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新/036/覚悟の瞳

新キャラ?

 つい十分前に太陽が東の空から顔を出した、三度目の朝。

 図書館の休憩所には四本の蝋燭が置かれ、その回りを俺とナナと雛が囲っている。


 オーク達のばか騒ぎが中々終わらなかったが、ナナも雛も疲労からかなんとか眠れた様だ。雛も俺も一晩で大体回復した。


 現在、吉野の依頼を前に宝箱と昨日のドロップアイテムの確認をする事になった。


「んじゃ、宝箱を開けよう。すぐにオーク退治に出掛けなきゃならんから、あんまりぐずぐずしてられないけど」


「は~い!」


「二日連続で宝とか……凄いな」


 確かにな。

 二日連続の激闘に思わず遠い目をしてしまう。


 今回の宝箱は【巨豚将軍の宝箱】と【獣人の宝箱】それから【不思議な宝箱・下】×3の計五つ。


 それからイベントのドロップアイテムが以下、


 ソルジャー個体の武具防具・7(要らない)


 メイジ個体の杖とローブ・2(要らない)


 アーチャー個体が弓・4(要らない)


 クレリックが神官の杖(要らない?)


 ジェネラルが【兎跳びの靴(ラビット・ブーツ)】(雛行き)とイベント報酬の【巨豚将軍の大剣】(要らない)


 そして最後に獣人が魔法のこもった赤い桜柄の着流し【力の着流し】(雛へ)


 という感じで、明確に要らない物と要る物が分かれた。


 雛に早速に【力の着流し】と【兎跳びの靴】を装備させる。

【力の着流し】はSTRが5上昇し、DEFが35と中々優れた物で、【兎跳びの靴】はAGIが10上昇し、更にMP20を消費すると[加速]を発動させる事が出来る。


「先輩の前で着替えるとは、興奮するッ──ぶぉ!!」


「早く着替えろ」


 お前の裸で興奮するほど盛ってない。

 俺は着流しを持ってクネクネする雛に蹴りを入れて、しまっていた宝箱を取り出す。


「さて、さっさと開けていこう」


「うん」


「あ、ちょ、ちょっと待って!!」


 慣れた手つきでスマホを操作し装備する雛を無視し、まずは【巨豚将軍の宝箱】から開けていく。


 昨日は最初なので慎重に開けたが、今日は最低限の警戒だけしてさっさと開ける。

 緑色の光が薄暗い室内に充満し、目を細めつつ形が変わっていく宝箱を見つめ続ける。

 そして──ガシャンという金属音と共に、テーブルの上にアイテムが落ちた。


「……鎧?」


「鎧だな」


「鎧ですねえ」


 宝箱から出てきたのはどう考えても宝箱より大きい鎧。緑色のフルプレートである事から、ジェネラルが装備していた物と同じだと解る。ただし新品同様だけと。


「要らないな」


 俺の呟きに二人が頷く。

 俺はシャーネからもらった高級品で身を覆っているし、ナナは言うまでも無い。雛はフルプレートという鎧に、動き難くそうだと拒否反応を示している。


 誰も着ないので売ろうかと言ったら、巨猪の毛皮同様に取っておけと言われたので、貴重なstorageの空きを埋める事となった。


 続いて【獣人の宝箱】

 赤を基調とし桜の装飾が施された宝箱を空ける。

 桜色の光が部屋を照らし、アイテムが出現する。


「なんだこれ?【戦技指南書・気功ノ参】?」


 出てきたのは魔法書と似た本だった。

 指南書と書かれているから、多分技を覚える物なのだろうが、戦技って何?


 分からないので【Dictionary】を起動する。


 《【戦技指南書・気功ノ参】/fight-book

 制限:[気功・Ⅲ以上]

 特殊:[【抵抗強化】取得]

 rank:[C+]》


 魔法書みたいな物なのだろうか?

 とりあえずこれも雛行きだな。

 そもそも俺がこの宝箱を開けたけど、これは元々雛とナナが勝ち取った物だし。


「うーん。ちょっと意味不明ッスけど、後で使ってみるッス」


 着流しを綺麗に着終わった雛は、手に取った本を色々な角度から眺めそう言った。


 さて続いて【不思議な宝箱・下】だが──


「おい、お前ら自分のなんだから自分で開けろよ」


 ──俺と雛は無言でナナの前に置いた。お前の【幸運】で開けたほうが有益だろう?

 ちなみに【上】より二回り小さい白い立方体だ。


「はあ」


 ナナは呆れながらもまずは自分の箱を開けていく。

 七色の不思議な光は、心なしか【上】よりおとなしかった。


 コン、と軽い音を立てて出現したアイテムは随分小さい。

 指輪だ。紫色の宝石が嵌まったシンプルな作りの指輪。

【Dictionary】で確認してみる。


 《【強魔の指輪】/accessory

 制限:[無し]

 性能:[M-STR+10]

 特殊:[サイズ自動調整]

 rank:[C+]》


 流石にこの前の様なrankAは出なかったが、それでも十分に有用なアイテムが出現した。

 当然ナナ行きだな。


 ナナは少しため息を吐きつつも、続けて俺の箱を開ける。

 再び七色の光。三度目だと大して感想は無い。


 光が収まりテーブルの上に出現したアイテムは、小瓶に入った青い液体だった。【下位吸血鬼の血】の時の瓶より一回り大きく、シンプルだが装飾も施されたガラス瓶だ。中の青い液体は透明感があり美しい。

 スマホでパシャリと鑑定する。


 《【高位回復薬(ハイ・ポーション)】/drug

 制限:[VIT・20以上]

 性能:[LPを600回復(全て服用時)]

 特殊:[品質保存]

 rank:[C+]》


 おお!!

 望んでいた回復薬が出た。しかも【高位回復薬(ハイ・ポーション)

 しかし、VIT・20以上だからナナは飲めないな。今度のlevel-UPで上げさせるか。


「夜月、飲むか?」


「いやとっておく。つーか600も回復する必要無いし」


 流石に600もLPは無い。


「いや、全部飲まなくても、少し飲めばいいんじゃないか?600回復するのは全ての服用時だろう?」


「なるほど」


 この一瓶で600回復するという事か。

 少しだけでも今のLPの関係上、十分に回復する。

 体の修復は七割方終わったが、万が一にもまた将軍クラスに遭遇したら、今の状態では厳しい。それに必要ないとは思うが、一応毒味も兼ねて飲むのも悪くない。


「分かった。一口飲んでみる」


 コルクでできた瓶の蓋を開ける。

 中からはミントの様な清涼感のある香りが鼻に伝わってきた。


 口をつけずに少しづつ口内に垂らしていく。

 とろみのある液体が舌を刺激し、苦味と清涼感のあるスーとした感覚が口や喉から伝わってきた。


 すると──


「あ!?」


 ──身体の内部から傷口である背中にかけて、熱をおびたかの様な痛みが広がってきた。

 tolerance:[苦痛・Ⅹ]のある俺は顔にこそださないが、それなりに痛い。ナナだと発狂するかも。VIT・20以上の意味がわかった気がする。


「どうした!?」


「先輩?」


 急に眉を寄せた俺を訝しげに思った二人が、心配そうにこちらに乗り出してきた。


「痛い、これ。身体の内部に熱湯を注がれた気分」


「「え!!」」


 しかし毒では無い。

 その証拠にみるみる内に背中の傷が塞がっていく。今は修復されたハーフコートが邪魔をして見れないが、多分逆再生の様な感じになっているはず。


 メイン画面に表示される様に設定したLPを確認すると、しっかり回復している事がわかる。

 流石に少量だったので全快とはいかなくとも、九割回復した。


「大丈夫だ。むしろ傷はほぼ全快したよ」


「そ、そうか」


「つーか、一気に使いたく無くなったッスね」


 それについては同感。俺は痛みを我慢出来るだけで、別に感じない訳じゃ無いからな。流石にホイホイ使いたくない。


「さて次だ」


 最後に雛の【不思議な宝箱・下】をナナが開ける。

 七色の光は、もはや鬱陶しい。


「また指輪だな」


 テーブルに落ちたのはまたしても指輪。青色の宝石が嵌まった指輪だ。

 お馴染み【Dictionary】の出番です。


 《【速度の指輪】/accessory

 制限:[無し]

 性能:[AGI+10]

 特殊:[サイズ自動調整]

 rank:[C+]》


 ほう、またしても有益な物が出るな。

 やはりナナに開けてもらって正解だったな。とはいっても、俺や雛は開けた事無いから比べようが無いけど。


 ちなみにこの指輪は雛行きだ。

 俺はシャーネの装備で十分だし、ナナは走る様な戦いはしない。だから雛行き。

 頑張ったからなのだろうか?雛の物が多かった。



 ◆◆◆




「お前達が荷物持ちか?」


 ようやく視界がまともに効く様になった早朝。

 ナナと雛がアイテムの装備をして、魔法書と指南書を使って新たな力を取得し終わり、図書館の前に出てきた。


 俺達が出てきたのと同時に、吉野達もタイミング良く図書館についた。

 しかし──多いな。


「ああ、おはよう」


「おはようございます」


「…………ふん」


 そして来たのが三人。

 吉野は当然として、他の二人は意外な面々だ。


 まず梅宮。不機嫌そうに顔を背け、時折七海を睨む様は相変わらず嫉妬に溢れている。

 昨日あれだけの事があったのに出てくるとは。吉野が気を効かせて回復魔法を使える梅宮を連れて来たのだろうか?


 そして最も意外な少女、進藤メメ。

 

 眠たげな眼とセミロングの髪が特徴的な生徒会庶務の美少女。俺は生徒全員を把握している訳じゃ無いが、護衛の関係上名家出身者や雛の様な実力者は頭に入れている。梅宮は主に前者(名家)故に知っているが、進藤は後者。背中に弓を背負っている通り、弓術を得意とする実力者として記憶している。


 名門でこそ無いが弓術を古くから伝える道場の跡継ぎらしく、歩く姿から随分と洗練されている。雛に匹敵するだろう実力者だ。


 しかし、俺はこいつを戦力(たて)として考えていなかったし、今でも変わらない。


 使えるだろう事は十分に分かる。が、そもそも進藤メメ(こいつ)は俺を酷く恐れている。


 雛の様な異常な反応(こうい)では無く、当然の反応(きょうふ)として俺を自ら避けている。いや、正確では無いな。最初にあった時に殺気を向けて、こいつの事を殺しかけ、遠ざける様にしたのだ。こうして俺の前に出てきた事が実は心底意外だった。


 他にも戦力(たて)に考慮しなかった理由がある。


 まず、俺の見立てではこいつは雛より少し弱い。それに雛みたいに、実戦経験も無いので、実戦経験を高く評価する西園寺流評価基準では低いのだ。


 そして一番の理由だが、ぶっちゃけ良く知らない。

 データは知っていても人となりは全く知らない。

 そんな奴は信用できない。だから迎え入れる気は無い。まあ、向こうも殺されかけた手前ごめんだろうけど。


「こんなに要らんぞ」


「保険だよ。お前達病み上がりだろう?俺達より頼れるとは言っても、万が一があるからな」


「まあ、そうだな」


 事実なので不快感は無い。

 回復魔法が使える奴がいるのもこちらとしては好都合だし。


「それにしても、桃園──というかお前達全員派手だな」


「言うな」


 雛は真っ赤な着流しを着ているから言わずとも目立つ。俺は真っ黒で所々に血の様な赤い刺繍が施される服で確かに目立つ。真夏なのに肌を露出しているところが頭以外ないしな。ナナはそもそも美貌故に凄く目立つのだが、その美しいナナが黒いマントと蒼色の宝玉が嵌まった白く大きい杖を持つ姿は、より一層目立つ。


 無視してたんだ。気にしない様に。


「まあ、そうッスね~。自分は気に入ってるんですけど」


 雛は別段気にしていない様で、楽しそうにその場でクルリと回る。着流しが随分お気に召したしようだ。緑と白の【兎跳びの靴(ラビット・ブーツ)】が微妙に浮いている様な気もするけど。


「こいつも保険か?」


 俺は進藤について吉野に聞いてみる。


「ああ、昨日までは体育館の守りを担当していてくれたんだけど、今日は梅宮の護衛として連れてきた。役に立つぞ」


 なるほど、実力があるのに桐原達のチームに入らなかったのは、拠点を守っていたのか。確かに狙撃の出来る進藤なら、防衛の方が良いかもな。


「分かった。戦っている最中はお前達に気を配る余裕は無いからな、進藤に頼ってくれ」


 まあ、余裕はあるんだけね。身体が回復したし。

 余裕はあっても助ける気は無いけど。



 ◆◆◆



「あー、進藤さんッスか……」


 校庭に向かう手前、俺の横を歩く雛が珍しく愚痴る。


「なんだ?」


 そういえばこいつは同じ学年だ。知らない訳も無いだろうに、一緒に行動しようと考えなかったのだろうか?


「自分、苦手なんスよね」


「ほう。良い情報だ。あいつを引き入れるメリットが出てきたな」


「ちょっとぉ!?」


 冗談だ。あいつは良く分かんないから引き入れる気は無い。


「なんで苦手なんだ」


 雛はチラリと後方についてくる進藤を確認した後、小声で話す。


「先輩も分かってる通り、彼女、武道家(・・・)じゃないッスか。だからね……」


「ああ」


 なるほど、理解した。


 俺と雛は武術を修めてはいるが、正確な意味で武道家では無い。もちろん、言えなくもないのだが、名乗ると本当の武道家に申し訳ない。


 俺は人を壊す技術として、雛は目標に向かう手段として、武術を修めただけだ。


 真面目に武道として弓術を修めた進藤メメとは相容れない。


「なんとなく最初に話した時に『あー、これ違う』って思ったんスよ」


「だからか」


「はい。まあ、一番は探している余裕が無かったんスけどね」


「俺の場合。酷く怯えられてるからな。知ってるか?あいつさっきから俺の三メートル以内に入って来ないんだぞ」


「あはは。それじゃあそもそも、自分とは全く相容れないッスね」



 ◆◆◆



「うげっ!風に乗って嫌な臭いが来るッス」


 風下をとって移動している関係上、どうしてもオーク達の精液と人間の血の臭いが運ばれて来る。

 夜月や雛やメメは鼻が良いので流石にキツかった。


 ばか騒ぎをしていたオーク達は、疲れたのか校庭で爆睡している。

 女を犯し男を食べていたのだろう、これから目前に広がる光景はきっと最悪なモノに違いない。

 入門書をゲットするためとはいえ、少し後悔し始めた。


「ここから俺が偵察に行ってくる」


「承知したッス!」


「うん。気を付けて」


「こっちは任せろ」


「いってらっしゃい」


「……………」


 後ろに着いてきている五人を見た後、夜月は気配を消しながら校舎の壁に沿って歩く。そして角から僅かに顔を覗かせ校庭を見た。


(…………最悪)


 夜月でも気持ち悪くなるくらいの光景がそこには広がっていた。

 二十四体ほどのオークが全裸で寝転び、異臭を放ちながらイビキをかいて雑魚寝している。

 腰布がとれたその股間には、グロテスクなモノが勃起していた。


(……………ナナに見せたらどういう反応するかな?)


 とはいえこういう事を一番に考えるあたり、夜月も相当最悪な性格をしているが。


 オーク達の位置と意識レベルを、しっかりと目と気配の両方で確認し、夜月は後ろの五人の所に戻る。


「全員警戒もせずに爆睡してるな。チャンスだが──」


「だが?」


「ナナ、少し覚悟を決めておけ」


「ん?」


 夜月は真剣な瞳を七海に向ける。

 七海もそれを感じとったのかゴクリと生唾を飲み込み緊張する。


 夜月が七海に忠告するのはこれから見る光景──では無く、これから起きるだろう出来事だ。


「人を殺す」


「「「「っ!!」」」」


 その淡々と紡がれた温度の無い声に、覚悟をしていた雛以外の四人が反応した。


「ど、どういう!?」


「お、おい神崎!?」


 流石に狼狽を禁じ得ない。

 人を殺す。ここまで幾度となく生物(オーク)の命を奪ってきた面々だが、同族を殺すという事には当然ながら拒否反応を強く示した。


「あそこには囚われた女達がボロボロの状態で多数いる。既に生きながら死んでる様な状態だ。あれじゃあ保護より殺してやった方が情けってもんだ」


 当然夜月に他人に対しての『情け』なんてほとんど無い。

 その気になれば女だろうと子供だろうと、情けも容赦も無く殺せるし、拷問だって行える。


 それでも本来ならば、七海に精神的な負担をかけない為に殺しは極力避ける。


 しかし今回は殺すと夜月は決めた。


 一つは七海に分からせる為。

 この状況では何れ他人を殺す事になる。法も倫理も失って久しい世界だ。今は良いがこれからは他人を殺す事も確実にあるだろう。


 夜月はその前に一度見せて起きたかった。

 人を殺すという事を。


 とはいえ最初からまともな人間を殺すのは、七海に相当な負担がかかる。

 こちらを襲って来る様な奴等を殺すのも、七海は抵抗があった。【幸運】という自身の力を呪いと捉える七海は、自分を襲った人間にすら同情してしまうのだ。現に先日襲って来た馬鹿共も、七海の精神を考慮して殺さなかった。もっとも、あの傷だとオークがあっち系でも無い限り、既に腹の中だろうが。


 だから夜月は『情け』という理由をつける。


「お、おい!神崎待て!まだ分からないだろう!?彼女達が回復する──」


「──回復する事があったとして、それは本当に良い事なのか?この新たな世界は一度絶望して心が壊れた奴には厳しすぎる」


「っ!!」


「それに医療の整った『前の世界』ならともかく、現状でまともなメンタルケアを行えるとは思えない」


「っ…………」


 夜月に『情け』という感情は無いが、その言葉は正論だった。

 それが理解する事の出来る吉野は、感情的に反対したくとも反論の言葉が出ず、顔をうつむかせる。


「…………分かった」


 七海は悲痛な表情のまま夜月の視線に答えた。

 弱々しいがその瞳には確かに光が映っている。


「良し。行くぞ」


「うん」


 夜月は七海の頭を優しく撫でてから、何時も通りの無表情に戻る。


「雛、お前は?」


「大丈夫ッスよ。自分、人を殺した事があるんで」


 どこか達観したように過去を思い出しながら語る雛には、何時もの様な太陽の笑みは無く、自嘲するかの様な笑みが張り付いていた。


「そうか。お前達はここにいろ。どうせ邪魔だ」


「………………分かった。でもせめて見届けさせてくれ、死に行く生徒達を。それからお前達の事も」


 吉野も七海と同じく覚悟を決めた。

 未だ感情的には整理がついていないのだろうが、見届けるという覚悟を決める程、彼は何処まで行っても教師だった。


「神崎先輩。一つ良いですか?」


「あ?」


 今まで黙っていた進藤が急に口を開いた。

 その顔は夜月にとっても意外なほど変化が無く、何時も通りの眠たげな表情を見せている。訝しげに思いつつも、顎で先を促す。


「多分、あの中に私の姉がいます」


「殺すなと?」


「いえ、姉は私が殺してあげたいと思うのです」


 その申し出には夜月を含め全員が驚いた。

 まさか自分から姉を殺すと言うとは、夜月にとっても意外感を禁じ得ない。


 夜月は真意を確かめる為にその眠たげな眼を見つめる。そして彼女も夜月の濁った瞳を見つめた。


 彼女の瞳を見て思い出したのは、訓練で連れていかれた海外の戦場。


 食べる物も薬も無く病床に犯された母を、自分達の生活の為に、それ以上に母をこれ苦しめない為に、親を殺す覚悟を決めた少年に、進藤メメの瞳の色は良く似ていた。


 あの時見た少年に夜月は心を動かされる事こそなかったが、今でもその涙と覚悟で溢れた瞳は良く覚えている。


 進藤メメは守りたいのだ。姉の人として心を。

 そしてこの【NEW WOLRD】でこれ以上苦しめる事無く、安らかに眠らせてあげたいのだ。


「いいだろう。好きにしろ」


「………ありがとうございます」


 最初からその覚悟で来たのかもしれない。

 相当に葛藤したに違いない。夜月は彼女の頬にうっすら描かれる涙の線に、彼女の心を見た気がした。


 進藤メメは夜月に向け微笑んだ。

 その微笑みは、何時泣いてもおかしく無いほどの悲痛さを含んでいた。



夜月>>大丸=弥吉>雛>メメ>七海>吉野>光=匠=鈴火>富川


魔法込みです。七海ちゃんはlevelが上がってるので先生より強いです。


雛ちゃんとメメちゃんは微妙ですが、levelとabilityで雛ちゃんが勝ちます。


今の夜月くんは一対一なら十分に大丸&弥吉を圧倒できます。


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