表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/58

新/■■■/???

※:10月27日に038、039、040、041、042、043が改訂されております。

変更された話を見ていない方々は、話が分からない可能性がございます。お気をつけください。


※:女性に対する暴力的な表現があります。お気をつけください。

「糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞っ!糞おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!あのなまくら(・・・・)が!しくじりやがってええぇぇぇっ!!!!」


 無数のモニターがひしめくキングサイズのベットの上で、目の前の一番大きなメインモニターを見ていた男は、癇癪を起こしてベットを激しく殴りつける。


「はあはあはあはあはあはあはあはあはあ」


 低反発マットレスを通してベットのスプリングが揺れる。

 ベットの上に置いてあった開けたばかりのポテトチップの袋が跳ね、中をぶちまけた。


 それを一切気にせず、荒い呼吸を沈めるために、ポテトチップの反対側に置かれていた炭酸飲料を乱暴に掴みとった。


 固く閉められた蓋を苦労して開け、その勢いで滴がベットに落ちた。舌打ちを一回した後、口にくわえて勢い良くペットボトルを傾ける。

 ゴクゴクと厚い脂肪に包まれた顎下から喉が、激しく動く。


「ぷっはあああああああぁぁぁぁっ!!!」


 一気に三分の二ほど飲み干して、キャップを閉めずにベットの外に投げ捨てる。中身が床を盛大に濡らすが、男はそもそも意識していない。


「糞がっ……」


 ぶちまけられたポテチを十枚ほど鷲掴みにして、大きな口に全て突っ込む。漏れたカスが脂でテカテカの肌に付着し、それを袖で乱暴に拭う。


 久しぶり(・・・・)に味わう好物の味は懐かしく、自作していた不格好なモノとは比べ物にならない。

 男は何度も口に運び、大して噛まずに飲み込む。そうして一袋を空にした後、また新しい炭酸飲料に手を伸ばし、先程の繰り返しの如くキャップを開けた。


「ふう」


 ようやく表面上は落ち着いた男は、メインモニターの画面を忌々しいと言わんばかりに睨み付ける。


 モニターに映っているのは、三対六枚の黒き翼を背に生やす背の高い男。

 顔面から血を流すイケメンの横で、心底面倒そうに黄金の剣を踏みつけて砕いている。


「ちっ!」


 大きく舌打ちをした後、歯軋りと共に染みのついた白いシーツを、油まみれの両手で強く握りしめる。


 モニターに映し出される怪物は、彼にとっては不快な者だった。

 別に何かされた訳じゃないし、関わりを持っていた訳でも無い。

 何が不快かというと、その存在そのものとしか言えない。


「………どこの厨二キャラだっつーの」


 最強で冷徹で、優しくも無いのに女に囲まれる。過去は暗く重く、更には人外の血をその身に宿し、それを覚醒させる。

 現実にいるなど信じられない男だ。


 新しいポテトチップの袋を開けつつ、鼻を鳴らす。


「ふん。そういう奴は二次元だからいいんだ。実際にいたら痛いだけだっつーの」


 開封したポテチをバリボリと貪り、毒を吐き続ける。


 彼の心にある不快感の源は、嫉妬。

 彼自身、自覚していないが、明確で強い嫉妬がその瞳には見てとれた。


 自分が手に入れられなかった全てを、当然のように携えている実例。嫉妬は積もり積もって既に憎しみとなっている。

 しかもそれが自分の【迷宮(にわ)】にいるのだ。それも手を出しずらい位置に。


「せめて杉並区(・・・)に入ってくれば………」


 この【迷宮】の支配者である彼でも、縛られるルールは当然ある。

 特に、rankD以下のareaに配置できるモノは限られている。今回送り込んだパラサイト・アイテムだって、かなりギリギリのラインだった。


 怪物はまだ完全覚醒では無いが、送り込んで奴を排除できる駒は少ない。そしてその少ない駒は、いざという時の為にとって置く必要があり、早々使ってはいられない。


「何か、何かねえのか!?」


 ガシガシと、フケの出る頭を掻きむしり、苛立たしげにポテトチップを貪る。


 彼は支配者なのだが、実は未だ【迷宮】を完全に掌握できていない。調子に乗って好き放題やってはいるものの、使いこなせている訳ではなかった。


「糞っ!あーもうムカつく!!」


 開けたばっかりのポテチを食べ終わり、カスが飛び散るのも気にせず袋を投げ捨てる。

 思考を巡らせるが、基本的に短絡的で深く考えない性格が災いし、イラつくだけで答えは出ない。


「おい!!お前、ちょっと来い!!」


 とにかく気分を直す為に、部屋の隅に震えていた少女を手招きする。


 白毛の犬耳と尻尾を持つ獣人。メイド喫茶で見かけるような、丈が短くフリルの多くついたメイド服を着用している。愛らしい外見の彼女には良く似合っているが、なぜだか無骨な黒い首輪をしており、それだけが服に似合わず浮いていた。


 その獣人の少女は怯えるように身体と瞳を震わせ、ゆっくりと恐る恐る男の方に振り返る。


「早く来い!!」


「は、はいっ!」


 震える身体を必死に動かし、キングサイズのベットにゆっくりと足をかける。チラリと主人を確認すると、凄まじく苛立っているのが良く分かり、目に涙を溜めながらベットに上る。これから待ち受けるのは、間違いなく彼女にとって最悪なことだろう。


「遅せえよ。早く、こっちだ」


 カスの付着した手をブンブン振って、横柄に言葉を投げる。

 彼女は一瞬ビクリと身体を動かして、心と身体をより震わせて男の元に這いよる。ベットは大きいものの、所詮端から男の元まで一メートル程度。すぐに辿り着いてしまった。


「よーし、よし」


「…………………………」


 下卑た視線を彼女の大きく盛り上がる双丘に向け、呼吸を荒くしながら手を伸ばす。が、男は何を思ったのか、寸前で手を止め、一度深く息を吐き出す。その息が獣人の鋭敏な嗅覚を刺激し、彼女は吐き気をもよおす。元々男の体臭が危険水準なので、吐息と合わさり彼女はLPが削られそうだった。


「よ、よしよし、お前は可愛いなあ……はあはあ」


「っ!!」


 食べカスや油でベトベトな手で彼女の髪を撫で、もう一方の手で頬を撫でる。更にそのまま彼女の背中に腕を回し、自分の方に抱き寄せた。


 彼女はブニブニベタベタする男の身体に悲鳴を上げそうになるも、上げればどうなるか分かっているので、目を瞑ってなんとか堪える。


 どうも良く分からないのだが、彼は「良いご主人様」であろうとしているらしい。

 だから下卑た欲望をその瞳に宿しながらも、表面上は取り繕って?彼女()に接している。


 それ自体は別に構わないし、むしろ好ましいかもしれない。奴隷(・・)である彼女には過ぎた待遇だ。衣服は高級で好きな物を買い与えられるし、食べ物は美味しい。こき使われることもないし、むしろ何もしない事の方が多い。


 これだけ聞けば奴隷である事実を忘れてしまいそうな程の待遇なのだが、当然彼女が震える理由がある。


 それは──


「おい、何で震えてんだ?」


「ひっ!あ、あの、そ、その!!」


 先程とは違う、冷たい声が抱き締められた状態でかけられる。

「しまった」と、彼女は男の琴線に触れてしまった事に、泣きながら後悔した。


「こ、これは──っ!!」


 言い訳しようとして弾き飛ばされる。彼女はベットの上に仰向けに倒れた。マットのおかげで全く痛くは無いが、これから起きるだろう事で彼女の顔は恐怖に染まりゆく。


 男が彼女の身体にのし掛かり、血走った眼で彼女の顔を睨み付ける。

 手首に体重をかけるように押さえつけて、男は表情を消した自分の顔を、彼女の顔に近づける。


「なんだよ……………なんなんだよ………なんでなんだよ!どうして怯えるんだよ!!!優しくしてやってんだろ!!撫でてやってんだろ!!気持ち良いだろ!!」


「うっ!!」


 荒れ狂う感情と共に唾の散弾が彼女の顔を襲う。涙で濡れる顔を横に逸らすも、大して意味は無い。


 男は確かに優しくしている。だがしかし、それは彼女達の為ではなく、自分の為だ。どうもこの男は、女性から愛されたいらしい。好きになってもらいたいらしい。その為に精一杯優しくする。間違っていないように思えるが、その優しさは常に一方通行の無理強いで、ストーカーが抱くような自分勝手な優しさに等しいモノだった。現に今のように、自分の優しさが受け入れられないと、こうして癇癪を起こして彼女達に暴力を振るう。怯えるな、という方が難しい。


「よ、よし、そ、そうだ、お仕置きだ、お仕置き」


「や、やめっ!!」


「お前が、お前が悪いんだ!!」


 乱暴に彼女の大きな乳房を鷲掴みにして、ベロベロと彼女の頬を嘗め回す。

 痛くて不快な感触。彼女はただただ受け入れるしかない。首につけられた首輪(のろい)のせいで、彼女は逆らえないのだ。


 ビリビリとメイド服を破り捨て、露になった柔らかな肢体にむしゃぶりつく。

 もう彼女は泣くしかない。


「……おいおいおいおいおいおいおい!なんで泣いてんだよ!ふざけんなよ!」


「ひぐっ、うぐ……」


 男は酷く気にくわなかった。常に優しく接して、セックスだって優しくしているというのに、何故か何時も泣かれる。理不尽としか思えない。この容姿がそんなに悪いのか?と彼は憤る。

 そして自分の優しさを踏みにじる彼女に、一度思い知らせなくてはならないと、彼女の乳房を握る手に力がこもった──その時、


『だからヤるぞ』


『せめて雰囲気くらい作ってください』


『図々しいぞ』


『客観視すると180度程変わる意見ですね』


『お前が『早く終わらせたら身体を差し上げます』と言ったんだろ』


 ──という会話が、メインモニターから聞こえて来た。


 男がゆっくりとモニターを向き、血走った眼と荒い呼吸のまま、映し出されている死屍累々の映像を睨む。


 二人の会話には感情というモノが足りておらず、抑揚に乏しく周囲の状況と合間って、不気味にすら感じる。


 内容的には一方的で、翼の生えていた(・・・・・)男が自分の性的欲求を解消する為に、目の前の獣人少女にすら劣らない美少女に身体を求めている。当然彼等は恋人同士等の関係には見えない。それどころか、友人とも思えない。そんな関係だと言うのに、男は一方的に、上から目線で、全く好意の色を見せず、彼女に性交を要求していた。


「……………バカか。俺みたいに紳士的で優しくしなきゃ、女は──」


 どういう訳か完全に上から目線でモニターに映る男を批判する。フラれる様を想像して、ニヤニヤしていたのだが、モニターに映るブカブカのワイシャツを着た美少女の顔を見て、硬直した。


「何故……だ!?」


 美少女はそっぽを向いて不満そうに唇を尖らせてはいるも、満更ではなさそうに頬を赤くしていた。


「ちぃっ!この糞ビッチが!!!」


 唾を吐き散らし、脇にあった菓子袋を払い飛ばす。

 自分は優しくしても怯えられるというのに、向こうは一方的な態度をとっても受け入れられる。

 理不尽だと、彼は怒りと嫉妬に身を焦がす。


「…………おい」


 その怒りと嫉妬を内心に押し込め、ひきつる顔に底冷えするほど恐ろしい瞳を浮かべて、泣き続ける彼女を不気味に見つめる。


「は、はい……」


 ガチガチと鳴らす歯で舌を噛まないようにしながら、必死に返事を返す。ここで返さなくては、もっと酷い目に会うからだ。


「なあ、あいつみたいな女の敵、許せないよなあ?」


「は、はい」


 聞いてないし見ていないが、肯定するしかなかった。


「どうしたらいいと思う?」


「え!?」


 そもそも彼女にはモニターに写し出される光景が、何処で、どんなモノなのか、全く理解していない。いや、そもそもこの無数に映るモニター自体、理解していない。


「有益な案が出たら、後で良い物をやろう」


「っ!」


 正直に言えばいらない。今すぐ解放して貰うこと以外、彼女に望みはなかった。

 だがここで断ったり、分からないと言えば、どうなるか想像するに難くない。


 あまり良くない頭を巡らせて、必死に考える。

 許せないと言っている以上、こらしめたい、というかこの男の性格上、殺したいのだろう。


 それならば殺せばいい。が、殺せない。

 彼女はこの男がどんな力や権力を持っているか知らないが、凄い力と権力を持っていると思っている。その男が殺せない相手。そんな奴を殺す方法など、残念ながら彼女の頭には思い浮かばない。


 それでも答えなくてはならなと、彼女が導きだしたのは自分の経験。父と共に野山で狩りを行った時の経験。


「あ、あの、そ、そその………」


「なんだ?ハッキリ言え」


「は、はいぃ!あ、あの、か、狩りを、する、時は、わ、お、追い込んで、罠、にかける──」


「──そうか!!!」


 彼女の必死の言葉に何かを思い付いたのか、男は彼女の上から太い身体を持ち上げ、ポンと手を打った。


「罠だよ罠!なにも直接やる必要ないんだよ!!」


 ハハハと笑いながら、忘れていた自らの手札を思い出す。


【迷宮】内には罠を設置することが可能で、それを使えば良い。

 そう男は思ったが、やはり誓約がまったをかけた。


「ああ、でも致死性の罠は、やっぱrankFだとキツいなぁ……落とし穴、ネバネバ、槍とか矢とかモンスタートラップとかで、アレが死ぬとは思えないし………」


 確実に死に到らしめられるだろうタイプの罠は、低rankのareaに配置するのが難しい。できなくはないが、相応のリスクが生じる。今の段階では避けたい出費になるだろう。

 だがそれ以外の罠だと、見抜かれる恐れがある。残念ながら殺せる確率は低い。むしろ、トラップを仕掛ければ仕掛けるほど、こちらが消耗する可能性が高い。

 これまでのデータと、この男の【Status】から、その事実は認めざる得なかった。


「…………行動を阻害してモンスターで……いや、そもそも低位だと引っ掛かる可能性が………じゃあ、なにを……」


 再び苛立ちが募っていく。その様子を見ていた獣人の少女は、再び来るだろう爆発に、目を強く瞑る。


「くっそぉぉぉ──っ?」


 フケを撒き散らしながら頭を掻きむしる男が、チラリと目に入った別のモニターに視線が止まる。


 映し出されているのは、美しい少女だ。それも、目の前にいる獣人の少女や、先程の眠そうな顔の少女すら見劣りする、神秘の美貌を持つ少女。苛立つ心が一瞬にして浄化していくような感覚を覚える。そんな侵しがたい神秘性を見せつけていた。


「………そうか」


 しばし魅入っていると、とある事を思い付いた。


「別に殺さなくても、この子から引き離せば…………」


 それはきっと、この黒い男にとって死よりも耐え難い苦痛である筈。今まで見てきた情報から、それは間違いない。


「ひひっ」


 嫉妬に燃える瞳が揺れて、粘つく笑みを盛大に浮かべる。


 支配者たる威厳は皆無で、ただただ、自らの欲と快楽のみを求める男。しかも厄介なことに、その欲望と快楽を手に入れることができる力を持ってしまった男。


 その魔の手が──


Q:『【サマエル】さんて、どんな人ですか?』


シャーネ:「変な奴だな。そもそもまともにあった事はない。妾があったのは、奴が操る自動人形だったな」


Q:『【サマエル】さんて、強いんですか?』


シャーネ:「弱い。夜月だって勝てるし、多分、あの小娘だって勝てる。ただ【迷宮】の支配者になったのだから、何か特別な力を得ているかもしれんな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ