第9話 イサク
イサクはすくすくと成長した。
羊の扱いもアブラハムに負けないくらい上達し、剣の腕前も上達した。
何より、素直な心はアブラハムやサラを大いに喜ばせた。
そんなアブラハムの一家にも試練が訪れた。
神がアブラハムに言葉を発せられたのだ。
「アブラハムよ。お前の愛するイサクをモリヤ山へ連れて行きなさい。そして、生贄として私に捧げるのだ」
アブラハムは、唖然とした。
「神よ。私がいったい何をしたと言うのでしょう? 私は神の指示にすべて従って参りました。しかし、今度ばかりは従えません」
だが、神は何も答えてはくれなかった。
アブラハムは、何日も思い悩んだ。
イサクの顔を見るなり、涙がこぼれた。
そして、神のお言葉があってから7日目の朝、アブラハムは、イサクを連れてモリヤ山へ登った。
「父さん。生贄を捧げる祭壇ができたよ。だけど何故生贄の羊がいないの?」
「羊はいらないのだ。神は…… お前を生贄にせよと仰せなのだ」
イサクは、真っ青になった。
無理もない、ここで逃げ出すなら、私がここで命をたとうとアブラハムは思った。
数分間の沈黙の後、イサクは、
「分かったよ、父さん。神のお言葉なら喜んで従うよ。父さん、今までありがとう。母さんには会えないけど、今までありがとうって伝えて」
アブラハムは、号泣した。
息子の前なのにどうしても涙が止まらなかった。
「イサク、もういい。何が起こっても構やしない。お前を失うくらいなら…… 帰ろう」
「ダメだよ、父さん。神のお言葉は絶対だよ。もし逆らったら、僕や父さんだけじゃなく、母さんや奴隷たちも、みんな罰を受けるよ。僕が生贄になるだけで、みんな助かるんだ。僕は喜んで生贄になるよ」
そう言ってイサクは、祭壇に昇り、仰向けになって目をつぶった。
アブラハムは、泣きながら祭壇に近づき、意を決して、剣をイサクの胸の上に構えた。
「イサクッ! 許してくれえっ……」
アブラハムは、剣を振り下ろそうとした瞬間、神の声が聞こえた。
「止めよアブラハム。お前の私に対する忠誠心は良く分かった。これからお前とお前の子孫は何代にも渡り、私の祝福を受けるだろう……」
その声はイサクにも聞こえた。
イサクは立ち上がり、アブラハムと抱き合って喜んだ。




