2.担当変更
「編集長が担当していて芽が出ないなら誰がやってもむりじゃないですか」
同期の西岡がキャスターつきの事務用椅子に座ったまま、床を蹴って編集長の机に近づいた。
(行儀が悪いが、ナイスアシスト西岡。あとで缶コーヒー奢ろう)
「今手一杯です。人気漫画家二人抱えてます」
「マイの担当漫画家は西岡に変更!」
「な、なんで!」
椅子から立ち上がり、西岡はすばやく敬礼した。
「了解です。編集長」
(早い、あっさりと敵に寝返った。缶コーヒーなしで)
編集長は満足そうに頷く。
「これでマイは大型新人を担当に変更」
柚月は編集長の机に勢いよく手をおき頭を下げた。
「横暴です。育てた人気漫画家なんですよ」
編集長は、駄々っ子に言い聞かせるように、ゆっくりとことばを紡いだ。
「すでに人気のある漫画を支えるのも編集者の大切な仕事だ。けれど、マイには新しい段階に挑んで欲しい」
編集長は「新しい才能を磨きあげ、世に送り出すこと、これはお前にはできるはずだ」
柚月へ注ぐ視線に力を込め微笑んだ。
「やってみるだろ、この挑戦を」
編集長に言われ、柚月は驚いて顔をあげた。
期待してもらっている。その心は嬉しいが今の自分には堪らなく重い。
(期待に応えられない)
そう言おうとして口を開いたはずが、自分の掠れ声は別の意味をつむいでいる。
「わかりました」
「そんなに期待の新人なんですか」
西岡は腕を組んだ。「編集長でも開花できないのに柚月にできますか。その新人はどこにいるんですか」
「これが、一昨日から連絡取れなくなったんだ」
雲隠れ、一瞬その言葉が頭をよぎった。
(なんて人を担当させようとしてるんですか、編集長)
「だって連絡取れないんだもん。だけど雲隠れはする子じゃない。あの子の漫画には根気強さ力強さがあるからね。連絡来るまで待とうね。」
編集長はあっけらかんと提案した。




