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新/019/楽勝と背水

着々とモンスターを倒す主人公達。

そして追い込まれる、正義の味方。

「角の向こうに三体いるな」


気配を研ぎ澄ませた夜月が、マンションの壁に背を預けたまま、敵を捕捉する。

雛はニッコリ笑いながら親指を立て、七海は相変わらず緊張していて無言で頷く。


「ナナ、魔法の準備。一発目でどれでも良いから撃て。麻痺か気絶したら、ナイフで自力で仕留めにいけ。硬直の場合は雛が殺れ。麻痺か気絶の場合は、他の一体を自力で殺れ。俺はナナと同時に、一番右端の奴にダガーを飛ばして仕留める」


「分かった」


「イエッサー!」


夜月の指示の後、七海は数回の深呼吸をして緊張を解す。

そしてゆっくりと呼吸をしながら瞑想に入り、魔法の準備を行う。


サファイア色の魔力光が輝く中、夜月もダガーを取りだし身体の力を抜く。

雛もボコボコになった金属バットの代わりに、新しい金属バットをしっかり構える。余談だが、先程雛一人で行った戦闘にて、雛のskillに棍棒・Ⅰがついた。


十メートルくらいしか離れていないのに、オークは魔法の気配に気づかない。サファイアの光はそれなりに目立つのだが、それでも気づかないのだ。


五秒たった。

七海と夜月は壁際から身を乗り出す。


小さな手を伸ばした七海は、サファイアに輝く指先を左端のオークに向ける。

夜月は無駄の無い動きで、既に投擲に入っていた。


「【弱電撃(スタン)】!!」


七海の鈴の音の様な声と共に、細い電撃が背中を向けるオークに迸る。放出と着弾は同時だ。

そしてその電光に紛れて音もなくダガーは飛来し、右端のオークの後頭部に深々と刺さった。


右端のオークは一瞬で意識を永久に手放し、崩れ落ちる。

左端のオークは短い悲鳴の後、麻痺を起こして倒れていく。


「行くッス!!」


雛が二人の脇をすり抜け、真ん中のオークへと迫る。

真ん中のオークはいきなりの出来事で若干混乱しており、流麗で素早い走りで向かってくる雛に対処しきれない。


オークがこちらを振り向いた瞬間には、雛は既に目の前に迫っていた。

金属バットを上段に持ち上げ、力強い踏み込みと同時に、垂直に鋭い振り下ろしをオークの脳天にお見舞いする。

インパクトの瞬間だけ持っている右手を握り、威力を上げる。


「ブギャッ!!」


いきなりの頭へのクリーンヒット。

さすがに【下位殴打耐性】を持っていても、急所へのクリーンヒットは相当のダメージになる。


オークはその拍子に持っていた棍棒を落としてしまい、二、三歩後ずさりながら両手で頭を押さえる。

そんな隙を雛が見逃す訳は無く、痛みと混乱で呻くオークの首に突きを放つ。


「ギャ!!」


金属バットは先が平たいので、何処で攻撃しても殴打判定になるのだが、立て続けの急所攻撃にオークのLPは一桁に入った。


これはゲームではない。

ターン等無い。


頭と喉へのダメージに呻くオークは膝をつく。

そして──


「はあぁぁっ!!」


勇ましい威勢と共に、上段からの振り下ろしを蹲るオークの頭に叩き込む。

今度はグシャリという音が響き、頭蓋を破壊し、脳を潰した。

オークのLPは0となり、美しい光の粒子となって空間に消えていった。


「ふう。で……ああ、終わってますよね~」


雛は左右に目を向ける。

右は既に光の粒子すら全て消え失せ、二つの袋が残るのみ。

左はナイフが刺さったままで、雛が目を向けたのと同時に光となって消えていった。


夜月は最初の一回で殺しており、七海も麻痺のお陰でナイフを刺すだけだった。雛が、一番苦労している。


「お疲れ」


「ええ、七海先輩もお疲れッス。夜月先輩は安定の省エネッスね」


「まあ、お前も刀があれば、一撃なんだろうがな」


「はは!どうでしょうね~。でもまあ、無い物ねだりッスから」


こうして三人は、苦も無くオークを殲滅して行くのであった。



◆◆◆



「ナナ、MP幾つ?」


「えーと、47」


という事は、後三回、いや、MPは五分で1回復するから、すぐに四回になるか。

いざという時の為に、最低一回分は残して置くべきだから、実質三回。


まだ二回しか試していないが、ナナの魔法は結構有効だ。

もっとも、オークが弱すぎて、今のところはそこまで必要では無いけど。


MPは意外とすぐに回復する。けど、やはりいざという時の為に、一気に回復させたい。

やっぱ回復薬とか売ってんのかな?


【Shop】を見ると、薬屋というのがある。areaは当然薬局だ。

ここになら、回復薬を含めた薬品等が売っていそうだな。


現在の所持金は、367C/1S=4670円。

豚肉が十個あるから200C足して、567C/1S=6670円

………一人分の宿代にも足りないかもしれない。


オークは数も多いし簡単に殺せるが、手に入る金額がドロップ合わせても40C程度。

狩るペースを上げるか?いや駄目だ。ナナの体力と精神的に、これ以上のペースはキツい。


ある程度強くても良いから、たくさん金を落としてくれる個体とかいないかな?

あ………一体、心当たりがあるんだけど。この先、通るし。


「先輩、お金微妙ですよね」


雛も同じ考えらしく、スマホの画面に映る金を見ている。

そしてこちらを見て何かを期待する様に、口許を吊り上げる。

倒せと?奴を?


「夜月、どうするんだ?」


見つめ合う──否、睨み合う俺達を不振に思ったナナが、首を傾げて俺の袖を引く。

ナナも金の事は気づいているのだが、アレを頭に思い浮かべる事は無い。俺が戦わずに逃げた、という事実から、無意識的に相当な脅威と捉えているからだろう。


そしてその感覚は、間違っているとは言えない。

無理とも言わないし、不可能とも言わない。

levelが上がった為に、身体能力は上がっている。その故、勝率は消して低くは無いだろう。


たがしかし、アレは別格。

オークやメイジ、レッサーヴァンパイア等とは違う。

その上、正確な強さがイマイチ掴めない。


とは言え、金が必要なのは事実だ。

ナナの体力的に、そう何度も戦えない。夏の快晴の為に、恐ろしくSPの消費が激しいのだ。


「とりあえず、もう少しオークを狩ろう」


「承知ッス」


「分かった」


殺るとしたら俺一人。ナナは足手まといだから、隠れていてもらわなければならない。そのナナの護衛として雛を付けなくてはならない為に、雛も戦えない。まあ、刀を持っていないから、役には立たないだろうけど。

もう少しlevelを上げて、少しでも勝率は上げたい。



◆◆◆



片手にスコップを持った筋骨隆々な体育教師・吉野武蔵と、のほほんとした雰囲気と優しげな微笑みを浮かべる初老の保険医・森川千尋が屋上に到着してから一時間。


救援だとはしゃぐ生徒達を落ち着けて、教師二人は光と共に、光と匠の治療を兼ねて状況の把握に勤めていた。

初めは期待していた光だが、吉野から苦々しく聞かされた事実に愕然とする。


「食料と水が……!?」


「ああ。全滅だった」


吉野を含め数名の教師は、生徒達を伴い第二体育館に避難していた。

第二体育館は災害時の避難場所にも使われる為に、非常用の保存食を保管する倉庫が併設されている。それに体育館の扉は鉄製で、下手なバリケードよりも強度があるので立て籠るにはちょうど良かった。

当初はその物資で食いつなぎ、救援を待つ算段だった。


しかしその算段は脆くも崩れ去る。

保管庫の様子を見に行った吉野や森川は、そこに保管されている食料を開け、目を疑った。

意味不明に、水は茶色く変色し、長期保存を目的とした缶詰や乾パンが、全く食べられなくなっていたのだ。


その事実を知った教師は、生徒達に黙っているかどうか悩んだが、どうせ知ってしまうので、正直に打ち明けたらしい。

当初は非難が集まり、混乱は波及したが、吉野が半ば無理矢理修めてなんとか落ち着けた。もっとも、彼への恐怖は膨れ上がっただろうが。


教員達は現状打破を必死で考えた。

そしてスマホの画面の異常に目を向けた。

そのスマホの事に最初に目を向けたのは、意外な事に森川だ。彼女はスマホを結構使いこなし、更にはこの状況で柔軟に物事を捉えていたのだ。


『【Shop】はどうかしら?』


その提案は既存の常識に引っ張られる者達には意味不明な事で、他の教員達が渋っていた。

しかし突如、第二体育館の扉を叩くオークが現れ、吉野がなんとか討伐に成功し、事態は変化する。


あり得ない事に、死んだオークが幻想的な光になって消えていったのだ。

更にはスマホに討伐成功のメッセージが表示される。

これを見て、この事態とこのスマホの異常を関連付けない者はいない。

森川の提案は、受け入れられたのだった。


「豚肉とかお金とかも?」


「ああ。お前達も倒したんだな」


光は痛みと疲労のあまり気にしてなかったが、確かに死体は光となって消えていった。

そしてその後には二つの袋が残り、生徒会の書記の子が回収して光に渡していた。


「森川先生、桐原は大丈夫だと思いますか?」


「………………保険医としても、教師としても、止めたいですね」


「?どういう事ですか?」


吉野と森川がこの屋上に来た理由は、単に生徒の安全確認だけでは無い。

むしろ、本音を言えば別の理由がメインであった。


【Shop】の道具屋を目指すなら、外に出なくてはいけない。

しかしそれには戦力が足りなかった。


戦える様な教師は、吉野以外いない。警備員もいるが、日本の警備員は基本的に案山子。精神的に酷い状態の生徒達を連れていく事はできない。

完全に戦力不足だった。


「つまり、俺を戦力として訪ねてきたと?」


「そういう事だ」


吉野としても、教師である以上、生徒を危険に晒したくは無い。

しかし、一人で行けば途中で死ぬリスクが高まり、折角全員から集めた金を台無しにしてしまう。

なんとしても、共に戦ってくれる者が必要だった。


「桐原君。君の怪我はそこまで酷くは無い。だけれども、良くもない。私としては安静にしていてほしい」


「ああ、無理にとは言わないからな」


この状態の光は、戦力になるかどうか微妙だった。

疲労も取れてないだろうし、怪我も酷くは無いが良くもない。

しかしだけど、他の者達よりは圧倒的に戦力として数える事ができる。


その吉野の要請に、光は──


「行きます。俺にはやらなきゃならない事がある!」


──迷わなかった。




雛ちゃんが、skill-levelが低い棍棒を使っても、オークを倒せる理由。

【武の力】=skill-level・Ⅲ以下の武器、技の使用時、DEXの20%を+する。

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