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第十四話 ノーサイドの旗 ―勝利の誓い、敗者の選択、そして受け継がれる魂―

『宰相の椅子』第十四話の更新です。


いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。



前回、激戦の総裁選は、劇的な結末を迎えました。


「観星会」の陰謀を打ち破り、国民の日常を守り抜く覚悟を示した《盾の宰相》小林鷹志。


そして、圧倒的な“風”を起こしながらも、わずか3票差で涙を飲んだ《風の挑戦者》小泉新次郎。



今回は、嵐のような総裁選の終幕。


勝利演説で、小林総理は何を語るのか。


そして、敗れた小泉候補は、その「風」の熱狂の果てに、一体何を見たのか。



日本の未来を託された二人のリーダーの新たな関係性。


そして、亡き安部臣三元総理の想いが、再び物語を彩る感動の最終話。


しかし、この「ノーサイド」が、新たな試練の始まりとなることは、まだ誰も知らない。


どうぞ、ご期待ください。

嵐のような総裁選は、ついに決着を迎えた。


 わずか3票差という劇的な勝利を手にした小林鷹志は、疲労と安堵、そして新たな責任の重みに打ちのめされながら、壇上に上がった。


 会場には、勝者の歓声と、敗者の沈黙が混じり合って響いていた。



 小林は、まず深々と頭を下げた。


「この度は、党員の皆様、そして国民の皆様に、多大なるご心配をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます」


 そして、顔を上げ、静かに、しかし力強い声で話し始めた。


「この激しい総裁選は、私自身に、そしてこの党に、多くのことを問いかけました。何を守り、何を変えるべきなのか。そして、この国の未来を、誰に託すのか、と」



 彼は、胸ポケットから一本の万年筆を取り出した。亡き安部臣三元総理の愛用品だ。


「この万年筆は、先日、安部晶江夫人からお預かりしたものです。かつて、日本の未来のために、国民の半分から憎まれながらも、孤独に戦い抜いた偉大な宰相の、魂が宿っています」



 小林の声に、会場が静まり返る。


「私は、この総裁選を通じて、国民の皆様の『日常』を守り抜く覚悟を改めて誓いました。そして、この総裁選が、決して国内の政争に留まらず、国の根幹を揺るがしかねない外部からの干渉があったことも、皆様、そして世界に強く訴えたい。その中で、私の覚悟が、わずかながらも、皆様に届いたことを、心より感謝申し上げます」



 彼は万年筆を演台に静かに置くと、小泉新次郎の陣営席に目を向けた。


「そして、小泉新次郎候補。あなたは、国民に『夢』と『希望』を与え、この国に新しい“風”を巻き起こしました。その熱狂は、まさしく時代を変える力です。私は、あなたから多くのことを学ばせていただきました。…心から、敬意を表します」


 小林は、再び深く頭を下げた。



 その言葉に、小泉陣営からは、これまで抑えつけられていたかのように、再び大きな拍手が湧き起こった。


 小泉新次郎は、その拍手の中で、静かに立ち上がった。彼の瞳の奥には、敗北の悔しさ、そして「この男(小林)が、俺にはない何かを持っている」という、複雑な感情が揺らいでいた。それは、激闘を終えた二人のライバルが、互いの健闘を称え合う「ノーサイド」の瞬間であると同時に、新たな時代の始まりを告げる、静かな宣言でもあった。



 演説後、壇上から降りた小林に、高市冴苗が静かに歩み寄った。


「あの時の二人の若造が、ここまで来たか。……見事だった」


 高市の顔には、厳しい表情の中に、教え子の成長を喜ぶような、かすかな笑みが浮かんでいた。


「だが、本当の戦いはこれからだ。この椅子は、あなたが思うよりも遥かに重い。その覚悟を、決して忘れるな」



 高市は、そのまま小泉の元へと向かった。


「小泉君。あなたも、あの時から見違えるほど成長した。だが、まだ足りないものがある。それを、この男(小林)の側で学びなさい」


 小泉は、高市の言葉に何も答えず、ただ静かに頷いた。その瞳の奥には、新たな決意の光が宿っていた。



               ※



 深夜。首相官邸の執務室。


 小林鷹志は、静かに受話器を手に取った。


 ダイヤルした番号の相手は、敗れたはずのライバルだった。


「……小泉候補」


 電話の向こうから聞こえる、少し疲れた声。


「総理、ご当選おめでとうございます」


「ありがとう」


 小林は、一瞬の沈黙の後、意を決したように言った。


「小泉候補。…君の力が必要だ。副総理として、私の側で、この国の未来へのビジョンを描いてほしい」



 受話器の向こうで、小泉は何も言わない。長い沈黙が続く。


 小林は、ただ、その答えを静かに待った。


 窓の外では、夜明け前の空が、わずかに白み始めていた。


               ※



 その頃、党本部の片隅にある、黒木圭介の殺風景な執務室。


 黒木は、ウイスキーグラスを片手に、**デスクの片隅に置かれた、差出人不明のUSBメモリ**をじっと見つめていた。それは、数日前、彼の自宅のポストにひっそりと投函されていたものだった。そこには、意味不明な数字と記号の羅列。しかし、その奥に、彼が追うべき「真実」への道が隠されていることを予感させていた。


「必ず、見つけ出してやる…」


 グラスの琥珀色の液体に映る彼の瞳には、冷徹なプロの顔と、一人の男としての固い決意が宿っていた。


               ※



 さらに時を同じくして。


 都心から離れた、和風の屋敷の離れ。


 麻生泰郎は、薄明かりの中で囲碁盤を前に、向かいに座る小澤一郎を不敵に睨んでいた。盤上の碁石は、まだ序盤の様相だが、その間には、すでに深謀遠慮が渦巻いている。


「……勝負は、これからだ」


 麻生の低い声が、静かな部屋に響く。小澤は、不敵な笑みを浮かべるだけで、何も答えなかった。二人の老雄の戦いは、すでに始まっていたのだ。


               ※



 小林鷹志の待つ官邸の執務室。


 黒木圭介がノックもなしに入ってきた。彼の表情は、いつになく険しい。


「総理、副総理。緊急の報告です」


 黒木は、一枚の資料をデスクに置いた。


 それは、中華帝國の空母艦隊が、南シナ海で大規模な軍事演習を開始したことを示す極秘報告書だった。その規模は、これまでで最大のものだ。



 小林は、資料に目を落とす。その隣で、小泉もまた、息を呑む。


 「観星会」の影が、再び、日本の未来に忍び寄っていた。



「……ここからが、本当の戦いだ」


 小林の声に、小泉は静かに頷いた。その瞳には、すでに迷いはない。


 日本の未来を賭けた二人のリーダーの旅は、始まったばかりだ。


 窓の外では、新しい時代を告げる朝日が、力強く昇り始めていた。



(第十四話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第十四話「ノーサイドの旗」、いかがでしたでしょうか。



激戦の総裁選は、小林鷹志総理の覚悟と、小泉新次郎候補の「ノーサイド」の精神が、新たな日本の未来を拓くことを示して終わりました。


亡き安部臣三元総理の万年筆に込められた想いは、確かに小林総理へと受け継がれたのです。


そして、小泉候補が選んだ「副総理」という道。二人のライバルは、これから手を携え、この国の困難に立ち向かっていくことになるでしょう。



しかし、物語はまだ終わりではありません。


「ここからが、本当の戦いだ」


小林総理の言葉が示すように、日本の未来を脅かす影は、すぐそこまで迫っています。



黒木圭介が手にし、その目を凝らした謎のUSBメモリ。そこに隠された、もう一人の女性の存在と、新たなる使命。


麻生泰郎と小澤一郎という老雄たちが、日本の未来を賭けて盤上で繰り広げる、新たな駆け引き。


そして、日本という国の最前線で、この国の現実にペン一本で挑む、新城芽衣記者の熱き闘い――。



これらは、全て、まだ語られぬ物語の序章に過ぎません。



【ここで重要なお知らせです!】



この度、皆様からの熱いご声援にお応えして、『宰相の椅子』の続編制作が決定いたしました!


小林・小泉新体制が直面するさらなる巨大な試練。そして、個性豊かなキャラクターたちのそれぞれの物語が、より深く、熱く描かれます。



次回作にご期待ください!


続編の情報は、作者の活動報告やSNSで随時お知らせいたします。



改めて、長きにわたりご愛読いただき、本当にありがとうございました。

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