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新/010/巨猪のライン

二桁=010になりました。

でもまだまだ序盤なのです。

話の進みぐわいも微妙だなぁ~。


ちなみに今回、001に出てきた奴が出てきます。


 不味いビスケットにも文句を言わず、ナナは六枚全部を食べた。

 その後、俺の膝にタオルを敷き、膝枕をして寝かせた。

 SPを確認すると順調に回復しているようで、2だったSPは6まで回復している。


 これまでのナナに止めを刺させた十回の戦闘で、経験値一割が四回、三割が六回を獲得。expは32。level2となった。

 BPはSTRとVITに5と5で振り分けた。元々が低かったせいか、明確な強化を感じ取ったらしい。とはいえそれでも中学生levelを少し越えたくらいだけど。


 LP、MP、SPもまた増えた。こっちは自動らしい。

 LPは13、MPは60、LPは13。MPと他の上がり方が違うのは、本人の特性だろうか?

 元々この数値はばらつきが目立つしな。


 ちなみに現在俺のexpは212でlevel5。さすがに総合40とか上がってるから、嫌でも実感している。気持ち悪くらい精密でスピーディーになった。筋力も結構上昇した。微妙な心境だがな。

 若き天才が丸一年トレーニングに励んでも、これだけの変化を得られるか……。少年漫画の馬鹿げた主人公でもなければ無理な変化かもしれにない。


 そうなんとなく思いながら【Status】を確認しつつ、現在ナナが寝てから一時間が経った。

 確認の他にも、ナナが寝ている間に俺は豚肉を売って金を稼いでいた。豚肉一つ20C。十四個あったから280C。現在の所持金は、ナナと合わせて578C/2S=7780円。

 命の価値は、あまりにも安い。


 おっと、そろそろナナを起こさないと。

 まだSPは全快に近いが、全快ではない。もう少し休ませたいのだが、電気が無い以上は明かりも無い。夜になれば危険だ。今日は曇りだし、星や月の明かりも期待できない。


 今日はこれ以上、ナナに負担はかけられない。

 かといって、この所持金で情報を買えるだろうか?

 情報の価格は相応に高いはず。G以上かかる可能性だって十分にある。

 ナナに負担をかけずに金を稼いで行くには、やはり俺が殺らねばならない。


 まず、ナナには慣れない隠密行動は止めよう。疲労を増大させるからな。

 経験値稼ぎの殺傷行為も止めさせる。いくらモンスターとはいえ、殺傷行為には少なからず精神的な負担がある。

 この二つを止めさせれば、ある程度の負担は減るだろう。


 しかし同時にそれは、オークとの正面衝突が増えるという事だ。

 正面から殺意を浴びせられて突撃されれば、巨体の圧迫感も伴って、全身に恐怖が襲う。

 それは、慣れない人間にとって、多大な負荷となる事だ。


 しかしそれには簡単な解決策がある。

 それは、その迫り来る恐怖を意図も容易くはね除ける、絶対的な力への信頼。

 つまるところ、ナナに俺がオークを蹂躙する姿を見せれば良い。


 幸いな事に、オークは弱いし、気配察知などのskillも持たない。蹂躙は容易だと思われる。

 ただ、ナナから十メートルくらい離れる事もあるだろう。それがネック。

 まあ、なんとかやってみるか。



 ◆◆◆



『ブオ?』


 三体のオークの内、真ん中の一体が後ろを振り向いた。

 横転した車。砕けたコンクリート。食い散らかした人の死体。

 つい数時間前まで現代だったと言われても誰も信じないだろう、世紀末的な光景が目の前に広がっている。もっとも、オークにとっては興味の無い事だが。


 オークが振り向いた理由は、風に乗って来た臭いだ。

 人の臭い。それも一人は(おんな)の臭い。

 他の二体も若干遅れでその臭いに気づき、後ろを向いた。


 振り向いた先、分かれ道になっている場所に、人間の(おとこ)が一人。雌の姿は無い。隠れているのだろう。

 三体は先ほど人間を食らって腹を満たしている。なので目の前の雄には興味はない。雄の方は早々に殺して、雌を引きずり出して犯す。

 オーク達の共通の意識だった。


 内心ではすでに雄は死んだ事になっており、雌を犯す事だけが頭を占めていた。

 一歩、二歩と、雄の元に近づく。


 人間は脆く弱い。

 自分達が持つ棍棒の一振りで死んで、奴等の一振りは猫の一咬みにも劣る。

 そんな脆弱な生き物など、敵ではない。


 そう敵では──無い……はず…だった……


 オーク達の短い足が一斉に止まる。

 脊髄に電撃にも似た仮想の痺れと痛みが走って硬直を起こす。

 強烈な臭気を伴った汗が全身から吹き出し、血の臭いが乗る風が体を冷やす。

 そして、心音が早まり、呼吸は荒くなる。


 もしも──野生を忘れた人間ならば、理解出来ずに欲望によって進んだだろう。

 もしも──野生に身を置く獣ならば、本能で感じ取って一目散に逃げただろう。


 しかし、人間と獣。中途半端にその二つが混ざりあったオーク達は、感じ取り足は止めたものの、欲望が邪魔になって後退できない。

 結果の硬直。


 目の前の人間、のようなナニカが笑った。

 その瞬間、ダガーが真ん中のオークの眉間に深々と刺さった。

 倒れる。

 それを見ていた二体のオークには、その倒れ行く同胞の姿が、あまりにもゆっくりと感じた。


 ダガーの投擲。

 見えていなかった訳ではない。

 しかし、素早く滑らかに一点の無駄も無い動きは、例え硬直が無かったとしても、反応を許さない美しく洗練された業だった。


 もっとも、オークに理解できたのは、仲間の死と、捕食者(・・・)たる敵の力だけ。


 二体のオークの中に、同胞を殺された怒りと、圧倒的な実力差による恐怖がせめぎ合う。

 元々深く考えるタイプでは無く、欲望に忠実なオーク達は、恐怖よりも仲間を殺された怒りが勝った。


 硬直が解ける。

 二体のオークは四肢に力を込めて走り出す──と同時に、右側のオークの眉間にまたしてもダガーが刺さる。


 しかし怒りによって暴走した右のオークは気づかない。

 数歩走って右のオークは倒れる。前に走っていた勢いと自重によってごろごろ転がる。既に意識無く瀕死のオークは、身体中の骨を折り、抜けたダガーの後から盛大に血液が噴き出す。

 二体目が死んだ。


 残ったオークには、その事は見えていない。

 怒りと欲望と恐怖が混ざった混乱の中、すでに敵に棍棒を振り回す事しか頭に無い。


 オークはついに、人間の雄の前に到達して棍棒を振り上げ──た瞬間には、雄はもういなかった。


 しかし、オークは気づいていない。

 棍棒を振り下ろす。

 力を込めただけでコントロールを全くできていない棍棒は、アスファルトに激突。反動が自分の腕に跳ね返り、棍棒を取り落とす。

 落とした棍棒を拾う事も無く、人間を探して暴れまわる。


 短い腕を振り回し、壁に、電信柱に、車に突進して──最期に倒れる。


 倒れた後、遠退く意識で辛うじて開く事の出来た視界の中、人間の雄は意外にも近くにいた。

 手には、長細い何かを持って。


 数秒後、真っ暗な闇の中に、最後のオークは消えていった。


 ◆◆◆



《オークlevel11撃破!!

 exp:16

 bonus:【秒殺+20%】【一撃+10%】

 total-exp:21》


《オークlevel10撃破!!

 exp:15

 bonus:【秒殺+20%】【一撃+10%】

 total-exp:20》


《オークlevel10撃破!!

 exp:15

 bonus:【秒殺+20%】

 total-exp:18》


「……呆気ないな」


「ま、この程度だろ」


 オーク三匹を無事撃破した。

 かなり余裕だった。

 まさかあの程度の威圧で足を止めるとは。その後も激しく混乱してたし。


 今まで少し過大評価しすぎたかもしれない。

 未知の状況と、テレポートの様な突然の出現で、俺の中で随分と評価が上がっていたらしい。

 テレポートの方は、あれから一度も確認できないし、オークの力は大分前から底が知れてる。いやはや、感が鈍ったかな?ナナの護衛に気を割き過ぎたのかもしれないな。


 ナナは元から俺の戦闘能力を信頼しているが、これで改めて確認できたはず。

 この未知の状況でも、俺の力は鈍ってはいない、とね。

 これで精神的に余裕が出来るだろう。



 ◆◆◆



 三車線の道路に、ソレは居た。


 それなりに車の往来が多い場所であるが故に、あちこちに車体がベコベコになった車が多く存在している。

 しかし偶然か、それとも意図的か、道路の中央は不気味なほど真っ直ぐ空いていた。

 左右に車の残骸と人の死体が転がっているため、道幅は狭くなっているのだが、あらゆる生物がその道を、途方も無く広く、長い道だと感じ取っている。


 その道に、猪がいた。


 深紅の毛皮の巨大な猪。


 巨体は間違いなく軽自動車を凌駕する大きさ。

 赤い毛皮は熱を放出しているようで、周囲の空間を捻じ曲げている。

 歩く度に揺れるアスファルトが、その巨大な赤い猪の力を象徴しているようで、人間のみならず、オークすら膝を震わせる。


 そう、その道は、赤き巨猪の通り道。


 巨猪は辺りの生物の気配を探る。

 人間の気配は近くにたくさん存在してはいる。ただ、それぞれ屋内の、それも上階に逃げて身を潜めているため、巨猪には手が出せない。

 無論、手が無い事も無いのだが、それをすると建物が倒壊して自分も巻き込まれる可能性があった。故に手は出さなかった。


 とはいえ巨猪は慌てる事も無く、冷静に降りてくる時を待った。

 どうせ降りてくる。降りて来ざる得ない。

 その時に、狩ればいい。


 巨猪には、獣とは思えないほどの知性を誇っている。

 だからこそ、その事実を理解していた。


 赤き巨猪はそこらにいるオークなどとは各が違う。


 そしてその事は──物陰から観察する夜月が一番理解していた。


(……やべえ)


 無論ながら、夜月はここに訪れる前からあの巨猪を察知していた。

 しかし、ここを通らねば目的の情報屋にはつけない。


 遠回りすれば別なのだが、大幅なタイムロスになる。

 体力的にも時間的にも厳しいロス。それを避けるためにも、ここを通らなくてはならなかった。

 一応は気配を探り、出来るだけ離れた場所で風下を取った。

 それでも伝わってくる力は、夜月の警戒心を刺激してくる。

 オークばかりで楽勝ムードだった夜月に、巨猪は冷水を浴びせた。


(運悪くこっちに向いてるな)


 今横切れば、気配を消している夜月でも間違い無く捕捉される。

 巨猪との距離、50メートル。

 距離的に考えれば通り抜けても追い付かれない、かもしれない。

 しかし直感的に把握される巨猪の力は、夜月に賭けに出る事を拒ませる。


(しょうがない。あいつが後ろを向いて、少し離れたらナナを抱えて走り抜けよう)


 風下なので、臭いでは捕捉されない。

 そして、気配を隠しきれてないナナを把握できない点から、この距離まで気配を探る事はできていない。

 この距離で捕捉するには、視覚か聴覚でしか無理なはず。


 大丈夫。

 もしもこっちに来れば、ルートを変える。

 ロスだが、戦闘するリスクには変えられない。


 断って置くが、夜月は勝てない訳ではない。

 今の装備では無傷での勝利が不安なのと、ナナの安全確保、それからもう一つの理由で夜月は踏み止まっているのだ。


 無傷での勝利は、今のところ絶対条件。

 ナナを守れるのは現状、夜月のみ。

 怪我を終えば、リスクが高まってしまう。

 もちろん、夜月は骨折程度一日もあればほぼ回復するという、ふざけた回復力を持っている。だが逆に言えば一日かかる。その一日の間、ナナの安全に支障が出てしまうのだ。それは今の状況では選べぬ選択だった。


 それにオークのように蹂躙はできない。

 戦闘中、ナナに割く余裕が有るかどうか分からない。

 万が一、他の敵が来たら即座に対応できる保証が無い。


 そして最後の理由だが、ここには多数の人間がいるという事だ。

 無数の恐怖の視線が、あの巨猪に降り掛かっている。

 道路の両脇の建物の中に逃げ込んだ人間達の視線だ。


 この降り注ぐ視線は恐怖と同時に、助けを求める希望が含まれている。

 もしも、夜月が戦い、倒してしまえば、間違いなく夜月に希望を求めてくる筈だ。

 たった一人でも見殺しにする様な現状で、こんな多数に希望を与える訳にはいかない。


(やっぱ、遠回りして行くべきかな?)


 だが今更だと思い、巨猪が振り返るのを待った。

 ズシン、ズシンと響く足音。アスファルトから伝わる振動から考えて、どう見積もっても2トンはある。


 様子を伺っていると、巨猪は止まった。

 夜月とナナの存在がバレた訳ではない。


 夜月の鋭敏な感覚の糸に引っ掛かる存在が、巨猪の背後にいる。

 数人の男達が、巨猪の後ろを通過しようと試みていた。


 どうやらビルに立て篭るのに限界を感じて外に出てきたようだ。

 巨猪が後ろを向いている時を狙って、ここから脱出しようとしたのだろう。

 行き先は、食べ物のありそうな場所だろうか?


 しかしそんな事はどうでもいい。

 これは、その男達にとっては、不運であり。

 そして、夜月達にとっては、幸運だ。


 何故なら、80メートルほども離れた場所からですら感じ取れるお粗末な隠行。

 気配とか以前の問題で、足音も殺しきれず、風上にいるため臭いも流れている。話し声すら聞こえる始末。


 巨猪が後ろを振り返る。

 当然だ。気づかない獣がいるとしたら、中途半端なオークくらいだろう。


「「ひっ!!」」


『ブモオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!』


 男達のみっともない悲鳴が、巨猪の猛々しい雄叫びにかき消される。

 夜月はナナの耳を反射的に塞いだ。


 先ほど夜月がオーク達にやったのと同じ、威圧だ。

 獣特有の、されど旧世界では存在しないだろう強力で強大な猛々しい殺気。

 それが雄叫びとなって、周囲に広がる。


「「~~~~~っ!!」」


 男達は恐怖により硬直する。

 いや、二人ほど気絶している。アンモニア臭が風に乗って来る事から、失禁した奴もいるらしい。


 ともかく、男達の死は確定した。


 巨猪がその巨体を震わせ突進する。

 アスファルトは砕け散り、大気は震える。

 元から高温を発していた毛皮が、赤く輝き燃え始める。

 美しいほどの真っ赤なラインを描き、硬直し気絶する男達を蹂躙する。


(すげえな)


 夜月が感嘆したのは巨猪のスピードだった。

 男達との距離は30メートルといったほど。その程度の距離で、時速60キロはくだらない速度に達した。

 その瞬発力は驚異の一言。


(見ている場合じゃ無いな)


 夜月は七海を抱き抱え、道路を横断する。

 その隠行は完璧。

 ガラス片やコンクリートなど、様々な物が散らばる道路においても、一切足音を立てない。気配も完全に消えているため、察知するにはしっかりと視覚で捉えなくてはならないだろう。


「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「誰かああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「嫌だあああああぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁあ!!」


 男達の悲鳴によるバックサウンドにも眉一つ動かさない夜月は、二秒とかからず横断に成功する。

 そのまま正面の道を走り続ける。

 七海は学校でのお姫様抱っこ(トラウマ)が再燃していたが、そこは乙女の矜持でなんとか耐えていた。


 横断してから50メートルほど走り、道を曲がる。

 敵がいない事を確認して、七海を下ろした。


「ううぅ~」


「吐くのか?二回目は勘弁してくれよ」


「うるさい!吐かないよ!!」


 こうして死のラインを超えた。

 数人の男達の犠牲と共に。




【秒殺】:戦闘開始から十秒以内で、敵のLPを全損させる。

【一撃】:敵のLPを一撃で全損させる。【暗殺】の条件に、一撃が含まれているため、【暗殺】判定時にはそちらに組み込まれている。


巨猪と現在の夜月との力の差は、五分くらい。

無傷は無理。


すいません間違えました。変えます。

三体目のオークは毒の後に刺し殺したので【一撃】判定はでません。

後、毒殺は持続効果なので【一撃】判定はでません。

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