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「警報? 何がどうなってるの?」
メアリーと共に通路を移動していた理人も異常には気付いていた。しかし呆けている間もなくメアリーは足取りを速める。しっかりと理人の手を掴んだまま。
「大丈夫。敵はここまで入れない。貴方は必ず守るから」
「いや、僕救世主なんでしょ? 戦わなくていいの?」
「戦いたいの? 貴方は」
ようやくメアリーとコミュニケーションが成立したというのも理人にとっては喜ばしい事であった。つんのめりそうなほどの速力でメアリーが理人を引っ張っているのでなければ、もう少し落ち着いて話も出来るのだが……この際贅沢は言うまいと思い直す。
「桂さんは異世界人を退けろといった。救世主の力でね。って事は僕にはあいつらを退ける力があると考えるのが妥当だ。それが必要だって事も明らかでしょ」
「そう。確かに貴方には敵を退ける力がある。でもそれ以上に貴方の存在そのものが貴重であり……同時に危険でもある」
「どういう意味?」
「貴方はこちらの切り札であると同時に弱点……だから、可能な限り敵からは隠す」
そういいながら理人が連れて行かれたのは更なる地下へと続くエレベーターであった。メアリーは結局一度も理人へと振り返らないまま、エレベーターが開いた先でも手を放さず強引に牽引する。やがて通路の奥にある部屋へと理人を押し込むと、外側から扉をロックした。
「あ、ちょっと……! うわ、行っちゃったよ」
冷や汗を流す理人。一方メアリーはカードキーを素早く納めると腰から提げていた刃を抜く。
握りや刃そのもののデザインは日本刀に近い。しかし刀と呼ぶにはそれは分厚く太い。日本刀と同等の長さと反りを持つ、巨大な中華包丁のような奇妙な代物である。
刃を見つめ、無表情に顔を上げるメアリー。素早く踵を返しエレベーターへ飛び込んだ。
一方その頃上層、地下一階。理人達が乗ってきた車両を迎え入れたエレベーターのある搬入口では激しい戦闘が繰り広げられていた。
エスノ機関の制服を着た兵士達、その割合は日本人と米国人で半々といった所である。彼らは物陰に隠れながらマシンガンやアサルトライフル、拳銃で侵入者を迎撃。これにより数人を殺す事に成功したが、侵入者側も物陰に隠れ攻撃をやり過ごし拮抗状態が生まれていた。
「あいつらが持ってる武器、なんなの……? 遠距離からああも簡単にすごい殺傷力の攻撃を飛ばしてくるなんて……」
「恐らくは我々の世界には存在しない武器でしょう。こちらの世界の文明は我々の世界の文明を大きく上回っています。特に科学技術の進歩は飛躍的です」
コンテナの陰に隠れた二人の侵入者――異世界人の兵士。彼らは制服なのか軍服なのか、独特な衣装に身を包んでいた。
下半身はズボン、上半身は着物のような羽織の様なもので、裾と裾は長い。全体的なテイストは和風なのだが、所々それだけとは言えない独自の文化を残している。
何より特徴的なのは全員が顔に装着している仮面である。顔の上半分、鼻から額にかけてを覆うような形の物だ。
持っている武装は腰から提げた刀くらいのもので、そのデザインはメアリーが所持していた物に酷似している。人間を切るというよりはそれ以外の物を殺す用途が主なのか、或いは頑丈さを主眼に置いた物なのか。ともあれこの世界にある刀とは趣が異なる。
「あの攻撃……私達で防げるのかな?」
「阻害するには余りにも早すぎます。矢を止めるのとは訳が違いますよ」
二人組がそうして話している所に搬入口から新たに一人、異世界の兵士が飛び込んでくる。
「ヘイゼル! 遅いよ!」
「すまない。状況は……芳しく無さそうだな」
それは四条学園で理人達の教室を襲撃した男であった。彼は襲撃部隊の指揮官という立場にあり、エスノ機関攻撃に関しても責任者という立場で参加していた。
「俺が埒をあける。ミサギは他の者と共に援護を頼む。刀を貸せ」
ミサギと呼ばれた女は頷いて刀をヘイゼルへと渡す。男は二刀を逆手に持ち直し、静かに深呼吸を一つ。それから目を見開いてコンテナの陰から飛び出した。
その挙動は尋常を遥かに超えていた。エスノ機関の構成員の殆どは訓練された軍人である。その彼らが飛び出してくるヘイゼルの動きを追う事が出来なかった。
鉄の足場を陥没させながら大跳躍するヘイゼル。そのまま逆様になって天井を蹴り、エスノ機関の部隊へと飛び掛る。陣の内側に飛び込んだヘイゼルは着地と同時に周囲に居た兵士を切り刻み、それを盾にして銃撃を防ぐ。
「今! 皆、ヘイゼルに続いて!」
ミサギの声で次々に異世界兵が飛び出す。その動きは訓練されているなんてものではなく、野生の獣を思わせるような軽やかな身のこなしであった。
一瞬で距離を詰めるとエスノ機関の兵士を斬り殺して行く。銃声が止むまでそれほど時間はかからなかった。築かれた死体の山を確認しつつ、ヘイゼルはミサギに刀を投げ返す。
「何人殺られた?」
「四人……。出会い頭にあの武器で……」
「性質を理解すれば防げないものではない。それに奴らに使えるものだ、こちらが使えぬ道理もなかろう。何か特別な資質や仕組みが関わっているのでなければな」
「そっか……じゃあ、奴らの武器を回収しておくね」
「救世主を探す! 俺と一緒に三人来い! 残りは退路の確保と敵の装備の回収!」
素早く指示を出すとヘイゼルは部下を連れて走り出した。狭い通路に飛び込み走り出すと、直ぐに目の前を隔壁で覆われてしまっている事がわかる。
ヘイゼルは迷わず鋼鉄の隔壁に蹴りを放った。生半可な銃弾では傷一つつけられない筈の壁にはくっきりと彼の足跡がついている。が、それだけだ。
「仕方ない。“才”を解禁する。この世界の戦闘力は想像以上だ……出し惜しみはするな」
目を閉じるヘイゼル。次に彼が瞳を開いた時、その瞳は青く輝いていた。
彼の部下達も同様に仮面の向こうの瞳を輝かせる。そうしてヘイゼルが片手を翳すと、その掌から半透明の薄い光の幕が放たれた。それは一瞬で隔壁へ接触し、次の瞬間大穴を空ける。
まるで何か戦車の大砲でも直撃したかのように、隔壁は軋るような音を立てながらぐにゃりと湾曲し穴を空けたのだ。その向こう側ではバリケードを作ったエスノ兵が待ち構えていたが、目の前の信じがたい事に彼らの動きは止まってしまっていた。
すかさずヘイゼルは瞳を輝かせる。次の瞬間バリケードごとエスノ兵の上半身が吹っ飛んだ。血飛沫がぶちまけられる中、同じ様に穴から腕を突き出し、ヘイゼルの部下が光を放つ。
銃声よりも先に悲鳴が上がってしまった時点で打つ手はなかった。エスノ兵達は見えざる何らかの力で引き裂かれ、吹き飛ばされ、捻じ切られ、無残な死体となって並んでいた。そこへヘイゼル達は穴を潜り、悠々と進軍していく。
「一気に力を使いすぎたか……」
仮面を抑えながら肩で息をするヘイゼル。しかし直ぐにそれも終わる。
「武器を奪え。使えそうな物は全てだ」
血溜まりに落ちていた銃器を拾う兵士達。その様子を坂東は近くの曲がり角から見ていた。
銃を握り締めたまま、そこから一歩も動き出せずにいる。隔壁が破られる異常な音を聞きつけて駆けつけてみれば先の惨劇……飛び出せという方が無理な相談であった。
「あいつら……何をしやがった……!?」
緊張と混乱で全身が汗だくになっている。呼吸も荒い。あんな惨たらしい死に方があるか。
全く理解を超越した敵の攻撃を前に坂東の頭は正常に働いていなかった。わかる事はただ一つ、ここから飛び出せば殺されるという事だけだ。
「落ち着け……冷静になれ。考えろ……あいつらは何を……何で敵を殺した……?」
先の光景を思い返す。ヘイゼルは瞳を輝かせ腕を伸ばした。すると掌に光の帯……そう、オーロラだ。オーロラのようなものが見えた。それが急にバリケードまで伸びたかと思った瞬間、バリケードが爆ぜたのだ。僅かな虹色の光を残して……。
きつく目を瞑り呼吸を正す。三つ数えて意を決し、坂東は銃を構えて飛び出した。
すかさず引き金を引く。三度発砲し、兵士の内の一人を倒す事に成功した。しかし全員が坂東へと目を向け、これまでと同じ様に手を伸ばしてきた。
次の瞬間光の帯が伸び――たと思った刹那。坂東は一気に再び物陰に転がり込んだ。
「はあっ、はあっ、くそっ、避けられんじゃねえか……くそっ!」
何かが直ぐ傍で弾けるような音がした。例えるなら空気が爆発するような。片方の耳がじんじんと痛むが、恐らく外傷はない。攻撃をかわす事に成功したのだ。
安堵の息を吐いたのも束の間、既にヘイゼルは距離を詰め曲がり角を曲がっていた。坂東が小銃の狙いをつけるのには問題がある距離も、ヘイゼルが走り抜ける事に関してはなんの問題にもならない。すかさず坂東は銃を向け引き金を引くが、ヘイゼルは僅かに頭を傾けて回避。すぐさま坂東の胴体に膝を減り込ませた。
身体をくの字に折り曲げ、口からどばっと血液を吐き出す坂東。ヘイゼルはスーツの襟首を掴み、大男である坂東を片腕で投げ飛ばした。壁に激突した坂東は血を吐いたまま痙攣し、やがて動かなくなってしまった。
「才を避ける奴が居るとはな……」
舌打ちするヘイズル。そこへエレベーターが上がってくる。音と共に開いたエレベーターに手を翳すと同時、“才”を放った。
淡い光が空間を突き抜ける。しかし開かれた扉の向こうに居た人物は死ななかった。なぜなら彼女は――メアリーは才を薙ぎ払う専用の武器を持ち合わせていたからだ。
剣を一振り、才の虹を霧散させる。メアリーの周囲の壁、床が衝撃で吹き飛んだが、メアリー本人は全くの無傷。ゆっくりとエレベーターを出るとヘイゼルと睨み合う。
「お前は……まさか。死んだ筈ではなかったのか……?」
これまでメアリー・ホワイトの表情は一切なかった。どんな時も冷えた瞳、冷えた唇で感情を一切表そうとはしなかった。まるで人形のように生気を感じさせない少女……その長らく笑顔を作ることを忘れていた頬が、ゆっくりと……そして盛大に軋む。
「ヘイゼル……久しぶり」
光の宿らない瞳を歪め、にたりと笑う。そうして少女は刃を何度も何度も振り回し、興奮を高めながら弾けるように飛び出した。
「――死ね」
「ヘイゼル様!」
すかさず背後から二人の部下が飛び出す。飛び掛るメアリーを刀で迎撃しようとするが、跳躍したメアリーは空中から刀を投擲し一人を倒し、すかさず金色の前髪の下に隠れていた瞳を青く輝かせる。
次の瞬間光の帯がもう一人の兵士の胴体を覆い、見えざる圧力で粉砕した。一部分だけが圧縮された兵士は奇妙な血の流し方をしながら倒れ、着地と同時に死体から刀を抜いたメアリーがヘイゼルへと襲い掛かる。
火花を散らし刀をぶつける二人。メアリーは舌を出しながら笑い、目をぎょろりと開く。
「馬鹿な……お前がなぜ……こちらの世界にいる!?」
「アッハ……! アッハハハハハハァーーーーーッ!!!!」
答えはなく、代わりに返ってきたのは異常な笑い声であった。何度も何度も刃を繰り出すメアリー、その猛攻をヘイゼルは刀で弾き続ける。
刀を受けつつ回し蹴りを放つヘイゼル。メアリーはそれをバック転気味に回避し距離を取る。両者の間が離れた途端、二人は瞳を輝かせた。
きぃんと、耳障りな音が響き渡った。次の瞬間二人の周囲に光が明滅し、その場所が吹き飛んで行く。轟音と共に壁に、天井に、そして床に穴が開く。
それは即ち“才”同士の衝突を意味している。才と才がぶつかり合った時、より強力な才が勝つ。その優劣がつくまでの間は両者の才は衝突地点から周囲へ拡散しているのだ。
間に転がっていた死体も安堵もはじけ、まるで踊っているように床を這う。ぶちまけられる血を浴びながらも両者は一切瞬きをせず、互いに向かって才を放ち続けた。
限界が訪れたのはヘイゼルの方であった。汗を滲ませた表情を歪め歯軋りを一つ、咄嗟に背後へと跳ぶ。彼が立っていた場所が音もなく吹き飛び、続けて目には見えない衝撃波がヘイゼルを追うようにして何度も炸裂した。
「待ってよヘイゼル……ヘェエエイゼェエエエルッ!!」
瞳を輝かせながら歩くメアリー。その進行先、ヘイゼル側に増援が現れる。
「ヘイゼルこっち!」
隔壁の穴の向こうからミサギが呼ぶ。ヘイゼルが穴に飛び込むと同時、その向こうから銃の扱い方を確認した兵士達が銃撃を行なう。メアリーは転がっていた死体を手元まで才で手繰り寄せ盾にしつつ、忌々しげに舌打ちを残して曲がり角から姿を消した。
「ヘイゼル大丈夫!? 何があったの!?」
「才を使う敵がいる……」
「えっ? ど、どういう事? こっちの世界の人間は才を使えないんじゃ……」
「メアリーだ。死んだ筈のメアリー・ホワイトがいた……」
その言葉はミサギも予想していない物であった。口元を抑えながら複雑な表情を浮かべる。
「そんな……メアリー……生きて……」
「だがどういうわけか奴は敵側についている……いや、それが本来あるべき姿なのか」
「そんな! 相手がメアリーなら、話し合えば……!」
「今はそんな甘い考えは捨てろ。奴は既にこっちの兵士を二人殺している」
青ざめた表情で頷くミサギ。ヘイゼルはそれを一瞥して歩き出す。
「一度体勢を立て直す。引き返すぞ」
容赦のないその言葉にゆっくりと頷くミサギ。そうして来た道を引き換えして行く……。
「なんだかもう、何が何やら……」
銃声も断末魔の声もここまでは届かない。地下深く、わけもわからぬまま部屋に閉じ込められた理人は一人で椅子に腰掛けていた。
部屋と言えば聞こえはいいが、そこには固いベッドと机と椅子があるだけで、他には何一つ存在していない。支部長室すらあの有様なのだからこの部屋も同様に準備が整っていないのだろうが、今のままでは牢獄より幾らかましと言った程度だ。
「学校の皆……亮子や浩一……どうなったんだろう」
考えていても仕方がない。とりあえずはこの騒ぎが収まるまで寝て過ごそうか……なんてその発想が既に常人離れしているという事に理人は気付いていない。欠伸をしながら振り返りベッドの上に座ったその瞬間、耳元から声が聞こえた。
「こんにちは、“救世主”」
慌てて飛び退く理人。その視線の先、ベッドの上には一人の少女が腰掛けていた。
長い黒髪、着物の様な衣装。静かで穏やかな雰囲気を纏った少女なのだが、顔に装備している仮面が怪しさで全てを台無しにしている。それでも口元に笑みを浮かべている事はわかるし、なぜだか彼女は悪意を持っていない……理人にはそれが直感的に理解出来た。
「君は……どうやってここに?」
どうやってもこうやってもない。扉は閉まっているのだから最初から居たとしか思えないのだが、それも在り得ない。先程まで理人は部屋の中を練り歩き何か暇つぶしになりそうなものはないかと探索していたのだから。その時ここにでかい人型の物体があれば普通に気付くはず。
少女はゆっくりと立ち上がると理人をじっと見つめた。それから礼儀正し一礼する。
「わたくしの名前はクエン・ユラサ……ここには貴方とお話をする為に来ました」
「だから、どうやって?」
「言葉で説明するのは難しい事です。救世主様、お名前は?」
「秋月理人」
「では理人様。わたくしの手を取っていただけませんか?」
言われるがまま理人は少女の手の上に掌を重ねた。冷たく白い指がしっかりと理人の指と絡み合う。クエンと名乗る少女は頷き、静かに囁く。
「わたくしを信じてくれたのですね。有り難う……」
「いや、まだ信じるも信じないもないんだけど」
「これから貴方の問いに答えます。目を閉じ、意識を掌に集中してください」
再び言われるがまま、目を閉じる理人。そうしてクエンも目を閉じた。二人の身体をゆっくりと、淡い光の帯が包み込んで行く。その刹那、二人の姿は部屋の中から消え去っていた。
次に理人が目を開いた時、そこは施設の外であった。どこかの海沿い、港の近くである事がわかる。潮風に吹かれながら呆然としている理人にクエンは告げた。
「我々はこの力を“才”と呼んでいます。私はその力の一つである“空渡り”を使い、貴方のいる部屋まで移動したのです」
「要するに瞬間移動……テレポートしたって事?」
「てれ……ええ、恐らくは。才には様々な種類があります。こちらの世界にも対応する言葉があるのでしょう。その、てれ……」
「テレポート?」
「はい。それと同じ物であると言う理解で宜しいかと」
腕を組んで頷く理人。それから空を見上げる。
「それで、君は異世界人ってやつなの?」
「はい。我々は天使の言う所の“ゼータ1”という世界の人間です。貴方が住むこの世界……即ち“デルタ4”を侵略する為にやってきました」
視線を下ろし、海へ。漣の音を聞きながら座り込み、それからクエンを見る。
「僕はそのあたりの事情をよく知らないんだけど……一体どういう事なのかな?」
「そうですね……。立ち話でする事でもないでしょう。場所を変えませんか?」
「僕は座ってるんだけどね。まあいいよ。それと君、その仮面なんとかならないの?」
立ち上がりながら問う理人。クエンは微笑み、顔に手を伸ばす。
「これは失礼を……。我々の世界ではこれをつけているのが当たり前なもので……」
そう言いながらクエンは仮面を外した。仮面の下には紅く輝くクエンの瞳がある。だがその瞳は片方だけ……右目には黒い布で覆われていた。
「眼帯?」
「はい。こればかりは外す事が出来ません……どうかご容赦を」
「へえ。折角綺麗な瞳をしてるのに……残念だね」
「綺麗……ですか? そんな風に言われたのは……初めてですね」
少し照れくさそうに、しかしその何倍も寂しげにクエンは笑った。そうして一息つくと仮面を衣の内側に仕舞い、黒髪をふわりと舞わせながら踵を返す。
「理人さんに一つお願いしたい事があるのですが」
「いいよ」
「まだ何も言っていないのですが、良いのですか?」
「出来る事ならね。その代わり色々説明してくれると助かるんだけど」
口元に手を当て笑うクエン。その挙動の一つ一つが上品で、優雅で、なんだかどこかの国のお姫様のようだと……そんな事を理人は考えていた。
「とりあえず街中の方に戻ろう。この辺は再開発地区で、何もないんだ。アメリカ軍の基地くらいしかね」
「この世界の地理には全く明るくないので、案内はお任せしても宜しいでしょうか?」
「いいよ。地元民だからね。まーついてきてよ」
こうして二人はゆっくりと歩き出した。のんびりとした様子はまるで友人同士のようであり、とても殺し合いの最中にある別種の人類同士のようには見えなかった――。