第3話:宰相の孤独と万年筆の重み ―信念の羅針盤、激動の時代へ―
読者の皆様、こんにちは!作者のUTAMAROです。
外伝『万年筆の軌跡』第3話の更新です。いつもお読みいただき、ありがとうございます。
前回、若き日の安部臣三は、妻・晶江との出会いを経て「百年後の日本」への信念を万年筆に託し、政治家としての一歩を踏み出しました。
しかし、その信念が、やがて彼を孤独な戦いへと導くことになります。
今回は、安部臣三が内閣総理大臣の座に就き、日本という国を率いる中で直面する、数々の困難と孤独な決断が描かれます。
国内の政争、そしてユニフィア・ステーツ大統領・ストロングとの、日本のプライドと国益をかけた緊迫の外交交渉。
国民に「最強の宰相」と称されながらも、誰にも明かせなかった彼の苦悩とは。
そして、彼が万年筆に記し続ける、国家の未来への深い願い。
激動の時代を駆け抜けた宰相の、光と影の物語。
どうぞ、外伝の第3話をお楽しみください。
安部臣三は、衆議院議員としての地道な経験を積み重ね、その信念と実力が認められ、ついに内閣総理大臣の座に就いた。それは、彼の「百年後の日本」への誓いを、現実のものとするための、最大の舞台だった。
しかし、宰相の椅子は、彼の想像を遥かに超えて重かった。
国内の政争は激しく、党内の反対派はあらゆる改革に抵抗した。メディアは彼の言葉の一言一句を切り取り、世論はわずかな失策も許さない。
国際社会からの視線もまた厳しかった。中華帝國の台頭、北潮鮮の核開発、大翰民国の歴史問題。四面楚歌に近い状況で、彼は国家の命運を背負い、孤独な決断を重ねていった。
国民は彼を「最強の宰相」と称し、その強靭なリーダーシップに喝采を送ったが、その強さの裏で、彼一人にのしかかる重圧を、誰一人として理解する者はいなかった。
ある夜。深夜の執務室で、臣三は、愛用の万年筆を握りしめていた。ノートには、日々の決断の裏側で抱いた苦悩や、未来への構想が、びっしりと書き込まれている。
――これで、本当に最善だったのか?
――この決断は、百年後の日本に、何をもたらすのか?
疑念が頭をよぎるたび、彼は万年筆を走らせた。書き記された文字は、彼自身の思考を整理し、羅針盤となって彼を導く。それは、晶江夫人が言った通り、彼の「魂」そのものだった。
外交の舞台でも、彼の信念は試された。
ユニフィア・ステーツ大統領、ドナルド・ストロングとの関係構築は、その最たるものだった。
強硬な言動で知られるストロングは、日本の防衛負担の増額を一方的に要求し、同盟関係を「ビジネス」と割り切って接してきた。
深夜のホットライン。受話器の向こうから聞こえるストロングの声は、映像越しでも常に威圧的だった。臣三は、時に激しく反論し、時には感情を押し殺して沈黙を守った。胸の奥では、屈辱と、この国の未来への焦燥感が渦巻いていた。
晶江夫人は、そんな夫の姿を、側で静かに見守っていた。
「ねえ、臣さん。あのストロングさん、強い言葉の裏側で、本当は信じられる相手を探している、寂しい人なのよ」
夫が苦心して作り上げたストロングとの関係を、妻はそう評した。
「だから、真心でぶつかっていきなさい。そうすれば、あの人も、きっと貴方の真意を汲み取ってくれるわ」
彼女の言葉は、まるで彼の羅針盤が迷った時に、そっと方向を示す光のようだった。臣三は、妻の助言を胸に、ストロングのビジネスマンとしての側面を深く分析し、日本の国益を最大化するための「ディール」を模索し続けた。
国民の喝采を浴びる表舞台。
万年筆を握り、孤独に未来を書き綴る夜。
そして、妻の温かい支え。
三つの側面が、宰相・安部臣三を形作っていた。
彼の信念を宿した万年筆は、激動の時代を駆け抜ける羅針盤として、その重みを増していく。
(外伝:万年筆の軌跡 ―安部臣三とその妻― 第3話 了)
(第4話へ続く)
外伝『万年筆の軌跡』第3話「宰相の孤独と万年筆の重み」、最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
内閣総理大臣として、安部臣三は国家の命運を背負い、孤独な決断を重ねました。
ストロング大統領との緊迫した外交交渉。国民に「最強の宰相」と称されながらも、その重圧は、彼一人にのしかかるものでした。
しかし、彼には、晶江夫人の支えと、万年筆に記された「百年後の日本」への信念という、揺るぎない羅針盤がありました。
しかし、彼の信念を試す困難は、まだ終わりではありません。
次回、外伝『万年筆の軌跡』第4話「受け継がれる想い」。
安部臣三元総理が直面する最後の試練。
彼が晩年に危惧した「見えざる影」の正体とは。そしてその影が、彼の運命にどのように影響を与えていくのか――。
彼が果たせなかった願いを、小林・小泉新体制は、いかに受け継ぎ、戦い抜くのか。
どうぞ、外伝の最終話にご期待ください!
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作者:UTAMARO




