太陽とサイバースペース
私は、屋外へ出て太陽の光を浴びた。
太陽がある限り、おそらく、ここはヴァーチャルリアリティではないだろう。太陽から降り注ぐ光を再現できるハードウェア設計など人類は持っていないのだから。
ハードウェアは機械語で動く。機械語は0と1でできている。0と1でできたサイバースペースは、一行一行、細かく切り刻まれて、各所のハードウェアに吸い込まれていく。サイバースペースが長方形だと思っていた頃もあった。実際はぜんぜんちがった。細かく切り刻まれて、内燃機関から立ち上る蒸気気流のようにうごめき合っている。
ソフトウェア設計士が書く言語は、プログラム言語だが、ハードウェアが動く場合に使う機械語は0と1に変換される。0と1に変換されるというのは正確ではなく、電圧の高い箇所と低い箇所を、二進法の数が表現できるほど精密に分布させる。
この世界が二進法でできているかどうか。
女の裸を二進法で描く。触感を追加する。音声を追加する。すでに、二進法ではない。コンピュータは精密な音声データを構築している。その精度は高い。女の嬌声は、検閲されて聞こえないだけで、膨大にデータがある。
そして、触感を確認する。現在はまだ触感は二進法には分解できていない。触れることができたら、女の裸で、ここがヴァ―チャルリアリティかどうか確認できる。
「この世界が現実かどうか確かめければ、裸の女を抱け」
上司がいう。くそったれだ。命令するな。男は、誰でも、裸の女を欲しがっている。
友だちの知り合いで知り合った女の子を部屋に連れ込んだ。私はまだ若いITエンジニアだ。女の気を引けた手応えがある。
女を全力で抱いた。この女はまだヴァーチャルリアリティじゃない。
仕事に追われ、疲れ、ヴァーチャルリアリティか心配になり、裸の女を抱く。仕事、仕事、仕事。そして、毎日、ヴァ―チャルリアリティか心配になり、毎日、裸の女を抱いた。
仕事疲れで欝になる。仕事、仕事、仕事。仕事に没頭する。
毎日、毎日、裸の女を抱く。嬌声を聞く。本当にこれ、ヴァーチャルリアリティじゃないのか。毎日、毎日、抱いている裸の女がヴァーチャルリアリティだったらどうする。
太陽だ。大丈夫だ。太陽は輝いている。
裸の女が見つからなくなったら、太陽を探すんだ。人類は太陽を再現するハードウェアを持たない。
「昨日は楽しかった。あなたが出社する前に出かけるね」
裸の女が服を着て出ていく。
女をとっかえひっかえ抱く。そして、仕事、仕事、仕事。充実した二十代の生活だろう。毎日が充実している。ここがヴァーチャルリアリティか心配になったら、裸の女を抱く。女の裸の触感を再現できる技術はまだ存在しない。一緒に風呂にも入りたい。裸の女の触感は確かだ。
毎日、毎日、女を抱き、仕事、仕事、仕事。
「すごい知らせよ。裸の女を再現する技術が完成したわ」
会社で女がいっている。信じられない。いつからだ。
私が出会っていた裸の女たちは現実だったのか。ヴァーチャルリアリティか心配になったら裸の女を探さないと。
うわさが本当かどうかはわからない。仕事、仕事、仕事。そして、毎日、裸の女を抱く。
気が付くと、空に太陽がない。
いつから、太陽が消えていたんだ。気のせいか。
現実を探さないといけない。私は現実を求めている。虚構を求めていない。
しかし、どちらを疑うかというなら、太陽を疑え。裸の女を疑うな。
会社の女は冗談で嘘をいったんだ。
毎日、毎日、女をとっかえひっかえ、裸の女を抱く。太陽がこの世界から消えた。大事件だ。地球が危ない。しかし、私は、毎日、毎日、仕事、仕事、仕事。裸の女、裸の女、裸の女。太陽の消失に関しては、心を痛めている。解決のために協力したい。会社の女のいった悪い冗談で、気分は台無しだ。裸の女が現実であることを毎日、入念に確かめている。いろいろな作戦で確かめた。仕事、仕事、仕事、裸の女、裸の女、裸の女。
問題は、ここがヴァーチャルリアリティなのかどうかだ。裸の女と太陽。どちらが確実か。かつては太陽だと思っていた。その太陽は消えた。裸の女は消えない。裸の女を使って、太陽より確実にここが現実だと確かめなければならない。
まだ太陽が存在した頃に出会った女たちの裸を確認する。現実だとしか思えないけどなあ、と首をひねっていたら、女から「当たり前だ」と蹴りをくらった。
「太陽より確実な、裸のあたしたち」と女が威張っていた。
事情を説明した。裸の女たちは、「太陽をあなたから隠す技術が完成したわ」といった。