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【第三話】 保守の聖域:保守の重鎮「麻生と高市」の詰問!小林が目指す「盾の宰相」の覚悟

『宰相の椅子』第三話の更新です。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


「82% 対 18%」


第二話のラストで示された、あまりにも残酷な数字。

時代の“風”は挑戦者を選び、勝負は決したかに見えました。


四面楚歌の宰相に残されたものは、覚悟だけだった。

そして、本当の戦いは、国民の目には見えない場所で始まります。


舞台は夜の党本部、この国の裏側を支配してきた者たちが待つ“密室”へ。

そこで試される、宰相の真価。


どうぞ、息詰まる第三話をお楽しみください。

 その数字は、声なき刃となって小林陣営の喉元に突きつけられていた。


「82% 対 18%」


 夜の自由民政党本部。小林鷹志選挙対策本部の空気は、まるで通夜のように重く、澱んでいた。


 壁のホワイトボードに無造作に貼られた円グラフが、誰の目にも痛々しく映る。若手議員たちは生気を失った顔でスマートフォンを眺め、ベテラン議員たちも派閥の領袖に言い訳がましい電話をかけるばかりで、誰も抜本的な対策を口にしようとはしなかった。



「ま、まあ、これはあくまでネットアンケートの結果だ! 我々には強固な組織票がある!」


『蒼鷹会』の座長である松元洋平(まつもとようへい)が、何とか場を盛り上げようと声を張り上げる。だが、その声は虚しく響くだけだった。


「組織票だけで勝てるほど、今の総裁選は甘くない!」


 別のベテラン議員が吐き捨てる。


「あの風を止めなければ、我々は根こそぎ吹き飛ばされるぞ! そもそも、総理の顔が地味すぎるのが問題なんだ!」


 議論は、すぐに責任のなすりつけ合いへと変わった。広報戦略が悪い、政策が分かりにくい、いや、そもそも…。



 その喧騒の中心で、小林鷹志は静かに目をつぶっていた。


 すべての罵声や不安を、ただ一身に受け止めるかのように。


 やがて彼が静かに目を開き、「…皆さん、ご苦労様です。少し、一人にしてください」と言うと、喧騒は嘘のように静まり返った。誰もが、その背中から滲み出る、宰相の深い疲労と孤独を感じ取っていた。



 一人になった小林が向かった先は、対策本部ではない。党の最上階にある、副総裁室。


 葉巻の紫煙が支配する、この党の“聖域”だった。



 重厚な扉を開けると、二つの視線が突き刺さった。


 一人は、マフィアのボスのように大きな革張りの椅子に深く身を沈め、こちらを見もせずに葉巻をくゆらせる、麻生泰郎(あそうやすろう)


 もう一人は、その傍らで腕を組み、氷のように冷たい視線を向ける、高市冴苗(たかいちさなえ)



 まるで最終面接のような、息苦しいほどの緊張感が、小林の全身を締め付けた。



 小林の脳裏に、数年前の総裁選の記憶が鮮やかに蘇る。テレビカメラのフラッシュの中、壇上でたった一人、淀みなく国家の百年先を語る高市の姿。それはまるで、揺るぎない城壁のようだった。それに完膚なきまでに敗れ、候補者席で立ち尽くす自分と、隣で唇を噛みしめ、拳を握りしめていた小泉の姿。あの時、俺たちは二人して、本物の“格”というものを見せつけられたのだ。



「小泉君の演説、見ましたわ」


 沈黙を破ったのは、高市だった。


「相変わらず、耳触りの良い言葉を並べるのがお上手なこと。…けれどね、小林総理。国民は、ああいう分かりやすさを求めているのも事実ですのよ」


「……はい」


 小林は、ただ頷くことしかできない。


「それに比べて、あなたの経済安保の話は、専門的すぎて誰の心にも届いていない。これでは、国民の信頼は得られませんわ。あの数字がその証拠です」



 高市は、少し間を置いた。諭すような、しかし芯のある声で続ける。


「あの時、あなたは現実という正論に固執しすぎた。そして、あの子(小泉)は人気という名の夢物語に逃げすぎた。この国の舵取りに必要なのは、その両輪です。…あなたはこの数年で、国民の心に火を灯す、そんな夢を語る覚悟ができましたの?」



 長い、沈黙だった。


 麻生の燻らせる葉巻の煙だけが、ゆっくりと時を刻んでいた。



「…いいえ」


 やがて、小林は静かに口を開いた。


「私には、小泉候補のような華やかな夢は語れません。ですが」



 ここで初めて、俯いていた顔を上げ、二人を真っ直ぐに見返した。


 その瞳には、もはや迷いはなかった。



「国民一人ひとりが、当たり前の明日を迎えられる。スーパーに行けば物が買え、夜は安心して眠れる。そんな日常という“夢”を守り抜く覚悟なら、誰にも負けません」



 その言葉を聞いた麻生が、初めて葉巻を灰皿に押し付け、深く頷いた。


「……結構じゃないか。それでこそ、俺たちが見込んだ男だ。高市、それでいいな?」


 高市は、ふん、と鼻を鳴らした。だが、その厳しい表情が一瞬だけ和らいだのを、小林は見逃さなかった。


「まったく…口だけは達者になったものね。…及第点、といったところかしら」



 小林が部屋を出ようと背を向けた、その時だった。


 麻生が、深く椅子に座ったまま、低い声で呼び止めた。


「小林」


 小林が振り返る。



「覚悟だけじゃ国は守れん。勝て。どんな手を使っても、だ」



 葉巻の煙の向こうで、全てを見透かすように細められた麻生の目。その言葉は、単なる激励ではない。この国の裏側を支配してきた者の、血の通わない、しかし絶対的な命令だった。


 その言葉の重みに、小林はただ深く一礼することしかできなかった。



(第三話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第三話「保守の聖域」、いかがでしたでしょうか。


忠実に人間関係者を描くなら本来マフィアのドンは「甘利氏」一択なのですが、「麻生氏」のキャラがハマり過ぎる。パロディーなのでキャラ先行で行きました。実際引退宣言済みですしね(汗)

将来的に蒼鷹会の最高顧問的なポストを考えてます。(その場合福田氏をどうしよう?)


絶望的な逆境の中、主人公・小林鷹志が示した「日常という“夢”を守る」という、地味だが、しかし揺るぎない覚悟。

物語は、ここから反撃の章へと入っていきます。


しかし、光が強ければ、影もまた濃くなる。

次回、第四話『危険な同盟』。


舞台は、ライバル・小泉新次郎の陣営へ。

“風”を起こすカリスマの下に集った、百戦錬磨の怪物たち。

特に、軍師・官義偉が、いよいよその恐るべき牙を剥きます。



「先生の理想のためなら、どんな汚い仕事も私がやりますよ」


彼の言う「汚い仕事」とは、一体何を意味するのか。

どうぞ、次回の更新を楽しみにお待ちください!


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