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第63話 浦島太郎(山幸彦)伝説

仕方なく、針を引きちぎられた場所近い豊後(ぶんご)(大分)の海岸をトボトボ歩いていると、大きな亀がこっちを見ていた。

亀は、

(やま)幸彦(さちひこ)殿であろう。釣り針を無くして困っているのではないか? その件でトヨタマヒメがお待ちじゃ。私の背中に乗られよ」

亀がしゃべった? 

一瞬驚いた山幸彦ではあったが、無くした釣り針の手がかりがつかめそうなので、恐る恐る亀の背中に乗った。

大亀はゆっくり海に入り30(けん)(55メートル)ほど泳いで、急に潜り始めた。

最初は息が詰まりそうになったが、亀の口から薄い皮のようなものが出て、全身包まれると、息苦しさは消え、逆に浮いているような感覚になった。

どれほど時間が経ったか分からない。

辺りは真っ暗だ。

なおも沈みゆく大亀に山幸彦はたずねた。

「大亀よ、どこまで行くのだ?」

「もうじきだ。ほれ、かすかに光が見えよう」

確かに光が見えた。

そして、どんどん光が大きくなり、やがて大きな城が見えた。

城門の前には、美しい娘が立っていた。

「山幸彦様。ようこそ(りゅう)宮城(ぐうじょう)へ。私は、ワダツミの娘トヨタマヒメと申します。日向(ひゅうが)(宮崎)の海であなたを見かけ、好きになってしまいました。さあ、どうぞ中へお入りください」

山幸彦もトヨタマヒメをひと目見るなり惚れてしまった。

中に入ると宴会の支度ができていて、トヨタマヒメのお酌で酒を飲み、タイやヒラメが舞い踊る姿を観ながら、すっかり酔ってしまった。

「山幸彦様。あちらの部屋に布団が敷いてあります。そろそろ参りましょう」

トヨタマヒメの体は、顔に似合わずザラザラしていた。

いわゆるサメ肌だった。

多少は気になったが、めくるめく快感は、すべての嫌悪感を打ち消した。

こうした享楽が三日三晩続いたせいで、いい加減山幸彦も飽きてきた。

そして、ここに来た本来の目的を思い出した。

「トヨタマヒメ。たずねたいのだが、これくらいの釣り針を知らないか? 兄の(うみ)幸彦(さちひこ)に返さねばならないのだ」

「山幸彦様。いずれ言い出すことは承知していました。これは、私の手箱です。トヨタマヒメの手箱で玉手箱と申します。この中に釣り針が入っています。ですが、この箱をあなたが開けてはなりません。兄の海幸彦様に開けさせるのです。この約束を必ず守ってください……」

再び、大亀に乗った山幸彦は、豊後ではなく日向まで送り届けられた。

兄の海幸彦の館に着いたとき、はじめて3年が過ぎていることに気づいた。

海幸彦は、

「お前が、戻らないゆえ隼人(はやと)族が九州を統治することに決めたぞ」

「兄上、釣り針は見つけました。この箱に入っています。ご覧ください」

海幸彦はおもむろに箱を開けると、中からもうもうと煙が上がり、海幸彦とその後ろにいる隼人族に降り注いだ。

そして、次の瞬間海幸彦と隼人族は山幸彦の前でひざまずいた。

「山幸彦様を九州の統治者と認め、我々隼人族は従います」

わけがわからない山幸彦だったがおそらくトヨタマヒメの神通力だろうと思い感謝した。


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