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新/023/愛

ついに……!

ナナの所に戻ろうとした時──そいつは文字通り()から現れた。

そして俺に、否応無くその存在(かく)の違いを叩きつけた。


ああ。無理だね、これ。


完全なる敗北を、その立ち姿一つで頭にも心にも思い知らされた瞬間だった。


「我が名はシャーネ・ドレイク。よろしくな、夜月」


シャーネと名乗るその──少女。月光を浴びてキラキラと輝く銀糸の髪に、染み一つ無い処女雪の肌、深紅の瞳はこの世の宝石全てをガラクタに変え、触れれば壊れてしまいそうな幼く華奢な肢体からはあり得ない艶かしさを放つ、悪魔的で蠱惑的で何よりも美しい魔貌の少女。

魅入られ、惹き込まれ、気づけば闇の中に眠っていそうで、それでも魅了され続ける悪魔の美貌。

ナナとは正反対だが、浮世を逸脱した美の化身という事だけは、共通している。


「今日はただの顔会わせだ」


「俺はこれが最後が良いな、ヴァンパイアロード(・・・・・・・・・)


分かるよ。

このタイミングで出てくる条理の外の魔物。

奴等の主である、ヴァンパイアロード以外には考えられない。


「ふふ、照れるな。シャーネで良いぞ、夜月」


「ありがとよ。俺の事も適当に「そこの」で良いぞ」


皮肉的な本音を言っても微笑むだけ。

意味が分からん。

何故俺に付きまとう?


「流石だな。妾の【上位魅了(グレート・チャーム)】が効かぬか」


上位魅了(グレート・チャーム)】……名前からして魅了のabilityか魔法だろうな。

確かに惹き込まれる美しさだ。俺としてもナナを知らなかったら、求愛してたかもな。


「それでシャーネ。お前は何で俺を狙う?」


率直に尋ねてみた。

遠回しな問いをしても無意味だ。


「そんな理由(もの)は簡単だ。お前が欲しいからだよ、夜月」


「性欲を持て余してるんだったら、その辺にお相手してくれる(オーク)はたくさん居るぞ」


軽口を叩きながら頭を廻らし真偽を確かめるも、やはり分からない。

微笑みは崩れず、その瞳の中には、ナナや椿ちゃんや雛とは別の、それでいて種類的には同じ、「愛」が込められている。


………ただ、なんとなくだが、その「愛」は分かるかもしれない。

雛から向けられる「愛」は未だに理解出来ないが、こいつから向けられる「愛」はなんとなくだが理解出来る。

本当になんとなくで、ほぼ本能的で、上手く説明出来ないけども。


「………俺はお前に愛されるには脆弱だぞ?」


「今は、な。今のlevelでは確かに妾と釣り合いはとれない。しかし、お前は気づいているか?自分のrankを」


「rank?」


rank。と聞かれても、俺には良く分からん。

情報屋にもrankについては無かった。

特に知る必要も無かったし、なんとなく強さ的な感じだと想像して放置していた。

しかし、奴の口振りでは違う気がする。


「強さじゃ無いのか?」


「間違ってはいない。が、あってもいない。

rankとは、その「個」の潜在的な強さだ。素質とも言える。

オークで例えると、奴等のrankは上位個体を除いて準最低(エフ)だ。Fの個体の限界はlevel20~30程度。覚えられるskillの数も五つ以下。abilityも種族能力を入れても三つ以下。level-UPで得られる能力の上昇も、総合3を越えないだろう。まあ種族値として、STRやVITはそこそこ高いがな。

つまりrankとは、現時点の強さでは無く、その「個」の限界値を示すものだ」


なるほど。

良く分かったが、世知辛い世の中になったな。

人間は、自分の限界を知らないからこそ、人生に対し希望を持てるし、そう簡単に絶望もしない。

しかしそれが明確に表示される様な世の中。厳しいな。


「それで、俺のrankは高いのか?」


俺が興味本意で尋ねる──と、甘い薔薇の香りが鼻腔を優しく擽る。


「………………………………………………」


言葉も出ない。

首に回される細い腕、密着する身体、背伸びしながら俺の首元に擦りつける魔貌。


気づけば、抱きつかれていた。

気を逸らした事など無い。目を逸らすどころか、瞬きだってしていない。


単純に移動した訳じゃ無い筈。風圧も無いし、残像もない。

ならば俺と同じく気配を溶かした?

嫌、そんな訳は無い。

ならばテレポート?

分からない。


ただ一つだけ分かる。

俺は──


「ふふっ。さすがだな。意味が無いと瞬時に把握して、臨戦態勢を解くか」


──ただ、身体から力を抜いた。

抗うなど到底無理。

遊びにもならないだろう。


俺は確かに人間とは言い難い存在だ。

当然ながら強いという自負もある。


だけど、この大怪物とは比べるのがおこがましいほどに、卑小で矮小で脆弱で虚弱。

その事は出会った瞬間、影から出現した瞬間には分かっていた。

それでも今まで臨戦態勢を解かなかったのは、もしかしたら、認めたくなかったのかもしれない。


苦笑する。内心では無く、自分でも珍しいと思うほどに、顔に出して。

愚かしいな、俺は。


「そう卑下するな」


心を読んだかの様に、シャーネは優しく、それでいて蠱惑的な声で慰める。

万人が耳にすれば、万人が骨抜きにされる声。

俺には効き難いとはいえ、理性を雄の本能が襲ってくる。


眼を瞑る。

気の流れを整える。

股間が立つのを堪え、頭が冷やす。


「なあ、夜月。お前も妾に手を回せ」


「………何故だ?」


頭を冷やしている最中。

さすがにこれ以上の接触は遠慮したい。


「感じて貰いたいからだ。妾の力を」


「それならとっくに感じとってる」


「いいや違う。お前はまだ、妾の力を感じ取れていない」


どういう事だ?──と尋ねる言葉よりも先に、俺はほとんど無意識にシャーネの背中に腕を回そうと動いていた。


魅了で支配された訳じゃ無い。

知りたかった。

心の奥底から脈動する、何かを。

その今までにない好奇心が、俺の身体を無意識に動かした。


細い。あまりにも細い身体。

絹すら劣る滑らかな感触をもたらす黒いゴシックドレス越しに、俺の両腕はシャーネを包む。

無意識に、俺はこいつをナナと同じくらい丁寧に扱っていた。


「──ああ、なるほど」


感じたよ。

分かったよ。

俺がお前の「愛」をなんとなく分かった理由が。


「分かったか?妾とお前は同じ(・・)なのだ」


「………………」


「同じ怪物。同じ孤独。同じ魂」


「………………」


「感じ取っただろう?同じモノを」


「………………」


「だから妾はお前を求める。お前を愛する」


不意に──シャーネが離れる。

寂しげに薔薇の残り香がだけが、俺の身体に取り残された。


……今俺は、一瞬、ほんの僅かに、離れたくないと、そう思った。


魅了された訳じゃ無い筈だ。

それは、間違いない。

思考はクリアだ。感情だってシャーネ(こいつ)に向いていない。気の流れにだって異常は無いし、ナナ達への注意だって怠っていない。


魅了は、されていない。


シャーネは俺から僅かに一メートルの場所に佇んでいる。

微笑みは、吸血鬼とは思えないほど、優しげで、俺への愛に溢れている。


「今はまだ、妾はお前を求めない。強くなれ、夜月」


シャーネは不敵な笑みに戻り、俺に対して高みから見下ろしながら、告げる。

何も文句は出ない。

俺自身は、別にこいつを求めていない筈なのに。


「rankを実感するのは、levelが20を越えてからだろう。基本的にそこが、あらゆる者の最初の扉であり、分かれ道だ」


「扉?分かれ道?」


「その通り、どのrankの者も、20までは種族値以外はあまり変わらない。しかし、20から変わっていく。ちなみに、rankGの者は、20でほぼ打ち止めだ」


「20から、ね。覚えておくよ」


正直【NEW WORLD】に対して、あまり積極的に関わりたくなかったのだけれども、少し踏み込む理由が出来てしまった。

それも、私的な理由で。

ナナには全く関係ない、俺自身の興味と関心で。


「ふふ。それでは妾は行くかな。本当はもっと語らいたいが、未来にしよう。ああ、そうだ。出会いの記念にプレゼントを送ろう」


「随分だな」


「妾はこう見えて、尽くすタイプだぞ?」


茶目っ気に舌を出しながらウインクする。

幼い美貌に似合う仕草に思わず──鼻で笑う。

似合うが、ヴァンパイアロードと言われると、なんとなく滑稽だ。


「…………お前、見ていたから分かっていたが、Sだな」


「失礼な。Sってのは、嗜虐的な行動をとる事で愉悦を得る存在の事だろう?俺は別にそういう目的でやっているのでは無い」


「なら、何故あの小娘に?」


小娘、ナナの事か。

俺を見ていたのなら、ナナとの関係も当然知っているのだろうな。


「仕事だ」


「………暴力が、か?」


「教育だ」


「楽しいか?」


「仕事だ。だがやり甲斐は感じている」


「………………………もう、何も言うまい」


ん?シャーネから、似つかわしくない、疲れたような、呆れたような雰囲気が伝わる。何故?


「ではな。今度はお前がlevel20となった時に」


その言葉を発した瞬間、シャーネは霞の如く消えていった。


「愛してるぞ、夜月」


その言葉と共に。

シャーネが消えていった後も、俺はその虚空を見つめ続けた。

後には、何時の間にか出現していた黒い宝箱と、一通の手紙が置いてあった。


「愛、ね」


思わず漏れた呟きは、星と月で満たされた明るい闇に溶けて消える。


未だにほとんど分からないけども、シャーネには、また会いたかった。



◆◆◆



《妾の【status】を載せよう。

愛するお前に隠す気は無い。

それに、お前にはここまで昇って来てもらわねばならないのでな、目標としてだそう。


《name:シャーネ・ドレイク/始祖吸血鬼(ヴァンパイア・オリジン)

level:163

exp:15368344

title:【吸血鬼の女王(ヴァンパイア・ロード)】【超越者(リミットブレイカー)】【魔導の頂きに立つ者】


energy:[LP・11304][MP・20422][SP・10871]

physical:[STR・632][VIT・524][AGI・557][DEX・561]

magic:[M-STR・1037][M-PUR・921][M-RES・932][M-CON・913]


skill:[細剣・Ⅶ][杖・Ⅶ][闇魔法・Ⅹ][死霊魔法・Ⅹ][氷魔法・Ⅹ][雷魔法・Ⅸ][幻魔法・Ⅸ][空間魔法・Ⅸ][召喚魔法・Ⅷ][土魔法・Ⅷ][風魔法・Ⅷ][水魔法・Ⅷ][占術・Ⅷ][騎乗・Ⅸ][気配察知・Ⅷ][歌唱・Ⅸ][演奏・Ⅸ][魔工・Ⅷ][裁縫・Ⅷ][錬金・Ⅷ][調合・Ⅶ]


tolerance:[氷・Ⅹ][雷・Ⅸ][土・Ⅶ][風・Ⅶ][水・Ⅶ][殴打・Ⅵ][斬撃・Ⅵ][刺突・Ⅵ]


ability:【真祖の血】【上位眷属創造】【吸血】【魔力視】【支配の魔眼】【霧化】【影化】【鬼の怪力】【幼き美貌】【上位魅了(グレート・チャーム)】【闇の暴威】【絶対者の威光】【不死の肉体】【幻獣騎乗】【三重展開(トリプル・キャスト)】【移動展開】【事前展開】【魔力貯蓄(マナ・チャージ)】【歌唱展開】【刻印】【闇属性無効化】【精神攻撃無効化】【死属性無効化】【炎属性脆弱】


party:

guild:【ドレイク・ドミニオン】》



という感じだ。

大丈夫、お前なら追い付けるさ。


プレゼントはお前の武器と防具。

魔法の武器と防具で中々の一品だ。

お前、腕は良いのに持ってる武器がしょぼいからな。


後、妾のaddressも載せて置く。文通から始めよう》


…………シャーネちゃん、君は俺に何を期待してるんだい?

無理じゃね。



シャーネちゃんやばすぎです。ちなみにこれは素の値ですので、これに装備、ability、skill、titleによる補正などが加わって来ます。

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