいけないし、生徒会という立場なのでよりもっと生徒らしい姿でいるようにしなければならない事を今更になって再確認した草木達であった。
END
久しぶりに書いてみました。 早撃ちの描写は難しいですね。もっと勉強しなくてはいけないなと感じました。
読んで頂きありがとうございました!!
実際、エアガンやBB弾等を使う際は、それ用の装備をしっかりして、誰にも迷惑をかけない場所で行いましょう!




