第17話ー謎の顕現ーールキの秘密
>符文の光が震え、研究室に広がる青白い輝き。
教授の言葉に促され、ルキは静かに決意を固めます。
その瞬間、仲間たちの前に「隠されてきた真実」が少しずつ姿を現し始める――。
そして、空間に突然浮かび上がった光の幕。
それは幻なのか、記憶なのか、それともまったく別の力なのか。
この第17話は、仲間の絆と謎の顕現が交差する重要な場面です。
時間:3670シヴン年 12 月 25 日 AM 05 : 55
場所:????・秘密研究室
符文の光が震え、青白い輝きが空間に広がり、その驚きの言葉に応じるように揺らめいた。
キリム教授は背筋をわずかに伸ばし、両手を背に組み、落ち着いた眼差しをルキへと注いだ。
彼は軽く首を傾け、彼女がすでに覚悟を決めていることを確かめるように、低く響く声で告げた。
「ルキ、君の知っていることを彼らに話してくれ。」
ルキはそっと瞼を伏せ、銀の髪が肩へと滑り落ちる。
深く息を吸い込み、胸の奥の決意を言葉へと凝縮するように、静かに頷いた。
その声は穏やかで柔らかいが、揺るぎない確信を帯びていた。
「そうであるなら……もう隠さない。私の本当の姿を見せよう。」
「本当の君……?」
俺は眉をひそめ、戸惑いながらルキを見つめた。言葉を言い終える前に、彼女は静かに手を上げた。指先はわずかに震えていたが、迷いは一切なかった。
常に身につけていた腕輪が光の中で煌めく。彼女はそれをゆっくりと外した。急ぐことなく、まるでこの瞬間に言葉では尽くせぬ重みを託すかのように。
俺とミドは思わず顔を見合わせ、心の中は同じように真っ白になり、この動作の意味をまったく理解できなかった。
腕輪が彼女の手首から離れた瞬間、空気がわずかに震えた。
ルキの銀の長髪が光の中で煌めき、その頭頂に異変が走る――髪の間から微かなざわめきが伝わり、何かが蠢き、姿を現そうともがいているかのようだった。
「ザッ……ザッ……」
震え。
突然、髪の間から耳が姿を現した。形は細長く鋭く、淡い毛に覆われている。
「そ、そ、それは……耳……?」
俺は驚いて、その自然に動く耳を指差し、顔が青ざめた。
ミドはまるで宝物を見つけたかのように目を見開き、思わず叫んだ。
「ネコ耳!?」
だがその瞳には好奇の光が宿り、俺の眉間に刻まれた困惑と鮮やかな対比を見せていた。
キリム教授は静かにルキを見つめていた。深い眼差しは冷静で、まるで必然の真実を明かす時を待っているかのようだった。
彼は口を挟まず、ただ身をわずかに傾け、この場に立ち会っていた。
ルキは淡々とした表情を浮かべながらも、どこか自嘲めいた笑みを帯びていた。
「ミド……イラン、私は人間族ではない。自然の守護者――妖精の一族だ。」
「なっ……!!!」
「これはただの仮装の冗談か、ルキ!?」
俺は目を見開き、声は震え、心臓が激しく高鳴った。眉間に皺が寄り、頭の中は混乱に覆われ、目の前の光景をいつものルキと重ねることができなかった。
ミドは全身を硬直させ、口元をわずかに開いた。笑いそうで笑えず、呼吸は荒く、指先は無意識に服を握りしめていた。
驚きの中、その瞳には隠しきれない興奮が宿り、まるで伝説の光景を目にしたようだった。
俺は昔、ルキに聞いたことがある。どうしてその腕輪をいつも外さないのか、と。
彼女はただ平然と「大事なものだから」と答え、眠るときでさえ外そうとはしなかった。
その時の俺は、彼女が物に少し特別なこだわりを持つ人だと思っただけで、何か思い出を託しているのだろうと考えていた。
だが今――腕輪が外された瞬間、あのネコ耳が現れた。
これはただの飾りじゃない。魔法の隠し道具なのか。隠していたのは外見だけじゃなく、彼女の正体そのものだった。
胸に鋭い痛みが走る。なぜルキは一度も話してくれなかったのか。なぜ俺に隠していたのか。
彼女はずっと恐れていたのか――異質な存在として見られ、拒まれ、嫌われることを。
あんなに優しく笑っていたのに、その裏でひとり恐怖を抱え続けていたのか。
俺の脳裏に過去の記憶の断片がよぎったーー
彼女が教室で静かに講義を聞いていた姿。研究室で黙って手を貸してくれた姿。夜の長い実験を一緒に耐え抜いた姿……。あの時の彼女も、心の奥で怯えていたのだろうか。真実が明かされた瞬間、俺たちが離れていくのではないかと。
その思いが胸を締めつけ、呼吸さえ重くなる。
「俺……俺は……」
言葉は喉までせり上がりながらも塞がれたように途切れる。問いも感情も心の中で渦を巻くのに、どうしても言葉にならない。喉は強張り、心臓は激しく跳ね、残るのは断ち切られた声だけだった。
「ルキ、『ようせい』って……何なんだ?」
ミドは唾を飲み込み、震える声を必死に抑え込んだ。口元に笑みを浮かべようとしたが、好奇心と不安に押し潰されて消えていった。その問いは、混乱した感情の渦から俺たちを引き戻し、掴める支点を与えてくれるようだった。
確かに……俺も『ようせ』が何なのか知らない。その言葉は頭の中で空白のまま、見知らぬものとして広がっていた。
だが、ミドの問いかけは胸の圧迫を少しだけ解きほぐしてくれた。少なくとも誰かが代わりに口にしてくれたのだ。自然と視線が柔らかくなり、わずかな呼吸の隙間を掴んだような気がした。
俺はルキを見つめた。視線には困惑と、理解を求める期待が入り混じっていた。
突然の問いにルキは一瞬驚いたようだったが、やがて静かに俺たちを見返す。その瞳には逃げも隠れもなく、淡い決意が今も宿っている。口元にわずかな笑みを浮かべ、俺たちの衝撃を和らげようとしているように見えた。
「妖精……それは自然の守護者。人族とは違い、私たちの命は大地や森、星々の息吹と深く結びついている。息をするたびに草木のささやきや泉の脈動を感じ取れる。それが私たちの在り方なの。」
彼女の声は穏やかだった。けれど、その響きには今も微かな震えが残っている。言葉を紡ぎながらも、心の奥底には不安がまだ息づいているように思えた。
俺は耳を澄ましながら、脳裏に過去の記憶の断片が浮かんだーー
夜空を見上げる彼女のまなざし。魔法素材の分解授業で植物の標本をじっと見つめる眼差し……。それらは偶然ではなく、彼女の本質そのものだったのだ。
ミドは思わず一歩踏み出し、瞳を好奇と興奮で輝かせた。
「じゃあ……自然の声が聞こえるの?それと話せるの?」
ルキは静かにうなずいた。銀色の髪がその動きに合わせて柔らかく揺れた。
俺はできるだけ自分を落ち着かせようとした。ルキが話してくれた言葉に耳を傾けるうちに、心は次第に静まっていく。
困惑と衝撃に満ちていた感情は、少しずつ別のものへと変わっていった――理解と受容へ。
彼女が隠していたのは偽りではなく、紛れもない真実だった。
「じゃあ……どこから来たの?ずっとここで暮らしてきたの?」
ミドの呼吸はまだ荒く、頭をかきながら視線をルキに釘付けにしていた。
ルキはしばし沈黙し、指先で外された腕輪を弄ってる。その眼差しは符紋の光流へと向けられ、冷ややかな蒼のエネルギーが彼女の凝視に応えるように微かに震えていた。
「違う。」
「私はこの世界の住人じゃない。本当の故郷は、r-rmura――『リリマラ』と呼ばれる空間。そこは妖精族の聖域であり、自然の始まりの源泉でもある。」
「rrmura……」
「リリマラ?」
思わず口にしたその響きは、疑念に満ちていた。だが同時に、どこか神秘的な響きを帯びていて、まるで古い伝承から抜け出した言葉のようだった。
ミドは神話に出会ったかのような顔で目を見開き、呼吸をさらに荒げていた。まるで伝説が現実になった瞬間を目撃したかのように。
「……どうしたの。」
「この揺れ……」
その名前が呼ばれた瞬間、符紋の光が強く瞬き、研究室全体が見えない力に軽く揺れた。
ルキの顔は固まり、思わず半歩下がった。視線は俺の胸元と机の木箱を行き来し、声が震えていた。
「イラン!胸元が……!」
「えっ!」
「何が……起きてるの?」
俺は胸元の〈無知の眼〉に目を落とした。青金色のエネルギー球が脈打ち、光が菱形の模様に沿って流れていく。
机の上の木箱も震え、表面の紋様が浮かび上がり、冷たい青の光が滲み出した。二つの光は空中で交差し、やがてぼんやりとした光の幕を広げていった。
「なにっ……!」
キリム教授は思わず声を上げた。静まり返った研究室に、その声が鋭く響く。視線は光の幕に釘付けで、眉間に皺を寄せたまま固まっている。ありえないものを見た、という顔だ。
光の幕は空気の中で揺れ、風に波立つ水面みたいに震えた。エネルギーの共鳴に合わせて、ぼやけた影が浮かぶ。輪郭ははっきりせず、残像みたいにちらつく。人影にも見えるし、符紋にも見える。正体は掴めない。
ミドは息を呑み、震える声を漏らした。
「それ……映像?何を映してるの……?」
胸の奥の震えはさらに強くなる。これは偶然の幻じゃない――古い力の言葉だ。そう直感した。
「教授、これは……?」
ルキは思わず問いかけ、声には震えが混じっていた。
『:-0•∴•∵•∆πΞΦδ∶∵∴』
引き延ばされ、途中で途切れた声が光の幕から溢れ出す。まるで切れ切れの言葉のようで、繋がらない響きだった。
「……この言語は藍亞に似ている。しかし決定的に違う。今は解読できない。」
教授は長く眉をひそめ、光をじっと見つめたまま、ようやく見解を口にした。
「つまり……影しか見られない、ということか?」
ミドは光の幕をじっと見つめ、喉が乾いていくのを感じていた。
俺は口を挟まず、心の中で映像の一部を順に記していった。規則を見つけようとしていた。
金色の残影が光の幕の中央にゆっくり集まり、輪郭は明滅し、水面に屈折した影のように揺れていた。視界には時折、目のような光の粒が閃き、翼の影が掠めるようにも見えたが、形は重なり、ねじれ続け、真の姿を定めることはできない。動きは何か巨大なものを積み上げているようで、次の瞬間にはただ光と影の錯覚にしか見えなかった。
光の幕が再び波打つ。人影に近い輪郭が群れとなって浮かび上がり、縁は絶えず流れ、体は液体みたいに揺らめいていた。その周囲には淡い青の光環が漂っていた。明瞭さは瞬きの間に変わり、彼らが前に進んでいるのか、ただ光に押し流されているのか判別できない。
『∴∵ΞΦδ∶∵∴¤』
もう一つの符号めいた声が空間に響き、失われた言語の一部のように耳を刺すように滑り抜けていった。
ルキは下意識に上の耳を覆い、声を震わせた。
「うっ……こ、これらの映像には一体どんな意味があるの……?」
「グモ教授なら何か手掛かりを見つけられるかもしれない。彼はわたくしより古代情報の解読に長けている……」
教授はただ首を振り、光をじっと見つめる目に困惑の色を浮かべていた。
突然、映像の遠方に巨大な構造が震え、見えない環状の波が幾重にも広がっていった。波が通り過ぎるたびに施設は粉々に砕け、塵となった。掃かれた影は倒れることなく、光の中で直に消え、まるで存在そのものが抹消されたかのようだった。
さらに高みには銀白の輪郭が現れ、その体躯は他のすべてよりも遥かに大きかった。翅の影は幾層にも重なり、数えることはできなかった。
顔の位置には三つの強烈な発光点だけがあり、眼のように凝視していた。彼は巨大な器具らしきものを掲げ、その光脈が触れた途端に、前方の影は瞬時に消え去った。
映像は突然さらに速く切り替わった。追う者、抗う者、すべてが加速再生のように流れ込んだ。
銀白の輪郭の周囲を覆う光はいくつか削ぎ落とされ、縁は乱れた。鋭い光痕が走り、彼の腕部には亀裂が走った。地面には銀白と濃紺の液体が混じり、不規則な痕を描き、投影の震動に合わせて瞬きのように輝いていた。
「これはまるで二つの異なる種族の戦いではないか?」
俺は断片的な映像を必死に繋ぎ合わせ、ようやくそれがいつ、どこで起きたのかも分からない激しい争いであることを見抜いた。
教授もミドもルキも、わずかにうなずいて同感を示しながら、視線を光の幕に映し出される映像に釘付けにしていた。俺も思わず息を呑み、その変化を黙って見守った。
やがて残影の中に群れをなす光体が浮かび上がり、より大きな輪郭に応じるように揺れ動いていた。銀白の残影は一つまた一つと閃光の後に消え、力尽きたように倒れ、あるいは抹消されたかのように消え去った。するとその巨大な輪郭が天を仰ぎ、判別不能な咆哮を放つと、崩れ落ちる施設へと突入した。そしてその他の光体も後を追い、映像は暗い空洞へと切り替わった。
銀白の巨大な輪郭は光の幕の中で急速に色を失い、体の九割近くが銀から灰白へと変わり、縁は寒風にさらされたかのように光沢を失っていった。だが地面には二筋の痕跡が広がり、銀色の液体と青色の液体が交錯しながら流れ、まるで道を探すかのように蠢いていた。
「待って……色が変わっている……」
「あ、あれら……自分で動いているのか?」
ミドは地面に広がる、生命を宿したかのような液体を指さした。
不思議なことに、その液体は意識を持つかのように同時に動きを止め、やがて空洞の中央にある黒い巨大な結晶へと一斉に流れ込み、一気に内部へ吸い込まれていった。結晶の光紋は一度だけ大きく膨らみ、すぐに収束し、まるで何かを呑み込んだようだった。
闇の中で際立っていたのは黒い中心核だった。その表面は異様な光を瞬かせ、近づいた淡い青の光体は次々と輝きを失い、輪郭を保てなくなって地面に崩れ落ちていった。
やがて残ったのは、他よりも背の高い少数の光体だけだった。彼らの光はより濃く、輪郭も一層凝縮されていた。
突如、銀白の巨大な輪郭が闇の中から飛び出した。口元は何かを呟いているように動き、手にした器具を宙へと投げ放つと、それは瞬時に雷電のような光束へと変わり、残存する光体へ向けて鋭く放たれた。
「それは……攻撃している?」
教授は眉をひそめ、映像の中から手がかりを探ろうとしていた。
ひとつの大きな光体が壁のような光を立ち上げ、雨のように降り注ぐ光束を防ごうとした。
だが光の壁は強烈な閃光の中で崩れ、その輪郭も形を失った。
残された光体たちは仲間が消えた瞬間、銀白の輪郭へと一気に迫り、ただ敵を倒すことだけに意志を燃やしているようだった。
銀白の巨大な輪郭は孤独に戦い、六つの強勢な残影を前にしても揺るがなかった。光幕が震える中、その姿はむしろ一層確固たるものに見えた。
「銀白の巨影……笑った?」
瀕死の銀白の巨影が光の幕の中に浮かび、口元がわずかに弧を描いたかと思うと、次の瞬間にはもう霞んで消えていた。
その笑みは奇妙で、言葉にしがたいほどの静かな安らぎを私に感じさせた。
空洞は崩壊を続け、残影は次第に闇へと溶けていった。やがて目に映ったのは、ある高大な輪郭が砕けた建物を突き抜け、祭壇のような場所へと辿り着く姿だった。そこでは光の幕が通路を開いたように見えたが、その先は判然としない。
「あれって……!?」
ルキは突然両手で口を覆い、震えながら画面を凝視した。
轟音の中、不意に赤子の泣き声が響いた。
「君たち、聞こえたか?」
教授は前へ移動する映像を指さしながら言った。
瓦礫の間から小さな影が浮かび上がり、ぼんやりした顔には三つの光点が瞬いていた。高大の影はその影を抱き上げ、祭壇前の通路へと急ぎ走った。
『∴ΞΦδ∶∵∴』
記号のような声と泣き声が重なり合い、まるで別の信号のように響いた。
到達する直前、闇の引力が空間全体を呑み込もうとした。その影は赤ん坊をエネルギーの通路へと投げ入れ、自らは足を止め、身体から青白い光を爆発させた。
無数の青白い光線が黒影へと放たれ、それを無数の破片に砕いた。いくつかの大きな破片は紫と赤の光を瞬かせながら、さらに深い闇へと漂っていった。
高大の影の最後の輪郭も光の中で消え、白光となって空間から消え去った。
(あれは――赤……紫の破片……!?)
光の幕が震え、明るさは一気に上昇した。最後の形を見極められると思った瞬間、映像は突如として大きく白飛びし、すべての輪郭が白光に退き、ただ空白だけが残った。
先ほどの壮烈な映像から現実へと戻った刹那、俺は思わず息を呑み、胸が押し潰されるように重く、脳裏には断裂した光の痕がなお残っていた。頭はじわりと膨張し、心は乱れ、長く静まらなかった。
俺は無意識にミドとルキへ視線を向けた。
ミドの表情は硬直し、目を大きく見開いたまま焦点を失っていた。
ルキはただ驚いているだけではなく、両手で肩を強く抱きしめ、全身が止められぬほど震えていた。
その瞳は、かつて起こった事実を見てしまったかのように恐怖に染まり、今にも叫び出しそうだった。
映像が終わる直前、彼女が突然発した驚きの声がまだ俺の脳裏に響き、無視できなかった。
「これって……教授、まさか……」
「イラン、君の驚きは理解できる。恐らく……まさに君が感じた通りだ。」
教授の声は低く、額には細かな汗が滲んでいた。
「わたくしもそう思う……この映像は、ルキが持ち込んだ断片が、わたくしたちの目の前で生成される過程そのものなのだ……」
いつも冷静沈着な教授が、これほど汗を流す姿を見るのは初めてだった。
彼の指はわずかに震え、何かを掴もうとしても触れることができないようだった。光の幕に映し出されていたのは単なる映像ではなく、いつ、どこで起こったのかも分からぬ戦争だった。
その戦争の残影こそが、『失われた断片』を生み出す源だったのだ。
「ルキ、大丈夫?」
俺は振り返り、彼女に向き直った。
彼女の肩はなお震え、両手で自分を強く抱きしめ、指の関節は力の入りすぎで白くなっていた。瞳には驚きだけでなく、かつて存在した事実を見てしまったかのような恐怖が宿り、今にも逃げ出しそうだった。
「さっき……一体何を見たんだ? どうしてそんなに怯えているんだ?」
俺は抑えきれず問い詰めた。声を低く落としながらも、切迫した響きを帯びていた。
「ぅ......」
ルキの唇は震え、開こうとしてはすぐに閉じられた。瞳は揺らめき、涙がにじむ眼差しはわざと俺の視線を避けていた。まるでその一瞬の映像が、語ることを拒む秘密に触れてしまったかのようだった。
空気に満ちていた沈黙は、光の幕の残響よりもなお重く、俺は自分の心臓の鼓動さえ聞き取れる気がした。
「ルキ!怖がらなくていいんだ!」
ミドが突然声を発した。その声には、わざとらしいほどの明るさが込められていた。
「俺とイランは君の友達だ。信じてくれていいだろ!なぁーイラン!」
彼はいつもの朗らかな笑みを浮かべ、一方の手でルキの肩をそっと叩き、力を伝えようとした。同時に、揺るぎない眼差しを俺に向け、まるで返答を求めるかのようだった。
俺はルキを見つめ、できるだけ声を柔らかくした。
「ルキ……君がこれまで俺たちに隠していたこと、正直に言えば最初は少し怒りもあったし、どう応えていいか分からなかった......けれど、それだけのことだ。」
深く息を吸い込み、視線を逸らさずに続けた。
「それで俺たち三人の友情が変わるわけじゃない。君が苦しみを一人で背負い続ける姿は見たくない。だから一緒に考えよう、いいだろ?」
ルキの肩は小さく震え、目尻の涙が光の幕の残光に照らされてきらめいた。彼女は顔を上げ、何かを言いかけてはすぐに止まった。ミドはなお肩に手を置き、笑みはぎこちなかったが、その眼差しの確かさは揺らがなかった。
張り詰めた空気は少しずつ緩み、彼女の返答を待つように漂っていた。
ついにルキは抑えきれず、肩を大きく震わせ、涙が頬を伝って落ちた。呼吸は荒く震え、声は途切れ途切れに漏れ出した。
「うぅ......わ、わたし……ごめん、少し......静かにさせて……」
彼女は両手で顔を覆い、身を縮めて泣き崩れた。泣き声は静まり返った空間に鮮明に響き、それは弱さではなく、長い抑圧の果てに崩れ落ちた痛みだった。
俺とミドは視線を交わす。彼の笑みは消え、残っているのは焦りと痛ましさだけだ。俺の胸も彼女の泣き声に合わせて締めつけられるように苦しくなるが、ただ黙って傍らに寄り添い、彼女が再び言葉を紡ぐのを待つしかない。
泣き声は潮が引くように少しずつ収まり、肩はまだ震えているものの、呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していく。
ルキはゆっくりと顔を覆っていた両手を下ろす。指先はまだ震え、光幕の残光が目尻をかすめ、涙の跡に淡い光を宿す。彼女は顔を上げ、揺れる視線を必死に押しとどめ、俺たちを見据えようとする。
「わたし……」
声はかすれ、深い闇からようやく這い上がってきたようだ。喉の震えは消えきらないが、そこには言葉を発しようとする決意が滲んでいる。
空気の重さはもはや圧迫ではなく、彼女の口からこぼれ出る次の言葉に凝縮され、秘密を解き放つ囁きを待ち構えていた。
「さっき光の帳に浮かんでいた祭壇……あの光の通路、わたしは前にも見たことがある。幻なんかじゃない、本当にあった通路なの。」
ミドは息を止め、視線を彼女に釘づけにした。
俺も抑えきれず問いかけた。
「どこで見たんだ?」
ルキは短く沈黙し、勇気を振り絞るようにうなずいた。
「それは私たちの聖地。ずっと昔、わたしはその通路を自分の足でくぐり抜けたことがある……」
声は落ち着きを取り戻しつつも、視線は過去へ引き寄せられていく。
「その日を……わたしは忘れられない。」
深く息を吸い込み、かすれた声に震えを残したまま、彼女は語り始めるーー
空はいつものように澄んでいて、まだ子供だったわたしは果物籠を手に森の小道を歩いていた。指先には果実の香りが残り、風が頬を撫で、木々の影が揺れる。遠くに見える村の輪郭は静かで親しみのある。
足を止めたわたしは、両手を胸の前で合わせ、静かに息を整える。森のざわめきが一瞬遠のき、耳に届くのは泉の水音だけだった。
「大地の恵みに感謝し、陽の光と雨に感謝します。
暮らしが豊かでありますように、この恩が絶えることなく続きますように。」
いつものように、村から少し離れた泉の森で、十年に一度だけ実る吉十蜜花の果実を摘んでいた。十年ごとに自然へ感謝を捧げる祭りを準備するのが習わしで、その日はちょうど収穫祭の前日だった。
吉拉蜜を醸すために、私はエイラ村長の言いつけに従い、森へと足を踏み入れた……
「冷たい!えへへ」
果実を採り終えたあと、泉のほとりへ歩み寄り、手を澄んだ水に差し入れると、思わず笑みがこぼれた。水面はきらめき、まるで私と戯れているようだった。
その時、泉の岩陰に、一輪の稀少な花が淡い光を放っているのに気づいた。花弁は星のように瞬き、とても美しい。村人たちはそれを「星の花」と呼び、エイラ村長が最も好む花だった。
「これを持ち帰れば、村長はきっと喜んでくれる!」
私は背伸びして、慎重に手を伸ばした。胸の奥では、村長がそれを見たときに頭を撫でてくれるのではないかと、ひそかに笑みを浮かべていた。
花を大切に抱えながら、純粋な期待が心を満たし、村長の笑顔が脳裏に浮かんだ。
そして心の中で密かに思った。もし本当に頭を撫でてくれたなら、その時は必ず満面の笑みを返そう、と。
しかし、村へ戻ろうと振り返ったその瞬間——
空が突如、漆黒に紅を帯びた光束によって裂ける。その光は真っ直ぐに落ち、目を刺すように痛みが走る。思わず手で顔を覆う。
果物籠が手から滑り落ち、果実が泥の上に転がる。心臓が強く締め付けられ、足が制御を失いかける。
「……あそこは、村なのか?」
胸がぎゅっと縮み、ただ立ち尽くしたまま、奇怪な光が村の上空を覆っていくのを見つめる。
「みんな……みんなは無事なの? 村長、ププばあちゃん、それに私を世話してくれた人たち……」
名状しがたい恐怖が胸を満たし、気づけば足が速まっている。泥地が足元で震え、走りながら心の中で叫び続ける。
私は父も母もいない。村の人たちこそが、私の家族だ。あの光が恐ろしい……彼らが呑み込まれてしまうかもしれないと思うと、涙が目に溜まり、呼吸は途切れそうなほど荒くなる。
「絶対に戻らなきゃ……絶対に!」
足はどんどん速くなり、必死に走る。呼吸はますます乱れ、泥が足元で跳ね、心臓は絶え間なく打ち鳴らす。耳に残るのは風の音と、自分の慌ただしい息遣いだけ。
森の縁を飛び出した瞬間、目の前の光景に全身が凍りつく。
村が――
本当に光の中にある。
漆黒に紅を帯びた光の波が潮のように押し寄せ、家々も畑も、見慣れた小道さえも怪しい色に染めていく。人々の影は光の中で震え、次の瞬間には皮膚も瞳も、そして体そのものまでもが黒く変じ、何かに歪められた異形へと変わっていく。
「やめて……みんな、やめて……!」
思わず声が漏れ、涙がついに頬を伝う。
私はププばあちゃんが戸口で必死に身をよじるのを見てしまう。その姿は次第に人の形を失い、黒い影の塊のような存在へと変わっていく。
いつも果物を採りに一緒に出かけていたラムクやババドの笑い声がまだ耳に残っているのに、目の前では苦痛の叫びへと変わり、彼らの体は次々と黒い異形へと歪んでいく。
私の目には......
もう村の人々ではなく、怪物にしか映らない。
足は震えながらも前へと突き進む。心にあるのはただ一つの思い——
「村長を見つけなきゃ……村長はきっと……きっといる!」
黒い異体たちは泥地に足を引きずりながら進む。のろのろとした動きだが、決して止まらない。まるで何かに操られているかのように、一歩一歩近づいてくる。
そのたびに地面は重く震え、低い唸り声が空気を満たす。まるで闇の中で怪物が歯を軋ませているかのように。
異体たちは決して急ぐことなく、まるで私を閉じ込めようとするかのように、じわじわと距離を詰めてくる。
私は震える足で前へと突き進む。涙が視界を曇らせ、必死に周囲を見渡しながら叫び続けるーー
「村長!……エイラ村長はどこに……?」
その瞬間、周囲の黒い異体たちが一斉に振り返り、何かに操られるように私へと迫ってくる。泥地は彼らの足に揺さぶられ、私の心臓までも震え出す。
「やめて……来ないで……!」
両脚は力を吸い取られたように痙攣し、呼吸は荒く、胸は痛みに締め付けられる。指先は何かを掴もうと宙を彷徨うが、ただ空気を切るばかり。力は少しずつ抜け落ち、声も途切れそうになる。
(エ......イラ村長……
助けて……助けて……私を……)
絶望に呑まれそうになったその時、混乱を突き破るように、聞き慣れた声が響いた。
「ル……キッ!」
その声は闇を切り裂き、私は思わず声の方へ目を向けたーー
漆黒に赤を帯びた光の縁に、一つの影が揺れながらこちらへ歩み寄ってきた。顔は不気味な光に照らされて蒼白に染まり、血の気を奪われたようだったが、その瞳だけはしっかりと私を見据えていた。
「エイラ村長ーー」
「ルキ、......早く!」
その声は大きくはなかった。けれど、私にとって最後の希望の糸のように響いた。
私は足をもつれさせながら彼女の方へ駆け出した。耳には黒い異体の低い唸りとねじれる音ばかりが響いた。奴らはのろのろと迫ってきたが、私はただ必死に彼女の手を見つめ続けた。
「エイ……ラ……村長……!」
涙で視界が滲み、彼女の姿はほとんど見えなかった。
漆黒に赤を帯びた光に震えるその影は、今にも呑み込まれそうなのに、それでも必死に手を伸ばしていた。
私は必死に手を伸ばしたその瞬間、足元の黒い影が私を引きずり込もうとし、体は引き裂かれるようにバランスを失った。
「ヤダ!離して……離してぇーー!」
「ルキ!」
そのとき、彼女は力を振り絞り、私を闇の縁から引き戻した。
私は彼女の胸に倒れ込み、胸は激しく上下し、耳には彼女の荒い息遣いが響いた。
「エイラ村長!みんなはどうなったの?なぜこんなことに……」
「ル……キ、時間がない……これを持って……」
エイラは苦しげに息を吐きながら、懐から小さな木箱を取り出し、私に差し出した。
「早く……リリマラの聖地へ……そこが道を示す……ここはもうすぐ呑まれ……」
私は木箱を受け取り、涙で視界が滲み、力が抜けて彼女の胸に倒れ込んだ。肩は震え、嗚咽が途切れ途切れに溢れた。
「ルキ……勇気を……あなたはリリマラ最後の希望……生き延びて……早く……」
言葉は途切れ途切れで、体は漆黒に赤を帯びた光波に引き裂かれるように痙攣しながらも、彼女は私を強く突き放した。
「エイ……ラ……村長……いやだ!」
声は震え、私は泣きながら彼女にすがりついた。
「早く……行行けけぅ……わぁーー!」
「ハ……ヤ……ク……
……イケ……ッ………….
……チ…..…カ……ヅ……ク……ナーー」
彼女は最後の力で私を押し離し、地に転がりながら、黒い異形へと変わっていった。
脚から腰へ、そして美しかった顔までもが、次第に漆黒に染まっていく。
「エイラ村長!これは、あなたが一番好きだったものです!」
「今まで本当にありがとうございましたぁ......!」
私は彼女の傍らに「星の花」をそっと置き、滲んだ涙を拭い、深く一礼する。
箱を強く抱きしめ、振り返ることなく、リリマラの聖地へと駆け出した。
>今回の話では、突然浮かび上がった光幕と、ルキの涙に揺れる言葉が描かれました。
「その日を忘れられない」――彼女が語ったのは、長い時間胸に秘めてきた記憶の断片です。
しかし、その先に何があったのかはまだ語られていません。
謎は深まり、次の展開でどのように繋がっていくのか注目してください。
物語を楽しんでいただけたら、ぜひ ブックマーク や コメント で応援していただけると嬉しいです。
みなさんの反応が、次の話を紡ぐ大きな力になります。
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