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第52話 始皇帝死の真相

(じょ)(ふく)が倭国へ旅立ってから程なくして、始皇帝、(えい)(せい)は全国視察の旅に出かけた。

中華を統一したといっても、すべての民が服従しているわけではない。

中華を統一しただけでも初めてなのに、郡県制を敷いて、役人を派遣して、法律により国家を統治するとあっては、ほとんどの国民が混乱していることだろう。

こんな大改革を(かん)(よう)で報告を聞くだけでは、実感できるわけがないと思ったからだ。

嬴政が視察に際して、多くの兵隊と共に必ず三人の伴を連れて行った。

丞相(じょうしょう)李斯(りし)宦官(かんがん)趙高(ちょうこう)、そして嬴政の末子の()(がい)である。

丞相の李斯は、(しん)(こく)の法律の基礎を作った人物だ。

アケメネス朝ペルシアの制度に習い、王中心の封建国家から、法によって統治する法治国家を作り上げた。

法がきちんと遵守されているか、誰よりも詳しい人物であるがゆえに、嬴政の伴として欠かせなかった。

宦官の趙高は、嬴政の身の回りの世話をする役目だが、数百人いる宦官の中でなぜ趙高かといえば、かつて(えん)の太子丹が派遣した刺客、荊軻(けいか)に殺されそうになった折、硯を投げて嬴政を救った経緯から重宝されるようになった。

嬴政の末子の胡亥は、趙高の強い勧めで連れられてきた。

幼少のころより趙高が家庭教師になり、様々な学問を仕込んだ。

だが、実は趙高の言うことを聞くように洗脳していた。

統一された秦の国は、とんでもなく広い。

全国を回るのに半年の期間を要した。

ゆえに視察の旅は1、2回で終了すると誰もが思った。

だが、嬴政は納得しなかった。

足かけ7年で5回目である。李斯も趙高も胡亥もうんざりだった。

嬴政だけは元気かといえば、そうでもない。

ある日体調を崩し、自分の命に限りがあると悟り、趙高を呼んで遺書を書かせた。

嬴政は、

「趙高よ、ワシに万が一のことがあったら、その遺書を扶蘇(ふそ)へ届けよ」

「ハッ、ハアッ」

ほどなくして嬴政は崩御し、遺書は扶蘇の下へ届けられた。

(ちん)の後継は胡亥とする。朕に度々の讒言(ざんげん)をした扶蘇は死をもって償うべし」

扶蘇はこの遺書を読むなり、短刀で首を切った。


徐福の手は震えていた。

きつく遺書を握りしめ、ボロボロと涙を流した。

「扶蘇様、あなたはなぜこうも真っ直ぐなのですか? 皇帝閣下がこのような重大な書類を宦官如きに書かせるわけはないじゃないですか。もう少し冷静にお考えになれば対処できたものを…… 口惜しや……」

2ヵ月近く経過して、どう対処したらよいか分からない徐福の下へ倭国から知らせがきた。

倭国からというよりも、李斯からの竹簡(ちっかん)を徐福へ届けるため、倭国へ赴いた使者が、上郡(じょうぐん)へ向かったと聞いたので、追ってきたとのことだった。

使者の竹簡をもぎ取るようにして、徐福は竹簡を開いた。

「徐福よ、お前がこの書簡を受取るころ、おそらくワシはこの世におらんじゃろう。ワシの周りに信じられる者は、ほとんどいなくなった。徐福よ、良く聞け。扶蘇様は亡くなったが、自害ではない。趙高の手の者に殺害されたのだ。巧妙に自害に見せかけ殺害したが、扶蘇様の兵が駆けつけた。次に、()(えん)様を殺害しようとしたが失敗した。このままでは、胡苑様が危ない。胡苑様を助けてくれ……」

李斯からの書簡によると、嬴政は体調を崩して、自ら遺書を書いて李斯に託した。

遺書には、

「朕が崩御(ほうぎょ)してのち皇帝の地位は長男扶蘇とする。咸陽に戻りて朕の葬儀を執り行え……」

李斯は遺書を嬴政の後ろの馬車の手箱にしまった。

だが、李斯が嬴政の馬車にいるとき、趙高は、その遺書を盗み見たのである。

そして、あとから分かったことだが趙高は、

「徐福殿が不老不死の薬を送って参りました」

と偽り、水銀を嬴政に飲ませたのである。

少量の毒を混ぜたため即死だった。

かつて刺客から嬴政を守った趙高が、逆に刺客になるとは…… まさに皮肉な話だ。

趙高は李斯に、

「皇帝が誤って水銀を飲んだ。後の措置をお願いする」

李斯はひとまず、嬴政の死を伏せた。反乱軍に襲われないためである。

同時に、上郡の扶蘇の下へ遺書を送った。

しかし、趙高の手下が後を追い李斯の使者を殺して、遺書を奪い、焼き捨て、そのまま趙高の使者として、趙高が書いた偽の遺書を扶蘇の下へ届け、殺害したそうだ。

咸陽へ着いた李斯は、突然兵に取り囲まれ屋敷に軟禁された。

すべて趙高の策略だった。

徐福は胡苑に謁見して李斯からの書簡を見せた。

数え13になる胡苑は、

「徐福よ、話は分かった。 私はどうすればよい?」

「胡苑様、ここは危のうございます。ここにいるサルタヒコの祖父は、かつてレビ一族の親衛隊でございました。その拠点が、今でも(げっ)()に残っています。とりあえずそこへ逃げましょう」

徐福は胡苑を月氏へ連れて行くと同時に、咸陽にいるレビ一族に使いを出して、合流するように促した。


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