鏡の中
古い、家なのだ。
旧家、というわけではない。
ただ古い。
不便なことが無いわけでもないが、生まれた時から住んでいる家なので、まぁ、愛着はある。
手入れをすれば、家は長持ちをする。
普段あまり使っていない部屋の掃除をしていた。
ラジオをかけながら、ザッ、ザッと畳を拭く。
すっかり色の変わった畳は、少し埃っぽい匂いがする。
掃除に熱中していると、ラジオのおしゃべりに混じって、かすかな音が聴こえたような気がした。
カタリ、コトリ。
ん?と、掃除の手を止めた。
カタリ、コトリ。
小さな音が鳴っている。
部屋には誰もいない。
いやだ、ネズミかしら?
ラジオを消して、音の方に耳をそばだてる。
カタリ、コトリ。
確かに聴こえる。
覆いを掛けた古い鏡台が置いてある辺りだ。
壁に立て掛けてあった箒を握りしめて、一歩、二歩、と慎重に近づく。
柱時計の秒針の音が、やけに大きく感じられる。
出し抜けに、声が聴こえた。
「嫌だねぇ、皺が増えたみたいだよ」
え!?
声に驚いて、咄嗟に鏡に掛けてあった覆いをバッと跳ね除けた。
「あっ!」
鏡の中。
縞柄の着物を着て、髷を結い、お歯黒をつけた年増の女が、吃驚したように声を上げて、バタバタと逃げて行った。
今の・・・何?
しんと静まり返った部屋で、私は箒を握りしめたまま、呆然と立ち尽くした。
ドクン、ドクン、と心臓が大きく音を立てていた。




