第12話 モーセ
数百年の時が過ぎ、それぞれの一族は、ヘブライ人と呼ばれ、エジプトの民よりも増えていた。
彼らは麦を植え、家畜を飼い、商人となって砂漠を渡り、エジプトの敵とも取引をしていた。
勤勉で働き者のヘブライ人はエジプトにおいて欠くことのできない存在になっていた。
それは、とりもなおさずエジプトの民の仕事を奪うことにつながり、エジプトの民はファラオに訴えた。
その訴えを聞いたファラオは、これ以上ヘブライ人が増えないよう、ヘブライ人の女性から産まれた男の子をすべて殺害するよう命じた。
ヘブライ人は恐怖におののき、進んで子供を差し出す者、隠して親もろとも殺される者、さまざまな混乱の中、1組の夫婦が殺されるくらいならと、生後3ヵ月の男の子をナイル川へ流した。
その子供は、運よく王族の下に拾われ、王族として育てられた。
その子供はモーセ(水の中から引き上げた)と名付けられ、ファラオの皇太子ラムセスと一緒にすくすくと成長した。
やがてモーセが青年になった折、ラムセス王子から出生の秘密を聞かされ、自分がヘブライ人であることを知った。
自分の本当の母を訪ねてピトムの町へ行ったとき、ヘブライ人をムチで打つエジプト人の姿を目撃した。
止めるよう指示したが、聞き入れられず口論になり、誤って殺害してしまった。
モーセは何もかも捨ててエジプトから逃れた。
何日も砂漠をさまよい、とうとう命が付きかけたミディアンの地で、エトロの一族に救われ、その娘ツィボラと結婚した。
長い年月が流れ、ツィボラとの間に子供もできた。
そんなある日、羊を連れてシナイ山に登っているとき神が現れてこう告げた。
「私はあなたの父なる神である。私はエジプトにいる私の民の苦しみをつぶさに見、その痛みを知った。それゆえ私は、エジプト人の手から彼らを救い出し、素晴らしき土地へ導き上る。モーセよ、エジプトから我が民を連れ出すのだ」
モーセはすぐさまエジプトに向かった。
途中の砂漠で実の兄アロンと合流した。
二人とも初対面だったが、神の預言で会うことは分かっていた。
エジプトに着いたモーセは、ヘブライ人を集めて神の預言を伝えた。
ヘブライ人の多くは、エジプトの民に迫害されていたが、新しい土地へ行くことに躊躇した。
だが、モーセの兄であるアロンが、今後我々に対するエジプト民の対応は、どんどん悪くなると切々に説いた。
懐疑的だったヘブライの民だったが、アロンの話に納得した。
翌日、モーセとアロンは王宮へ行った。
王はラムセスだった。
「モーセよ、久しぶりだな。お前はエジプトの民を殺害しおって、よくここへこられたな。何用だ」
「ファラオ。我がヘブライの神の預言を伝える。今すぐ、ヘブライの民を解放しなさい。そうしなければ、エジプトに災いが起こるであろう」
「何故、お前らの神の言うことを聞かねばならんのだ。我がエジプトには全能の太陽神、ラーがいる。ラーの預言以外聞かぬ」
「ファラオよ。後悔することになるぞ」
翌日、ナイルの川の水は血に代わり、魚は死に、悪臭を放った。
その翌日、カエルの大群がエジプトじゅうを覆いつくした。
しかし、ファラオは動じなかった。
そのまた翌日、ブヨの大群が家畜を襲った。
それがもとで疫病がはやり、家畜はことごとく倒れた。
それでも、ファラオは動じなかった。
業を煮やした神は最後の奇跡を起こした。
エジプト中の初子を殺すというものだった。
されど、ヘブライ人も巻き添えになってしまうため、子羊の血を玄関の扉のふちに塗れば、その家の災いを過ぎ越すと神はモーセを通してヘブライ人に伝えた。
ラムセスには産まれたばかりの長男がいた。
当然、その子も亡くなってしまった。
長男を亡くしたファラオは憔悴し、ヘブライ人の解放を約束した。
ファラオの許しを受けたモーセは60万のヘブライ人を引き連れ、神との約束の地カナンへ向かって旅立った。
憔悴しきっていたファラオは、エジプトの太陽神ラーの前で祈りを捧げていたが、やがて自分のしたことを後悔し、軍隊をさし向けてヘブライ人を呼び戻そうとした。
紅海を渡りあぐねていたモーセの一行は、ファラオの軍隊に追いつかれた。
モーセは神に祈り、持っていた「アロンの杖」を海にさした。
海は二つに割れ、シナイ半島までの通り道ができた。
60万のヘブライ人が渡り切った後、数千のエジプト兵がその道から追ってきた。
モーセは再び割れた海へ杖をさした瞬間、海が閉じた。
何日も何日も長旅は続いた。
やがて人々は飢えや渇きに悩まされ、エジプトへ帰ろうと言い出す者も現れた。
モーセは奇跡を起こし、大地から水を噴出させ、神より頂いた「マナの壺」に食料を湧きださせた。
食べることはできるが、何年も続く長旅で人心は乱れ、争いごとが絶えなくなった。
人心の乱れに悩んだモーセは、神の啓示を受けるべくシナイ山に登った。
何日も何日も山にこもり神の啓示を待つ間、ヘブライ人の間でモーセはもう戻ってこない、新しい神を祀ろうという者が現れ、金細工の牛の像を崇めていた。
やがてモーセは、神より「十戒」を授けられ、その石板を持って下山した。
モーセは石板で牛の像を壊し、首謀者を罰した。
そして、十の戒めを語り、それを守れぬものはカナンの地へ連れていけぬことを宣言した。




