第25話 始皇帝「嬴政」の誕生
呂不韋は、趙国に行き異人に会った。
「異人殿。良い知らせでございます。あなたは、お父上であります安国君の正妻、華陽夫人の養子になることが決まりました」
「なんだと誠か、思ってもみなかったぞ」
「それにあたり華陽夫人からの申し出で名前を、子楚にするようにとのことです」
「お安い御用だ。今日から私は子楚だ」
それから子楚は、人脈を広げると同時に、国の統治や兵法の勉学にも励んだ。
しかし、呂不韋は、子楚からやっかいなお願いをされてしまった。
「呂不韋殿、お願いがある。私は、そなたの妻である趙姫に惚れてしまったのだ。お願いだ、譲ってくれ、もちろん正妻に致すゆえ……」
呂不韋は悩みに悩んだ、よりにもよって最愛の妻、趙姫を選ぶとは…… さらにもう一つ問題があった。
数日前、懐妊したかもしれないと、言われたからだ。
長い沈黙が続いた。
やがて呂不韋は、断って子楚の機嫌を損なえば、今までの苦労が水の泡になると考え、渋々了解した。
だが、懐妊の兆候は黙っていた。
八ヵ月の後、趙姫に元気な男の子が産まれた。
「政」と名付けられ、趙国で産まれたことから、当初は「趙政」と呼ばれた。
やがて、彼は自ら始皇帝を名乗ることになる「嬴政」が誕生したのである。
嬴政が1歳になったばかりのころ、秦の昭襄王が趙国との約束を破って、突然攻めてきた。
怒り狂った趙王は、人質の子楚の処刑を命じた。
呂不韋は、秦国の動きを把握していた。
それゆえ秦国が動き出した直後に3人の親子を逃がした。
だが、国境付近の警戒が厳しく、趙国外へは逃げ出せなかった。
逃亡は数年に及んだ。
やがて、子楚は趙国の兵に捕らえられ、牢に入れられてしまった。
それを知った呂不韋は、牢屋の番人に多額の金銀を払って買収し、脱走に成功した。
呂不韋は、荷駄の中に子楚を隠し、命がけで秦国に送り届けた。
しかし、嬴政と趙姫は趙国に取り残されたままだった。




