ありがとう、なんて言わないわ。
いろんな愛の話
「まぁ!やっぱり可愛いわ〜!これからよろしくね、リサちゃん!」
嬉しそうに、楽しそうに、未来の義母はそう快活に笑った。
好きな人がいた。
初恋で、幼馴染で、婚約者候補で。
王子様みたいな男の子。
でも、その瞳にはいつも妹が映っていて……。
「馬鹿よね……分かってたの、あの子もユリウス様が好きで、私を蹴落とす為に努力していたのは。それなのに、お父様と私よりも長い時間一緒に居る事にも、彼に愛されている事にも嫉妬して」
「うん」
「社交界では淑女の鑑なんて言われてるけど、影では出来た妹を蔑む悪女呼ばわりされて。お父様にも見限られて、ホント……馬鹿よね」
「うん」
「もう!そこは慰めるところでしょ!?」
怒りながらもティーカップに口付けた。
今日はアンドリューの家の、夫人自慢の美しい庭園で二人テーブルを囲んでいる。
美味しい異国のお茶に、珍しいお菓子と私の好きなお菓子が並んでいた。
私の愚痴にもにこやかに相槌を打つ彼は嫌そうな顔ひとつせず、とても微笑ましいモノを見るような目で……。
「アリスと二人で、私を嵌めたクセに……」
そうポツリと溢すと、彼は声を上げて笑った。
何がそんなに楽しいのかしら、と思いつつもムッとした表情をすると、彼はごめんごめんと目を細めてこちらを見た。
「うん、だってどうしても君が欲しかったからね。」
その言葉に、顔がポッと熱くなる。
(もう!もう!騙されないんだから!)
キッと彼の顔を見るが、そんな私を彼はからかうように席から立ち上がり近寄ると、膝を着いて私の手を取った。
「顔合わせの交流会で君と出会ってから、花のように美しく太陽のように笑う君がずっと欲しかった。君を放ってアリスといるユリウスにも、俺なら君にそんな寂しそうな顔させないのにって思っていたんだ」
優しく私の手を両手で包む彼に、私はそっぽを向く。
「三人で、私の悪口を言ってたじゃない」
私の態度に、彼は困った顔でこちらを伺う。
「ごめんね、アイツに君の良さを気付かれたくなかったんだ。君の本当の良さを知ってるのは俺だけで良いって思って、彼等が喜びそうな台詞を吐いた。最低の行いだって分かってる」
そうして彼は、私に懇願するように握っていたその手を引き寄せた。
「それでも、好きなんだ……。君を傷付けた俺に、ちゃんと償うチャンスをくれませんか?」
その真剣な眼差しに、私はフッと相好を崩す。
「それでは、貴方をくだらない謀に利用しようとした私の罪も、これでおあいこでよろしくて?」
そう返して彼を抱き寄せた私を、彼は力強く抱き締めた。
「いーい?リサちゃん、お茶会は戦場なのよ。我々妻の仕事は、他家と良好そうな関係を築きつつ旦那様のお役に立つ情報を仕入れる事よ!」
「はい、お義母様」
「遠慮はいらないわ。最初は舐められないように、社交界の華、上流貴族としての誇りを存分に見せてやるのよリサちゃん!」
「はい!お義母様」
正式な婚約を結んだ私の紹介も兼ねて、義母が私を婦人達のお茶会に連れてきてくれた。
気合を込めてフンスフンスとしている義母に笑みが溢れる。
義母はとても可愛らしい人だ。
私を「娘が欲しかったのよ!」とアンドリューも呆れるくらい可愛がってくれている。
幼心に残っている記憶の中の母は上品な淑女だったから、明るくハキハキとした義母にはいつも圧倒されるがそれが全然嫌じゃないのだ。
他国に留学していた義父が見初めて、猛アタックの末連れて帰ってきたらしいが。
義父が義母を溺愛するのが分かる気がする。
周りを笑顔にするような、そんな人だ。
「ねぇ、リサちゃん」
「はい、お義母様」
優雅に紅茶を飲んでいると、義母がモジモジしながら私に話しかける。
「アンドリューの事、少しは好きになれそうかしら?」
その言葉に、瞬間固まった。
「あのね、あの子には内緒にしてほしいのだけれど……あの子ったら、初めてアナタ達姉妹と顔合わせした時から、ずっとアナタが良かったって言ってたの……だから、色々あったけれど、仲良くしてくれたら嬉しいなって……」
モジモジと続ける義母に、私は赤面する。
(お義母様にまで何言ってるのよ、アンドリュー!)
恥ずかし過ぎて、失神するかと思った。
それでも、義母を安心させるように私は義母と向き合う。
「彼は……私が部屋で謹慎させられてから、日を置かず来てくれていました。」
「えぇ、聞いてるわ」
「そして、癇癪をおこして拒絶する私に、毎日愛の言葉をくれました」
「まぁ、あの子ったら」
「それに絆されて部屋を出て、彼やお義母様とお義父様と過ごしていくうちに思ったんです」
「なにかしら?」
その優しい声色に、一呼吸してから告げた。
「皆様と、本当の家族になれたらきっと幸せだろうなぁ。って」
義母が目を見開く。
「お義母様、私でもなれるでしょうか?」
そう問いかけると、義母は「えぇ、えぇ、もちろんよ!」と泣きながら私を抱きしめて。
突然高位貴族の夫人が泣き出した為、お茶会はちょっとしたパニックになったのだった。
「母上がすまない、感受性豊かな人だから」
そう気不味そうにする彼に私は笑う。
「そこがお義母様の良いところよね」
と返すと、彼も苦笑いをした。
「ねぇ、アンドリュー」
私がそっと近寄ると、アンドリューが優しく抱き寄せる。
「なんだい、俺のリサ」
キザな台詞に照れながらも、私は言う。
「……ギュッって、抱き締めてくださらない?」
赤面しながらもそうおねだりすると、彼は感極まったようにしながらもギュ〜っと抱き締めてくれた。
「いつだって、何度だってやってあげるよ。俺の太陽」
そんな台詞にまたフフッっと笑いながら、人の体温ってどうしてこんなに暖かくて心地いいのかしら。と思いつつ、私は彼の背に手を回した。
国一番のバカップル(後の夫婦)誕生の瞬間である




