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失われた断片 ― 風の環 ―  作者: 半々月光
ビグトラス島編
14/25

幕間の三・禁術講義——失われた字形

>この幕間では、教室での講義のひとこまを描いています。イラン、ルキ、そしてミド──三人それぞれの視線や思考が交差し、禁術という冷たい題材の中にも、人間らしい温度が流れています。


これは、ミドがまだ学院に在籍していた時期の場面です。彼は普段から仲間と関わり、問いかけや不安を口にしながら、教室の空気を揺らしていました。だからこそ、この時間を振り返ると、後の出来事を思うにつれていっそう切なく響きます。


読者にも「彼がまだ学院で仲間と過ごしていた頃」の雰囲気を感じてもらえるように、温かさを込めて書きました。

「この文字……誰かがわざと消したんじゃない?」


イランは眉をひそめ、教授の手にある石板を見つめた。ひび割れが走り、符文は途切れ、黒い方形が光の中で鋭く浮かび上がっていた。


「消えたのは字形だけじゃない。五百年前の風災で、街の建物、人の名前、記録係のメモまでもが部分的に失われた。」


「自然な劣化ではなく、何かの力で擦り消された。石板は当時の本物、写本は後世の写し。両方を並べると、知識の断絶と、私たちが失った世界の断片が見えてくる。」


キリム教授は写本を開き、掌に微光をともす。符文が一瞬だけ光り、金の線は立ち上がった途端に黒霧に呑まれ、教室は息を呑んだ。


「──写本一──攻■術をもう一度使えば、必ず■■。」

「符■はちぎれ、気機■は散■■。」

「写本に残る唯一の警告、■は制御不能。」


前列の二人が目を合わせる。「街ごと消えるってこと?」

後列では誰かがペンを握りしめ、指が白くなっていた。


「──写本二──字形■は断■■、復元は不可能。」

「術を再■すれば、必ず■■■。」

「だから“禁■”。」


「──写本三──残響はまだ残り、気息■。」

「人は言う:影は獣に似、■鳥に似、■■に似。」

「だが何も残らず、記録■だけが残った。」


教授は写本を閉じ、指先で石板を軽く叩いた。符号は暗く沈み、黒い方形は眼のように生徒たちを見返した。


「教授、それって結局、何ができるんですか?」


ミドが勢いよく手を挙げ、椅子の擦れる音が教室に響く。視線は石板に釘付けで、期待と不安が入り混じっていた。


「読めるのは断片だけで、完全な術式は組み立てられない。学院の方針は──再現しない、使わない。」


キリム教授の厳しい声が後列の囁きを押し止め、数人が俯いて黙り込んだ。


「だから、禁術は“知識の延長”じゃなく“知識の断絶”なんだ。」


ルキが低く補足し、机の上にない筆画を指でなぞった。その囁きに、周囲の生徒が不安げに視線を交わした。


「ふん、イラン。お前はいつも考えすぎだ。世界の半分が消されたって、解けはしないだろ。」


ジャスは椅子に背を預け、口元に冷笑を浮かべて挑発的な視線を投げた。前列の生徒は眉をひそめ、不快そうにする。


イランはさらに眉を寄せ、呼吸が一瞬荒くなったが、言い返さず石板の途切れた符号を見据えた。


「教授……もし消された部分が、攻撃術式の一部だったら? なら解封を試して、真実を確かめるべきじゃないですか。」


イランの声は硬く、避けて通れない問いを突きつける。教室の空気が張り詰め、生徒の肩がすくんだ。


「もし誰かが本当に成功したら? 禁術はまだ使えるってことですよね。僕らが知らないだけで。」


ミドは我慢できず、再び問いを投げかけた。


キリム教授は少し黙り、石板をゆっくり講卓に置いた。四隅の古い刻みが灯りを弾き、封印の残響のように光る。


「イランの疑いには根拠がある。字形は人為的に消されたように見える。でも、証明はできない。

攻撃術式の一部である可能性は否定できないが、再現すれば制御不能に陥るだろう。」


石板の符号がふっときらめき、黒霧が不確かさに応じるように揺らぐ。数人が思わず後ずさり、椅子が軋んだ。


「ミドの問いも検討に値する。もし使える者がいるなら、それは“完全な禁術”じゃなく“残響”だ。再現できるかは不明だが、危険なのは確かだ。」


ミドは肩を震わせ、呼吸を乱し、やがて俯いた。


「禁術は“知識の延長”じゃなく、“断絶”なのだ。ルキの理解は正しい。写本に残ったそれは、空白の章みたいに、知識がいつも完全じゃないってことを示している。」


ルキは窓の外に視線を投げ、「断絶……」と唇に小さく呟いた。沈黙が広がり、生徒たちは息を潜める。


「挑発の件は……お前が望もうが望むまいが、我々の挑戦として残る。」


教授はジャスを見据え、揺るがない視線で釘を刺した。


「ハハハ──」


その言葉の直後、教室に笑いが広がる。数人が忍び笑い、誰かは手で口を覆い、誰かは机を叩いて笑った。笑いは波のように広がった。


「何がおかしい!」


ジャスは得意げに眉を上げたが、笑いが広がるにつれ自分が注目の的になったと気づく。彼はいちばん笑っていた生徒を睨みつけ、笑いを押し殺そうとした。


「……」


誰かが俯き、誰かが咳払いで誤魔化し、笑いは途切れ途切れになり、やがて抑えた囁きだけが残った。


「攻■術をもう一度使えば必ず■■。これが写本の唯一の警告で、今のところ確かな情報だ。」


教授は石板を強く置き、重い音が机と椅子を震わせた。教室は一瞬で静まり返る。


イランは拳を握り、指が白くなりながらも言葉を失い、ただ途切れた符号を見つめた。


ミドは荒い息を吐き、額に汗を滲ませ、教授と石板を交互に見た。


ルキの指は宙で止まり、未完成の文字のようだった。


ジャスの冷笑は固まり、怒りを含んだ視線を同級生に投げる。


他の生徒も声を失い、肩をすぼめ、ペン先を震わせて机を叩き、ある者は石板を凝視し、恐怖と好奇心の混じった目で見つめた。


石板の黒い方形は目のように彼らを見返し、告げていた。


知識の欠落は、黙っていても消えない。



>この幕間を読んで、みなさんはどう感じたでしょうか。


まるで教室で一緒に写本を研究しているような臨場感があったのではないでしょうか。


断片的に残された符号や言葉は、まだすべての意味を明かしてはいません。これから少しずつ浮かび上がり、禁術の正体や彼らの運命に繋がっていきます。


「この欠けた部分は何を示しているのか?」


「もし本当に成功した者がいたなら、何が起こるのか?」


そんな問いを胸に、次の展開を想像してみてください。答えはすぐには示されませんが、読者自身の推測が物語をより深く楽しむ鍵になるはずです。


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