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第46話 ニニギとニギハヤヒ

風に恵まれ、鹿島へ通じる霞ヶ浦の水路へ着いたのは三日目の朝だった。

イワナガヒメの情報によれば、霞ヶ浦の水路を少し入った所に「高天原(たかまがはら)」と言う小高い丘があり、ニニギはここで毎朝、昇る朝日に祈りを捧げているとのことだ。

(じょ)(ふく)は、一計を案じた。

この日高(ひだか)()(こく)は太陽信仰が盛んだと聞いている。

おそらくは、統治者が太陽神の使いであると民衆に思わせる統治法を行っているのだろう。

であれば我々も神の使いと思わせる演出をすれば、少しでも尊敬の念を持って迎えてくれるのではないか。

そう思った(じょ)(ふく)は、「(あめの)(むら)(くもの)(つるぎ)草薙(くさなぎの)(つるぎ)))」を高々と掲げ、船の舳先(へさき)に立って、後光を背に受け高天原に入船した。

高天原には二人の青年が腕組みしながら立っていた。

「なんだ、二人だけか」

と高をくくった徐福だったが、次の瞬間、度肝を抜かれた。

なんと数千にものぼる民が地面にひれ伏しているではないか。

どういうことだ。

「そこにいるご仁、ニニギ殿とお見受けした。私は、はるか西の国、(しん)(こく)より参った徐福と申す。日高見国の統治者ニニギ殿へ提案があって参った。それから駿河(するが)の国、蓬莱山(ほうらいさん)からニニギ殿にお話があるとのことでイワナガヒメをお連れした」

「徐福とやら(あま)(てらす)大御神(おおみかみ)様を背に船上から物申すとは無礼であろう。陸にあがられよ」

 徐福一行は、船を降り、二人の青年と対峙した。

「大変失礼いたした。お詫びとお近づきのしるしに、これを受け取ってくだされ」

「なんだそれは?」

八咫(やたの)(かがみ)と申す。鏡の円周が八咫(やた)(144センチ)あり我が国ではこのように使うのじゃ」

徐福は、太陽と対峙する岩の前に鏡を置き、

「ご高覧くだされ」

「オオッ! 天照大御神様がお姿を現された。なんと神々しいお姿なんだ」

「お気に入りめされて何よりじゃ」

「徐福殿。大変無礼な出迎え申し訳なかった。あなたは天照大御神様の使いなのでしょう。私は鹿島に社を構えるニニギと申します。こちらは私の兄で香取に社を構えるニギハヤヒと申します。今まで天照大御神様のお姿を直接拝礼することができず、信濃の諏訪で採れた翡翠(ひすい)で作った八尺瓊(やさかにの)勾玉(まがたま)の穴から天照大御神様のお姿を、まさに徐福殿が鏡を置いたその岩に映して拝礼しておりました。してご提案とは?」

「その前にイワナガヒメの話を聞いてくだされ」

「ニニギさま。私は駿河の国、蓬莱山の長、オオヤマツミノカミの娘イワナガヒメと申します。幼少のころよりニニギさまのお噂はうかがっております。ずっとあこがれて参りました。この明日葉は、食すると十年は長く生きられる不老長寿の食べ物です。わたくしが丹精込めて栽培いたしました。ニニギさま。わたくしともども、もらってくださいませ」

ニニギは思いもかけない申し出に驚いた。

じっとイワナガヒメを見つめ、イワナガヒメの下に歩みより、手を握って、

「よろしくお願いいたす。私と末永く暮らしてください」

イワナガヒメは号泣した。

だが、嬉しくて泣いているのではない。

ニニギはコノハナサクヤヒメの手を握ったのだ。

「ニニギさま、私ではございません。私はついてきただけです。嫁ぎたいのは姉です」

「分かっている。だが、私はそなたをひと目見たときから惚れてしまった。どうか、ワシの妻になってくれ」

コノハナサクヤヒメは、姉のイワナガヒメの下に行き、長い間話し込んだ。

やがて、イワナガヒメは、

「分かりました。妹をよろしくお願いいたします」

ニニギは喜んだ。

喜んだのはニニギだけではない。

今まで地面にひれ伏していた数千人の民が、ニニギとコノハナサクヤヒメを囲み、割れんばかりの拍手をした。

その爆音は、はるか蓬莱山まで聞こえるようだった。

憔悴しきったイワナガヒメを、徐福は部下に命じて蓬莱山へ送り届けるよう指示した。


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