第34話 嬴政の暗殺未遂事件
趙国が滅ぼされたと聞いて、恐れおののいたのは趙国の隣、燕国の太子、丹である。
「あの李牧率いる趙軍が、あんなにあっさり負けるとは…… 仕方ない、秦王政を暗殺するしかあるまい」
そう考えた太子丹は、刺客である、荊軻に秦王政の暗殺を命じた。
荊軻は、燕の太子丹の特使として秦王政に謁見した。
太子丹の国書と思しき巻物を秦王政に捧げた荊軻に対して、おもむろにその巻物を掴んだ瞬間、荊軻は巻物の芯の部分を抜き出し、秦王政に突き刺そうとした。
巻物の芯の部分に千枚通しを隠していたのだ。
秦王政は、後ろにのけぞり倒れてしまった。
荊軻は秦王政にまたがり、上段に構えた、千枚通しで胸を突き刺そうとしたとき、宦官のひとりが荊軻めがけて硯を投げた。
硯は荊軻の後頭部を直撃し、その衝撃で千枚通しを落とし、秦王政にかぶさるように倒れた。
その宦官こそ、秦王政が息を引き取るときまで傍にいた、趙高である。
激怒した秦王政は、王翦に燕を滅ぼすよう命じた。
だが王翦は、
「私は年老いました。私が燕討伐の指揮をしてもかまいませんが、それでは若手が育ちません。どうでしょう? 将軍になったばかりですが、我が息子、王賁と李信にやらせては」
王賁と李信は、それぞれ10万の兵隊を引き連れ燕を攻めた。
燕は弱かった。
ひと月足らずで陥落した。
だが、肝心の太子丹は何処にもいない。
王賁は秦に凱旋したが、太子丹の首をあげないことには任務が終わらないと思った李信は、数千の兵と共に燕をくまなく探した。
ふた月探したが見つからない。
李信は、打ち首覚悟で秦へ戻った。
秦王政に謁見した李信は、太子丹を見つけられなかったことを謝罪した。
秦王政は、
「愚か者! 何度も使いを出したのだぞ、太子丹の首は来ておる。燕王が恐れをなして送ってきたのだ。それにしても信の戦いぶりは変わらんな、趙で私を助けたときと同じじゃないか。無鉄砲な奴め、良くやった、ご苦労だった」
男泣きに泣き崩れた李信は、何度も床に頭を叩きつけ、謝罪なのか、喜びなのか、わけの分からない行動を繰り返した。




