第45話 不死山(富士山)
やがて、姉のイワナガヒメとおぼしき娘が現れた。
イワナガヒメとおぼしき娘は、妹のコノハナサクヤヒメとは似ても似つかぬ、がっちりした体形で顔は大きくて真四角。
どう見ても男だ。
「話は妹から聞きました。なんでも仙人が煎じる不老不死の妙薬をお探しだとか。はっきり申します。仙人もおりませんし、不老不死の妙薬など存在しません。数年前、海を隔てた西の国の方が、あなた方と同じような質問をなさいました。私も今のように答えたのですが、あまりにもしつこいので『仙人がいるとすればこの山そのものです。そしてこの山は死にません、この山は不死山です』とお答えしたところ、どう解釈されたかは不明ですが、うつむいて帰って行かれました」
「イワナガヒメ、私は徐福と申します。私も西の国から来ました。話は理解しました。どうやら偽の情報に踊らされたみたいです。それはそうと不老長寿の食べ物があるとか?」
「はい、これです『明日葉』と言います。私はこれしか食べません。おかげさまでこの美貌。体調はすこぶる良好です」
顔や体形はともかく、肌はすべすべだった。
こうなるとひとつ疑問がわいた。
徐福は、
「この明日葉は、コノハナサクヤヒメも食されておるのか?」
「いいえ。妹は桃しか食べません。良かったらこの明日葉を差し上げます。代わりにと言ってはなんですが、ひとつお願いがございます。夏至の日、蓬莱山から昇る朝日のはてに日高見国の鹿島があります。そこの長、ニニギ殿を私はお慕いしております。この明日葉を届け嫁ぎたいのですが、陸路では明日葉が腐ってしまいます。どうか徐福さまの船で連れて行ってください」
徐福は、思いがけない申し出に喜んだ。
不老不死の妙薬を手に入れるのは副次的な目的だ。
本来の目的は、この倭国にレビ一族が移住して、倭国の民と共存共栄することにある。
だが、その前に適した場所なのかを調べることと、この地の統治者に共存を認めてもらうことにある。
倭国の勢力は、大きく分けて三つの勢力に分けられる。
一つは秦国から渡ってきた渡来人が、複数の集落を築いた九州地方。
もう一つは蓬莱山から西の出雲地方。
統治者、大国主は我々を受け入れてくれそうだ。
そして、蓬莱山から東は日高見国だ。
おそらく倭国で最大の勢力であろう。
蓬莱山の仙人から不老不死の妙薬を手に入れたあかつきには、そのまま日高見国へ向かうつもりでいた。
妙薬は手に入らなかったが、イワナガヒメからの申し出は、まさに渡りに船だ。
「イワナガヒメ、承知致した。ただし、ニニギ殿は桃が好みかもしれないゆえ、コノハナサクヤヒメもご同行願えないか?」
「徐福さま、ありがとうございます。もちろん妹も連れてゆきます」




