新/014/それぞれ
二話同時投稿、二話目。更に少し遅れて+α投稿。
簡単な登場人物紹介を投稿します。良かったら覗いてください。
夜月&七海は出できません。
桃園雛は屋上へと続く階段を、軽やかに、されど音を立てずに降りていく。
気配の消し方は、未だに尊敬する怪物には及ばないものの、本職にも劣らないレベル。
(やっぱ使えなかったッスね)
先程の戦闘、光がオークの眼球に角材の破片を突っ込んだ所まで見ていたが、やはりと言うべきか、全く戦闘になっていなかった。
もっとも、一般人に期待した方が間違いだと言えば、そうなのだが。
雛は光が転がり別の角材を持って立ち上がった時には、すでに屋上の入り口から脱出していた。
これ以上付き合う気は無い。
今後屋上の生徒達が頼れるのは、ヒーローの悪運くらい。すでに屋上での目的を達した彼女からすれば、留まる価値などありはしない。
何もあのオークに負けるとはさすがに思ってはいない。両者ともにボロボロなら、技術も無く、感覚器官を失ったオークは十中八九敗北するだろう。
だが全体的な勝ち負けで言ったら、間違いなく光達の敗北だ。
梅宮鈴火は心がへし折られ、近藤匠はボロボロ、桐原光も幾つものダメージが溜まって、これ以上の戦闘はできない。
再びバリケードを構築しても、救助など来ないのだから、外に出るしかない。だけど主力が使い物にならない以上、彼らが助かる理由は無かった。
雛としても友人は確かにいるが、自分の命と比べれば安い交友関係でしかない。
その程度の情で巻き込まれたらたまったモノではない。
(──おっと)
そんな事を考え、四階から三階に降りて行く途中、オークが三階の階段の前にいた。
もちろん降りる途中でしっかり気づいているので、手すりの影に隠れた。
可愛らしい顔を僅かに覗かせる。
(相変わらず気持ち悪い──げっ!)
最悪なモノを見てしまった。
その端正な顔を歪ます。
オークは汚い腰布を着けていなかった。当然パンツなど着ているはずもなく、股間には見たくもない醜悪なモノが存在していた。
しかもそれだけでは無い。小脇に一人の女性を抱えている。服はびりびりで全裸に近く、チラリと見えた顔は虚ろで、瞳は光を宿していない。息はあるようだが、あれでは死んだほうがマシだろう。
(あれは、夜月先輩のクラスの……)
名前は確か──三上先生?と雛は曖昧な記憶を掘り起こす。
ぐちゃぐちゃに犯されて、生きながらに死んでいる状態の教師を見て、友人を棄てるくらいドライな雛だとしても、さすがに同情を禁じ得ない。
これから子を産むための繁殖用として生かされるとすると、あまりに憐れだ。
今ここで、あのオークを始末し、殺してあげても良い様な気もするが、リスクは避けたい。
怪物である夜月と違って、雛の身体スペックは普通より少し高い程度。体力には自信があるとしても、有限。やむ得ない時なら戦うが、目の前にいるオークは、階段前からゆっくり通り過ぎようとしている。こちらが仕掛けない限り、通り過ぎてエンカウントはしない。戦う理由は同情のみ、とくれば雛にとっては理性が勝る。
(すいませんね)
内心で謝り、すぐに気持ちを切り替える。
今危険なのは、自分とて同じなのだから。
自分の安い同情では三上に失礼だし、あまり情に流される訳にはいかない。
雛は表情を引き締め、オークが通りすぎた後、慎重に気配を探りながら降りて行く。
行く場所は情報屋。
当初は場所が分からなかったが、生徒会の書記、中條咲のおかげで場所の把握は出来た。
夜月がいるかどうか分からないが、それでも目的地として情報屋を選択するのは悪くない。
(とにかく、生き延びないと)
◆◆◆
「──はあ、はあ、はあ、はあ」
ようやく、終わった。
オークがそのLPを全損させて、幻想的な光へと変化していく傍ら、光はそれに見とれるほどの余裕も無く、コンクリートの床に片膝をつく。
息は荒く、殴られ、痺れ、血の滲む肉体。意識は朦朧としていて、倒れずに身体を支えているのは、親友の安否に対する心配だった。
何度打ち合っただろう。角材の破片はそこら中に飛び散り、光の掌に食い込み刺さっている。
こっちは攻撃を殆ど食らっていない。ほとんど掠ったり、防いだりした時のダメージが蓄積されている。両腕に感覚は無い。
オークは異様に打たれ強かった。
片目を失ってなおも、暴力を振るい続けた。
それでも、叩き続けた。手の皮が剥け、肉が見えても。
ようやく倒れたのは、角材では無く拳で殴っていた時だ。
ほぼ無我夢中で、拳の骨が脱臼したのにも気づかなかった。
「……匠」
ふらふらの足で歩み寄る。
近くに鈴火はいない。どうも他の生徒達同様に、逃げたらしい。もっとも、今の光は気づかないが。
僅か十メートル程度の距離を、十秒近くかけて歩み寄る。
ほとんど倒れる様に座って、匠の身体に手を振れる。
脈はしっかりしていて、呼吸も問題なさそうだ。
光の両目から涙が流れ落ちる。死んでいなかったという安堵に。
とはいえ重症なのは見て明らか。頼れる親友を今すぐにでも治療しなくてはならない。
自分すら危険な状態だというのに、他者を思う心は微塵も衰えていない。いやむしろ、この状況だからこそ、光の中の正義感は膨れ上がっている。
四肢に力を込めて、光は必死に立ち上がる。
早く、誰かに匠を治療してもらうため、そして──
「………七海」
早く彼女の元に行かなくてはならなかったからだ。
光にとって大切な存在。
戦っている時も、彼女の笑顔を思い出すだけで、四肢に力が戻った。
そんな彼女が今、こんな理不尽な世界に一人でいるとなれば、光は倒れている暇など無かった。
実際に戦う事でオークの危険度は良く理解出来た。
「安心しろ。必ず俺が、君を助けに行く!!」
光は最悪の勝利と共に、それでも前に進むと、心に確固たる覚悟を決めた。
◆◆◆
《ホブゴブリン/rankF
level-average:8
energy-average:LP:70/MP:10/SP:60
physical-average:STR:20/VIT:20/AGI:16/DEX:12
magic-average:M-STR:8/M-PUR:9/M-RES:5/M-CON:7
ゴブリンの上位個体。
体格が人間に近づき、力も強くなった。
ゴブリン同様、雌はおらず、近親種を孕ませ繁殖する》
「──だ、そうですよ~。椿ちゃ~ん、頑張ってくださ~い!」
分かったけど、全く緊張感が無いな、六花は。
私、神崎椿は、後ろに余裕綽々な主人を護りながら、目の前にいる醜悪なモンスターに目を向ける。
緑色の肌、らんらんと血走る濁った瞳、黄色い乱釘歯を持つ醜悪で嫌悪感の走る姿のモンスター、ホブゴブリン。
今まで戦っていたゴブリンの様に、小学校低学年ほどの体躯では無く、日本の成人男性くらいの体格がある。
ゴブリンのphysicalより5~10ほど上がっていて、普通の人間の初期physical値よりも少々高い。
とはいえ、私の敵にはならない。
「ギイィ!!」
奇妙で聴くに耐えない甲高い声を発しながら、手に持った粗末な短剣を突き出してきた。
遅い。毎日毎日、自慢の義息を相手に組手をしている身としては、欠伸が出るほど遅い。
身体半分ずらして避けるのと同時に、左足で敵の右足を踏みつける。
「ギャッ!!」
特製の革靴越しに、骨を砕く感触が伝わる。
ホブゴブリンは短い悲鳴を上げて、崩れていく。
私は手にもったサバイバルナイフで、崩れ落ちるホブゴブリンの頸動脈を素早く刺し、帰り血を浴びたく無いので抜かずに手を放す。
「──っ!!」
掠れる悲鳴と共に、崩れ落ちたホブゴブリンは転がり、ナイフが外れ、血を吹き出し、次第に動かなくなっていく。
最期には幻想的な光となって溶けて消える。
残るのはナイフと二つの袋だけ。
未だに理解は出来ないが、この事態が発生してから三時間以上。
六花の意向でスイーツを食べに練馬区まで来ていた私達は、現在とある繁華街まで辿りついていた。
繁華街も含めて、今まで出会ったのは弱い敵しかいない。その代わりに、モンスターの数が多い。ホブゴブリンは初めてだけど、ゴブリンならすでに四十一体倒している。
「さっすが~♪で、で?アイテムはな~に?」
そんな状況でも全くぶれない六花は、関心よりも呆れてしまう。
はあ、何か危機だって実感が湧かないな。
一応危機的な状況であるのは事実。機械が機能しなくなって、モンスターが跳梁跋扈するこの状況。未知の驚異ほど、恐ろしいモノも無い。
だが襲ってくるモンスターは弱く、90あるSPが三時間戦って8しか減らない。ハッキリ言って、危機らしい危機は一度もない。
当初はとても警戒して隠密行動をとっていたのだが、戦うより隠密行動の方が体力の消費が激しいと気づいてからは、周囲に気を配りつつも、今のように返り討ちにしている。
「おっと?ホブゴブリンの牙?な~んだ、ゴブリンと大差ないね~」
「勝手に開けないでよ」
まあドロップアイテムに危険は無いんだけど、一応万が一を警戒して欲しい。
このドロップアイテムも未だに納得がいかない。なんでアイテムとお金を落とすの?
お金の方は、23C。ゴブリンが8~13Cくらいだから、倍程度
気配を探って周辺の警戒を行う。
うん。大丈夫。
一旦その辺の建物の中で休もうかな?私はともかく、六花のSPは少なめだし。
「よー君、大丈夫かな?」
曇天の空を見上げて、ポロっと呟いてしまった。
それを聞いた六花は、不思議そうな顔をして、首を傾げる。
「??家の子の心配ならともかく、よー君の心配は必要?」
いや、当然七海ちゃんの心配もしてるよ。
だけど私が心配してるのは、やはり義息。
これは義息だからというのも、やはりあるが、ちょっと違う理由だ。
神崎夜月の強さは、一言で言えば怪物。
身体スペックは超人的だし、それに何よりも、どんな状況でも乱れない不動の精神力は、もはや人間という括りに置く事はできないだろう。
この状況で生き抜くには、能力的に全く問題ない。鼻唄混じりに死と暴力の道を闊歩するだけの力が、よー君には有る。
だが問題はその精神構造。
彼は自分の死という事に対し、微塵も興味を示さない。
死は生物にとって恐怖の対象であり、その恐怖が防衛本能や生存本能に繋がる。
能力的には何の問題も無いのに、その精神的な構造上、自分の死を全く計算に入れないのだ。
この状況では致命的な欠陥だ。いや、この状況で無くとも。
唯一の救いは、七海ちゃんと一緒にいる事だ。
よー君は七海ちゃんの事を、この世の何よりも大事に思っている。
七海ちゃんを通して、よー君は仮初めの防衛本能と生存本能を発揮している事だろう。
全ては七海ちゃんのために。
それが唯一の救い。
七海ちゃんには感謝だね。
七海ちゃんが居てくれるからからこそ、よー君はなんとか人間性を保っている。
七海ちゃんはよー君に依存しているし、よー君も七海ちゃんに若干依存?している。
だからよー君は、なんとか大丈夫だろう。七海ちゃんが近くにいる限定での、危うい現状だけど。
「まあ、なんとかなるんじゃない?七海は運だけは良いし」
「運だけはって……」
「あ、ロリコンに信仰される容姿もあるか」
君はそんなんだから娘に敬遠されるんだ。
まあ、七海ちゃんが健在な限りは、よー君も大丈夫だろう。
「んじゃあ合流できる様に、早いとここの郵便局に入ろうじゃない♪」
「そうだね」
私達は目的地である郵便局に入っていく。
夜月ママ&七海ママがちょっと登場。
ゴブリンです。貰えるexpは4~7くらいです。群れます。




