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新/027/イベント

《event:【オーク・ジェネラルの討伐隊】

 オーク・キングの命により、同族の驚異となった者達を討伐するべく、オーク・ジェネラルが出撃しました》


《オーク・ジェネラルが討伐対象を確認。

 これより半径五十メートル以内にいる討伐対象及びその同族に[制限]がかけられます。

 オーク・ジェネラルの現在地より半径五十メートルを越えた者はLPが全損します。

 解除方法:討伐隊全滅》


「………………マジかよ」


 夜月は立て続けに起こる出来事に対して、顔をしかめずにはいられなかった。

 [制限]──確か【罰】にも似たような事書いてあったな。つまり後ろに迫る強敵を倒さなければならないと言うことだ。

 しかも──


「くっ!どういう事だ!?戦わないといけないという事なのか!?」


「わ、分かりません。しかし、LPが全損と書かれている以上、逃げるのは……」


「脅し文句ですわ!」


「落ち着け皆。どっちにしろ、五十メートル以内にいるんだったら、戦う他あるまい!」


「糞っ!僕の魔力はまだ回復しきって無いのにボス戦かよ!糞ゲー過ぎるぞ!!」


 ──という、そもそも関わりたく無い者達の居る中で。

 夜月は軽く目を揉んだ。肉体的には何の疲れも無いが、精神的にこの数分でどっと疲れたのだ。


「夜月……」


 七海は不安そうに夜月のコートの裾を引っ張った。


「ナナ、雛、良く聞け。敵は強い。逃げる事が出来ない。殺るしかない。OK」


「はいッス!」


「うん」


「先ずは俺が敵の戦力を見てくる。雛、ナナを守ってろ」


 疲れている余裕は夜月には無い。

 敵との接触は後数分。動かねばならない。光達を気にしている暇は無かった。

 ただし、光達は違う。


「七海!隠れていてくれ!俺達が戦う!」


「え!?」


「皆!いきなりだが戦うぞ!準備してくれ!」


 夜月が様子を見に行こうとした時、光は即座に交戦を決意し、全員に指示を出した。


「お任せを!」


「仕方ありませんわね」


「しょうがねえ。他の奴等は隠れてろ!」


「……まあ、しょせんオークだしな。僕の魔法なら余裕だろう」


 これには呆れて夜月達は唖然としてしまう。

 戦う気なのだ。しかも正面から。


(こりゃあ、力に傲った典型だな。しかしなるほど、あの太いのは魔法使いなのか)


 夜月の中で光達の評価が暴落していく。

 仮にもモンスターの跳梁跋扈する外に足を踏み入れたのだ。少し評価はしていた。興味は無いが。


 しかしこれは夜月にとっては好都合と言えた。

 邪魔な光達は戦いの影響で死ぬか、それに準じた怪我を負い、もう自分達が去るのを止める余裕は無くなるだろう。

 しかも戦ってくれるお陰で、未知の敵の情報を端から観察する事ができるのだ。


「前言撤回。奴等の言う通り、隠れてるさ」


「承知です」


「……分かった」


 雛は特に思う事が無いのか普通に了解する。

 だが七海は知り合いが死地に行くという事に相当の抵抗があるようで、僅かに夜月を非難する感情を出してしまった。


(ぼくは、馬鹿か)


 即座に自分への非難に切り替える。

 夜月は他人を助ける事は無い。夜月が一番に考えるのは、もちろん七海の安全だ。

 その為になら、夜月は躊躇う事無く他者を犠牲にする。


 そしてその事に対して、七海は文句を言える立場では無い。

 守られている立場の分際で、弱い分際で、強者にすがりつく分際で、口を挟んで良いわけがない。


「あ、雛ちゃん!それ、貸してくれないか?」


「はい?」


 七海が顔を暗くしていると、光が雛の持つ武器に目をつけた。

 太刀:【荒波】である。魔法の効果は無いが、耐久度が最高で、殴打に対する耐性がⅥもある頑丈さに秀でた刀だ。無論、切れ味だって鋭い。


「見ての通り木刀だからさ、普通の武器で戦いだいんだ」


「いやいやいや、待ってくださいよ!」


 関わらないと決めて黙っていた雛だが、さすがに無視できる物では無い。


「うむ。それがいいだろう。護身にはそれは危険過ぎるぞ。そこの愚か者(かんざき)が頼りないのは分かるが、扱える若が使うべきだ」


「ええ、身の丈を知りなさい。あ、七海さん。私にその杖を戴けますか?あなたが持っていても無駄でしょう?」


 と、匠が半ば強引に雛の持つ刀を催促し、鈴火は上から目線で雛の持つ美しい杖に目をつけた。


 自分が話すと波風が立つので、あまり口を挟みたく無かったが、夜月は口を出す他無かった。


「お前ら、行くなら行けよ。もうそこまで迫ってるぞ」


 既に気配はその角を曲がった先、三十メートル付近に陣取って居る。

 こちらが逃げられないと分かっているのか、どうも有利な場所で待ち構えているようだ。


「分かってる。だから有益な武器を使いたいんじゃないか」


「ふん。女子に武装させる様な軟弱物には分かるまい」


「ええ。相応しい者にそれらの武器はわたるべき。それに、貴殿方は戦わずここで隠れているのでしょう?ならば必要も無いじゃありませんか」


 光に悪意は無いが、匠と鈴火には明確に見下す色があった。

 そんな侮蔑は受け慣れているので流す夜月だが、その事に怒った二人がいた。


「馬っ鹿じゃないんスか?相応しい?刀も使えない人に渡す気は無いッス!」


「全くだ。君達に渡してどうする?君らは君らで戦えばいいじゃないか」


 好意を抱く夜月が馬鹿にされる事に、遂に二人がキレた。

 まだ言葉を選ぶくらいは理性を残すが、その瞳には明確な拒絶と怒気が込められていた。


「な、何を!?」


 光は二人の明確な拒絶にたじろき、他の者達も絶句している。

 断られるとは思わなかった様だ。


「第一、桐原先輩は剣道じゃないッスか!刀使える訳無いでしょう!」


「??何言ってるんだ?剣道有段者であるからこそ、刀を使えるんじゃないか」


「そうですわ!素人は黙ってなさい!」


 心底不思議そうに頭を捻る光と、雛に侮蔑の矛先を向ける鈴火。

 雛はそんな二人に対して、鼻を鳴らして瞳に嘲笑を浮かべる。


「な、なんですの!その目は!」


「馬鹿ですね。剣道は剣の振り方は習っても刀の振り方は習いません。剣道で教わるのは剣の振り方です。剣は叩き断つ武器。しかし、刀は引き切る武器。両者の使い方は全く違います。振り方から力の使い方まで、全く違います。貴方の様な素人に渡せば、一撃で刃をダメにするのは明白です」


「っ!」


 何時もの様な三下口調では無く、おそらく素であろう口調に戻し、鈴火を逆に見下す様に武器の違いを突き放す様に教えた。


「……そ、そうなのか。知らなかった。じゃあ、しょうがないな」


「ひ、光さん!っ……し、しかし、その杖は私にこそ相応しい筈!」


 光が素直に雛の言葉を受け入れた事に対して、鈴火はヒステリックになる。

 自分より下だと断じた者が、自分(・・)の光が受け入れた事に、彼女のプライドを逆撫でしたのだ。


「ぼくは魔法を使える。だから持っている。以上」


「っ!!」


 言葉に詰まり、顔がひきつる。

 自分だけが特別だと、勝手に思っていた。そしてこの力を持つ自分こそが光の隣に相応しいと、確信していた鈴火の心に皹を入れる。

 しかし、自分が特別だと思っていた者は一人では無い。


「さ、西園寺さんは、魔法を使えるの!!」


 富川もまた自分が選ばれた存在だと勝手に確信し、更には七海をか弱いと断じていたため衝撃は重かった。

 これでは自分の力を見せつけてもインパクトは低いのでは?と、富川は内心あせる。


「ん?君は誰だ?まあいい。使えるぞ」


 七海は声をかけられて初めて富川の存在に気づいた。

 何を慌てているのか不明だが、その視線には不快な粘りつく様な感情(モノ)が混じっていて、言葉に棘が生まれる。


「お、おい、お前ら!今はそんな事──」


「──ブモオオオォォォォォォォォッ!!」


「「「っ!!」」」


 事態が混沌としてくるのを止めようとした吉野が声をかけた時、陣取っていたオーク達から雄叫びが上がる。

 全員が、曲がり角の先に目を向けた。


(しまったな……)


 近づいてくる三つの金属音と共に、オークの荒々しい気配が夜月の鋭敏な感覚に引っ掛かる。

 出てこない此方に痺れを切らして、十五体いる内の三体を向かわせた様だった。


「ひいぃぃっ!!」


「む、無理だぁぁ!!」


 今まで所在なさげにしていた二人の男が、雄叫びと近づいて来る金属音に、恐怖で顔を染めて走って逃げ出す。

 当然[制限]の事など頭から抜け落ちている。


「あ、待って!!」


 雄叫びに驚いていた光が走り出す男達を制するが──既に遅かった。


「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」


 十数メートル離れた瞬間に、突如叫び声を発しそのまま地面に倒れる。

 その後、ピクリとも動かなくなって全員が死んだと確信した。


「っ──せ、先生!?」


「落ち着け桐原!あそこまでいけば死ぬんだぞ!」


「ぐっ!」


 咄嗟に走り出そうとした光を、吉野が取り抑える。

 夜月は死んだ二人を一瞥し、迫り来る驚異に意識を向ける。


「ナナ、雛。あそこがラインだ。つまりこれ以上は下がれない。前言撤回。向こうも来るみたいだし、様子見をする余裕は無くなった。殺るぞ」


「はい!」


「うん!」


「「「ブモォォォォォォォォッ!!」」」


 遂にオーク三体が姿を現した。

 浮き足立つ面々は慌てて武器を構えるが、フォーメイションも作戦も一切意味をなさない無秩序な陣形で迎えてしまう。


 オークはその巨体に、鈍く光を反射する鉄色のブレストプレートと兜、脛当、腰巻を装備し、手には大きなポールアックスを持っている。見ただけで普通のオークとは明らかに違う。

 死んだ二人にショックを受けていた面々に、その威圧感のある鉄の装備をつけたオークの存在は、追い討ちとなった。


(筋肉のつき方から違うな。やっぱ、正規の訓練を受けた者の肉体だ)


(うわー、結構不味いッスね)


 各人が硬直する中で、夜月と雛は冷静に敵の分析を行う。

 間違いなく訓練を積んでいるだろうオーク。身体能力で言えば、夜月以外では太刀打ち不可能。しかし、技術ならば、雛なら一体は問題ない。


「雛は右。俺は真ん中と左を片付ける。ナナは雛の援護」


「承知!」


「了解だ!」


 夜月の指示に、二人は迷う無く了承の意を返す。

 未だ浮き足立つ光達とは違い、常に冷静な夜月と、想定していた雛、ここまで幾度と戦ってきた七海の三人は、既に臨戦態勢に入っている。


 最悪の状況での戦闘。これ以上の悪化を避ける為にも、後手に回る事は避けたかった。

 光達が邪魔で自分達の戦闘力を知られるはめになるが、ここは割り切って戦う事を選択する。



 ◆◆◆



「[マジックアロー]!!」


 夜月と雛が動き出した瞬間、七海は杖に込められている魔法の力を唱えた。

[マジックアロー]は展開が不要な魔法で、キーワードと共に魔力の矢を飛ばす事ができる。更にMPも5しか消費せず、M-CONしだいでは複数同時射出も可能。その代わり、威力は七海のM-STR依存で、大した威力は出ない。


 七海のM-CONは60を越える。同時に飛ばせるのは三本。

 その三本が全て、右のオークに飛んでいく。

 速度は時速百二十キロ程度。間合いは九メートル。夜月と雛なら余裕で回避出来るが、オークは違う。例え上位個体でも、この間合いからその速度で射出されれば避けるのは不可能だ。


「ブギャっ!」


 サファイア色の美しい魔力光を空中に描いて飛来する魔法の矢は、狙い違わず襲い掛かろうと走り出す右のオークに着弾。

 ブレストプレートに一発、腹に一発、兜に一発。

 ガンっ、という軽い衝突音と共に、オークは仰け反った。


 先も述べた通り、威力は大した事が無い。

 鍛えていない男子高校生が殴る程度。何の防御も防具も無く着弾すれば、そこそこ痛いがその程度。

 オークのLPも、SPも削るだけの威力は無い。


 しかし、直撃すれば無視出来ない。

 オークのM-RESは低い。上位個体だから少しは改善しているものの、やはり低い。

 当たれば痛いし、衝撃で動きは止まる。


 そして、足を止め目を瞑ったその瞬間を、見逃す雛では無い。

 摺り足で音も無く接近した雛は、オークの腹に居合い一閃──


「はあっ!!」


 ──銀の一文字が空中に走る。

 遅れて鮮血がオークの出っ張った腹から吹き出す。


「ブギャアァァァ!!」


 絶叫。

 魔法の矢とは比べる事も出来ない焼ける様な痛みがオークの全身を襲う。


「はっ!」


 そんな悲鳴を上げようとも、雛の眼光に煌めく殺意は微塵も衰えたりはしない。

 返す刀で絶叫を上げるオークの腹を再び切り裂く。


「っギャアアアァァァァァァ!!」


 美しい銀の×字と共に、鮮血の花が咲く。

 悲鳴をバックサウンドに、鮮血の飛沫の中で残心する鋭い眼光の美少女は、思わずゾクリとする魅力があった。


 ×字に切り裂かれたオークは、手に持っていたポールアックスを取り落とし、無様に地を転がる。

 脂肪は厚かったが、それを事前に見越して内蔵までしっかり届く様に雛は斬り裂いた。

 人間を遥かに越える高い生命力のお陰で未だ暴れているが、傷口から内蔵が溢れ落ちて、血溜まりはカーペットの様に広がっていく。

 死ぬのは時間の問題。


 だが、リスクは避ける。

 万が一にも起き上がられて窮鼠猫を噛むの如く、動かれては堪らない。

 雛も七海も、夜月からその辺は厳しく指導されて承知している。


「【弱電撃(スタン)】!」


 七海の持つ白い杖より放たれた電撃が、暴れるオークに直撃する。

弱電撃(スタン)】とて威力は低いが、敵は既に虫の息。それにlevelが上がって上昇した能力値に、杖の効果も合間って、普通のオークならば一撃でLPの八割を削れる。

 上位個体とはいえ瀕死の状態で耐えられる筈もない。


「──────っ!!!」


 迸る蒼の電光が直撃したオークは、声にならない悲鳴を上げて、そのまま永久の眠りついていった。

 しかし、悠長に光になるのを見届ける訳にはいかない。

 敵は一体では無いのだ。

 七海と雛は弾かれた様に左を向く。


「先輩──ああ……」


「夜月──は、当然終わってるよね」


 もっとも、その心配は無意味。

 何故なら、当然の如く二体のオークはいない。

 僅かに粒子が残っている程度で、そこには四つの袋があるだけだった。


「あはは…」


 若干ひきつった笑みと共に、雛は乾いた笑い声を上げる。

 七海と連携する事で、十秒とかからず敵を倒したのだが、既に夜月の方は光となって消えていた。


「──さあ、次に行こうか」


 淡々と発せられた声が、嫌なぐらいに全員の心に届いたのだった。



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