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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
23/25

第18話 ― 静止の選択 ―― 思いがけなく現れた者

>読者の皆さん、第十八話へようこそ。


18話はこれまで以上に重く感じられるかもしれません。友情、痛み、そして選択が同時に交錯し、涙を流す者もいれば、歯を食いしばる者、傷を負いながらも立ち上がる者もいます。


そんな瞬間に、どうか彼らと一緒に呼吸し、勇気と不安を感じ取ってください。


もしかすると、あなた自身も「言えなかった秘密」や「避けられない選択」を経験したことがあるかもしれません――この物語はまさにその瞬間を描いています。


時刻:3670シヴン年12月25日 午前6時04分

場所:????・秘密研究室


光の幕の輝きは次第に弱まり、符紋の光流は一本ずつ消えていった。

蒼藍の残光は場の縁へと退き、研究室は再び本来の静けさを取り戻し、残されたのは装置の低い唸りと俺たちの呼吸だけだった。


まるで何かが強引に現実へ引き戻されたかのようだった。

ルキはその場に立ち尽くし、両手を脇に垂らし、銀の髪が顔の半分を覆っていた。彼女はもう光の幕を見ず、ただ俯いて静かに待っていた。


誰も言葉を発しなかった。



ミドは口を開きかけては閉じ、まるでどんな語調で話せば彼女を傷つけずに済むのか思案しているようだった。


教授は杖を収め、もはや記録を取ることもなく、ただ傍らに立って沈黙を選んでいた。

その時になって初めて、俺は気づいた――


先ほどの映像がもたらした衝撃は、すでに後景へと退いていたのだ。


「ルキ……君がそんな過去を背負っていたなんて、俺は知らなかった。友人でありながら、ずっと君に負わせてしまっていた。親を失う痛みは想像もできない。ただ、エン叔父さんが去った時、俺の心は崩れ落ちそうだった……あの時、君とミドがずっとそばにいてくれたんだ……」


「そうだよ、ルキ。イランの言うとおりだ。僕も本当にすまなかった。君がそんなに苦しんでいたなんて知らずに、笑って一緒に過ごしていたなんて……」


ルキの肩はわずかに震え、目尻から再び涙がこぼれ落ちた。彼女は顔を上げ、俺たちを見つめ、震えながらもはっきりとした声で言った。


「ありがとう……ずっと怖かった。もし話してしまえば、この友情を失ってしまうんじゃないかって……でも今は、打ち明けてよかったって心から思っていた。」



ミドは肩に手を置き、涙を含んだ笑みを浮かべながらも明るさを失わなかった。

「アハハ……早く言ってくれればよかったのに。地脈が崩れ続けることに比べれば、大したことじゃないさ!」


俺は深く息を吸い込み、胸を締めつけていた圧迫感が少しずつ解けていくのを感じた。

かつてエン叔父が去った時、絶望に沈んでいた俺の傍らにいてくれたのはルキだった……。

今度は俺とミドが、彼女の支えになる番だった。


「ルキ、その後はどうなんだ?」


ミドは一歩近づき、瞳を輝かせ、まるで考古学者が封じられた秘密を掘り起こそうとするかのように身を乗り出した。


「ミド、これで十分だよ。」


俺は彼の肩に手を置き、軽く押さえた。ミドは振り返り、静かにうなずいた。


「無理はしなくていいよ、ルキ。外に出る時はその腕輪をつけていてほしい。でも俺たちの前では外して、君らしくいてくれたらいい。後に何があったのかは、また機会がある時に話してくれればいい……痛みの記憶にずっと向き合っていたら、君はまた傷ついちゃうから。」


ミドは一瞬きょとんとし、唇を動かしたが、最後には静かにうなずいた。


ルキはうつむき、銀の髪が顔の半分を覆っていた。肩はわずかに震えていたが、俺たちの言葉を聞くと、ゆっくりと息を吐き出した。


「ありがとう……」


その声はほとんど聞き取れないほど小さかったが、どこか安堵の色を帯びていた。


「少しずつ話していくよ……今はまだ、本当に少し時間が必要なんだ......」


教授は傍らで静かに俺たちを見つめていた。じっとした眼差しを向けながらも言葉を挟むことはなく、ただ微かにうなずいた。杖が床を軽く叩き、低く安定した響きが広がり、この沈黙に確かな重みを加えていた。



空気の圧迫感は少しずつほどけていき、まるで重たい幕がほんの少しだけ開いたようだった。


「教授、これから私たちは……」


俺が言葉を発しかけた瞬間、ミドがすぐに割り込んだ。期待に満ちた瞳がきらめいていた。


「さっきイランが言っていた裂斗山脈へ行くのか? そこなら断片の手がかりが見つかるかもしれない!」


「裂斗山脈……通信障害が起きる前に、グモが強い外的干渉があると報告していた。彼はディアとヘペニーと一緒に内部を調べている。」


教授は眉を寄せ、杖で床を軽く叩きながら次の方針を考えていた。


「今はグモ教授と連絡が取れない。心配だ……私たちも様子を見に行こう。」


ミドは珍しく憂いを帯びた顔を見せ、ルキは俺に静かにうなずいた。俺は深く息を吸い込み、胸の奥の焦りを抑えながら、言いかけていた言葉を続けた。


「教授、俺もミドと同じ考えだ。風神の言葉が気になる。すぐに状況を確かめに行くべきだと思う……」


教授が答えようとしたその時、眉間に鋭い皺が寄り、視線が場の中央へと向けられた。床の符紋が光を帯び、何かに触れられたように揺らめいていた。


「……転送点が反応している。」


「グモ教授が来たのか?!」


ミドは驚きと期待で近づこうとしたが、教授の杖がその前に立ちはだかった。俺とルキはその反応に違和感を覚えた。


もし本当にグモ教授なら、こんな警戒の目を向けるはずがない。じゃあ、誰なんだ。


教授は符紋をじっと見つめ、首を振った。


「違う……この反応は彼じゃない。」


蒼藍の光が場を駆け抜け、圧迫感が再び押し寄せてきた。まるで未知の存在が近づいてくる予兆のようだった。


中央の転送台が突然激しく閃光を放ち、符紋は縁から次々と組み替えられ、蒼藍の光が溢れ出すように走った。半透明の光の幕が台座の上に集まり、残像が現れては消え、何かが姿を現そうとしていた。研究室全体が、見えない力に封じられたかのように静止した。



「全員、構え!」


キリム教授が一歩前へ踏み出し、両腕を広げる。掌に刻まれた符紋が光を放ち、符光が全身を巡った。彼の視線は中央の転送台に釘付けとなり、全身が戦闘態勢へと移っていた。


俺とミド、ルキは思わず互いに身を寄せ合う。ミドの超合金義肢がわずかに震え、俺の指輪はすでに顕現し、ルキは魔導の徽環を呼び起こしていた。心臓の鼓動と符紋の脈動が交錯し、研究室の空気は極限まで張り詰めていく。


よく見ると、この転送台は人魚の噴水の下にある秘密の聖殿のものとはまったく違っていた。あちらの転送台は潮の満ち引きのように自然に呼吸し、星図の紋理が岩壁の間で浮き沈みしていた。


だがこちらの転送台は半ば自然、半ば人工の心臓のようだ――符紋は金属の秩序に絡め取られ、光流は導管に沿って正確に走り、ドームの冷たい蒼光の環は歯車のように通路を固定している。開かれるのではなく、無理やり制御されているのだ。


息を止め、胸の奥にひとつの思いが浮かぶ――


この転送台から現れるものは、誰にも予測できない。


中央の転送台の光幕が次第に凝縮し、冷たい蒼光の流れが空気の中で交錯する。低く唸るような音を伴い、ついにひとりのよろめく人影が姿を現した。



「うっ……」


銀に緋を帯びた長い髪は乱れ散り、波打つ毛先には血が滲み、かつての輝きを失っていた。額の両側から垂れた髪が頬に張り付き、その下から覗く銀灰色の瞳は――震え、苦痛に歪みながらも、必死に意識を保とうとしていた。


右腕は震えながら垂れ下がり、指はなお魔杖を握っていたが、失血のせいで力なく見えた。肩口と腕には黒く焦げた雷痕が残り、皮膚は焼けただれ、まだ消えきらぬ焦げ臭を放っている。


身体の周囲には微かな電光が残り、血痕と砕けた符紋の間で瞬き、まるで風雷の余韻がなお絡みついているかのようだった。


冷ややかな蒼光の符紋のローブはあちこち裂け、胸元と左肩には刃のような傷が走り、鮮血が布地を染め、衣襟を伝って滴り落ちていた。


彼女の身体は揺れながら前へ進み、突然膝が崩れ、地に倒れそうになる。



「ヘペニー!なぜ君がここ……グモはどうした!」


教授の声には驚愕が満ち、次の瞬間、杖を振って彼女の身体を支えた。


「先輩、どうしてこんな傷に!」


ルキが慌てて駆け寄り、ヘペニーを支えようと手を伸ばす。その時、彼女はすでに腕輪をはめ直していた。一般人の目には、彼女はもはやリリマラの猫耳妖精ではなく、ただの品行方正な優等生――ルキに見えていた。



彼女の両手は震えながら、血にまみれたヘペニーの身体を支えていた。銀に緋を帯びた髪は呼吸に合わせて揺れ、血痕は冷ややかな蒼光のローブに広がっていく。銀灰の瞳は半ば閉じられ、額からは絶え間なく汗が滴り落ち、その苦痛に満ちた表情は見る者の心を揺さぶった。


教授はその場に硬直し、瞳に宿る驚愕はまだ消えていない。ルキは彼女の身体を支えながら、ゆっくりと脇へと休ませた。



「どういうことなんですか、ぺい姉!グモ教授は?」


その時、ミドも駆け寄ってきた。顔は蒼白で、いつも浮かべていた快活な笑みは跡形もなく消えていた。彼の視線は血に染まったヘペニーの身体と、周囲に残る電光の残光の間を揺れ動いていた。心臓は鷲掴みにされたようだった。



「ぺい姉……戦場から戻ってきたんですか?ディ、ディア先輩は……彼も傷を負ったんですか?」


ミドの声は切迫し、今にも裂けそうだった。彼は手を伸ばし、ヘペニーを支えようとしたが、焦げ付いた雷痕に触れることを恐れ、その手は宙に固まったままだった。



その瞬間、研究室の空気はさらに重苦しくなり、焦げ臭と血の匂いが混ざり合い、息が詰まりそうだった。


ヘペニーはゆっくりと顔を上げ、かろうじて口を開いた。声は途切れ途切れで、まるで裂けた呼吸のように掠れていた。


「……うっ……ディア……彼は……連れ去られた……」



銀に緋を帯びた髪がルキの肩に垂れ落ち、血痕と電光が交錯し、まるで風雷の余韻がなお絡みついているかのようだった。



「な、何だって!?」


「いや……いや……」


「そんなはずない!!」


研究室は一瞬にして騒然となった。俺は思わず信じられない言葉を吐き、ミドの声は震え、ルキの瞳は怯えに揺れ、キリム教授は杖を強く握りしめ、顔色は深く沈んでいた。


空気に残る電光はなお微かに瞬き、まるでヘペニーのもたらした報せそのものが、皆の心を引き裂いているかのようだった。



銀灰の瞳は半ば閉じられ、額からは絶え間なく汗が滴り落ち、その苦痛を噛み殺すように唇がかすかに震えていた。

呼吸は浅く、不規則で、胸元の裂傷が上下するたび、ローブの裂け目から新たな血が滲み出す。



「……グモ、教授は……」


掠れるような声だった。


それは問いというより、必死に現実へ繋ぎ止めようとする意識の痕跡に近かった。


教授の表情が一瞬、凍りつく。

杖を支える手に、わずかな力が籠もった。


「話さなくていい。今は何も言わなくていい。」


そう言いながらも、彼の視線はヘペニーの傷の深さを一つひとつ確認していた。


焦げ跡、雷痕、魔力の乱流――


これは単なる遭遇戦ではない......


逃走でもない、突破だ。


ミドは歯を食いしばり、義肢の拳を強く握った。



「……裂斗山脈だな。」


その一言で、全員が理解した。


通信が断たれ、外的干渉が報告され、そして――


唯一帰還したのが、この姿のヘペニー。


研究室の空気が、再び重く沈黙する。


だが先ほどとは違う。


それは感情を整理するための静けさではなく、選択を迫るための静止だった。


俺は無意識に指輪を見つめ、胸の奥で何かがはっきりと形を取るのを感じていた。


もう、待つ理由はない。



「状況は極めて厳しいが、まずヘペニーを休ませて、私が癒しを施そう。」


キリム教授は素早く杖を振り、符紋が床に広がった。

すぐに彼は目を閉じ、古の秘術の呪文を唱え始める。声は荘厳で揺るぎなく響いた。


「生命が震える時、調和の力をもって整えよ――


水を息とし、土を根とし、

星の光に守られ、大地の心に支えられ、砕けた身を回復させ、流離う魂を安らぎへ導け。


風は騒ぎを鎮め、火は眠りへ帰り、

雷は境界に止まり、血痕は新生へと転じよ!」


呪文が響くにつれ、研究室の空気は一変した。焦げ臭と血の匂いは柔らかな力に満ちていき、残っていた電光は収束し、細やかな光粒となって消えていく。


符紋は冷たい蒼から白金へと変わり、光は呼吸のように脈動しながらヘペニーの傷へと流れ込んだ。


「――治療秘術・顕現:〈大地回生〉!」



光の流れが彼女の身を巡り、焦げ付いた雷痕は次第に薄れ、血はゆるやかに止まっていった。呼吸はなお荒かったが、苦痛に満ちた表情は少しずつ和らぎ、まるで生者の境界へと引き戻されるかのようだった。



「ぺい姉……絶対に持ちこたえて……!」


ミドは息を呑み、教授の杖を食い入るように見つめ、顔には慌乱の色が濃く浮かんでいた。額には汗が滲み、唇は震え、それでも低く呟き続けた。


「ぺい姉」という呼び方は研究室ではひときわ異様に響いた――ヘペニーは普段、他人が勝手に名前を縮めることを何より嫌っていた。だがミドに対してだけは、決して本気で拒まなかった。


ヘペニーはかろうじて口を開き、声は震えていたが、そこにはいつもの鋭さが宿っていた。


「……うっ……えっ……ミド、そんな、私が死んだみたいな顔しないで。醜すぎ。」


ミドは一瞬きょとんとし、すぐに目に涙を滲ませながらも、思わず笑みをこぼした――それこそが彼の知る「ぺい姉」だった。重傷のさなかでも、皮肉で隠そうとする彼女の強さ。


ルキはヘペニーを強く支え続け、その瞳には焦りと決意が揺らめいていた。彼女は分かっていた。口ではいつも皮肉を飛ばすこの先輩が、心の底では誰よりも強く、揺るがないのだと。



「ぺい姉、まだ俺に文句言う元気あるなら、大丈夫ってことだ!」


ミドは一瞬固まって、目に涙を浮かべながらも思わず笑った。

軽く振る舞おうとしたが、その声には震えが隠しきれなかった。


ヘペニーのまぶたは重く、呼吸は荒い。必死に目を開き、声を絞り出す。


「教授……ディアが……ちがう!教授、グモ教授が行方不明なの!早く……」


キリム教授は激しく身を震わせ、杖に刻まれた符紋の光が危うく乱れた。

恐怖を抑えきれず、声を荒げる。


「待て!ヘペニー、いったい何が起きた?はっきり言え!」


ミドとルキは同時に硬直し、心臓を殴られたように感じた。

次々と押し寄せる悪報に、研究室の空気は再び極限まで張り詰めていった。



「私たち……さっきグモ教授と一緒に裂斗山脈の下層で調査して、エネルギーの変動を監視していたんです。そこで強烈なエネルギーの流れが交差する場所に遭遇しました。グモ教授は分かれて行動すべきだと判断し、自分はさらに奥の核心へ……私とディアはもう一方で異獣の集まりを監視していました。」


ヘペニーの呼吸は次第に落ち着いてきて、重いまぶたを必死に持ち上げる。声は震えていたが、はっきりと響いた。


「異獣が突然暴れ出して、エネルギーの波が迫ってきたんです。ディアは急いで私に逃げろって急かして、グモ教授から託されていた符文の結晶を渡してくれました。これで教授を見つけられるって……転送を起動できるけど、一人しか送れない、複数は無理だって……だから私はそれを使って秘密研究室に戻り、状況を伝えに来たんです。」


彼女は少し言葉を切り、指先にはまだ結晶の残光が残っていた。


「転送の瞬間、背後でエネルギーの爆発が起きて……ディアの怒鳴り声と、『捕まえたぞ』っていう笑い声が聞こえました。でも振り返らなかった……その後どうなったかは分からない。ただ、グモ教授は核心へ向かったまま戻ってこなかった。姿が消えたんだ……」



この衝撃的な知らせに、私は言葉を失うほど驚いた。


グモ教授の実力はキリム教授と肩を並べ、さらに『銀風の守護者』の称号を背負っている。それは術法界における彼の威望と、揺るぎない防御力の象徴だ。

ディア先輩とヘペニー先輩もまた、前の二期を代表する優秀な卒業生であり、グモ教授が最も誇りに思う弟子であり右腕でもある――この組み合わせこそ、本来なら最も堅固な盾であるはずだった。


それなのに、彼らは裂斗山脈の下層で危機に遭遇した。ヘペニー先輩は符文の結晶を使って秘密研究室へ戻ることができたが、グモ教授は行方不明となり、ディア先輩は正体不明の敵に連れ去られてしまった。


これは、相手の力が常識を超えているだけでなく、攻撃術式の必要性を示している。防御や封鎖だけでは、とても太刀打ちできない敵だということだ。



「グモ教授まで……」


ミドは喉が乾き、信じられない思いでうつむき、低くつぶやいた。


ルキは拳を固く握りしめ、指の関節が白く浮き出ていた。瞳には恐怖と怒りが入り混じり、肩は小さく震えていたが、それでも無理に背筋を伸ばし、全身の意志で圧迫に抗おうとしていた。


「みんな……今回は絶対に!」


ルキの姿を見て、俺は彼女の決意と気持ちを深く理解した。そうだ……もう彼女に同じ痛みを背負わせるわけにはいかない!リリマラの悲劇を二度と繰り返してはならない!


この島はただの居場所ではなく、俺たちを育んできた故郷であり、共に根を張る大地なのだ。


「俺たちでこの島を守るんだ、俺たちの故郷を!」


その言葉は空気の中に響き渡り、雷鳴のように人々の心を震わせた。

ミドとルキの視線が交錯し、次に俺へと向けられる。恐怖は次第に決意へと変わり、キリム教授は杖を強く握りしめ、刻まれた符紋の光が再び安定を取り戻す。まるで皆の意志に応えるかのように。


その瞬間、研究室にいる全員が悟った――


これはただの戦いではなく、運命を守るための誓いなのだ。



「敵は……想像以上に強い。 」


キリム教授の眉間に深い皺が刻まれ、杖の符紋の光が突如として震え、律動は一瞬乱れた。



その時、風神が残した言葉が脳裏に響いた。



――運命の結び目は裂斗――


まるで予言のように、その言葉は目の前の状況と重なり、胸を強く打った。


裂斗山脈――そここそが運命の交差点なのだと感じた。グモ教授の失踪、ディアの拉致、ヘペニーの生還、すべてが同じ核心を指し示している。この直感の強さに、もはや座して待つことはできず、裂斗山脈へ赴き真実を確かめたいという衝動が込み上がった。



「教授……?」


ミドは治療を終えた教授が、疲労のため眠りについたヘペニーの傍らへと歩み寄るのを見つめた。微かな光に照らされ、彼の視線はふと床へと落ちる。そこには四つの円形節点が交差して構成された魔導装置が静かに輝いていた。



四つの点から柔らかな青光が放たれ、互いに細やかな光糸を引き合い、交錯しながら安定した立体構造を編み上げた。


光糸は空気の中で微かに震え、まるで呼吸するかのように律動し、やがて扁平でありながら厚みを持つ青色の魔導装置へと凝縮された。


その表面は水晶のように滑らかでありながら、符紋の脈動が仄かに透け、心臓の鼓動のように絶え間なくエネルギーを伝えていた。


ミドは息を呑み、この奇異な造形を凝視した。その精緻さと安定感は、自然と荘厳さと神秘を感じさせ、まるでこの装置そのものが守護者の意志を具現化したかのようだった。


「これは……?」



キリム教授の声は低く、揺るぎない威厳を帯びて響いた。


「イラン、ミド、ルキ。我々が相対する強敵には、従来の防御術式だけでは足りぬ……今こそ、グモ教授と共に研究した成果を用い、お前たちの体内に封じられた攻撃術式を解き放つ時だ。」


その言葉とともに、教授は手を振り上げた。古文書が宙でめくれ、符紋の光が星々のように瞬いた。


やがて一つの古びた木箱がゆるやかに彼の掌へと降り立ち、蓋がわずかに開いた。中には紫色の断片が幽光を放ち、深海に瞬く星屑のように輝いていた。



「教授、まさか――!」


ルキの瞳孔が大きく開き、思わず声を上げた。その視線は私とミドへと向けられた。



教授の目は刃のように鋭く、それでいて重い決意を宿し、ゆっくりと頷いた。


「そうだ、ルキ……断片をこの装置と結合し、封印を解き放つ。だがイラン、お前の能脈はすでに風神と結びつき、構造が極めて複雑になっている。基礎術式も変質してしまったため、私には解くことができない。」


空気は一瞬にして凝り固まり、青光と紫光が交錯して人々の顔を照らす。

その瞬間、誰もが悟った――これは単なる術式の解放ではなく、運命を賭けた試みなのだ。



「教授、大丈夫……まずはルキとミドを助けてください。」


俺は深く息を吸い込み、胸前の『無知之眼』を握りしめた。脈動するエネルギーは安定しており、まるで風神の守護と力がそこに宿っているかのようだった。


「時間がない、ミド!装置に乗れ!」


教授の声は雷鳴のように室内に轟き渡り、抗うことのできない威厳を帯びていた。



四つの節点から伸びる光糸は安定した輝きを放ち、俺の目は青色の魔導装置に落ちた。まるでミドを呼び寄せるかのように瞬いていた。青と紫の光が交錯し、彼の震える表情を鮮明に照らし出す。



「これは……?」


ミドは深く息を吸い込み、重くも揺るぎない足取りで前へ進んだ。靴底が光糸で編まれた扁平な構造に触れた瞬間、装置全体が震え、光が一気に広がった。符紋は潮のように溢れ、彼を包み込んだ。


ルキは息を止め、両拳を固く握りしめてミドを見つめた。その眼差しは勇気を彼に託すかのようだった。俺は胸前の〈無知之眼〉に手を添え、脈動するエネルギーと風神の守護が共鳴し、この決断の瞬間を静かに支えていた。



教授の呪音が次第に高まり、古文書の符紋が輝きを増した。掌にある紫紅色の断片は震えながら浮かび上がり、装置の上空に静止した。四つの節点の青光が激しく波打ち、断片を迎え入れた。光糸は再び編み直され、やがて烈しい紫紅の光を爆発させた。



「うっ……」


光は刃のように空気を裂き、灼熱の圧迫感が場を覆った。ミドの身体は激しく震え、呼吸は荒く、瞳は大きく見開かれた。まるで魂が直接エネルギーに打ち抜かれたかのようだった。符紋の光は四肢を駆け巡り、体内へと浸透し、封印の枷が崩れ始めた。


垂れ下がっていた両手は突然激しく震え、指関節が白く浮き出た。見えぬ鎖に引き裂かれるような感覚の中で、彼は力強く両腕を広げた。束縛を断ち切るかのように掌を開いた瞬間、そこから細やかな電光が迸った。



「アァーー!」


ミドは突如として咆哮した。声は震撼と狂烈を帯び、胸腔に積もった圧迫を一息に解き放つかのようだった。


その瞬間、左手――魔導超合金の義肢が激しく震え始めた。安定していた符紋の共鳴は紫紅色の光に再び点火され、金属表面にはさらに深い刻印が浮かび上がり、熔鋼のような輝きを放った。義肢の関節と指節は低く唸りを響かせ、まるで再鍛造されたかのように力が奔流した。


掌の魔導核心に亀裂が走り、紫紅色のエネルギーが熔漿のように溢れ出した。それは青色の共鳴と融合し、瞬時に鋭利な光刃へと凝縮された。

ミドの左腕はもはや冷たい機械ではなく、魔導と金属が完全に融合した生体のように脈動していた。


紫紅色の光は彼の周囲を旋回し、符紋は皮膚と義肢に刻まれ、燃え上がる印のように輝いた。


肩と胸は激しく上下し、汗は熱流と混ざり合い、彼の全身は痛苦と再生の狭間で震えていた。背を反らし、筋肉を張り詰め、左腕の光刃は空気を裂いて鋭い破鳴を響かせた。



その瞬間から、紫紅色の光は烈火のごとく空間全体を呑み込んだ。


ミドの体はエネルギーの奔流の中で激しく震え、符紋は炎のように皮膚の表面で燃え上がった。胸は急速に上下し、眼差しには驚愕と狂烈が閃いていた。


「俺は……体内の能脈に、これまでを超える力が……動いているのを感じる!俺……俺にはどう言えばいいのか分からない!」


掌の魔導核心に亀裂が走り、紫紅色のエネルギーが溶岩のように溢れ出した。それは青色の共鳴と融合し、瞬時にさらに鋭利な光刃へと凝縮された。光刃は震え、空気を裂き、刺すような破鳴を響かせ、新生を告げるかのようだった。


ミドの背は反り返り、筋肉は張り詰め、両腕は大きく広げられた。汗はエネルギーの熱流と混ざり合い、彼はもはや受け身ではなく、力の覚醒へと歩み出していた。


「ミド、もういい。ルキ、踏み込め。」


教授は詠唱を止めて合図を送り、ミドはゆっくりと退いた。足取りはまだ震えて不安定だったが、視線は離れず、左手――魔導超合金の義肢を凝視していた。紫紅色の光はまだ完全には消えず、符紋は金属の表面で微かに煌めき、彼の眼差しには驚きと疑念、そして震撼が宿り、この力が本当に自分のものかを確かめるかのようだった。


俺が顔を横に向けると、ルキは歯を食いしばり、眼差しに揺るぎない決意を宿していた。

深く息を吸い込み、重い足取りながらも退かず、ゆっくりと装置へと踏み込んだ。


靴底が光糸で編まれた構造に触れた瞬間、光は彼女の姿を包み込み、紫紅と青の交錯するエネルギーが周囲に渦巻き、緊張と決意が入り混じった表情を浮かべさせた。


銀色の髪はエネルギーの衝撃に煽られ、流光のように広がり、青紫の光を交錯させて煌めいた。符紋は瞬く間に四肢を駆け巡り、体内へと浸透した。圧迫感に肩は震え、呼吸は荒く、両腕は奔流の中で広げられた。


過程はミドと同じく、符紋が幾重にも肌に刻まれ、エネルギーの洪流が絶えず衝撃を与え続けた。


やがてそれは収束へと向かい、紫紅と青の光は静かに体内へ沈み込んだ。銀髪は余光の中で煌めき、彼女の姿は微かに震えながらも――封印の解除を果たしていた。



「攻撃術式の封印は一時的に解除された。しかし核心構造体を完全に解放するには、校長と貴族たちが風脈印の連結を行うのを待たねばならない。その間、お前たちの適応性と使用回数には制限がある。無理をして反作用を招くな。」


教授の声は沈着に響き渡り、灼熱の空気を切り裂く冷静な裂け目のようだった。地上の魔導装置の光も、その言葉の終わりと共に完全に失われた。


ミドの肩はわずかに震え、視線は義肢から離れなかった。俺とルキは互いに目を合わせ、銀髪は余光の中でまだ揺れていた。二人同時に深く息を吸い込み、教授の警告を心に刻んだ。



「覚悟はできているのか。」


胸の奥が震えた。その言葉は単なる問いではなく、真の試練と生死の脅威が迫っていることを告げるものだった。胸の『無知の眼』は心臓の鼓動に合わせて震え、俺は深く息を吸い、必死に立ち続けた。



「教授、もう大丈夫です!私も一緒に行きます!」


隅からヘペニ先輩の声がいきなり響いた。彼女はゆっくりと目を開き、呼吸はまだ不安定ながらも、瞳には光が戻っていた。身を起こすと、銀に緋を帯びたの髪が余光に揺らめき、声には堅い決意が宿り、抑圧された空気を切り裂いた。



「ぺい姉、休んでください。ここは俺が……」

「痛っ!」


ミドの言葉が終わる前に、ヘペニは手を上げ、拳を「軽く」彼の頭に落とした。



「何を言ってるの、ミド!私が復讐に行かないわけないでしょ!それに、ディアは口うるさいけど、必ず助ける。そうすれば彼は私に借りができる!そう考えたら、行かないなんてあり得ない!」


ミドは一瞬呆然とし、義肢に触れた手を止めた。橙色の大きな瞳に驚きが閃いた。ルキは思わず小さく笑い、銀髪が揺れ、張り詰めた空気は一瞬で崩れた。


俺はヘペニ先輩を見つめ、心に温かさが広がった――


彼女の声はただの強がりではなく、力そのものだった。抑圧の影から俺たちを引き上げる力。



「ヘペニ、無理はするな。攻撃術式はまだ使えるのか?」


教授は何事もないように信じられないこと言った。

その瞬間、俺の頭は真っ白になった――


聞き間違いか……?


「えっ!教授、今ヘペニ先輩が攻撃術式を使えるって言いましたか!?」


思わず声が漏れ、驚愕が全身を走った。



「えっ?教授、どういうことですか?まだ封印されているんじゃないんですか?」


ルキも眉をひそめて問いただした。



「何だ、知らなかったの?学院が教授と助教、それに高位術式の封印を解除したから、私たちは体内の封印が解かれた時にすぐに感じ取れたのよ。」


ヘペニは軽やかに言い放ち、その声には当然のような確信が宿っていた。彼女の瞳は光を帯び、先ほどの虚弱さなど一時の幻影にすぎないかのようだった。


俺たち三人の視線が同時に教授へと向かう。教授は淡々と応じた。


「彼女の言う通りだ。お前たち学生はまだこの段階に至っていないから、風脈印による解除に頼るしかない。先ほどは説明する暇がなかった。」



「そうか……」


俺は低く呟き、胸の奥に複雑な感情が渦巻いた。差は経験だけではなく、封印の階層そのものにあった。ミドの肩は微かに震え、ルキの銀髪は余光の中で悔しげに揺れ、そして――真の試練が迫っていることを告げるように。


ヘペニはまずローブの裾を横へと払った。布地は空気を裂いて弧を描き、鋭い気迫を伴った。彼女は立ち止まり、眼差しは揺るぎなく、先ほど傷つき倒れていた姿とはまるで別人のようだった。



「覚悟を決めろ、出発だ!」


教授の声は鋭い刃のように響き、すべての迷いを断ち切った。空気は瞬時に凝固し、俺たち四人は同時に息を呑んだ。ミドの指先はついに義肢から離れ、ルキの銀髪は決意を帯びて輝き、ヘペニの姿勢は宣言のように――彼女はすでに完全に備わっていた。


俺の胸の『無知の眼』は心臓の鼓動に合わせて震え、今度は余韻ではなく、明確な呼び声となった。初めて風神の力を使うことへの緊張と興奮が入り混じり、呼吸は荒く、掌には汗が滲んだ。



「運命の結び目……」


期待と不安が胸に交錯し、同時にグモ教授とディア先輩への思いが募った――どうか無事でいてほしい。


俺は無意識にルキへと視線を向けた。

彼女はヘペニの隣に立ち、両手を固く握りしめ、銀色の髪が垂れ落ちて表情を隠していた。


だが俺には分かっていた――

それは逃避ではない。


彼女は再び、嵐の前に立つことを選んだのだ。



そして俺は気づいた――


さっきまで自分たちが選んでいると思っていた。


だが本当の選択は、裂斗山脈が揺らいだあの瞬間に、すでに俺たちの代わりに下されていたのだ。



>ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


執筆しながら、私自身もキャラクターたちの感情に強く揺さぶられました。ミドの咆哮、ルキの決意、ヘペニーの強さ、そして教授の沈着さ――彼らはただの登場人物ではなく、私たちと並んで歩む存在のように感じられます。


もしあなたの心臓も少し速く鼓動したなら、私たちはすでに同じ世界を旅しているのです。


これからの物語はさらに困難で、しかしもっと輝かしいものになるでしょう。


この話しで、あなたが最も心を動かされた言葉や行動は誰のものだったでしょうか。


ぜひ教えてください。あなたの感想こそが、私が物語を紡ぎ続ける力になります。


(人*´∀`)。*゜+

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