第七十三話 必要性
影峰と優華ちゃんが課題をしている時…1人の男がトレーニングに励んでいた
チームが徐々に能力UPしていく最中…ある1人の男だけ不調に陥っていた
「ふー…!ふぅ…」
学校のトレーニングルームでベンチプレスを上げている扇田の姿があった
本来オフであったが彼1人だけが残り
佐川の監視の下、トレーニングルームを使っていた
3ヶ月前からウェイトトレーニングを始めていた
「よし、最後にクールダウンをしておけ…」
「いや…あと1セット…」
扇田の周りには全身から垂れ落ちた汗が染みていた
もうトレーニングを始めて50分が経過していた
「もうその辺にしておけ、セット数を多くすればいいってもんじゃない
オーバーワーク気味だ」
「くっ…わかったよ…」
その場で座り込み入念にストレッチを始める扇田
その隣で扇田を見下ろす佐川
佐川には扇田の焦りを感じていた
黒禅高校敗戦以前から、余程WCでの敗戦が悔しかったのであろう
あれ以来練習が終わればチーム1自主トレをこなし
スタミナ強化のため朝はロードワークをこなしている
「焦る気持ちは分かるが…怪我をすれば元も子もない」
「別に、焦ってねーよ…」
そっぽを向き否定をする扇田であったが
彼が一番そのことを分かっていたのだ
「確かに今のバスケ部にCはお前ぐらいしかいない
長西がPGに移った今、Cの代わりなんていないん…これがどーいう意味か分かるか?」
「怪我するなってことだろ…分かってる…」
部員数が少ないのがこういう場面で響く
インサイドに強い選手は最早、扇田しかいない
万が一、試合中退場なんかになればそれこそゲームが成り立たなくなる
(ワシには分かる…扇田がこんなところで止まるような選手じゃないことを)
「っし!ストレッチ終わり!」
ほとんど適当なストレッチを済ませた扇田はすぐに立ち去ろうとするが
がしっと肩を佐川に掴まれ
「俺も手伝ってやるからあと10分はストレッチだ」
「うげぇ~…」
その後マンツーマンで入念なストレッチを行った
(もう少しの辛抱だ扇田…)
佐川が扇田の覚醒を期待する中、もう1つ解消しておきたかった問題があった
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「おぉ、長西!お前がPGだって?」
「ん?」
帰り道、学校前で長西に声をかけたのは大宮だ
自転車通学の2人は途中まで自転車を押しながら帰ることにした
「元々俺はPGやったしな…その方が大宮も点取りに専念できるやろうし」
「ははっ、何か悪いね…ぶっちゃけガードの仕事は苦手だったからさ」
「これも監督の構想してたもんやからな」
「やっぱあの監督すげーな…」
2人の話は、ほとんどチームの話で進んでいた
「四神強杯が終わったら春だな…俺としては新入部員が入って欲しいとこだけど」
「俺も同じこと考えとったわ、それもとびっきりインサイドに強いやつや」
「扇田とあと1人欲しいところだよな…欲張るつもりはないけど長身で技術に長けてるやつでさ」
「まぁ、そんな逸材死神バスケ部にはこうへんやろうな…」
未だ評判は死神バスケ部のままであった
新入部員に期待せざる得なかったが
ほとんど能力の高い選手は強豪校に進むだけだ
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「俺が青田典宏だ、お前らは誰だ?」
「門松っす…」
「僕は夏川です。」
門松と夏川の2人は偵察がてらにたまたま桜泉高校の前に来ていたが
こっそりと学校内に進入しようとしたところ
バスケ部の…四神強の1人、青田典宏に捕まった
「その制服見たことねーな…どこの高校だ?」
「光飛高校のバスケ部です」
青田の威圧に押し負けることなく夏川が言い放った
しかし、青田は高校名を聞く途端に吹き出した
「はっはっは!!死神バスケ部のあれか!はっは!!」
当然この笑いはバカにした笑い方だ
必死に怒りを堪えていた2人だが、ついに門松が…
「笑ってんじゃねぇ…」
「あ?雑魚の集まりの部がデケェ口叩いてんじゃねーぞ」
門松の怒りが頂点に達し、右手の拳を振りかざした
それに気づいた夏川が止めに入ろうとしたが
右拳を青田の前でピタリと止め言い放つ
「雑魚って言葉は取り消せ…それと、俺と勝負しろ…!」
「か、門松…」
怒りを寸前で止めた門松、その怒りは1on1でぶつけることにした
断られると思っていた門松達だが
青田はあっさりと承諾した
「はっ、いいぜ…中庭にバスケリングがあらぁ…そこで勝負してやるよ」
青田はそう言い放つと背を向け歩き始めた
その背中から2人はとてつもない寒気を背筋に感じ取ったのであった