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第11話 ヨセフ

エジプトに連れてこられたヨセフは、妙な夢を見た。

恰幅の良い男が、病気の娘に薬を飲ませているのだが、一向に良くならない。

そんなさなかに天使が現れて、別な井戸で汲んだ水で薬を飲ませたところ、すこぶる良くなった夢だった。

その翌日、他の売られてきた子供たちと共に道端に座っていると、昨夜夢に出てきた恰幅の良い男が馬に乗ってヨセフの前を通った。

「おじさん。病気で苦しんでいる娘はいない?」

「これっ! このお方は、王宮の侍従長ポティファル様だぞ、軽々しく口をきくでない」

商隊の隊長が制した。

「よいっ! お前はなぜ私に病気の娘がいることを知っているのだ?」

「昨日、おじさんが夢に出てきたんだ。僕なら娘さんを助けることができるよ」

「本当だな! 治らなかったらお前を殺すからな。よしっこの子を買おう。付いてまいれ」

ポティファルの館に着いたヨセフは、娘に飲ませている水の井戸を聞いた。

そこへ行き、辺りを見回して、昨夜夢に出てきた天使が汲んだ井戸を探した。

そしたら、いつもの井戸から30歩のところに天使の井戸があった。

そこから水を汲みポティファルへ差し出した。

「ポティファル様。この水で薬を飲ませてください」

半信半疑のポティファルだったが、意を決して娘にその水で薬を飲ませた。

効果はてきめんだった。

すぐに娘の血色が良くなり、3日後にはベッドから立ち上がり、7日後にはすっかり良くなった。

ポティファルは大いに喜び、ヨセフを奴隷としてではなく、家族の一員として迎えた。


十数年の月日が流れた。

ヨセフは突然ファラオ(エジプト王)に呼び出された。

「ヨセフとやら、お前は夢を占うことができるそうだな?」

「はい」

「ワシの見た夢を占ってみよ。太ってとてもよく実の入った七つの麦の穂が一本の茎から出てきた。するとそのあとから、干からびて実の入っていない七つの穂がはえてきて、実の入ってない穂が太って実の入った穂を飲み込んでしまったのじゃ」

「良く実った七つの穂は、7年間の大豊作を意味します。干からびた7つの穂は、その後続く7年間の飢饉を意味します。その後エジプトは滅んでしまいます」

辺りはざわついた。

重臣から「無礼であろう」と怒声が飛んできたがファラオが制した。

「ポティファルから話は聞いている。お前の話を信じよう。お前に穀物庫の管理を任せる。我がエジプトを救ってみよ」

ヨセフは収穫量の半分を倉庫に貯蔵した。

だが、重臣たちから凄まじい抗議が殺到した。

その度にポティファルは助けてくれた。

大豊作の7年が過ぎた。

今年、飢饉が起こらなかったら、ヨセフの身が危ない。

しかし、ヨセフは平然としていた。

やがて、ヨセフの予言通り飢饉が始まった。

1年間を何とか過ごした他国ではあったが3年目にはどうすることもできなかった。

「エジプトのテーベには小麦がたくさん貯蔵されている」

と噂が広がり、エジプトにたくさんの人が押し寄せた。

飢饉にあったのは、カナンも一緒だった。

2年間の飢饉は何とか乗り越えたが、3年目にさしかかるとどうにもならなかった。

ヤコブ一家は、ヤコブと末の息子ベニヤミンを残して、エジプトに援助を求めて旅立った。

倉庫の麦の出納記録が書かれたパピルスの紙を見ていたヨセフは、窓の下に目をやると、一番上の兄ルペンを発見した。

よく見るとシメオン兄さんやレビ兄さんもいた。

「そうか、兄さんたちも飢饉で困っているんだな……」

だが、十数年前エジプトの商隊へ売られたことを思い出し、単純に麦を分けてやる気にはならなかった。

ヨセフは思い悩んだ。

兄たちは憎いが、父のヤコブは助けたい。

仮に兄たちが、自分を追放したことを悔いているなら助けようと思った。

そこでヨセフは衛兵にあることを命令した。

「あそこにいる、10人の男たちに伝えよ。麦はやれぬ。ただし、お前たちの一番下の弟を人質に差し出せば、麦を与えようとな」

ルペンたちは困惑した。意味がまったく分からない。

そもそも我々が兄弟だとなぜわかったのだ。

困惑しながらもカナンへ帰りヤコブへ伝えた。

ヤコブは嘆き悲しんだ。

最愛のヨセフを失い、何故またベニヤミンまで失わなければならないんだ。

ヤコブは思い悩んだが徐々に減りゆく食料が限界に達していた。

仕方なくベニヤミンのエジプト行きを許した。

エジプトに着いた11人を待っていたのは、穀物庫の監督ヨセフだった。

だが、11人の兄弟は誰も分からなかった。

兜を深く被っていたせいもあるのだろうが、悲しかった。

「末の弟は連れてきたか?」

「はい。私が一番下のベニヤミンです」

「ベニヤミンはどうなるのでしょう?」

ルペンが聞いた。

「私の下で奴隷といたす」

「監督閣下に申し上げます。ベニヤミンの代わりに私、ルペンが奴隷になります」

「どういうことだ?」

「十数年前、父のヤコブが溺愛していたヨセフを私たち兄弟が売ってしまったのです。許されない罪を犯しました。私たちは以降悔い改めておりますが、父のヤコブは何日も食事ができない状態が続きました。それをベニヤミンは根気よく介抱しました。父はベニヤミンによって救われ、ベニヤミンを深く愛するようになりました。今ここでベニヤミンを失ったら、父は死んでしまいます。どうか私を代わりにして下さい」

「話は分かった。本当にヨセフを売ってしまったことを後悔しているのだな?」

「はいっ! 日々忘れたことはありません」

ヨセフは兜を脱いだ。

「兄さん! ヨセフ兄さん」

ベニヤミンが抱き着いてきた。

十人の兄たちは唖然としていた。

「兄さんたち、こんなことをしてごめんなさい。最初から名乗ってもよかったけど、兄さんたちが、僕を売ったことをどう思っているのか知りたくて芝居をしました。ゴシェンの地に家を用意しました。父を連れてきてください」

「ヨセフッ! すまなかった。許してくれっ」

ルペンが駆け寄った。

シメオンもレビもユダも…… 12人は抱き合って泣いた。

12人の兄弟は独立しそれぞれの一族を作り上げた。

ルペン、シメオン、レビ、ユダ、ゼブルン、イサカル、ダン、ガド、アシュル、ナフタリ、そしてヨセフ、その弟ベニヤミン。


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