第七十二話 宣戦布告?
「翔ちゃん!」
PGに長西さんに決まってから3日後の話
元気な声で僕を呼んでいるのは…神崎優華ちゃんだった
「あれ…優華ちゃん今日居残りだっけ?」
成績不振のために居残り課題をやらさられている景峰
クラスメイトは掃除を終えてぞろぞろと教室を出ているところだった
実質、今この教室にいるのは僕と優華ちゃんだけだ
僕とは違う成績優秀の優華ちゃんが居残ることなんてまず有り得ない話だ
なんといっても、今日は部活がOFFで門松や夏川は2人でそそくさと帰った
「翔ちゃんいっつも赤点だから、課題進まないでしょ?」
「う、うん…正直僕の学力じゃこの課題難しくて…」
案の定優華ちゃんにはお見通しであった
幼馴染の頃から優華ちゃんには何でもお見通しだったな…
僕が風邪引いたときも、周りに心配かけさせたくなくて
嘘をついているときも見破ったのは優華ちゃんだったなー
「そうそう、ここの問題はこうして…」
僕の隣の席に座る優華ちゃんをチラりと見た
幼少の頃から優華ちゃんは可愛かったけど…今は見違えるほどに可愛くなってる…なんて心の中で
静かに呟いた景峰
「翔ちゃんちゃんと話聞いてる?」
「え??う・・うん聞いてるよ!」
慌てて課題のプリントに視線を走らせるが話を聞いていなかったため
問題が呪文にしか見えなかった
「あーもうまた一から教えるね?」
「ご…ごめん」
がっくしと肩を落とし長い長い課題プリントを進めた
時計の針を睨みながらシャーペンを動かしていく
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「翔!」
誰かの声が聞こえふと振り向くと
そこには金髪で短髪の少年が立っていた
瞳の色がブルーで、僕はその少年が誰なのかをよく知っていた
「○○…?」
「ははっ、もう俺のこと忘れたのか?」
「○○!?」
何度も彼の名前を呼ぶが彼はその質問に答えてはくれない
「優華も元気そうみたいだな…今度はコートの上で会おうぜ翔」
彼はそう言い放ち立ち去ろうとした時
今度は別の声が聞こえた
女性の声…?それも聞き覚えのある…
「翔ちゃん!翔ちゃん!!」
「んぇ…?」
バシッ!バシッ!と頭を何度も優華ちゃんに叩かれていることに気がついた
「あぁ!やっと起きた!」
…どうやら僕は寝ていたようだ
課題のプリントを見ると、全て解き終わっていた
「翔ちゃん、課題終わった後に寝てたみたい…私がちょっとトイレに行ってる間に」
「そ…そうなの?全然覚えてないや…でも課題終わったし!」
「最後らへん翔ちゃん寝ぼけてたっぽいしね…」
よく見ると最後の方の問題の回答がめちゃくちゃであった…
課題プリントを手に持ち、職員室に向かおうとすると
寝ているときに見た夢が脳に今でも鮮明に残っていた
「優華ちゃん、覚えてる?」
教室のドアを閉め一緒に職員室に向かおうとしている途中
景峰が優華ちゃんに夢の人物について質問をした
「なにが?」
「亀野光ひかりだよ」
「こうちゃんのこと!?覚えてるに決まってるよ!何たって小学生の頃に同じミニバスのチームだったもんね?」
亀野光は僕と優華ちゃんと幼稚園の頃からの親友で
小学生の頃は僕が転校するまでの2年間ほど一緒のミニバスチームに所属していた
髪の色と瞳の色が鮮やかで今でも脳裏に焼きついているほどだ
「うん、光って僕が転校した後さ何度か手紙くれたけど
今はすっかり来なくてさ」
優華ちゃんは幼馴染の僕たちのことはちゃん付けで呼ぶ
光のことは光をこうと呼んでこうちゃんと呼んでいるのだ
「あ~そういえば私も高校入ってから全く来なくなったなぁ…忙しいんじゃない?」
「だといいんだけど…」
不意に光の身に何かあったんじゃないのかと嫌なことを考えてしまった
ミニバス時代は光の方が僕よりセンスが良くてチームから一目置かれる存在だった
僕の憧れの選手だったな…
「でも、こうちゃん今バスケやってるかわかんないよね…」
「うん…僕もそう思う…。」
光は中学に入学してからはバスケ部に入らずに
サッカー部に入部していた、そのことは手紙で報せてくれていた
今思えばそこから手紙の来る回数が徐々に減ったな…
「惜しかったな・・・光のやつ絶対続けてたらすごい選手になってたのに」
「勿体無いよね…」
そうこう話しているうちに職員室の前につき
担任の大川先生にプリントを渡した
当然のことながら課題に時間をかけすぎたため少々説教され
ようやく解放された
両肩をがっくし落としながら教室へと戻る景峰と
それに付き添う神崎
教室に戻った2人は、再びあの話を始めた
「それでさっき寝てるときにさ、夢に光が出てきたんだ」
「へぇー!それで何かしたの?」
優華ちゃんは興味深々で僕の話に食いつく
「なんか、コートの上で次は会おうって…これってどういう意味かな?」
「えぇ…もしかしてこうちゃん、高校でバスケ始めてるとか…」
僕の考えは優華ちゃんと全く同じであった
夢…ではあるけど、あれほど鮮明に覚えていたら何だか現実に思えてしまう
「ある程度有名だったら噂でも聞くんだけどなぁ」
「まさか東京の高校でバスケやってるとか?」
「ははっ、そんな訳ないよーそれだったら手紙とか送ってくるじゃん?」
2人は顔を見合わせて笑い始めた
そう、そんなはずはない
それだったら僕か優華ちゃんに真っ先に手紙を送って来るはずだ
でも一度は光とコートの上で勝負したかったな…
東京の三大王者
王鐘学園…ピエロ率いる機動力重視のチームであり
東京のIH常連校だ
桜泉高校…四神強の青田典宏率いるチーム
今年もIH出場が予想されていてIH優勝にも近いチームだ
そして白ノ川高校…
「その1番止めろ!!!」
黒のユニフォームに身を包んだ白ノ川高校の1番
ディフェンスについた選手を嘲笑うかのように
シュートモーション…とは言えない
ほとんど片手でボールを投げた
ミドルレンジからの無茶なシュートだが見事にゴールへと吸い込まれた
「な、なんなんだあの1番…」
気がつけば白ノ川高校の対戦相手はトリプルスコアを決められていた
それもそのはず1番の選手が1人で50点も叩きだしたのだ
「ようし、絶好調だな!光!」
白ノ川高校のキャプテンが1番の選手の背中を叩いた
そう、この白ノ川高校の1番こそ翔と優華の幼馴染の亀野光だ
「あいつ(翔)と戦うまでは負けられないんですよ…」
白ノ川高校 亀野光 175cm68kg ポジション…SG
「待ってろよ、翔…俺がお前を倒すその時まで…!」