幕間の六・心の奥の言葉──アシュール環の誓い
>皆さん、こんばんは。
この物語を開くとき、あなたはきっと胸の奥に温かいものを感じるでしょう。
(´◡‿ゝ◡`)
アシュール環の響きはただの風の唸りではなく、子供たちの夢と誓いを包み込む守りの歌です。
ハロとミラ――二人の出会いは小さな工房の片隅から始まりました。
弱さを抱えた少女と、無鉄砲な少年。互いに支え合い、笑い合い、そして「守る」という言葉を心に刻んでいく。
(*´ω`*)
これはただの冒険譚ではなく、誰もが心の奥に持つ「大切な人を守りたい」という願いの物語です。
どうか、彼らの歩みを見守りながら、あなた自身の心の誓いを思い出してください。
(ꈍᴗꈍ)
アシュール環――
島の最頂部、学院の北方に広がる魔導工業技術生産特区。その中心にそびえる巨大な二重環構造は、古より「風神の環」と呼ばれ、二つの円環が交差する中空に風脈を捕らえ、力を工房区へと流し込む。刻まれた魔導紋は風と共鳴し、淡い光を放ちながら、まるで大いなる存在の息吹を示すかのように輝いていた。
島民はそれを単なる装置ではなく、風の守護神の象徴として崇める。環が共鳴する時、街に響く低い唸りは祈りの鐘のように人々の心を揺さぶり、誰もが知らぬ間に「環の息吹」に守られていると信じていた。
斜陽が工房街に差し込むと、環の影が屋根を横切り、木槌の音と火花のきらめきに混じって、風の囁きが重なり合う。人々はその響きを日常の一部として受け入れ、技と祈りが交錯する場に身を置いていた。
幼い頃のハロはいつもここで駆け回り、師匠たちが木を削り磨く姿を眺めては、いつか本物の魔導槍を手にすることを夢見ていた。
それはある日のこと――
いつものように工房へ入り、職人たちをからかおうとしたその時、隅の方に銀白色の長い髪をした小さな少女がいるのに気づいた。彼女は怯えたように壁際に身を寄せ、両腕で膝を抱え込み、ただ工房の賑わいをこっそり見つめていた。
ハロは思わず歩み寄り、首をかしげて尋ねた。
「どうして入らないの?」
「わ、わたし……」
少女は驚いて目を泳がせ、声はかすかに震えていた。
「俺はハロ。君は?」
ハロはにかっと笑い、彼女の怯えを気にもせず手を差し伸べた。
「……ミラ。」
少女は顔を上げ、銀灰色の瞳に一瞬の光が宿った。それが二人の初めての出会いであり、初めての言葉だった。
――数日後。
「ミラ!」
工房の外の通りで再び彼女に出会った。子供たちが追いかけっこをしている中、ハロはミラの手を引いて走り出す。
最初は必死に付いてきたが、数歩も走らぬうちに彼女の顔は青ざめ、呼吸は荒く、足取りは乱れた。ハロは慌てて立ち止まり、支えるように手を伸ばした。
「ごめん……わたし……速く走れない。ゴホッ、ゴホッ……」
ミラは咳き込み、額に汗を浮かべ、声を震わせた。ハロは眉をひそめ、彼女の体が他の子供よりずっと弱いことを初めて悟った。
「大丈夫、速くなくてもいい。これからは俺が君の前に立って、敵を全部吹き飛ばす!」
「ほんとに……?」
ミラは不安げに見上げ、口元に小さな笑みを浮かべた。
「ふん、見てろよ!俺が全部守ってやる!ハハハ――」
ハロの笑い声が工房の街路に響き渡り、ミラも思わず笑みをこぼした。その瞬間、彼女は自分の弱さを忘れ、ただ目の前の少年の声だけを覚えていた。
「ハロ……ほんとうに、ずっと守ってくれるの?」
ミラは頬を赤らめ、うつむきながら小さく問いかけた。期待と不安が入り混じる瞳で。
「もちろん!」
ハロは即座に答え、彼女の小さな手をそっと握った。掌の温もりがミラの心を少し落ち着かせる。
「カンッ、カンッ――」
木槌の音が街路に響き、賑わいとともにその瞬間を彩る。ミラの肩はわずかに緩み、久しぶりの笑みが浮かんだ。彼女は言葉だけでなく、ハロの決意と行動から力を感じ取っていた。
「じゃあ……わたしも……あなたに追いつけるように頑張る!」
震える足取りながらも、瞳には小さな光が宿る。
ハロは彼女の肩を軽く叩き、さらに明るく笑った。
「遅くてもいいさ。俺はずっとそばにいて、君を置いていかない。」
陽射しが工房区の屋根と街路に斜めに差し込み、二人の小さな影を照らす。それは互いを支え合う姿を温かく刻み、彼らの誓いを見守る印のように輝いていた。
数日後、二人は再びアシュール環の工房で会う約束をした。
ハロは大きな足取りで工房に入り、目を輝かせていた。
「攻撃術式は使えないけど、魔導武器なら……俺は槍を使いたい!」
彼は棚に置かれたばかりの、まだ魔導の効能を付与されていない木製の長槍を見つけ、思わず手に取って左右に振り回した。
「やめろ!」
「槍を下ろせ!ハロ!」
「うっ!」
太った工房の師匠が慌てて駆け寄り、誰かを傷つける前に止めた。ハロは頭に新しくできたこぶをさすりながら、不満そうに槍を棚へ戻した。
「うぇーーひどい!俺はミラを守るんだ、そのために槍の練習が必要なんだ!」
木工師匠はそれを聞いて笑い、首を振りながら机の上から削り出した木片を一枚差し出した。
「ハロ、武器は遊び道具じゃない。守ることが大事だ。ミラを守りたいなら、まず小さな盾を作ってみろ。」
ハロは木片を受け取り、ちょうど工房に入ってきたミラの手を引いて机のそばへ連れて行った。
「えっ?ちょ、ちょっと……」
彼女は一瞬戸惑ったが、やがてゆっくり近づき、ハロが木片の木目を選んでいる様子を見つめた。
「ミラ、見てろよ!へへっ。」
彼は不器用に刻刀を握り、角は次々に欠けていったが、目はまるで本物の武器を作るかのように真剣だった。
「なんでこんなに硬いんだ?くそっ!」
ハロは歯を食いしばり、顔を真っ赤にして荒い息を吐きながら必死に形を刻み、木片を削り続けた。木屑が舞い散り、工房の空気に混じって漂った。
ミラはその必死な姿に思わず笑みをこぼし、指先で銀白色の長い髪をくるくると巻きながら、興味深そうにハロの不器用な作業を見守った。
「やっと形できた!粗削りではあるが、掌ほどの小さな木盾が姿を現した。」
ハロは誇らしげに胸を張った。
「ふふ……ハロの髪、工房の木屑みたい。風が吹くと散らばって、全然まとまりがないわ。」
ミラは彼の額にかかる乱れた髪を見つめ、小さな声で言った。
「散らばってても敵を防げるさ!」
ハロは刻刀を止め、一瞬だけ黙り込んだが、強がって笑った。
「でも木屑はすぐに散ってしまう……木目みたいにしっかり組み合わないの。」
ミラは首を振り、弱々しい声で言った。
その言葉にハロははっとして、削り出した形を見下ろした。
粗い木目が、しかし確かに交織し、強く咬み合って結びついていた。
その瞬間、彼は心の奥でひそかに決意を固めた。
ミラは気づかず、ただ掌ほどの木盾を撫で、指先で粗いが確かな木目を感じ取っていた。
その日から、ハロは前髪を編み込み、木目のように交差させて自分をより強く見せるようにした。
やがて彼はその編み込み模様を小さき木盾に刻み、ミラへと手渡した。
「見ろ!これが君の盾だ。俺がいなくても、君は自分を守れる。」
「ハロ……」
ミラはじっと彼を見つめ、指先を震わせながら小さき木盾を受け取った。
彼女は何も言わず、ただ静かにそれを握りしめた。
瞳には初めて「守られている幸福」が宿り――その幸福はやがて、確かな強さへと変わっていった。
「ブサイク、まだその編み込みを残してるの?」
数年後、防衛隊の編隊広場。号角の音が空気に響き渡り、隊列は整然と並んでいた。
ミラはもう、隅で怯えていた銀白髪の少女ではない。彼女の長い髪はすでに鋭い短髪に切り揃えられ、歩みとともに陽光の下で軽やかに揺れていた。
氷盾には符紋が煌めき、盾面に凝結した霜が彼女の揺るぎない眼差しを映し出す。彼女はハロの額前の編み込みを見つめ、口元に懐かしい弧を浮かべた。
「相変わらず毒舌だな。」
ハロは口角を上げ、雷槍が手中でバチバチと鳴り響く。その笑みには羞恥も苛立ちもなく、ただ暗黙の絆が宿っていた。
彼は知っていた――その編み込みも、彼女の手にある木盾も、すべてはアシュール環工房で始まった誓いなのだ。怯えから決意へ、子供から防衛隊の戦士へ。二人の絆は途切れることなく続いていた。
そうだ……
ミラ、君はずっと……
ハロは手にした少し黄ばんだ木製の小盾を握りしめ、涙が止めどなく溢れた。
彼は地に膝をつき、過去のすべてを思い返す――「ブサイク」という言葉の裏に隠されていた、言葉にできない想いを。
彼は覚えている。『氷盾封界』の光が彼女を呑み込む直前、ミラが最後に見せたあの優しい微笑みを。
「泣かないで、ブサイク……いや、今はカッコいい。」
それが彼女の最後の告白だった。
ハロは両手で小さき木盾を強く握りしめ、風に舞う銀白の粒子を見つめた。それはまるで彼女の笑顔のように煌めいていた。
ミラの幼き日の純真と、成長した後の揺るぎない決意が、今この瞬間に重なり合う。
そっか、あのバカみたいにデカい盾を選んだのは……俺のためだ。
そっと一言――
「愛してる、ミラ。」
遅すぎた反応、間に合わなかった返答。
永遠にすれ違った二つ心は、
もう答えていない。
彼はこの胸を抉るような愛を深く心に埋め、悲しみも、悔しさも、無力さもすべて前へ進む力へと変えた。
ハロは涙を強く拭い、額の乱れた編み込みが風に揺れ、雷槍が掌で轟く。
「……俺の番だ。」
そして、立ち上がり――
戦へ。
>最後まで読んでくださったあなたへ。
ハロの涙、ミラの微笑み――その一つひとつが、私たちの胸に静かに響きます。
(*˘︶˘*).。*♡
遅すぎた言葉、間に合わなかった返答。すれ違った二つの心はもう答えないけれど、彼らの誓いは決して消えません。
「戦へ」と立ち上がるその姿は、悲しみを力に変える人間の強さそのものです。
この話を閉じるとき、あなたの心にもきっと小さな灯がともっているはずです。
それは、誰かを守りたいと思う優しさであり、前へ進もうとする勇気です。
ᕙ(⇀‸↼‶)ᕗ
どうかその灯を抱きしめて、次の物語へと歩んでください。




