第44話 コノハナサクヤヒメ
目の前にそびえる雄大な山、蓬莱山(富士山)。
それを見ながら徐福は、
「長かった。秦の国を旅立ち早5年、ようやく蓬莱山へたどり着いた」
徐福は秦の始皇帝の下で方士になる前、斉の国で役人をしていた。
徐福の祖父は呂不韋と同年代で呂不韋と同じくレビ一族の商人だった。
呂不韋は秦の国に取り入ろうとしたが、徐福の祖父は斉の国に取り入ろうとした。
運よく斉の国の重鎮に認められ、斉の国の役人になった。
やがて、役人の仕事は息子に譲り、息子から徐福が産まれた。
徐福は利発だった。
その才能を伸ばすため、徐福の祖父は、秦の呂不韋に頼んで李斯の下へ送った。
李斯は徐福を徹底的にしこんだ。
医学、暦学、天文学、占いなどを修得し方士の地位を得た。
そんな矢先に斉の父が亡くなったと言う知らせを聞いた。
急ぎ斉の国へ戻った徐福は、そのまま父の後を継いで斉の国の役人になった。
渤海湾に面したその地は、倭国へ行く者、そして帰ってくる者が往来している地でもあった。
徐福は、倭国より戻ってきた者に話を聞くのが好きだった。
蓬莱山に仙人がいて不老不死の妙薬を煎じるという話も、倭国から戻ってきた者から聞いた。
その話を秦国から旅立つ前までは、本気で信じていた。
しかし、大国主と話してから分からなくなってきた。
争いがないこの国の統治方法が統治者を神だと思わせる手法であることに気づいたからだ。
半信半疑の徐福ではあったが、蓬莱山の近くに船をつけ、蓬莱山へ登り始めた。
険しい道ではあったが少しずつ登って行くと、やがて桃の甘い香りがして、広大な桃の林に出た。
「ここは桃源郷か、信じられん」
その下にそれは、それは美しい娘が立っていた。
「そこにいる娘よ、名はなんと申す?」
「わたくしの名前はコノハナサクヤヒメでございます。この地を統治するオオヤマツミノカミの娘でございます」
「コノハナサクヤヒメ、たずねたいのだが、この蓬莱山に不老不死の妙薬を煎じる仙人がいると聞く。そなたは知らんか?」
「仙人は知りません。また、不老不死とは呼べないですが、不老長寿の食べ物なら心あたりがあります。姉のイワナガヒメがその食べ物を栽培し、毎日食しておりますので呼んで参ります」
徐福は驚いた。
数ヵ月はかかると思われた仙人探しが、手がかりだけでも、こう簡単に見つかるとは…… いや、喜ぶのは早すぎる、仙人が見つかったわけではないし、不老不死の薬も見つかってはいないではないか。




