幕間の五・ビゴトラス島誌――風脈印・運作原理
>この幕間を開くにあたり、私はただ記録者として筆を執るのではなく、島の風を肌で感じる者として語りたい。
風脈印は、術式の痕跡にとどまらず、島民の暮らしを支え、祈りを受け止め、血脈を温め続けてきた。五条の脈絡は目に見えぬが、漁師の歌や工房の灯に宿り、日々の営みを静かに支えている。
そして今回は、一口気に一日で二つの幕間を発表することにした。
島の政治・生活・命脈をより早く把握していただくため、また露出度を高める試みとしての挑戦でもある。読者と共に歩むこの旅が、より鮮やかに広がっていくことを願っている。
序
風脈印は単なる符号ではなく、島の内部における風の力と生命系統の交わりである。五条の不可視の脈絡のごとく、環風の力を島へ導き、気の循環を孕ませる。
一、構造
- 源: 環風の旋流は島の境界にエネルギーの圧差を生み、その一部が島内へ滲み込む。
- 印記: 術者は血脈を媒介として、この力を五条の印記として固定する。
- 循環: 印記は導管のように働き、風の力を生命に供する気機へと転化する。
二、エネルギーの流動
1. 吸収: 印記は環風から滲み入る力を取り込む。
2. 転化: 印記の性質に応じ、力は自然・武力・秩序・技術・知識へと転化される。
3. 分配: 気機は血脈と地脈を伝い、家族・工房・学院へと供給される。
三、生命への影響
- 印を持つ者の血脈はより強い気機を受け止め、貴族の血統を形成する。
- 農作・漁業・工房はすべて風脈の循環に依存し、印記の均衡が崩れれば生活は危機に陥る。
- 祭儀・祈典・典籍の抄録は力を還元し、印記を安定させ続ける。
四、均衡の崩壊の危険
もし一つの印記が裂ければ、力の流れは乱れる。
- 守護の印が裂ければ――島の自然は崩壊する。
- 武装の印が裂ければ――力は暴走し、器械は制御を失う。
- 仲裁の印が裂ければ――秩序は瓦解し、家族は争う。
- 技術の印が裂ければ――工房は停滞し、歯車は断たれる。
- 知識の印が裂ければ――禁令は失効し、攻撃術が再び現れる。
終章
残された頁は断たれ、碑文は欠け、漁師たちの夜の言葉は互いに矛盾する。ある者は五印の力が四方へ散じたと言い、ある者はそれが議会の石室へ集うと語る。
しかし最古の抄録には、なお一行の曖昧な筆跡が残る。
「伝説は終に一処へ帰す。」
島民は低声で伝え合う。そこは環風の中央か、あるいは風の神サフィールの眠る場所か。ある者はそれを「島の心臓」と呼び、五印はすべてそこに集うと信じる。ある者は断じて言う――碑に証なく、典に記されず、ただの迷信にすぎぬと。
祈典の夜、漁師は中央に灯を点すこともあるが、近づくことはない。彼らは信じている。もし心臓が震えれば、五印は同時に裂け、環風は再び島を呑み尽くすのだと。
>本話を終えて、私は改めて思う。
風脈印は力の仕組みであると同時に、人々の希望と恐れを映す鏡でもある。均衡が保たれるとき、島は豊かに息づく。
だがひとたび裂け目が生じれば、生活も祈りも揺らぎ、伝説は不安の影を帯びる。
終章に残された曖昧な筆跡――「伝説は終に一処へ帰す。」その言葉は、記録者である私の心にも深く響く。
島の心臓がどこにあるのかは定かではない。だが、読者と共にこの旅を続けることで、断片は少しずつ繋がり、風の物語は温かな輪郭を帯びていくだろう。
そして次回からは、いよいよ主線の物語がさらに緊迫し、刺激的な展開へと移っていく。島の生活様式や秘められた秘密を、一つひとつ明らかにしていく旅が始まる。




