第五十九話 2人の約束
「今日来るって…本当なんすか?」
神崎に確かめるように聞いた
「そうだよ、だって私昨日会って挨拶されたし」
「え?どんな人やったん?」
メンバーが当然気になるのは新監督の性格だ
厳しければ川島以上に練習量は増やされるだろうし
逆に川島以上に怠け者の場合がある
「えーっと…」
その時
体育館に大声が響き渡った
「死神バスケ部全員集合!!!!!!!!」
思わず身体を身震いさせたメンバー
体育館入り口前に視線を走らせると
扇田と夏川の隣に見たことのない人物が声を張り上げていた
「な、なんすかあのボディビルダー並みの人は?」
「あれが新監督さん!」
「えぇぇぇえええ!?」
明らかにバスケをするような人物ではない…
男の周辺にメンバーが駆け足で集合する
「ふぅむ…君等が死神バスケ部か…」
「あの、もしかして新監督ですか?」
景峰が唐突に質問をした
男はかけていたサングラスを手で外し
「いかにも、わしが今日から監督だ」
「!?」
眼は意外と優しそうな眼をしていた
サングラスをかけなければ普通にいいのに…
てか、わしって…
「わしの名前は佐川力だ、川島の跡は継がせてもらう」
「佐川監督は川島を知ってるんすか?」
「知ってるも何もアイツとは高校時代からの友人だ」
「え、それじゃ川島監督とバスケを一緒に…?」
「ふふっ…懐かしいなあいつがチームの得点源でわしがCとして活躍したもんだ」
川島って高校時代からすごかったのか…
佐川監督によれば高校の試合で1試合70得点などもざらにあったそうだ
相変わらずギャンブル癖は高校の時からついてしまったそうだ…
「早速監督として君等に質問だ」
どんな質問が来るのかと待っているメンバー
「この中でIHに絶対行きたいと思っている者は挙手しろ」
メンバーは迷うことなく全員が挙手した
あのマネージャーの優華ちゃんですら挙手していた
「ふむ、ありがとう手を降ろしてくれ」
メンバー静かに手を降ろした
一体この質問にはどんな意味があったのか…?
「君等のIHへの想いを確かめただけだ、1人でも行く事に躊躇すればそれまでだ
だが、君達は迷うことなく全員が手を挙げてくれた」
「俺等は最初からIHしか目標は決めてへんで…」
「ふふっ、それは頼もしいことだ。君がキャプテンの長西だな?」
「そうですー試合ではPFで務めてました!」
ここでメンバー1人1人の自己紹介が始まった
佐川は小さなメモ帳に部員のポジション等を丁寧にメモを取った
最後に景峰が自己紹介をし
今現在自分の不調のことを佐川に伝えた
「なるほど…フォームを崩してシュートが全く入らないか」
すると、景峰の傍に佐川が近づき
こっそりと耳打ちをした
(それも大問題が…まずはマネージャーの神崎と仲直りが先だぞ)
「えぇ・・あ、はい!」
どうしてそのことを?
もしかして川島監督が佐川先生に言ったのかも…
「それじゃあ今日は軽めに練習をして早めに解散だ
明日からは本格的に練習を始めるから今の内に身体を休めておいてくれ」
「うぃっす!!!!」
メンバーはそれぞれアップの準備をし始める中
景峰はちらりと優華に視線を走らせた
(練習終わったら謝りに行こう…)
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練習が終わり、軽めのはずの練習が
扇田と夏川は練習前に走り回ったせいでバテバテだ
「はぁっ・・はぁっ・・扇田さんと走り回った所為で…」
「ってめぇ!俺の所為かオラァ!!!」
またまた2人は体育館を出て走り回ってしまった
「あの2人は何であんなに元気なんだ?」
「いや、もうほっといてあげてくださいっす…」
しかし大宮ただ1人は黙々とシュート練習を続けていた
「ほんまにアイツはよう練習するもんや…」
「大宮は帝常高校のレギュラーだったんだな」
佐川がメモ帳を取り出し確認をし
「わし個人の考えとしては、あいつこそチームの司令塔として使いたいんだがな」
黙々と練習をしている大宮の脳裏には
帝常高校時代の思い出が走馬灯のように思い出されていた
絶対無敗を掲げたチームというのは入学当初から知っていた
それを覚悟で入ったが…
あれが本当にチームなのか?
「お、おいパスとかもっと回せよ。今のプレーだってほとんど体勢崩れてたじゃないか」
「うるせぇよ…決めたら文句ねぇだろ?」
「……」
これが全国で最強と呼ばれるチームの現状であった
個人の力しか信じず、他人には一切頼らない
パスを回したとしても、ほとんど他人を生かそうとはしない
常に「勝利」の2文字しか考えていないチームであった
反吐が出るね、こんなチーム。
入部をしてレギュラーになって少ししてから
退部を決意した、それと同時に学校まで辞めなければならなかった
推薦でこの学校に入ったがバスケというスポーツ自体が変わっていた
同学年の奴等に説得をされ何とか2年生まで続けていたが
あの男と出会ってから…考えは変わった
「今日、アメリカでバスケしてたうちの留学生が帰ってくるみたいだぜ」
「本場でバスケかい…羨ましいね」
「実力は相当なもんだぜ?大宮でも危ないかもなー」
どんな男なんだ…?気になった俺はすぐさま帰国後のその男に話しかけた
「なぁ。君ってアメリカでバスケしてたんだろ?」
「そうだけど…」
「俺と1on1してくれない?」
男はすんなりと承諾してくれて体育館で1on1した
お互いバッシュに履き替え全力で始める気だ
しかし、終わってみれば大宮の完敗だ
最後には体勢を崩され置き去りにされた
これが同じ2年生で高校生なのか?
「大宮だっけ?才能はあるし悪くないと思うぜ」
明らかに見下された言い方だ
この時、ふと心の中で思った
コイツと別々のチームで戦ってみたい…
「バスケの雑誌で読んだことあるよ…君が日本の高校バスケ界最初で最後のアンクルブレーカー…!」
「ああ、周りにはそう騒がれてる」
光飛高校に転校したのはこの日から2週間後になってからだ
理由はこの男と別々のチームで戦いたいから
それともう1つは、あの男にレギュラーを獲られるのが怖かったから
一度これで俺はあいつから逃げる形となった
今どんなことをあいつが思ってるかは知らない
だから今度はこっちから挑戦して勝ってやるよ
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練習終わりにいち早く体育館を後にした景峰は
優華ちゃんを屋上に呼び出し
あのことについて謝ろうとした
2人は屋上の手すりにもたれたまま言葉を交わそうとしない
(やっぱ気まずいな~~…)
景峰が黙り込んでいる内に優華ちゃんの方から口を開いた
「翔ちゃん、まだあの試合のことで自分を責めてる?」
「え・・?」
久しぶりに自分の名前を呼ばれ少し頭が混乱した
あの試合とは僕が不調に陥った試合
試合後自分を責め続けて最終的に優華ちゃんにまで八つ当たりをしてしまった
「あの時のことは今も覚えてるけど…でももう責めたりはしてないよ
その、優華ちゃん……ごめん!」
やっと口から出た
ずっと「ごめん」の一言を言えなかった
でもやっと、意を決して謝る事ができた
僕は深くお辞儀をしたままだ
優華ちゃんはまだ返事を返してくれない
相当怒っているのも無理はない…
ドスッ!!!!
「ぐっ…ぁ…」
優華ちゃんの掌底が僕の腹部を直撃した
相変わらず力が男以上の優華ちゃんだ…
「ふぅっ…今ので許してあげる!」
顔を上げると久しぶりに見た優華ちゃんの笑顔
あの試合以来険悪な雰囲気だったチームも何時の間にか以前のように戻っていた
「ははっ、ありがとう」
「それと翔ちゃんと私だけの約束しよ」
「なに?」
「絶対にIHに行く事!いい?」
この日約束した2人の約束…これが僕の兄を探すともう1つの目標となった
「うん、約束する。絶対に行くよ」
「行かなかったら掌底100発食らわすから」
「いっ…ひゃっぱつ…!?」
思わず顔を青ざめてしまった景峰
ありがとう優華ちゃんお陰で僕の中で1つの考えができた
僕は急いでこの感覚を忘れないように体育館へ向かった
シュートフォームが出来上がった…