第五十五話 小さな光
WC予選の初戦で敗退した光飛高校の死神バスケ部には
大きな課題だけが取り残された
あれから一ヶ月半の月日が経つが未だにチームはバラバラ
練習中もどこかやる気が無いように思える
課題の原因となった景峰は練習には参加するものの以前のようにシュートは決まらなくなっていた
仲間もそのことには敢えて触れず何時ものように接していた
今日もテンションの上がらないまま練習を終え
長西と扇田は帰り道を歩いていた
「なぁ、このままいったら俺等IHなんて無理じゃね?」
隣でコンビニで買った肉まんを食べている長西に視線を走らせ
話題は日常からバスケの話へと変わった
「そう、やなぁ。」
テンションの無い返事が返ってきた
今までムードメーカーとしてチームを盛り上げてきた長西も
最近は少し元気が無い…
だが、そのテンションの低さは逆に扇田をイラつかせた
「いい加減…落ち込むのやめろやオラァ!!」
WC予選敗退から溜まりに溜めてきた怒りが一気に放出された
しかし、長西は相変わらず態度を変える様子は無く
肉まんを食べたまま。
「お前が、いくら吠えたかって…今のチームの現状は変えられへんねん。」
「あん?」
またもや扇田に苛立ちが走ったが
扇田の顔の前にピシっと人差し指を立てた長西
「失った代償はでかいが、得た物は大きいかもしれへんで?」
扇田はこの言葉の意味が理解できなかった
コイツとうとう頭おかしくなったのか?とさえ思ったぐらいだ。
「昨日俺等のクラスに転校生きたやろ…?」
「それが、どーしたんだよ?」
昨日の転校生というのは
長西と扇田のクラスに転校してきた男子
大宮心慈
長髪の茶髪で色白の肌に180cmの長身
転校初日早々クラスの女子に引っ張りだこにされていた
「あのムカつくイケメン野郎がどーしたんだよ…」
わなわなと身体を震わせる扇田
長西は気にすることなく話を進める
「あいつの転校前の高校…京都の帝常高校や。」
「すげー高校なのかよ?」
「すげーも何も、あそこのバスケ部今年こそ予選で敗退したんやけど
過去IH5年間連続優勝しとった全国一の強豪やで…。」
「何もあいつがバスケ部とは限らねぇだろ…」
長西はにやりと笑みを浮かべ
「俺の眼に狂いはない。…あいつ間違いなくバスケ部や」
今はまだ確信とはいかないが
後に彼が暗く闇に閉ざされた死神バスケ部に光を射すことに…
光飛高校の体育館では一人、門松だけが居残って自主練習をしていた
WC予選敗退後彼の心に大きな決意ができた
自分こそがこのチームの得点力になると…
「ふぅ…そろそろ上がるか。」
多量の汗をリストバンドで拭い
リング下に転がっているボールを拾い始める門松
「門松くん」
ボールを拾いをしてると背後から不意に声をかけられた
振り返るとマネージャーの不安そうな顔をしながら立っていた
「神崎、帰ったんじゃなかったんすか?」
何かを言いにくそうそうにしていた神崎だが
ついに口を開けた
「ごめん、ちょっと翔ちゃんのことで話したくて…いい?」
薄々門松自身も気づいていたことであった
神崎と景峰が予選敗退後険悪な関係になっているのも知っていた
「…いいっすよ。」
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学校から少し歩いたところにある荒くれ河川敷の草むらの上で座り込んでいる2人
扇田が過去にお世話になった河川敷だ
名前の通り相変わらずこの河川敷にはゴミしか置いていなかった
紅い夕焼けが2人に綺麗に映り
「ははっ、そーいやここ昔。扇田さんが自主練習に使ってたんすよ」
まずは門松から話題を振る
しかし神埼からの返事はなかった、相当落ち込んでいるように思える
「私が翔ちゃんの勘に触るようなことを言ったのが…いけなかったのかなぁ…。」
あの日に景峰が見せた表情を今でも忘れられないでいた
怒りや悲しみのような表情であった
自分自身を責め立てた結果、私に逆上したのかもしれない。
門松は暫し黙ったままどんな返答をしようか考えていた
「俺も分かんねーすけど…、神崎の言った事は間違いじゃないっすよ」
「え?」
自分の言った事は間違いじゃない…この一言が私は聞きたかったのかもしれなかった
救われた気がした。
「第一、こんなことで俺等死神バスケ部は…バラバラになったりしないっすよ!」
途切れたとしてもバラバラになることはない
それこそが俺達の代名詞でもあった
今はチームはバラバラかもしれない、でもすぐに元に戻る
監督やマネージャーがいてくれて本当に俺達は幸せな部活なんだと思う
そう告げ終えた門松…ちらっと視線を神崎に走らせると
自然と俯いた神崎の目からは涙が流されていた…。
ここまでチームのことを考えてくれる人がいる
俺たちは本当に幸せなチームだ…
長西と扇田のクラスでは放課後
噂の転校生大宮の話題で持ちきりだ
今日も相変わらず大宮の席の周りは他クラスの女子だらけだ
「大宮くんってさー前の学校で部活とかしてたの!?」「身長高いもんね~。」
大宮はにこやかな笑顔で
「バスケ部だったよ。」
小さな光が射し込んだ