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第七話 蒼き鷹の反撃 ―旧弊を斬る、デジタルの刃―

『宰相の椅子』第七話の更新です。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。


前回、影の軍師・官義偉が仕掛けた「寝業」によって、小林陣営は絶望的な状況に追い込まれました。

旧態依然とした地方の組織票の切り崩しは、あまりにも強力で、正攻法では太刀打ちできないかに見えました。


しかし、この国の未来を諦めない若者たちがいます。

今回は、いよいよ『蒼鷹会』の若き精鋭たちが、その希望を背負い立ち上がります。

彼らは、官の「古い政治」に対し、デジタル技術と情報戦という、新しい武器でどう挑むのか。

現代の政治戦術の最前線と、若者たちの情熱がぶつかり合う第七話をお楽しみください。

小林鷹志選挙対策本部の雰囲気は、日を追うごとに重く沈んでいった。


 官義偉の仕掛ける「寝業」は、水面下で確実に党の根幹を蝕んでいた。地方組織からの連日の報告は、いずれも芳しくない。票の切り崩しは止まらず、士気は低下の一途をたどる。



「このままでは…」


 『蒼鷹会』の若手議員の一人が、青ざめた顔で呟いた。


「戦わずして、負けます」



 深夜。党本部の一室に、『蒼鷹会』の主要メンバーが集まっていた。


 机の上には、官陣営の仕掛けた裏工作を示す膨大な資料が山と積まれている。地方建設業協会の裏金疑惑、医師会への献金リスト、特定の農業団体への補助金横流しの噂…。それらは、全て証拠不十分で、表面には出てこない「影の仕事」だった。



「これでは、正攻法では対抗できません」


 外資系コンサル出身の勝呂康が、冷徹な目で資料を睨んでいた。


「官義偉は、我々が触れたくても触れない、法ギリギリのラインで攻めてきている。告発すれば、党全体が揺らぐ」


「じゃあ、このまま黙って見ているだけなのかよ!」


 最年少の山岡大地が、悔しさに拳を握りしめる。


「俺たちが、この国の未来を諦めるというのか!」



 その時、部屋の隅で、ノートパソコンの画面を凝視していた向井淳が、顔を上げた。


「…いや。まだ、手はあります」


 彼は、北海道大学公共政策大学院で培った知識と、コンサルティング会社で培った分析力を総動員していた。


「官氏の戦略は、確かに巧みです。しかし、彼の世代は、あくまで“地上戦”に囚われている」



 向井は、勝呂が解析したSNSのデータを指し示した。


「官氏が影響力を持つ各団体の、幹部クラスのSNSアカウントを特定しました。彼らは一見、個人的な発言をしていますが、特定のキーワードやハッシュタグを、あるタイミングで一斉に使い、小泉候補への支持を煽っています。しかも、その情報源は、常に党本部からリークされた“極秘情報”を装っている」


「なるほど…」


 勝呂の目が光る。「それは、世論操作だ。しかも、バレないように巧みに隠蔽された」



「これなら…」


 『蒼鷹会』の座長である松元洋平が、重い口を開いた。


「我々も、同じ土俵で戦うしかない。ただし、正面からではなく、もっとスマートに、だ」



 翌日から、『蒼鷹会』は動き出した。


 戦略は、**「デジタルを駆使した情報戦と、若者ならではの直接対話」**。



 **空中戦部隊**の中心は、津島潤と本多太郎。


 津島つしま 潤じゅん《文豪の末裔》は、まるで亡き祖父の言葉を借りるかのように、文学的で情感豊かな言葉を選んだ。「今、この国は、古い因習に囚われた土壌のまま、未来を語ろうとしています。まるで、枯れた大地に美しい花を咲かせようとする愚行だ」と、彼の言葉はネットメディアで瞬く間に拡散された。


 本多ほんだ 太郎たろう《闘う弁護士》は、冷静沈着に、しかし一点の曇りもない弁舌で、テレビの討論番組で官陣営の“見えない世論操作”の仕組みを白日の下に晒した。「これは、民意を歪める明確な選挙妨害であり、民主主義への冒涜です。我々はその証拠を、必ず国民の前に突きつけます」と、法廷で証拠を突きつけるように言い放った。



 一方、**地上戦部隊**は、山岡大地と田端裕明。


 特に山岡やまおか 大地だいち《情熱のルーキー》は、自らカメラを手に、官陣営に切り崩されかけた地方の会合に飛び込んだ。最初は冷たい視線を浴びながらも、持ち前の情熱で「皆さんの息子や孫が、将来この地で安心して暮らせる国を、本当に、目の前の利権と引き換えにしていいんですか!」と訴える。その活動はSNSでライブ配信され、彼の青臭いまでの熱意が、党員の心に小さな火を灯し始める。


 田端たばた 裕明ひろあき《現場の叩き上げ》は、地方銀行員時代の経験を活かし、足で稼いだ情報で地方の隅々にまで食い込み、地元の人々の「本音」を丁寧に聞き出した。「先生、みんな、本当は今の政治に不安を感じています。小泉候補の言葉は耳に心地よいけれど、足元を固めてくれるのは、やはり小林総理だと…」と、地元に根差した支持を再構築した。



 旧来の組織票に頼りきっていた官陣営は、彼らのデジタルを駆使した戦術に度肝を抜かれた。表立った不正ではないため、明確な反論が難しい。彼らの仕掛けた「世論操作」は、「若者の自発的な声」によって次々と無力化されていく。



 官義偉の秘書が、慌てた様子で報告する。


「先生! 〇〇県の建設業協会の世論誘導が、ネットで『不自然な動きだ』と批判され、逆に小泉候補へのイメージが悪化しています!」


 官は、ふん、と鼻を鳴らした。


「デジタル、か。面白いことをしてくれる…」


 その目は、再び獲物を狙う鷹のように光っていた。



 『蒼鷹会』の反撃は、官義偉の切り崩しを完全に止めることはできなかった。だが、その勢いを大きく削ぎ、彼らの目論見に水を差すことには成功した。何より、この戦いを通じて、『蒼鷹会』は単なる若手の集まりではなく、現代の選挙を戦い抜く力を持ったプロフェッショナル集団であることを党内外に示すことになった。



 だが、このささやかな反撃の裏で、さらに大きな嵐が、日本を襲おうとしていた。


 官邸の危機管理センターに、突如、緊急連絡が入る。


「総理! ユニフィア・ステーツから、緊急電です! ストロング大統領が、重大な声明を出す模様!」



(第七話 了)



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第七話「蒼き鷹の反撃」、いかがでしたでしょうか。


官義偉の「寝業」に対し、デジタルを武器に立ち上がった『蒼鷹会』。

彼らは情報戦と現代的な広報戦略を駆使し、一矢を報いることに成功しました。

しかし、官が仕掛ける影の戦いは、これで終わりではありません。

そして、このささやかな反撃の裏で、さらに大きな嵐が、日本を襲おうとしていました。


次回、第八話『宰相の孤独』。

ユニフィア・ステーツ大統領・ストロングが、突如として日本に牙を剥きます。

この未曾有の外交危機の中、四面楚歌に陥った小林鷹志の前に、一人の女性が現れます。

亡き安部臣三元総理の妻、安部晶江夫人。

彼女が託す、亡き夫の想いと「宰相の覚悟」とは――。

全ての重圧が、今、一人の宰相の肩にのしかかる。


どうぞ、次回の更新を楽しみにお待ちください!

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