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第十話 極東の観星会 ―日本の影に蠢く支配者たち―

『宰相の椅子』第十話の更新です。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。

前回、小林総理の指示のもと、茂木幹事長と萩生田官房長官は、ユニフィア・ステーツとの外交戦の準備を整えました。


しかし、日本の政争の裏側では、さらに巨大で、そして恐るべき陰謀が、静かに進行していました。

今回は、極東の支配者たちが集う“密室”での謀議が、白日の下に晒されます。


宗近平、李正明、金政雲、そして日本の闇の将軍・小澤一郎。

日本の弱体化と、自らの国益拡大のため、共通の利害で結託した彼ら「観星会」の冷徹な策略とは。

そして、その全てを宇宙から覗き見ていたイーロン・マーズの真の狙いとは――。

どうぞ、息を飲む第十話をお楽しみください。

 深夜。地球上のいかなる国家の情報機関も傍受不可能な、秘匿中の秘匿量子通信回線によって結ばれた“密室”で、五つのホログラムが浮かび上がっていた。


 背景には何も映らず、ただ参加者の上半身だけが不気味に青白く発光している。この極秘会議の呼称は、関係者の間では「観星会」と呼ばれていた。



 その五つの光の中に、一人の男だけが冷や汗を流し、うろたえている。自由民政党の親中派議員、岩屋剛だ。



 中央に浮かぶ、静かで威圧的な音声が響く。中華帝國国家主席、宗近平の声だった。ホログラムは現れず、その圧倒的な存在感を音声のみで示している。


「岩屋同志。我々が支援してきた君の『アジア平和友好議連』は何をしている。小林鷹志は我々を敵と断じ、ストロングの犬になろうとしている。君の報告では、小泉新次郎が勝てば、日米同盟は見直されるはずだったのではないかね?」



 次に口を開いたのは、大翰民国大統領、李正明のホログラムだ。彼の扇動的な表情が、通信回線越しでも伝わる。


「そうだ! 我が国との歴史問題も、小泉政権ならば前進すると言ったのは君だぞ! それなのに、小林の支持率が回復し始めているというではないか! どうなっている!」



 北潮鮮最高指導者、金政雲のホログラムが不気味な笑みを浮かべ、葉巻をくゆらせる。


「順調、だと? ならば、なぜ我が国のミサイル発射に対する非難決議に、君の議連は賛成したのだ? 見返りが足りないということかな?」



 岩屋剛は、脂汗を流し、言葉に詰まる。その顔は蒼白だ。


「ひっ…! い、いえ、それはあくまで一時的な現象でして! 国民の多くは小泉候補の変革を望んでおります! 私の工作は、順調に進んでおります、はい! 非難決議は、党議拘束が…! 国内向けのポーズでして! 決して本心では…!」


 醜い言い訳が、密室に響き渡る。



 その時、これまで目を閉じ、腕を組んだまま不動だった、日本の「闇の将軍」小澤一郎が、初めてゆっくりと目を開いた。彼の瞳は、暗闇の中で獲物を捉える獣のように鋭い。


「……岩屋君。言い訳はいい。我々が知りたいのは一つだ。総裁選の最終盤で、小林を確実に失脚させられるだけの『爆弾』は、まだ君の手にあるのかね? 投票日の直前、世論が最も動揺するタイミングで、確実に投下できるのかね? 無いのかね?」



 岩屋は震え上がり、喉から「あ…あ…」という情けない声しか出ない。その醜態を、極東の支配者たちは冷ややかに見下ろしている。



               ※



 その全てを、宇宙空間に浮かぶ民間宇宙ステーションの船長室で、一人の男が巨大な湾曲モニターに映し出された光景として眺めていた。


 イーロン・マーズだ。


 モニターには、観星会のメンバーのホログラム、音声の波形データ、そして量子通信の暗号がリアルタイムで解読されていく謎のプログラムが走っている。それは、地球上のいかなる国家も持ち得ない、彼個人の超技術だった。



 傍らに立つ女性アシスタントが、冷たい声で尋ねる。


「ボス。この通信ログを、ユニフィア・ステーツのCIAや日本の内閣情報調査室にリークしますか? 大きな貸しになりますが」



 イーロン・マーズは、ニヤリと口の端を吊り上げた。


 宇宙の暗闇に映し出された彼の顔は、地球上のどの国の支配者よりも、自由で、そして不気味だった。



「いや、まだだ。ゲームは面白い方がいい」


 彼はそう言うと、モニターの中の小澤一郎の顔を指でなぞった。


「それに……彼らには、もっと高く売れるタイミングがあるはずだ。そうだろ?」



 イーロン・マーズの真の狙いは何なのか。


 その視線は、極東の政争の、さらにその先――地球規模の、もっと大きな「ゲーム」の行方を見据えているようだった。



(第十話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第十話「極東の観星会」、いかがでしたでしょうか。


宗近平、李正明、金政雲、小澤一郎という、極東の支配者たちが結託し、日本の総裁選にまで介入しようと画策する恐るべき陰謀。

そして、その全てを謎の超技術で傍受し、密かにデータを握っていたイーロン・マーズの登場。


「彼らには、もっと高く売れるタイミングがあるはずだ」という不気味な言葉は、彼が単なる傍観者ではないことを示しています。彼は、この日本の政争から一体何を「買い」取ろうとしているのか――。

この回で張られた伏線は、最終局面で必ずや、小林鷹志総理の命運を左右することになります。


次回、第十一話『頂上会談』。

小林総理は、茂木幹事長と萩生田官房長官が得た情報、そして麻生、高市両氏の帝王学を胸に、ユニフィア・ステーツ大統領・ストロングとの極秘電話会談に臨みます。

日本の未来を賭けた、緊迫のディールをどうぞお見逃しなく。

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