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新/002/嵐の前の

ちょっと【Status】を直しました。

自分で見難いなあ、と思っていたので。

 ──轟く爆音が天地を揺るがす。

 教室の窓は今にも割れそうなくらい激しく振動し、足の裏から伝わる揺れは、ここにいる者達の不安定になった心ごと身体を揺さぶってくる。


 ──飛行機が墜落した。


 テレビなんかで良く取り上げられているが、実際に起こることは極めて希だ。

 それも今墜落してきた旅客機なんかは特に。


 間違いなく400人以上が乗り合わせていただろうサイズ。それが駅前周辺に墜ちた。

 被害者は千に上るかもしれない。死者は半分以上だろう。


 不謹慎な事なのだろうが、学校に墜ちてこなくて幸いだ。

 さすがにあれが墜ちてきたらどうしようもないからな。


 不幸な事故──と断ずる事は、今の俺にはできない。

 理由は直前のスマホの異常。


 ──【NEW WORLD】


 ──【サマエル】


 異常で奇怪。

 その【サマエル】と名乗るキャラクターが言っていた。


 ──機械は全て使用不可能となる。


 今あそこでキノコ雲を上げている、飛行機。

 それが、奴の言った通りだとしたら…………ありえる。何故なら他にも異常が見られるからだ。


 電気が消えている。

 飛行機の墜落時に電線が切断された影響、という訳ではない。

 タイムラグが短かったのだが、墜落と消灯は、消灯の方が早かった。

 つまり飛行機の墜落と、電気が消えたのは関係ないという事だ。


 とはいえ未だに信用できている訳ではない。

 九割方ウイルスか何か。そう思っている。もしくは思いたいのかもしれない。


 他の奴等は唖然としていて、誰一人口を開かない。

 あまりに衝撃的な現実を前にして、頭が受け入れを拒否しているのだろう。無理もない。

 ナナも外を見たまま固まっている。


 とりあえず、西園寺に連絡を入れたい。

 しかしスマホは見ての通り、訳の分からない状態。

 一応【サマエル】の説明で、何となく把握しているつもりだが、今のところ弄る気は無い。


 俺は徐々に回復していく桐原達を一瞥してから左の胸ポケットを探る。

 中から武骨な二つ折りの携帯電話を取り出す。


 災害時用の衛生電話。

 万が一に備えて渡された物で、機能はシンプルだが頑丈だ。


 開く。

 ………ついてない?

 電源は入れていたはず。

 とにかくパワーボタンを長押しして、電源を入れてみる。が、なんにも反応が無い。電池カバーを外してみても異常無く電池は入っている。

 持ち物はしっかり前日の夜と当日の朝に確認している。精密機器の手入れだって怠っていない。

 使えない理由の心当たりは………やはり【サマエル】の説明しかない。


 俺の中で可能性が急激に高まる。

 いや、本能的に、無意識的には何となく分かっている。

 ただし理性の方が、あり得ないと首を降る。


「……夜月」


 ナナが俺を不安そうな目で見つめてくる。

 どうもナナも本能的に理解しているのかもしれない。この事態を。

 俺は少々回復してざわめき出している桐原を押し退け、ナナの前に立つ。


「……こっちに」


 窓際に居るのは避けよう。

 少しでも離れた方が精神的に気休め程度でも楽になるだろう。

 飛行機の墜落が与えた精神的ショックは、それなりにメンタルの強いナナでも相当に強い衝撃だったはず。

 窓側に集まりざわめくクラスの中、ナナと俺は廊下側の他人の席に腰を下ろす。


 ポケットから自分では一切食べないミルク味の飴玉を取りだし、ナナに渡す。

 ナナは俺から飴を受け取ると、ビニールを破って口に放り込んだ。

 カウンセラーでも無い俺が出来る精神的ショックの緩和法と言ったらこれくらい。


「……ありがとう」


「仕事だ」


 ナナが口の中で飴を転がしている最中に、方針を固めておこう。

 とにかく原因──はどうでもいい。

 西園寺に連絡を取りたい。欲を言えば、義兄弟達にも。


 連絡手段として考えられるのは、職員室や用務員室にあるだろう固定電話。

 それか昇降口にある今はほとんど使われない公衆電話。

 …………使えそうに無いな。

 もちろん使って見なくては分からないが……無理だろう。


 実のところすでに気づいている。

 教室の時計。今腰を下ろした机に入っている電子辞書。

 どれも電池で動いているはずなのに、全く作動していない。


 この時点で【サマエル】の注意事項の一つ、機械の使用不可能が、濃厚というか確定してきている。全く問題なく動いていた時計と、携帯電話が時を同じく動かなくなるなど、それしか理由が思い付かない。


 という事は、本当の本当に【NEW WORLD】とか言うふざけた世界になったと?

 …………まだ偶然に一致した作動不良の方が確率の方が高い、と思う。


 いや、最悪を想定しておいた方がいい。


 学校はまだ良い。

 だが外はかなりのパニックだろう。

 墜落を除いても、機械の停止という事は現代社会の崩壊という事だ。都市部に関わらず、混乱は凄まじく酷いはず。


 この状況で外に出るのは危険。

 かといってこのまま学校に居続けるのも、微妙。いや、長期的に見れば駄目だろうな。


 学校に居るのは精神的に未成熟な子供。

 機械の使用不可能の現状と、外部との寸断、これらを含めた異常に異常。

 ストレスは直ぐに溜まっていき、教職員では解消できない不和を生む事だろう。


 それに食料や水の問題もある。

 すぐに解決できる事なら何も問題ないだろうが、こんな異常をすぐに解決できるとは思えない。


 災害時の避難場所にもなる学校には、非常食と水が大量に保管されている。

 しかし有限だ。

 機械が駄目なら水道も駄目だろう。

 外からの補給を期待するのは酷。

 保てても一週間。


 帰宅できそうな状況ではないし、現代っ子が耐えられる訳ない。

 どうするかな。と、消えてしまった蛍光灯をぼんやり眺めながら考えていると、ナナが隣でスマホを操作していた。


「夜月、お前も見ておいた方がいいぞ」


「あ?」


「お前も分かっているだろう?この状況が異常過ぎると。少しでも関わりがありそうなら、見てみる価値がある。今は情報の取得が第一だ」


 おお。さすがだ。

 その事を考え付く思考もそうだが、この状況でしっかり思考を働かせる胆力は、見事の一言。現に他の奴等は騒ぐだけで、状況の把握に勤めようとしていない。桐原ですらただ外を眺めたり、取り巻きなどを落ち着かせるだけだ。


 ナナの指示通り、俺もスマホを右の内ポケットから取り出す。

 相変わらずの見慣れない画面。

【NEW WORLD】という3D文字が緩やかに動いて、その回りに丸いアイコンが浮かんでいる。


「【Status】だ夜月。かなりヤバイぞ、これ」


 ヤバイ?

 自身の能力が数値化したとか言っていたな。

 確かにこれが本当なら、ウイルスである線は消えるだろう。

 各人の能力値が統一されているならば、ウイルスの可能性も否定出来ないだろう。が、しかし、各個人の現時点での能力を本当に数値化しているとしたら、それはもうウイルスとは言えない。


「……見ろ」


 苦々しげな声で、ナナが自分の白いスマホを俺に見せる。

 ──一応、予想事態はしていたものの、画面に表示されていた内容は、俺の想像を上回った。


《name:西園寺七海/人間

level:1

exp:0

title:


energy:[LP・10][MP・50][SP・10]

physical:[STR・7][VIT・5][AGI・11][DEX・20]

magic:[M-STR・28][M-PUR・35][M-RES・20][M-CON・27]


skill:[格闘・Ⅲ][杖・Ⅲ][罠察知・Ⅱ][料理・Ⅴ][裁縫・Ⅴ][栽培・Ⅳ]


tolerance:[苦痛・Ⅳ][催眠・Ⅱ]


ability:【幸運】【幼き美貌】


party:

guild:》


 ──マジかよ………。

 淡い希望の一つが、またしても砕かれた。


 内容はかなり正確に数値化されている。

 ナナのスペックを知り尽くしている俺が数値化しても、きっとほとんど同じだろう。


 小学校高学年でも通る身体から分かる通り、ナナの肉体スペックは低い。ただ決して運動神経等が悪い訳ではないので、DEX値が高い。


 集中力は、俺の教育の賜物で、かなり高い。

 思考力については、学年どころか全国模試で十位以内常連なので高い。

 精神力についても先程の胆力から見ても、高い数値を示すだろう。

 想像力は……まあ、本とかゲームとか好きだからな、こいつ。

 magic値はまあまあ妥当なのではないだろうか?


 skillに関しては、護身の為に教えた格闘術と杖術がⅢとなっている。実践で使えないにしても、チンピラの撃退程度なら十分なので、まあ妥当。

 料理等の女子スキルは、こいつの趣味みたいなものだが、何でもそつなくこなすナナは、大衆食堂なら働けるレベルだ。Ⅴのこれも妥当。

 ちなみに罠察知は、滞在するホテルとかに仕込まれている、かもしれない機器を発見するために、俺が訓練していた時に一緒に教わっていた。簡単な事だけだが。


 abilityに関しては、なんとなくだが分かる。

【幼き美貌】については、ナナの外見だろう。

【幸運】は分かる。こいつは本当に運が良い。

 昔、海外の大富豪が自分の子供の誕生日パーティーで、子供向けカジノをやった。それに招待されたナナは、主催者が「勘弁してください」と泣き言を言うほど勝ちまくった事がある。……あれ以来、あの家は無難なパーティーしかやらなくなったなあ。


 とまあ、かなり正確な能力の数値化と言えるだろう。

 これでもう、ウイルスである可能性は限りなく低くなった。0だと言い切らないのは、やはり理性がそう言っているからである。


「ナナ。俺以外に見せるなよ」


「分かっているとも。君だから見せたんだ。君だからな」


 ……信頼は嬉しいが、現在の未知な状況ではその信頼に答えられないかもしれない。

【サマエル】が言った他の注意事項が起こってきたら、俺の対処能力では護衛に不安がある。

 もちろん最善は尽くすがな。


「君のも見せたまえ」


「ああ──」


「七海、君もこのウイルスが気になったんだね。実は俺達もなんだ」


【Status】のアイコンをタッチしようとする俺の手が止まる。

 桐原が近藤他取り巻き達を引き連れて、こっちにやって来た。

 いや、取り巻き増えてない?

 不安な心を桐原に支えて貰おうと、うちのクラスメイト達が依ってきたのだろう。


「……まあな」


「そうか、じゃあ皆で確かめよう!もしかしたら、電話とか復旧するかもしれないし」


 おいおい、止めてくれ。

 今お前達の相手をしたくないんだ。


「じゃあまず、皆で【Status】を確認しようか!」


 他の皆も乗り気だ。

 しかしナナの情報を開示する訳にはいかない。俺のもだけど。

 だが、こいつらの【Status】は気になる。判断基準のサンプルは多い方がいい。


 とはいえこいつらの情報だけ見ておいて、こっちは開示しません、では反感を買うだろう。

 現状、こいつらと共に行動する気は無いが、状況があまりにも不確定だ。不和を招くのは避けた方が良いだろう。


「桐原様。【Status】を見たところ、個人情報が記載されております。状況は存じておりますが、我々の情報は開示できませんのでご容赦ください」


 先に言っておく。

 これで俺達に見せなくても、まあ良し。特に実害がある訳ではない。

 これでも俺達に見せるようなら、お得。って感じだ。


「うーん、そうか。なら見せたく無い人は見せなくていいよ!」


 と言いながらも、桐原は隠す気は無いようで、スマホを操作してナナの前に出す。一応他にも見れるように配慮しているが、ナナの前に出すあたり、本当にナナの事が好きなんだな。きっと空気を読むスキルを手に入れたら、ナナも振り向くさ。


《name:桐原光/人間


level:1

exp:0

title:


energy:[LP・30][MP・30][SP・30]

physical:[STR・18][VIT・17][AGI・20][DEX・20]

magic:[M-STR・26][M-PUR・20][M-RES・18][M-CON・16]


skill:[剣・Ⅴ][格闘・Ⅳ][気配察知・Ⅰ]


tolerance:[苦痛・Ⅱ]


ability:【威光】


party:

guild:》


 おお。さすがのハイスペック。

 桐原は全体的に平均を越えた能力値を持っていた。skillに関しても剣術がⅤになっているあたり、さすがだ。


 頭脳面ではナナに劣るも、学年ではトップクラスだし、総合的な身体能力は校内トップだ。剣道でも一年で全国大会に進んだくらいの実力を持ち合わせている。妥当な能力だ。

 周りも凄いと騒いで、誉めちぎっている。取り巻きとかウザい。


 ……それにしても、近藤。うんうんと頷いているところ悪いが、護衛なら主人の情報漏洩を止めろよ。

 まあ、聞くところによると、俺と違って正式に雇われている訳では無いらしいからしょうがないだろう。家が桐原に使えているため、将来を見据えて学内限定でボディーガードをしているらしい。

 そして当の近藤は、桐原の後に続くようにナナと桐原に見えるように、スマホを出す。


《name:近藤匠/人間

level:1

exp:0

title:


energy:[LP・40][MP・20][SP・40]

physical:[STR・20][VIT・21][AGI・14][DEX・13]

magic:[M-STR・18][M-PUR・14][M-RES・15][M-CON・13]


skill:[格闘・Ⅴ][気配察知・Ⅰ][料理・Ⅲ]


tolerance:[苦痛・Ⅱ]


ability:【頑丈】


party:

guild:》


 本当に正確だ。

 ここまで来ると、気味の悪さよりも、称賛を送りたい。


 全員がスマホを出しあって、騒いでいる。

 すでに先程の飛行機の墜落が過去になるほど空気が弛緩している。

 緊張して過度にストレスを溜めるのは良くないが、ここまで行くとまた起こる可能性がある異常への対処ができないだろう。

 そうなれば混乱は避けられまい。


 窓の外では幾つもの煙が立ち上がっている。

 飛行機の墜落の余波にしては広範囲過ぎる。

 機械がストップして事故が多発しているのだろう。

 現に死の気配は、もはや探るまでもなく俺の身体に伝わって来ているのだから。


 事態はこの弛緩した空気とは真逆に加速している。

 目を逸らしたいのも分かるが、これ以上は危険だという事を認識するべきだ。

 もっとも、俺はナナさえ無事ならそれでいいので、指摘する気は更々無い。


「夜月、夜月」


「あ?」


 そのナナが俺の裾を引っ張り小声で呼んでいる。


「どうした?」


「お前のも見せろ」


「ああ」


 そう言えばすっかり忘れてポケットにしまってしまったんだった。

 辺りを確認。

 桐原達はスマホの確認をしていて、近くにいるがこちらを見ていない。

 出すなら今か。


 俺はもう一度、右の内ポケットからスマホを取り出す。

 そして見慣れない画面の右上に浮かぶ【Status】のアイコンをタッチする。


《name:神崎夜月/人間

level:1

exp:0

title:


energy:[LP・120][MP・40][SP・120]

physical:[STR・51][VIT・60][AGI・63][DEX・66]

magic:[M-STR・62][M-PUR・56][M-RES・99][M-CON・51]


skill:[格闘・Ⅸ][短刀・Ⅸ][暗器・Ⅷ][投擲・Ⅷ][杖・Ⅵ][拳銃・Ⅶ][狙撃銃・Ⅴ][気功・Ⅷ][軽業・Ⅸ][気配察知・Ⅷ][気配遮断・Ⅷ][罠察知・Ⅶ][調合・Ⅴ]


tolerance:[苦痛・Ⅹ][恐怖・Ⅸ][混乱・Ⅸ][支配・Ⅸ][魅了・Ⅷ][毒・Ⅴ][病気・Ⅴ][雷・Ⅲ][炎・Ⅰ]


ability:【思考加速】【冷徹】【超回復】【超抗体】【武の力】【頑強】【柔の力】【剛の力】【羽の力】【潜む者】【不眠症】【拒食症】


party:

guild:》


「「………………………………………」」


 ……………まあ、妥当だよね。


「………君は、本当に規格外だな」



 ◆◆◆



 ──俺は、楽観していた気は無い。

 少なくとも、そのつもり(・・・)だった。


 立て続けに起こった異常。

 それに対して俺は最大限に警戒しているつもり(・・・)だった。


 しかしそれは、所詮つもり。

 実際に理解している訳では無かった。

自分的には英語表記が格好いいと思っています。


書いていく内に、「あれ?夜月思考能力とか高くない?」と思ったので、少し修正。

学力は七海の方が高いのです。

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