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旧/999/唐突な終わり

稚拙な部分が多々あるでしょうが、暖かく見守ってください。

 今日、何か変わった事があるとすれば、早朝訓練後の朝食で、割った卵が双子だったという事だろうか?

 まあ、珍しいがあり得なくはない。

 しかし確か、大地震の前兆とかでああいうような現象が起きたとかなんとかテレビでやっていたような気がする。


 だとしたら、だとしたら本当にあれは、前兆だったのかもしれない。

 今となっては知るよしもないし、知ったところで何か変わるわけでもないのだけれども……。


 ◆◆◆


 本日は良い天気。

 現在は昼休み。俺は冷房の効いた教室で、だらなしなく椅子にもたれ掛かり、気を抜いて空を適当に見上げていた。

 曇り空が、目に優しい。

 え?良い天気じゃ無いって?

 あのなあ、だって七月中旬都会だぜ?これで快晴だったら、温暖化様の興奮がフルに伝わるだろう?真夏の快晴はキツい。だからこれくらいの曇り空が、俺にとっては良い天気なのだ。


「おい夜月、そんな体勢でいたらスーツに変な皺がつくぞ」


 そうしてだらしなく気を抜いていると、前から小さな弁当箱を持った色々ちっこい──


「おい、殺すぞ」


 ──ラブリーキュートな美少女、西園寺七海がやって来た。

 初雪の如き白い肌に腰まである麗らかな黒の髪、くりくりの瞳と薄いピンクの唇、華奢な体躯で身体に凹凸は乏しいが、侵しがたい神秘的な美を纏う、絶世の美少女。それ系の人で無くとも、見とれてしまう事必至。それ系の人は現人神の如く拝める事必至。後ろのスペースで膝を付いている唐草君とか見たいに。

 その容姿に、ショートパンツとオーバーニーソがそのロリ度を高めている。絶対領域から覗く白い太ももは素晴らしいらしく、顔無し太腿写真だけで、唐草君に十万円で売れたほどだ。

 まあ、そんな奴が俺の心を読みながらこちらに歩いてきた。


「問題ない、と俺が決めた」


「………一応、(うち)のなんだが」


 学生の俺が何故、真夏にこんな暑苦しく堅苦しい服を着ているか?この学園が私服可──制服は一応ある──だから、という訳ではない。というか、私服でこんな服着てる奴などいない。

 理由は目の前のチビにある。

 俺はこいつの護衛、ボディーガードという奴だ。正確には西園寺家に使えている、七海専属護衛兼付き人って感じだな。


 こいつ、というか西園寺家そのものが明治時代から続く名門で、現在では巨大財閥を指揮する、日本の政財界の支配者の一角だ。漫画みたいだが、実際にそうなのだ。

 七海(こいつ)からはあまり威厳を感じないがな。唐草君(しんじゃ)達以外には。

 んで、その凄まじい家の護衛なのだから当然相応の格好が求められる。その結果がこのスーツだ。


 学生に護衛が勤まるのか?と聞かれれば、まあなんとかやっているとしか言えないな。

 どういう理由で?と言われれば、まあ家の事情かな?

 まあとにかく、俺はこいつの護衛をやっている。


「さあ夜月、ご飯の時間だ。お前も出したまえ」


「……ああ」


 七海は俺の前の席から椅子を拝借し、机に弁当箱を置いて座る。

 小学生サイズに高校生サイズの椅子は厳しいようで、足が床に届いておらず、机も高いため食べにくそうだ。

 本来ならば、従者であるはずの俺が何かしらするべきなのだろうが、こいつの滑稽さが内心笑えるので無表情で見て見ぬ振りをする。


「おいこら。お前今失礼な事を考えていただろう」


「お嬢様の可憐さを脳内に保存していただけですよ」


「貴様が敬語を使っている時点でおかしいだろうが」


 ふむ。ポーカーフェイスには自信があったのだが。

 後、俺も敬語ぐらい使う。重要な用事とかならだけど。


 手、というより「おてて」と表現した方がいいような小さな手で、弁当箱を開ける。

 中身の料理は意外と普通だ。庶民でも見慣れているだろう。使われている食材のほうは、富豪なら普通の物だ。

 これは七海自身が作ったお弁当なのだ。

 お嬢様の癖に料理とか出来ちゃうのだ。


 そんなナナを眺めた後、俺も鞄から食事を取り出す。

 俺の昼飯は、いつも通りの6枚切りの食パン(105円)と、ミネラルウォーター(98円)の超質素な食事だ。

 伝統ある名門校で、政財界の二世三世が通うようなこの学校では凄まじく浮いている。

 ぶっちゃけ、西園寺の従者なのだから、相応の物を食べるべきなのだろうが、目の前のこいつも、普通に自作の質素な弁当だ。まあ、一年以上二人ともこのスタイルだから、もはや誰も突っ込まないけど。


「相変わらず栄養の無い食事だ。ぼくのを食べるか?」


「いつも通り、遠慮」


「むう、自信作なんだがなあ」


 食べて感想を言ってほしいのだろうが、却下だ。食べる気は無い。

 食べる気は無いが、別にナナの料理が不味い訳ではない、むしろプロの料理人仕込みであるナナの腕は中々だ。

 ただ残念ながら、俺に食べる気は無い。理由は、まあ色々だ。


 特に何かを話す訳でもなく、俺達は黙々と食事を進める。

 味気無い食パンを、ミネラルウォーターで流し込む事五分。食べ終わる。ハッキリ言おう、不味い。だがこれで良い。下手に美味しい物を食べたところで………まあいいや。


 食べ終わった後、最新式西園寺カスタムのスマホを右の内ポケットから取り出し、少々めんどくさいセキュリティを解除して起動させる。

 そして【七海ちゃん日記】のアイコンをタッチ。

 ナナが現在、もぎゅもぎゅと食べている物を記載していく。


 ………ストーカーじゃねえよ?

 勘違いするな、これも立派な仕事だ。

 毎日の食事を記載する事で、体調管理に役立てる。一日のカロリー、塩分、糖分等の摂取量が決まっているなど、名家はめんどくさい。


 その後書き終わったので、窓枠に寄りかかり冷房の風を受ける。

 ほとんどがこの学校のベストスポットたる美味しい学食に行っているためか、教室はがらんとしていた。

 いても食事を取りながら予習復習に励む、優等生くらい。静かだ。


「静かだな~」とかいうフラグを立てたら、良く油の効いた重厚な木製のドアが急に開いた。

 思わず眉をひそめた俺を誰が責められよう。


「あ、七海!ここにいたか!」


 少女漫画のエフェクトを背景に、さわやかな笑みを携えたイケメン君が教室に入ってきた。後ろに何人かの女子と、一人の大柄な少年を引き連れて。

 静かな教室は脆く崩れ去った。


「……光」


 ナナも若干めんどくさそうだ。

 嫌いでは無いのだろうけども、苦手なのだ。ナナも俺も。


 桐原光。

 隣のクラスの生徒で、幼稚園から一緒というナナの幼馴染み。

 そして何より、ナナの許嫁でもある。漫画みたいだが、実際にあるのが名家なのだ。

 常にアルプスの高原の様な爽やかな空気を発する便利機能を搭載している、かもしれない男だ。


 もっとも、俺には相性が悪い。ナナも、俺が出会った当初から微妙な感じだった。

 あの爽やかキラーンという様な雰囲気というか、オーラというか、とにかく波長が合わない。

 良い奴なのは間違いない。ただ良い奴過ぎてウザいのだ。


 にこやかな笑みのまま、桐原は此方に近づいて来る。後ろのパーティメンバーと共に。勇者一行はやはり一列なんだな。

 後ろの大柄な男、近藤匠が、若干俺を見て眉を潜めている。が、まあ気にしない。いつもの事だ。同じボディーガードとして、やる気の無い俺を嫌っているのだろう。


「やあ、ナナ」


「ああ。何か用か?」


 桐原の挨拶に、とてもめんどくさそうに素っ気なく返すナナ。

 さっきは順序良く食事を口に運んでいたが、今は適当だ。

 但しそれを一切気にせず、というか、気づいていないっぽい桐原の笑みは崩れない。


 後ろの取り巻き女A~C──名前は知らない。いや顔もかな?──が、ナナの素っ気ない態度に眉を潜める。が、何も言わない。

 有名ブランドの服で固めた格好から見て、そこそこの名家なのだろうけども、西園寺の威光には逆らえない。上流階級の事情である。


「ちょっと頼みがあるんだ」


「なんだ?」


 一応、許嫁なので無下な応答はしない様だ。

 凄く面倒そうだがな。この時点でかなりおざなりだとは思うけど。


「実は今週の日曜日、俺の所属する剣道部の大会があるんだ」


「だから?」


「……来て、くれないだろうか」


 真剣な瞳でナナを見つめる桐原。

 恐らくナナ以外の女子なら、コロッと行ってしまいそうなほどのイケメンオーラを放っている。

 だが相手はナナだ。俺に助けを求めるように、こちらを見ている。

 無視するがな。俺を巻き込むな。ボディーガード?気にするな。

 ナナは俺が助けないと分かったのか、小さくため息を付いて、再び視線を桐原に戻す。


「……何故だ?」


「君が居てくれれば、俺は勝てる。必ず、君に勝利を捧げてみせる。だから──」


 甘い。メープルシロップに砂糖を一袋ぶち込んだくらいの暴力的な甘さだ。吐き出してしまいそうだ。

 チラリと見ると、ナナも顔がひきつっている。分かるぜ。


 ナナもさっさと断りたいのだろうが、相手は仮にも許嫁。それに桐原の家とは友好関係にある。いつも通りに、あっさり断る事はできない。

 上流階級では、何が亀裂になるか分からないからな。


 しょうがないので、ここらで助け舟を出そう。

 ナナは無愛想で率直にモノを言い過ぎる。許嫁がそんな態度と知れたら、ちょっと良くない。

 多少の不興を買っても、俺から言うべきか。


「……桐原様。お嬢様のご予定は未だ未定ですが、最近お誘いが多いので、日曜日には予定が入る可能性が非常に高いのです。行けたら、という暫定ならば……」


 敬語を使わないのは、西園寺の家の人間と私的な会話をする時のみ。

 さすがにその辺は弁えている。

 とはいえやる気の無さは、滲み出ているだろうけど。


「うーん。なら俺の用事を入れて欲しいな」


「申し訳ございません。公的な用事も含まれているので、決定する事はお嬢様の権限でもできません故、ご容赦下さい」


 何故こいつは、この行きたくないオーラが分からないのだろうか?

 ナナじゃなくても、こんな暑苦しい時期に、むさ苦しい剣道の大会なんて行きたくないさ。ナナはスポーツとか興味無いし。

 俺の気の抜けた喋り方に、後ろの近藤が眉を潜めているが、まあ無視だ。


「……七海。神崎君の言ったとおりダメなのかな?君の意見が知りたい」


 ならば空気を読む技術を是非身につけてくださいな。


「悪いが行けないだろう」


「……そういうんじゃ無くて、君が気持ちを聞きたいんだ」


 桐原はナナに顔を近づる。

 その瞳は真剣そのものだ。

 お願いだからその曇り無き節穴をなんとかしてくれ。

 というか、これ以上の接触は俺が手を出さなきゃいけないんだけれども。


「桐原様。これ以上は困惑を誘うだけですので、どうかお控えください。お食事中でもありますし」


「…………………」


 若干不満そうな目を俺に向けてくる。が、一応正論なので、不承不承納得してナナから離れる。

 ナナから「ありがとう」ではなく「もっと早く助けろ」という不本意な視線を貰う。


「まあ、しょうがないね。七海。来てくれると信じているよ」


 何を根拠にだろう?

 やはり恋は盲目という奴か。分からん。


「じゃ、一緒にご飯食べようか!」


「「は?」」


「なんでそうなるんだ!?」と、俺とナナの心の声が重なる。

 桐原にしてみれば、許嫁で自身と相思相愛だと思い込んでいるナナと一緒に食事を取ろうとするのは、ごく自然な流れなのかもしれないが、正直勘弁してほしい。


 後ろの奴らまで行動に移そうとして、机や椅子を移動させている。

 悪意でやってるならいくらでも対処が利くけど、一切無いのが質悪い。

 どうせ「皆で食べた方がおいしいよ」とか思ってるんだろうな。……やめてくれ。


 どうしようかと、頭を廻らしているその時、右の内ポケットから微震が伝わって来た。

 この間隔の長い振動は、メールか。珍しい。電話が基本だからな。俺にメールをしてくるのは椿ちゃんか、奥様くらいだろう。

 確認は素早く行う。ポケットから、スマホを取り出そうと──


 ──ピピピピピピピピピピピ……

 ──ブー、ブー、ブー、ブー……

 ──~~♪~~♪~~~♪~……

 ──ク○ラの馬鹿!ク○ラの馬鹿!ク○ラ……


 若干気になる着ボイスがあったけど、とにかく教室中から着信音と思われる音が一斉に響く。

 不快な合唱が、俺の警鐘を鳴らす。

 横を見ると、どうやらナナのスマホにも着信があるようで、ポケットから取り出そうとしている。

 桐原達も異質な光景に驚いている。


 おかしすぎる。

 一斉に着信がくるなどありえない。

 特にナナや俺のスマホは特別製だ。多数のプロテクトが掛けられている。

 俺は素早く手振りでナナを制する。俺が確認するべきだ。ナナも理解したのか、ポケットに手を入れたまま俺に頷いた。


 久しぶりに緊張しながら、ポケットに手を入れた。

 命の危険程度では感じなかったのに、この異常事態は何か別なモノを感じられる。

 取り出した黒いスマホを面倒な──


「──は?」


 起動していた。

 ポケットの揺れ程度で起動できるモノではないのに。

 しかし、そんな事はどうでもいい。

 問題なのは、起動している画面が明らかに見覚えの無いモノだと言う事だ。


 無意識に俺は呟いた──


「【NEW WORLD】」



 ◆◆◆



 ──誰が知り得ただろう、これが世界の終わりだと。


 ──誰が知り得ただろう、これが世界の始まりだと。

これからも、見ていただければ幸いです。

頑張って書いていきたいと思います。


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