第2話:運命の出会い、そして絆 ―太陽と羅針盤、夫婦の始まり―
読者の皆様、こんにちは!作者のUTAMAROです。
外伝『万年筆の軌跡』第2話の更新です。いつもお読みいただき、ありがとうございます。
前回、名門の政治家一族の青年・安部臣三は、自由な魂を持つ安部晶江と運命的な出会いを果たしました。
そして、彼は書店で一本の古風な万年筆に心惹かれ――。
今回は、二人の心が通い合い、夫婦としての絆を深めていく過程が描かれます。
政治家の妻として、臣三の孤独な戦いをいかに支え、励ましていったのか。
そして、あの万年筆が、彼の「百年後の日本」への信念を記す、かけがえのない羅針盤となっていく瞬間。それは、彼の政治家としての人生そのものを導く、象徴となるものだったのです。
偉大な宰相の人生の原点となる、夫婦の物語。
どうぞ、外伝の第2話をお楽しみください。
安部臣三と安部晶江の出会いは、まるで、停滞した池に投げ込まれた一石のようだった。静かに波紋を広げ、やがて彼の人生の全てを変えていく。
晶江は、臣三の予想をはるかに超える、規格外の女性だった。
「ねえ、臣さん! そんな難しい顔してたら、みんな逃げちゃうわよ!」
出会った時の言葉そのままに、彼女は常に、彼の隣で屈託のない笑顔を振りまいた。華やかな政界のパーティーでも、地方の小さな支援者集会でも、彼女は分け隔てなく誰とでも話し、その場を明るく照らした。生真面目で、常に重い使命感を背負っていた臣三の閉鎖的な心は、彼女の太陽のような明るさに触れるたび、ゆっくりと解き放たれていくのを感じた。
二人の夫婦としての絆は、深まっていった。
政治家の妻としての晶江は、当初、夫の理解できない政治論議や、過酷な選挙戦の日々に戸惑うこともあった。
「なんで、あの人たち、そんなに臣さんのこと責めるのよ! 臣さんは正しいこと言ってるのに!」
そう憤る晶江に、臣三は苦笑しながら答えた。
「政治は、正しさだけでは動かない。それに、俺の言葉がまだ国民に届いていないだけだ」
そんな臣三の孤独な戦いを、晶江は常に感じ取っていた。
彼が夜遅くまで、資料を読み込み、未来への構想を練る姿。その瞳の奥に宿る、決して揺らぐことのない信念。彼女は直接的な政治に口を出すことはなかったが、夫の「国民のための政治」への純粋な情熱を、誰よりも深く理解し、支えようと努めた。
そして、あの万年筆が、彼の人生に羅針盤としての役割を見出し始める。
初めてその万年筆を手にした夜、臣三はノートに向かい、自身の政治哲学を記し始めた。「戦後レジームからの脱却」「真に自立した日本」「百年後の日本」。
書き記された文字は、彼の頭の中にある漠然とした理想を、具体的な形へと変えていく。万年筆のペン先が紙を滑る音は、まるで、彼自身の思考が紡がれていく音のようだった。
困難に直面した時、迷いが生じた時。彼はこのノートを開き、自らの原点に立ち返った。「この国をどう導くべきか」という問いへの羅針盤が、そこにはあったのだ。
晶江は、そんな彼の姿を、静かに見守った。時に温かいコーヒーを差し入れ、時に背後からそっと抱きしめる。
「ねえ、臣さん。その万年筆、なんだか臣さんの魂がこもってるみたいね。この国をどうしたいか、全部詰まってるみたいだわ」
彼女の言葉に、臣三ははっと顔を上げた。万年筆を握る手に、確かな熱を感じる。
「そうか…俺の魂、か。そして、この国の未来の羅針盤だ」
やがて、臣三は衆議院議員に初当選を果たした。それは、彼の「百年後の日本」への第一歩だった。
晶江は、選挙事務所の片隅で、涙を流しながら拍手を送った。
「臣さん、おめでとう! これから、もっと大変になるわね!」
彼女の言葉は、常に彼の未来を見据えていた。
夫婦として、政治家とその妻として。
二人は、互いを太陽と羅針盤のように補い合い、日本の未来という広大な海へと、共に船出を始めたのだった。
(外伝:万年筆の軌跡 ―安部臣三とその妻― 第2話 了)
(第3話へ続く)
外伝『万年筆の軌跡』第2話「運命の出会い、そして絆」、最後までお読みいただきありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
若き安部臣三は、晶江夫人の太陽のような明るさに支えられ、宰相としての信念を万年筆に記し始めました。
夫婦としての絆が深まる中で、彼の政治家としての土台が、確かなものとなっていく様子が描かれました。
しかし、その信念が、やがて彼を孤独な戦いへと導くことになります。国内の政争、そして国際社会からの厳しい視線――。
次回、外伝『万年筆の軌跡』第3話「宰相の孤独と万年筆の重み」。
安部臣三が内閣総理大臣の座に就き、日本を率いる中で直面する、数々の困難と孤独な決断。
そして、彼が万年筆に記し続ける、国家の未来への深い願い。
どうぞ、次回の更新を楽しみにお待ちください!
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作者:UTAMARO




