第五十三話 大不調の始まり
8月下旬…WCの予選が始まり各チームの激戦が繰り広げられていた
死神バスケ部の真一もこれが正真正銘最後の大会だ
しかし
死神バスケ部の中でも大成長を遂げていたはずの景峰が…
ガシャン!
『あのSG得点力無さすぎだろ!?さっきからどんだけ外してんだよ…』
観客達が呆れながら話していた
そのSGこそ景峰であった
光飛高校VS昭栄高校
両者ほぼ互角のチームであったが
まさかの景峰の大不調により得点が取れないままであった
「ちっ…門松中心にボール回せオラァ!!」
この大不調の中冷静でいたのは川島と長西だけだ
何時かはこの不調が来ると分かっていた
(ハァ…ハァ…何で入らないんだ……?)
バチッ!!!
「ゴール下は俺と扇田が死守したる」
『うおお!!あの関西弁またブロックしたぞ!!』
惜しいよなぁ…個々の能力は高いのにさ
バランスが悪いってか圧倒的に今回は外が弱すぎるし
何であのSG急に調子崩したんだ…?
「時間ねぇ!オールコートでプレスかけろ!!」
真一が声を上げた…しかし時間はもう無い
あれだけ合宿をこなして北之木高校を破ったのに…
クソ…どんどん兄の影が遠のいていく
敵のミスによりルーズボール
すぐさまPFの長西が拾い上げ敵陣へと攻め込んだ
3点ラインに走りこんだ景峰にアシスト
グッとシュートモーションに入った景峰
北之木戦の時とは打って違いフォーム自体がばらばらだ
「まだ…終われない……」
シュッと手から放たれたボールは以前のようにネットに吸い込まれることはなく
リングへと当たり鈍い音を残しながら地面に落ちていった
ブーーーーッ
試合終了のブザーが鳴り響いた
結果は20点差をつけられ敗北…
『結局死神バスケ部のまんまかよ…帰ろうぜー』
『それより今回は北之木とかダークホースじゃね!?』
期待していた観客達も溜め息交じりに会場を後にした
試合終了後ロッカー室では
景峰以外の選手が着替え中で帰り支度をしていた
ガンッ!!!!
ロッカーを右ストレートで殴りこんだ扇田
今日の試合の無様さに怒り込み上げていた
「ざけんなよ!!!俺たち何のために合宿もして目標掲げてきたんだよ!」
「落ち着けや…」
長西がいつものように扇田をなだめた
「でも、今回一番の誤算は景峰君の大不調じゃないですか…?」
夏川がポツリと呟いた
景峰の大不調…これこそがチームの大誤算でもあった
今回でその不調が終わるはずがない
この先ずっとその不調戦い続けることになるだろう…
「ちくしょう…真一もこれで事実上引退だろ…」
一番悔しいの真一のはずだ戻ってきてWCを目標にやってきたが
「悔いはねぇとは言い切れないが…俺も足手まといな部分もあったからな」
「真一が抜けて5人…少なくとも人数不足なのも解消せなあかんな…」
景峰だけではアウトサイドが弱すぎる
少なくともあともう一人シューターが欲しい
それに真一の抜けたPGの穴を夏川では補えない
「まだまだIHへの道は長そうやな…」
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メンバーが全員ロッカールームから出終わった後に景峰が遅れて入ってきた
彼なりに気を遣ったのだろう
今日の敗因は紛れも無く自分だ
自分でも今シュートフォームの状態がわからない
以前のようなフォームに戻せる自信がなかった
「くそっ…」
今日の試合の怒りをぶつけるようにユニフォームを叩き付けた
ガチャ
「…?」
ドアが開いた音が聞こえ振り返ると優華ちゃんが立っていた
「翔ちゃん…」
今日の不調に一番心配をしたのは神崎であった
「今日は…ごめん」
不甲斐ない自分のプレーに謝罪をした
「き、気にしなくていいじゃん!知ってる?プロの選手でも不調になったり…」
必死に励まそうとする神崎
ガンッ!!
神崎の言葉を遮るかのように拳をベンチに叩き付けた
「今日の負けは…どう考えても僕の所為だ…」
「だ…だから何も翔ちゃんの所為じゃなくて!」
「僕の所為だろ!?どう考えても今日の敗因は僕じゃないか!!」
今までこれ程怒りを表している景峰を見たことがなかった神崎は
次第にパニックになり
「しょ…翔ちゃん…」
「真一さんの最後の大会だってのに…僕は…っ!!」
何が死神バスケ部の得点源だ
ただの素人以下じゃないか…
「翔ちゃん…もう自分を責めるのはやめようよ…」
今の景峰に神崎はどうすることもできなかった
せめて彼の気持ちを静めようとした
「帰れよ…」
不意に放った一言
「……」
涙目になりすぐさまその場から駆け出した神崎
自分でも最低な男だと分かっていた
分かっていたけど、今の自分はどうすることもできなかった
こんな中でも兄はどんどん頂点へと駆け上がっているんだろうな…
僕は弱い…
第2部…完