旧/996/夜月の趣味
閑話です。
短いので軽く読んで見てください。
長方形で十二畳ほどの部屋が、ぼくの私室だ。
奥には大きな窓を側面に接したダブルベット。その横には特注(ぼくの背丈に合わせた)のデスク。更にその奥にはウォークインクローゼット。
廊下側の壁に二つの本棚。小説、漫画、DVD、ゲームソフトなどなどが綺麗に並べられている。
窓際にはクッションや観葉植物が置かれ、部屋に癒しを与える。
そんな寛げる自分の部屋にて、ぼくはベットの上で携帯ゲーム機でRPGを楽しくプレイしていた。
今は、夜月が夜の会議に行っているので、部屋にはぼく一人。
少し落ち着かない。慣れているけど、やっぱ一人はちょっと………
あ、回復し忘れた。
次の自分のターンが回ってくるまで敵の攻撃を凌いでいると、部屋のドアがノックされた。
身体がビクンと反応する。ビックリした。
「あ、あの、お嬢様?」
誰だっけ、この声?
ぼくをお嬢さまと呼ぶからメイドの誰かだろうけど、メイド長以外は名前を知らなかったりする。
「……なんだ?」
少し無愛想な声になってしまうのは、勘弁願いたい。他人に対しては反射なのだ。
「光さまからお電話です」
「は?」
なんで家電に?
スマホにかけろよ。
と思って、枕の脇に置かれ充電されているスマホを見ると、三件くらい着信があった。無論、全部光。
「スマホでかけ直すと伝えてくれ」
「承知しました」
そう言って、メイドは下がっていった。
ぼくは戦闘が終わるのを確認して、スマホに手を伸ばす。
うーん、めんどくさい。
それでもしなければ後々より面倒なので、ゲーム機を置いて電話をかける事にした。
光の番号をタッチして耳に当てる。すると、一コールも待たずに電話に出た。
『やあ七海、こんばんわ』
「ああ」
『今何してたんだい?』
「ゲーム」
『へえ。なんのゲーム?』
「………おい、用件はなんだ?世間話なら止めてくれ」
ぼくとしては、お前の声が耳元で聞こえるのが嫌なんだ。
断っておくが、光の事は嫌いじゃない。ただ他人の声を近い位置で聞くのが嫌なのだ。
『ハハハッ。相変わらずだね、七海は。良いじゃないか、ちょっと君の声が聞きたくなっただけだよ』
……勘弁してくれ。こんな用事で態々家電にすらかけて来る光、恐るべし。
ぼくはゲーム機に手を伸ばす。
「悪いがぼくはやる事があるんだ。じゃあな」
『え、ちょっと!七──』
うるさい。
ぼくは電話を切って、充電スタンドに戻した。
何度も言うが、ぼくは光は嫌いじゃない。
幼馴染みで、物心付く前から一緒だったのだ。嫌いな訳は無い。
小さい頃はよく助けて貰ったし、とってもぼくに優しかった。
普通の友人としては、好ましいだろう。
優しいし、頼りになるし、イケメンだし、人気者だし、スポーツ万能だし、成績優秀だし、家柄良いし、何でも揃っているチートリア充。
それなのに、ぼくは一度も好意を抱いた事が無かった。
ぼくが想っているのは──
「──おい」
「ひゃっ!!」
想い人の事を想像しようとした瞬間──その想い人から声をかけられた。
「よ、夜月!ノックくらいしろよ!!」
「は?いつもしてないだろう。何故今更」
それはそうだけど……何でこういう時に出てくるんだ。
現れた夜月は普段のダークスーツではなく、シャツとズボンだけだ。まあ武装はしてるんだろうけど。
「むう。ご主人様の部屋だぞ」
「半分俺の部屋だろ」
確かに。
夜月には使用人の部屋が与えられているのだが、実質ほとんど使っていない。
基本的にぼくの部屋で、ぼくと一緒に暮らしている。
クローゼットの中身も、夜月の服多いし。
夜月は無遠慮に、いつも通り机の椅子に座る。
ぼくには少し大きめのリクライニングチェアだが、夜月にはピッタリだ。雰囲気もあっている。マフィア見たいで。
「で、さ。お前、俺が出した課題、やった?」
課題?……………………………………………………あ。
「あ、あー、あー、う、うん。まあ、やったと言うか」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!!
やべえよ!バレたらどうなるか分からん!!
汗はダラダラと出てくるのに、顔は青くなって、全身に悪寒が走る。
この前なんて、中国の拷問方法をリアリティ溢れる解説で、朗々と一晩中聞かされたりしたんだけど!
お陰様で、パパが提案した中国旅行を全力で拒否するはめになったんだから。
「成る程、やってないのか」
「い、いや、まあ」
「ちょっと待ってろ」
へ?
そう言うと、夜月は部屋を出ていった。
ていうか、今笑ってたな。
…………………………やべえ。
──十五分後。
戻ってきた夜月は、鍵を閉めたクローゼットの扉を蝶番ごと吹き飛ばし、立て篭もるぼくを意図も容易く引きずりだした。
ベットの上に放り投げられたぼくを尻目に、ベットの向かいにある本棚に置かれたテレビを操作する。
どうもDVDらしい。
「あのー、夜月君?なんでしょうか、それは?」
「楽しい楽しい映画だよ」
「どこから持ってきてたの?」
「六花さんのところ」
逃げる──
──取り押さえられる。
ガッチリとぼくをホールドをした状態で、夜月はリモコンのボタンを押す。
未だ始まってもいないのに、ぼくの歯はガチガチという音を立て、膀胱が恐怖で刺激される。
「ねえねえ!課題やるよ!今からちゃんとやるよ!!」
「始まるぞ」
聞いてないし!
ママのDVDは日本どころか制作国ですら放映中止になったゲテモノだ。秘密裏に買い取った非合法品なんだぞ!ヤバすぎる!!
そんなもの見たくもない!
いや!マジで止めて!!
◆◆◆
夜月の趣味──
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!………………え!?な、なに!?なんなの!!いやいやいやいや!!!………………………ほんとごめん!マジごめん!!…………………ぎゃああああぁぁぁぁ!!!食べてる!!食べてるよ!!!!…………………目が、目がああぁぁぁ!!…………ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………………無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!………」
「ほう、内蔵の色合いがしっかりしてるな。感心だ……………あー、分かる分かる。歯ブラシ痛いよね…………うーん、この血の演出は微妙だな。少しあざとい……………共喰いしない生物なんてほとんどいないぜ?…………寄生虫キモいな~……………」
──七海を虐め………教育する事。
◆◆◆
「六花さん、六花さん」
「ん~?どうしたの~」
「見て見て、ナナの失禁シーン」
「きゃあぁ~~~!!!かわいいわ~♪我が娘ながらなんて滑稽で愛らしいのでしょう~♪あ!夜月君夜月君、この七海の小学校一年生の時の作文と交換しない?テーマは「将来の夢」で、タイトルは「お姫様」!!コピーだけど」
「OK、交換しましょう。こっちもコピーだけど」
◆◆◆
「うえぇぇぇぇん!!!椿さああぁぁぁぁん!!」
「よしよし。もう、よー君にも困ったものだね!」
「あの馬鹿野郎、写真とりやがった!!」
「………何か、明日にも六花が持ってそう」
「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!椿さぁぁぁぁん!!!!」
「分かった分かった。よー君には私がガツンと言っておくから。もう、ボッコボコにしてやんよ!!」
七海ちゃんは基本的に、他人が怖くて、夜月が居ないと一人で眠れない子。