第50話 大国主命の国譲り
ひと月ほど後、香取の地でニギハヤヒと徐福は相談をしていた。
「徐福殿、どうしてヤマトなのだ? 出雲へ直接攻め込めばよいではないか」
「ニギハヤヒ殿、実を言うとヤマトの地は私が大国主殿から頂いた地なのだ。私と大国主殿は敵対関係ではない。おそらく私を信頼しきっていると思う。私が蓬莱山へ旅立つとき、私を神だと言っていた。そしてそのヤマトの地に秦国から連れてきた童、5百人が暮らして居る。正確に言うと、最初は5百人いたが、船の難破や病で数十人が亡くなった。今は青年になった童たちだが、いずれニギハヤヒ殿やニニギ殿のお役に立つ日がくると思うのじゃ。だから、まずヤマトで体制を築き、大国主殿と国譲りの交渉をした後、決裂した場合、攻め入れば良いではないか」
「徐福殿、理解致しました。ヤマトへ参りましょう」
香取の地は静かだった。
何事も派手さを好むニニギと違い、ニギハヤヒは静寂を好んだ。
出発はわざと早朝を選び、人々が集まらないように工夫した。
しかし、噂を聞きつけた日高見国の民は数千人集まった。
ニギハヤヒはその民に向かって深々とお辞儀をした。
香取からヤマトの入り口、河内の国へ着いたのは十日後だった。
そこから大和川を進んで行きヤマトへ着いた。
ヤマトの地で出迎えたのは、徐福の妻「タカテルヒメ」と5百人の青年たちだった。
ヤマトでひと月ほど滞在した徐福だったが、やがてニギハヤヒを連れて出雲に向かった。
出雲へは陸路を取った。
ニギハヤヒに出雲の地系を教えるためだった。
「徐福殿、危険ではありませんか? ここは出雲の領内ですぞ、私の素性を知られたら襲ってきませんか?」
「心配致すな、ニギハヤヒ殿。そなたを襲ったりはせん」
ニギハヤヒの心配は杞憂だった。
それどころか、徐福を見つけた農民たちが、仕事の手を休めて、
「徐福様、お帰りなさいませ。去年はおかげさまで豊作でした。ありがとうございました」
ニギハヤヒはなおも驚いた。
陸稲らしきものが泥から生えて、太く青々としている。
「徐福殿、この陸稲らしき物は何ですか?」
「そうだ、そういえばニギハヤヒ殿には戦の修練だけ教えて、この水田は教えていませんでしたね。ヤマトへ帰ったらお教えします。米がたくさんできますぞ」
そうこうしているうちに出雲の大国主の館に到着した。
「徐福殿、3年ぶりではないか、して不老不死の妙薬は見つかりましたかな?」
「駄目でした、どうやら情報は偽りだったようです。それは残念でしたが、その足で日高見国まで行き、有意義な情報を得ました。そのうえで大国主殿、お願いがあります。この国を譲って下され」
「徐福殿、気でも狂ったか? なぜここまで広げた出雲の地を譲らねばならんのだ」
「大国主殿、よおく聞いてくだされ。こちらは日高見国の統治者のひとりニギハヤヒ殿であられる。日高見国の民は、5百万人いるそうじゃ。出雲の民の十倍じゃ。かの国と戦いになったらどうなさる? 出雲は強い。しかし、盤石ではないはずじゃ。いまだ大国主殿の兄たち、いわゆる八十神たちも大国主殿の跡目を狙っていよう。そこで提案じゃが、これを見てくだされ。この羊皮紙に書いてある絵は、我が一族が5百年も前に建てた『ソロモン神殿』の写しじゃ。これと同じくらい大きな神殿を建て大国主殿を祀り申そう」
大国主は、長い間考え込んだ。
「確かに、ワシが死んだら出雲は混乱しよう。ワシを祀る巨大な神殿があれば、未来永劫ワシは神として祀られる。悪い話ではないな。徐福殿、お願いいたす」
徐福とニギハヤヒは深々と頭を下げ退室し、以前徐福一行が建てた宿舎へ向かった。
「徐福殿、我が民は百万人しかいませんぞ」
「そうであったかの……」
徐福とニギハヤヒは出雲に十日ほど滞在し、ヤマトへ戻ろうとした、ちょうどその時、母国から知らせが入った。
始皇帝、嬴政が崩御し、二代目皇帝が扶蘇ではなく胡亥になったという内容だった。
徐福は信じられなかった。
「聡明で皇帝の信頼も厚い扶蘇様ではなく、何故甘える事しか能がない胡亥様なのだ」
徐福は、ことの真相を究明すべく、扶蘇がいる秦の北に向かった。




