第2話 斑鳩での密談
翌日、秦河勝は国書を携えて厩戸皇子の住む斑鳩宮へ向かった。
斑鳩宮には既に先客がいた。
小野妹子である。
妹子は冠位12階の第5位大礼であり華道を愛する文化人である。
華道の腕前はヤマトの国で右に出る者がいなかった。
推古天皇も生け花をこよなく愛し、小野妹子に対して「池坊」を開祖させた。
そんな男がなぜここにいる?
「河勝殿、隋への国書の草案できましたかな? それから河勝殿もご存じであろう、こちらが小野妹子殿じゃ。じつは妹子殿に遣隋使を任せたいと思っておるのじゃ」
厩戸皇子は、まだ座ってもいない秦河勝に話しかけた。
「国書の草案は持ってまいりました。どうぞご覧ください。小野妹子殿の遣隋使、異論はございません」
秦河勝は、おもむろに国書の草案を厩戸皇子へ手渡した。
厩戸皇子は二度ほど読み、大きくうなずいて、小野妹子へ草案を渡した。
小野妹子は冒頭部分を読んだだけで顔色が変わり、全部を読み終えるころ、顔色が真っ赤になって、大声で秦河勝に対して怒鳴った。
「河勝どのっ! これはどういうことですか? 私に死ねということですか?」
「妹子殿、落ち着いてくだされ。隋の煬帝は、けっしてそなたを殺めたりはしない。これは、河勝殿の一族が隋から仕入れた情報を基に、念入りに立てた戦略の一環なのだ。河勝殿、説明してくだされ」
厩戸皇子は視線を秦河勝へ向けた。
「もとより、妹子殿を危険にさらすものではございません。現在、隋の国は高句麗との戦いに苦戦しております。煬帝にしてみれば、喉から手が出るほどに、我がヤマトの国の援軍が欲しいに違いありません。ですが、ここで朝貢(隋に服従し貢物を差し出すこと)まがいの国書を提出すれば煬帝になめられ、いいように使われた挙句の果てに、ヤマトの国も滅ぼされるでありましょう。今しかないのです対等な立場で交渉をするのは……」
秦河勝は小野妹子に対して隋の成立ちから話し始めた。




