4.情緒不安定?
「あー!!あきちゃん、きてくれてありがとう」
五十嵐編集長は編集のエントランスへ走った。
柚月の目には、綺麗な人というより可愛い雰囲気の人に映った。身長は編集長と同じであまり高くはなく小柄だ。
ドア口で大きなボストンバックを持った女性が編集長にお辞儀をする。
「連絡滞り申し訳ないです」
編集長につられるように柚月も急ぎ走り編集長の横に立った。
「明子先生、はじめまして。柚月米と申します」
女性は柚月の出現に混乱をきたしたようで、首をかしげた。
「あの、編集長から担当変更はきいてますでしょうか」
「は、は、はじめてききました。わ、わたし木村明子といいます」
木村は驚いて顔を柚月に向けた。
「女の子同士の方が話しやすいかなと思って担当変更することにしたんだ。僕だと忙しくてゆっくり話せないだろうし」
編集長が木村さんを会議室に誘導し案内をしようとした。
「つもる話もあるし会議室でゆっくり話そう」
動き出した瞬間、他の編集から電話がきた。
「五十嵐編集長、他の局の編集長から電話きてます…」
編集長はため息を吐いて柚月に後を託した。
「うんごめん、はなせそうにないや。マイとゆっくりはなしてきて」
柚月は木村と外に出るよう伝えた。
「喫茶店にいこう」柚月と木村は近くの徒歩5分ほどにある行きつけの喫茶店に向かう。
その間沈黙が続いた。
何を話せばいいの、はじめましてはおわった。ここから先はコミュニケーション力が勝負。捻り出せ、私のコミュ力。私たち共通点は女である。人類の半分の共通点。女性の題材で話ふくらませるのは無理。いや、まだあるはず、たとえば天気とか、靴とか‥だめだ漫画しかない。私たちの共通点は漫画だ。でもまだ彼女の作品みてない。詰んだ。
柚月がぐるぐると考えを巡らす。柚月についてきてた木村が立ち止まり急に泣き出した。
木村の急な号泣に柚月はギョッとした。路上で人が号泣するのは、酔っ払いぐらいだ。
酒でも入っているのかと思ったが、そういう匂いはしない。つまり、これは素面の号泣だ。
「えっ!ちょっとどうした!どうした!」
「わ、わたしついに五十嵐さんから見放されたんですね‥」
木村はしゃくりをあげる。
(いや、見放してないから)
「連絡不通で‥私家からも見放されて追い出されたんです‥」
(はっ!?)
「と、とりあえず人目のつかないところに行こう。私の家、散らかってるけど近いから」
「いいんです。次の担当の人がこんなきれいな人なんてウソです。きっといかがわしいお店に紹介されるんだ」
(どこからその発想?!)
「とりあえず向かおう、おいしいもの食べさしてあげるから」
柚月は木村の手を引いた。
その手は、思っていたよりずっと冷たかった。




