第五十七話 別れ
ここから本当に折り返し地点のようなもんです。
川島の退職から一週間が経ち
その事実を知った死神バスケ部メンバーは
学校の体育館へと呼び出された
やはり川島が最後に挨拶を
「…ほんまに、川島辞めるんか?」
メンバーは何度も確認するかのように問うた
川島が少し前に立ちそれを囲むかのようにメンバーが並んでいた
「ああ、もう退職届も出した。お前達と最後までやれなかったのは残念だが」
当然納得のいかないメンバー
すぐに扇田は川島に詰め寄った
「テメェ!!!どこまでふざける気なんだよ!?辞めるだぁ!?」
「もう決まった事だ、すまん…」
何時ものいい加減な川島とは別人のような顔つきをしていた
扇田もそれ以上は詰める事はなかった
いや、詰める気すら起こらなかったのだ
「先生が辞めたあとは…誰が?」
影峰の口から出た疑問を川島は
「新しい監督を呼んである、まぁちょっと頑固なところがあるけど」
「てか、大宮も入ってきたんすよ!俺達これから始まろうとしてたのに…どうして…」
もう今のメンバーにはどうすることもできなかった
川島の突然の退職
「お前等はもう、立派なチームだ」
「どういうことだ…?」
「あの北之木を破り、そして個々の能力が着実に上がってきている
俺はそれを北之木戦の時に実感した」
俺じゃなくてもっとちゃんとした監督を呼べば
このチームは本当に頂点に立てるかもしれない?
それを感じた川島は自ら監督を辞める事を決意したのだ
このチームならできる
間違いなく
「結局僕達は監督に勝利をほとんど…」
「それでも構わないさ、今はこうして試合をしている事自体奇跡だからな」
一度俺達は崖っぷちに立たされた人間だ
しかし、そんな絶望の淵でもなくなる事はなかった
何時の間にかつけられた「死神バスケ部」のあだ名
端から見れば笑い者だが
これのお陰で俺達はここまで来れたんだ
「長西、お前はこのチームのキャプテンとして今まで以上にチームを引っ張ってくれ
お前が腐らずにいてくれたからこの部活は今も存在してるんだ」
「…うぃっす、今までご苦労さん川島!」
川島が最後に1人1人に言葉をかけた
「扇田!」
「何だオラァ!!」
「お前はリバウンドとしての力は天才だ、あとは得点力を補え
そうすればお前は全国にでも通用する大型PFになれる」
「見とけよ川島…ぜってーIH行ってやるからよオラァ!!」
相変わらずの扇田の怒声に笑顔を見せる川島
「次は夏川!」
「はい。」
「PGとしての力はまだまだ未熟だけど…お前の潜在能力はそんなもんじゃねぇはずだ
今後お前が成長する事に俺は期待してるぞ。」
「必ず約束は果たします…」
そして門松の前に優華ちゃんに視線を走らせ
「神崎!」
「…馬鹿教師!」
「ははっ…お前に毎回のようにちゃんとしろだこうしろとか母ちゃんみてぇに言われたけどよ
嬉しかったぜ。注意してくれる人間いるってこと自体が幸せだからな」
「ありがとう、それとお疲れ様…」
次に門松に声をかけた
次第にメンバーの目に少しずつ涙が溜まっていった
しかし、みんなそれを堪え様とした
まだ僕達の目標は果たせてない
だからまだ涙は流さないでおこうと決めていた
「門松、1年生でありながらその才能はまだ発展途上だ…
今後お前自身のプレースタイルを見つければ、いずれ化ける
とにかく傲慢になることだけは絶対するな」
「はいっす、俺が必ず死神バスケ部を全国へ轟かせます!」
そして、最後に影峰へと視線が向けられた
全てはお前次第でこのチームの運命が左右される
俺はそれだけお前に賭けていた
ギャンブルでは何時も外していた俺だったが
これだけは絶対的自信があった
「お前は進め、どれだけ困難に遭おうがお前だけは進み続けろ!」
「は、はい!」
その返事に自信はあまりなかった…
「最後に一つ…どれだけ天才なアスリートでも必ず原点に戻る」
「原点に…?」
この一言が影峰の大不調を大きく振り払う事となった
大宮にはチームの現状を伝え、励ましの言葉を話した
これで、川島とは本当にお別れだ。
今思えばここから僕達の挑戦は始まったようなものだ
IHへの戦いはまだまだ始まったばかりだ…